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第九十七話
青のタチアオイ
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ベッドに仰向けになると、天井には見事な藤の花房が連なっている。黄昏時になると、藤の花に自然に明りが灯るようになっているらしい。
「楽しみにしているが良い」
と、意味有り気に笑みを浮かべた王太子殿下。きっと、藤の花に明りが灯るんだ。想像しただけで幻想的だ。そして藤と同時も目に映るのは青のタチアオイだ。ベッドの周りを三重に取り囲み。花の高さは天井ま届く勢いだ。天蓋つきベッドのカーテンの代わりなのだろう。魔術で出来た花回廊だ、生きた花の。
あの後竹林を抜けて、沢山の盆栽が並んでいる広場に出た。異世界に来て盆栽まで目にするなんてビックリしたけれど、何だか妙に親しみを覚えた。王太子殿下によれば、物質界の日本庭園が好みで。何と盆栽は趣味でたしなんでいるのだそうだ。
「たまたま調べものをしていた際に、物質界での盆栽の事が目についてな。そこで興味を持ったのが切っ掛けだ。我流だが、時々剪定や手入れに来ている。定期的に来れない時もあるから、魔術をかけて自動的に手入れが出来るようにしてあるのだが」
との事だった。あの王太子殿下が、枝切り鋏なんかを持って盆栽の手入れをする……うーん、ちょっとリアルな想像はつかない。でも、きっとどんな姿も気高く、洗練されていて隙のない美を感じさせるのだろう。
庭園散策の帰りも、王太子殿下と手を繋いで戻って来た。去り際に、少し照れ臭そうにこう言った。
「私は藤の花が好きでな。タチアオイも好みではあるのだが、深い青があれば良いのにと少し物足りなく思っていた。ふと思いついた。それならば魔術で作ってしまえば良い、と。そなたの眠る場所は、心を落ち着かせ熟睡効果のある色を……と考え末に、藤の花と青いタチアオイを選んだのだ」
との事だった。
言われてみれば、青色のタチアオイって見た事がなかったな。薄いピンクとか白、赤のイメージだ。確か黒紫色もあったような……。駄目だ、また眠気が襲ってきた。まだ昼前だっていうのにだらしない……寝るなってば、俺。そう、真っ青なタチアオイ。見ていると何だか不思議な気分に……なる。現実なのか、夢なのか……その境目が酷く曖昧に感じる。その癖、心地良い微睡にずっと身を委ねたくなるような……
はっ! ヤバい、寝落ちしちまった!! 何かの気配を感じ取って、慌てて起き上がる。誰か部屋に来てるみたいだ! 急いでベッドをおり、タチアオイを掻き分ける。
果たして部屋の中に居たのは……
「惟光様、ランチをお持ちしました」
何種類かの食事を乗せた漆黒のワゴンの後ろに立つダニエルだった。灰紫の双眸が、かつて無いくらいに冷ややかに俺を見つめている。頭から冷水を浴びせられた気分になった。何だ? 何か言いたい事でもあるのか? 身の周りの世話は四天王がシフト制で行う、て話だったよなぁ。今朝は西のエリックだった。また昼に来ますって……
「今だけ、担当のエリックと代わらせて頂きました」
すげなく言うダニエルに、間違いない、俺に何か言いたい事があって来たんだと直感した。
「有難うございます」
と、取りあえず答えると、ダニエルは淡々とテーブルに食事を並べ始めた。気のせいか、丁寧な物腰の中に怒りが見え隠れしているように感じる。
「どうぞ、おかけ下さい。お話があっていらしたのでしょう?」
食事を並べ終わり、水を注ぎ終わったところでそう声をかけた。ほんの少し意外そうに俺を見る。だが、すぐに元の冷たい表情に戻った。
「勘だけは宜しいようですね」
あからさまに棘のある声で答えると、突き放すように俺を睨みつけた。何なんだよ、一体???
「楽しみにしているが良い」
と、意味有り気に笑みを浮かべた王太子殿下。きっと、藤の花に明りが灯るんだ。想像しただけで幻想的だ。そして藤と同時も目に映るのは青のタチアオイだ。ベッドの周りを三重に取り囲み。花の高さは天井ま届く勢いだ。天蓋つきベッドのカーテンの代わりなのだろう。魔術で出来た花回廊だ、生きた花の。
あの後竹林を抜けて、沢山の盆栽が並んでいる広場に出た。異世界に来て盆栽まで目にするなんてビックリしたけれど、何だか妙に親しみを覚えた。王太子殿下によれば、物質界の日本庭園が好みで。何と盆栽は趣味でたしなんでいるのだそうだ。
「たまたま調べものをしていた際に、物質界での盆栽の事が目についてな。そこで興味を持ったのが切っ掛けだ。我流だが、時々剪定や手入れに来ている。定期的に来れない時もあるから、魔術をかけて自動的に手入れが出来るようにしてあるのだが」
との事だった。あの王太子殿下が、枝切り鋏なんかを持って盆栽の手入れをする……うーん、ちょっとリアルな想像はつかない。でも、きっとどんな姿も気高く、洗練されていて隙のない美を感じさせるのだろう。
庭園散策の帰りも、王太子殿下と手を繋いで戻って来た。去り際に、少し照れ臭そうにこう言った。
「私は藤の花が好きでな。タチアオイも好みではあるのだが、深い青があれば良いのにと少し物足りなく思っていた。ふと思いついた。それならば魔術で作ってしまえば良い、と。そなたの眠る場所は、心を落ち着かせ熟睡効果のある色を……と考え末に、藤の花と青いタチアオイを選んだのだ」
との事だった。
言われてみれば、青色のタチアオイって見た事がなかったな。薄いピンクとか白、赤のイメージだ。確か黒紫色もあったような……。駄目だ、また眠気が襲ってきた。まだ昼前だっていうのにだらしない……寝るなってば、俺。そう、真っ青なタチアオイ。見ていると何だか不思議な気分に……なる。現実なのか、夢なのか……その境目が酷く曖昧に感じる。その癖、心地良い微睡にずっと身を委ねたくなるような……
はっ! ヤバい、寝落ちしちまった!! 何かの気配を感じ取って、慌てて起き上がる。誰か部屋に来てるみたいだ! 急いでベッドをおり、タチアオイを掻き分ける。
果たして部屋の中に居たのは……
「惟光様、ランチをお持ちしました」
何種類かの食事を乗せた漆黒のワゴンの後ろに立つダニエルだった。灰紫の双眸が、かつて無いくらいに冷ややかに俺を見つめている。頭から冷水を浴びせられた気分になった。何だ? 何か言いたい事でもあるのか? 身の周りの世話は四天王がシフト制で行う、て話だったよなぁ。今朝は西のエリックだった。また昼に来ますって……
「今だけ、担当のエリックと代わらせて頂きました」
すげなく言うダニエルに、間違いない、俺に何か言いたい事があって来たんだと直感した。
「有難うございます」
と、取りあえず答えると、ダニエルは淡々とテーブルに食事を並べ始めた。気のせいか、丁寧な物腰の中に怒りが見え隠れしているように感じる。
「どうぞ、おかけ下さい。お話があっていらしたのでしょう?」
食事を並べ終わり、水を注ぎ終わったところでそう声をかけた。ほんの少し意外そうに俺を見る。だが、すぐに元の冷たい表情に戻った。
「勘だけは宜しいようですね」
あからさまに棘のある声で答えると、突き放すように俺を睨みつけた。何なんだよ、一体???
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