【銀梅花の咲く庭で】~秋扇の蕾~

大和撫子

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第一話

捨てられ妻の娘③

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 次第に気持ちが落ち着いて来たのを感じた。サイラスとユリアナの二人が完全に立ち去るまで、このままじっと待つのは時間が勿体ない気がした。ふと思い立ち、ポーチの中か携帯用魔術通信機器を取り出す。それは魔法水晶で出来た掌サイズのもので、この時代の携帯電話だ。色や形、大きさは様々な種類がある。魔法を使えば打ち込みの作業をしなくても思い浮かべるだけで機能が果たせるという非常に便利なものだ。
 私が持っているのは乳白水晶ミルキークォーツで出来ており、白く煙るような優しい色合いをしている。この優しい色合いが、大好きな銀梅花を彷彿とさせて一目で気に入ってしまったのだ

 因みに、魔法が全く扱えない場合も用途に応じて『魔法石』を使用すれば誰でも簡単に「生活魔法」が使えるようになっている。

 ミルティアは匿名掲示板を思い浮かべた。

 ……私とサイラスとユリアナが最初に話題になった日を見てみよう……

 _____テネーブル小国国立学園のスレッド_____

 名無し 3xxx年 4月x日 01:06分
13 中等部の魔術科B組のSyラス様って素敵だよね。やっぱりお付き合いしている彼女いるよね?

>>13
 14 確かC組のJuリアナだったんじゃないかな?

>>14
 15 え? A組のMyルティアじゃなくて?

>>15
 16 え? だって休日の度にJuリアナとSyラスが一緒のところよく見掛けるからてっきり……
親密そうに手を繋ぎ合って歩いているから

>>16
 17 でも昼休みとか休憩時間はいつもSyラス様とMyルティアが一緒に居るじゃない?

>>18
 19 あ、なんか元々JuリアナとSyラスが付き合っていたところ、Myルティアが金と権力を振りかざして強引に奪い取ったらしいよ?

>>19
 20 うわ、最低! Myルティアって何か偉そうだよね。アイツ嫌い。ちょっとばかり成績が良くて可愛いからって上から目線でさ。親の地位が少し高いからってそれがどうした! て感じ。

>>21
 22 え? 大して可愛くないと思う。成績だって学年で10位程度じゃ誰だってなれるし。

_______________

 名無し 3xxx年 4月x日 12:46分 

>>34
 35 あ、わかる。なんかいつも上から目線だよね。Myルティアって。ラインゲルト辺境伯様御夫妻と仲良いとか威張ってるし。

>>35
 36 そうそう、たまたま運よく知り会えて目をかけて貰ってるだけの話だよね。

_______________

 名無し 3xxx年 4月x日 22:58分

>>41
 42 なるほどねぇ、何でSyラスほど人気ある人がMyルティアなんかと付き合ったのか不思議だったんだ。Juリアナから無理やり奪い取ったんだ、最低!

>>42
 43 無理矢理引き裂かれた二人が、コッソリ逢ってるだけらしいよ。


_______________

 
 今からおよそ二か月ほど前の書き込みだ。もはや突っ込みどころ満載過ぎてどう反応すべきか迷うほどだった。先ず、『匿名掲示板』はではない事。何かあればすぐに身元がバレてしまう事など、1000年以上前からの常識となっているのに警戒心が無さ過ぎる点。しかも学園に関してのスレッドなど、誰が書き込んだのか推測も簡単に出来てしまう。

 サイラスとユリアナが最初から付き合っていただの、私が奪い取っただの、そういう流れに持っていきたい誰かの書き込み。恐らくユリアナとサイラスの演出だろう。二人で何役もこなしてスレッドを埋めていたとしたら…………何とも滑稽だ。

 私の事を偉そうだとか上から目線だとか感じている奴らが一定数居るだろう事は認める。やられたらやり返すし、言いたい事ははっきり言うタイプだからだ。ただ、母親の地位やら権力やら振りかざした事は一切無い。今後も持ち出すつもりもない。

 エクオール一族……過去何回かに帝国の皇后や側妃を選出した実績、原始の水の精霊と一体化を成功させた名門である事……らしい。私に言わせたら「ふーん。ご先祖様がそうだったんだ」で終わってしまう話だ。そもそもそれがどれほどの効果があるのか私には理解し難い上に、仮に何かしら効果があったとしても親の権力を武器にするような腑抜けにはなりたくない。

 ……さて、この掲示板の書き込みの特定を依頼しよう……

と決めた。今はインターネット専用の警察『サイバーポリス』に相談すればすぐに身元が判明してしまうのだ。但し、悪質だと判断されたら、という条件がつくが。もし門前払いでも、無料ではないが弁護士に依頼すれば済む話だ。相手を特定して、反撃に出る事にしよう。もうサイラスともユリアナともお別れするつもりだが、奴らが喜ぶような展開にはしたくない。

 ラインゲルト辺境伯御夫妻と知り合えた事は、書き込まれている通り本当に身に余る光栄だと思う。ディスティニー・キアラ様とジルベルト・ジャスティス様、まさに美男美女の御夫婦で神々しいくらいだ。
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