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第百話
風評・前半
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さぁてどうすっかなー、食事に手をつけて無いのは拙いよなー。
コンコンコン、返事が無いのでもう一度聞こえるノックの音。返事をしないのはもっと良くない。下手な誤魔化しは余計事態の悪化を招く。いっそ寝過ごしたふりを……いやいや、バレたら余計不自然だ。これはもう、潔く開き直ろう。うん、微妙に変な日本語だけど……
「はい、どうぞ」
立ち上がって朗らかに応答する。「失礼します。あの……どうかしましたか?」遠慮がちに声をかけながら、波打つブロンズ色の髪が見えた。続いて、ミルク色の肌に、キュートな小豆色の瞳が心配そうに見つめる。今日も藍色の軍服姿が、ミルク色の肌を一段と引き立てている。「一度め、お返事がなかったので」と遠慮がちに付け加えながらこちらに近づいてきた。
「すみません、ちょっと考え事をしていてそのまま寝落ちしたみたいで。後で頂こうと思ったら今さっき起きたんところで……」
「ん? あぁ。嫌だなぁ、毎度毎度敬語なんか使わないでくださいよ。……あらら、召し上がってらっしゃらなかったんですね」
元から交流のあったサイラスを除いて、常に余所余所しい四天王の中でもこのエリックは比較的気さくに話しかけてくるタイプだった。特に最近では会う度に気軽な感じで会話が出来るようになってきている。だけど、さすがにベラベラ何でもかんでも話す訳にはいかないけれど。……って、そうか、敬語ね。
「うん、ごめん。時間が大丈夫なら、今から少し食べるよ」
「あ、いえいえ。従者に時間の事なんか気にしないでください。イレギュラーな事が起こっても、何とかするのも仕事なんですから」
「うん、そうかもしれないけど。従者の仕事の足を引っ張る主人てのも良く無いと思うんだ。せっかく作って貰ったのをそのまま残すのも悪いし」
エリックは目を大きく見開いてまじまじと俺を見つめた。ん? 俺、なんか拙い事言ったか??
「……お偉いさん達の皆が皆、惟光様みたいに謙虚で思いやり深かったら。仕事場全体の雰囲気も良くなるんだろうなぁ」
としみじみと言うエリック。
「ん? どうかしたのか?」
「あ、いやいや、ほら。ここは割とピリピリしてるから……その、ちょっと思っただけですよ。気にしないでください」
「そっか」
慌てて取り繕う彼に、これ以上突っ込めない。ここは軽く流そう。
「あ、ランチ作り直しましょうか」
「いいよ、勿体無い。腐るものないし」
「そうですか? じゃあ、せめて温め直しますよ」
エリックはそう言って右手を食事全体に翳した。すぐにクラムチャウダーやローストチキンから湯気が立つ。便利な魔法だなぁ。
「こんな感じで。じゃ、お食事が済む頃にまた来ますね」
「有難う」
一度去りかけたエリックは、「あ、そうそう」と思い出したように言いながら振り返った。
「そう言えば、大丈夫でしたか? ダニエル様が代わってくれって。気にはなっていたんですけど。あの方、王太子殿下の代理もなさるし何かとお忙しいのにわざわざ代われなんて、どうしたのかなぁ、と」
そう言われても、何て答えれば良いんだ……迂闊な事は言えねーし。うーん……
「いや、ただ戴冠式に出席するに事についてちょっと心づもりを聞かれただけだよ」
うん、嘘は言ってない、よな。
「そうですか。ダニエル様と、四天王の中でも北を司るハロルドは特に王太子殿下を崇拝なさってますからね。常に、王太子殿下に関する風評を気にしています。もしかしたら今後、かなり厳しい御小言を言われる事もあるかもしれません」
なるほど、ハロルド……あれか。『裁きの間』とやらで、腑抜け王に何か言われても「全ては王太子殿下の御心のままに」とか答えていたな。
「そうか。風評、頭に入れておくよ。色々親切に有難う」
「いえいえ。何をどう頑張っても、全ての人に良く思われる事なんてありませんから。風評なんて気にしても仕方無いです。ま、自分がどうこう言えた立場じゃないですけどね。上の気まぐれで、いつどこに飛ばされるか分から無いですから」
エリックは少しだけ寂しそうに笑うと、部屋を後にした。さて、今度こそ食べないと。まずはサラダから頂こう。
風評かぁ……。食べ終わったら、匿名チャンネルでも見てみようかなぁ。大きく分けて、王太子殿下派とラディウス王子派の二大派閥、て聞いたし。少し……いやかなり怖いけど、世間が俺に対してどう感じているのか客観視できるかもしれない。勿論、これが全ての答えではないのだけれど。
コンコンコン、返事が無いのでもう一度聞こえるノックの音。返事をしないのはもっと良くない。下手な誤魔化しは余計事態の悪化を招く。いっそ寝過ごしたふりを……いやいや、バレたら余計不自然だ。これはもう、潔く開き直ろう。うん、微妙に変な日本語だけど……
「はい、どうぞ」
立ち上がって朗らかに応答する。「失礼します。あの……どうかしましたか?」遠慮がちに声をかけながら、波打つブロンズ色の髪が見えた。続いて、ミルク色の肌に、キュートな小豆色の瞳が心配そうに見つめる。今日も藍色の軍服姿が、ミルク色の肌を一段と引き立てている。「一度め、お返事がなかったので」と遠慮がちに付け加えながらこちらに近づいてきた。
「すみません、ちょっと考え事をしていてそのまま寝落ちしたみたいで。後で頂こうと思ったら今さっき起きたんところで……」
「ん? あぁ。嫌だなぁ、毎度毎度敬語なんか使わないでくださいよ。……あらら、召し上がってらっしゃらなかったんですね」
元から交流のあったサイラスを除いて、常に余所余所しい四天王の中でもこのエリックは比較的気さくに話しかけてくるタイプだった。特に最近では会う度に気軽な感じで会話が出来るようになってきている。だけど、さすがにベラベラ何でもかんでも話す訳にはいかないけれど。……って、そうか、敬語ね。
「うん、ごめん。時間が大丈夫なら、今から少し食べるよ」
「あ、いえいえ。従者に時間の事なんか気にしないでください。イレギュラーな事が起こっても、何とかするのも仕事なんですから」
「うん、そうかもしれないけど。従者の仕事の足を引っ張る主人てのも良く無いと思うんだ。せっかく作って貰ったのをそのまま残すのも悪いし」
エリックは目を大きく見開いてまじまじと俺を見つめた。ん? 俺、なんか拙い事言ったか??
「……お偉いさん達の皆が皆、惟光様みたいに謙虚で思いやり深かったら。仕事場全体の雰囲気も良くなるんだろうなぁ」
としみじみと言うエリック。
「ん? どうかしたのか?」
「あ、いやいや、ほら。ここは割とピリピリしてるから……その、ちょっと思っただけですよ。気にしないでください」
「そっか」
慌てて取り繕う彼に、これ以上突っ込めない。ここは軽く流そう。
「あ、ランチ作り直しましょうか」
「いいよ、勿体無い。腐るものないし」
「そうですか? じゃあ、せめて温め直しますよ」
エリックはそう言って右手を食事全体に翳した。すぐにクラムチャウダーやローストチキンから湯気が立つ。便利な魔法だなぁ。
「こんな感じで。じゃ、お食事が済む頃にまた来ますね」
「有難う」
一度去りかけたエリックは、「あ、そうそう」と思い出したように言いながら振り返った。
「そう言えば、大丈夫でしたか? ダニエル様が代わってくれって。気にはなっていたんですけど。あの方、王太子殿下の代理もなさるし何かとお忙しいのにわざわざ代われなんて、どうしたのかなぁ、と」
そう言われても、何て答えれば良いんだ……迂闊な事は言えねーし。うーん……
「いや、ただ戴冠式に出席するに事についてちょっと心づもりを聞かれただけだよ」
うん、嘘は言ってない、よな。
「そうですか。ダニエル様と、四天王の中でも北を司るハロルドは特に王太子殿下を崇拝なさってますからね。常に、王太子殿下に関する風評を気にしています。もしかしたら今後、かなり厳しい御小言を言われる事もあるかもしれません」
なるほど、ハロルド……あれか。『裁きの間』とやらで、腑抜け王に何か言われても「全ては王太子殿下の御心のままに」とか答えていたな。
「そうか。風評、頭に入れておくよ。色々親切に有難う」
「いえいえ。何をどう頑張っても、全ての人に良く思われる事なんてありませんから。風評なんて気にしても仕方無いです。ま、自分がどうこう言えた立場じゃないですけどね。上の気まぐれで、いつどこに飛ばされるか分から無いですから」
エリックは少しだけ寂しそうに笑うと、部屋を後にした。さて、今度こそ食べないと。まずはサラダから頂こう。
風評かぁ……。食べ終わったら、匿名チャンネルでも見てみようかなぁ。大きく分けて、王太子殿下派とラディウス王子派の二大派閥、て聞いたし。少し……いやかなり怖いけど、世間が俺に対してどう感じているのか客観視できるかもしれない。勿論、これが全ての答えではないのだけれど。
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