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第五話
正体不明の寂寥感
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ついに、帝国に旅行に行く日がやってきた! この日の為に宿題は日記と自由研究と工作を残して全て片付けてしまったし。旅行期間は二週間、色々と楽しもう。何せ、国境を越える事からして初体験なのだ。
母が心配そうに見送る中、元気よく手を振って家を後にした。母は国境寸前まで見送りに行くと言っていたが、笑顔で断った。ガーデニア姉様とラウル兄様が、ちょうど仕事の合間だからと国境近くまで送ってくれる、と言って頂いたのだがお忙しい中さすがにそれは申し訳無さ過ぎて丁重にお断りした。
本当は、子供らしく素直に甘えれば良いのかもしれないけど。純粋な好意を向けられた時、どう反応すれば良いのか戸惑ってしまう。本当はとても嬉しい、でもどう表現して良いのかわからないのだ。相手が見返りを求めた好意なら、気楽に甘えられるけれど。
さて、ウジウジ考えても暗くなるだけだ。せっかくの旅行なのだ、楽しまなければ勿体ない。帝国との国境まで自宅から徒歩40分ほどで着いてしまう。歩きながら風を感じたり周りの景色を楽しむのが好きだ。だから魔道バスや魔道電車は使わない。
あぜ道を只管歩いて行く。果物畑や麦畑が広がる中、向日葵が道の両端に立ち並ぶ箇所に差し掛かった。雲一つない青空に、向日葵とのコントラストは心を元気にする組み合わせだと思う。ジージーと数多のセミが鳴いていて、夏休みなんだなぁ、と実感する。ほんの少しだけ歩みが遅くなった。正面の道から人が歩いて来るのが見えたからだ。スムーズにすれ違えるように今から左に避けておく。子供を肩車した父子連れだ。白いTシャツに紺色の短パン、蛍光イエローのビーチサンダルといういでたちの男性と、黄色のTシャツワンピースの女の子が、四歳くらいだろうか……嬉しうに男性の頭にしがみついていた。面差しがよく似ている、恐らく父子で間違いないだろう。父親は娘を落とすものかと両腕で娘の足をおさまえている、それだけ密着していたら暑いだろうに、汗だくになっても気にせず楽しそうに会話をしている。すれ違い様に見やると、父親はリュックを背負っており、その中から虫取り網が飛び出ていた。
虫取り遊びは、魔法で簡単に出来てしまうがこうして太古のやり方で楽しむ事が子供の情操教育に効果的。汗まみれ、泥んこになって子供と思い切り遊ぶ日を設けましょう……という育児論が幅を利かせている。季節ごとの長期休暇を利用して、自然豊かな場所に家族連れで遊びに来ているのをよく見かける。この辺りは自然豊かだから尚更。もう長期休暇の風物詩となっている。幼い頃、その光景を見掛けて自分にはどうして父親がいないのか不思議に思った。その隙間を埋めるようにして、前ラインゲルト辺境伯御夫妻に可愛がって頂いた。本当に有難い。だから、漠然と感じる寂寥感の正体に深入りする必要もなく成長出来た。
けれども、楽しそうな家族連れをみると、今でもほんの少しだけ、得体の知れない感情が襲って来る。心の隙間に入り込む虚無の風……例えるなら、誰も居なくなった廃村に吹く秋の風、そんなイメージだ。もう少し私が大人になって色々経験したら、この感情の正体を突き止め、心をかき乱される事は無くなるのだろうか。この気持ちは、誰にも言えない。言ったら母親が悲しむような気がした。
そんな事を思っている内に、いつの間にか大通りに出るところだった。ここから先は、魔道自動車や魔道バイク、魔道バス、魔道自転車などが行き交っているから、ボーッと歩くのは危険だ。とは言っても、事故になりそうな場合は、各乗り物に設置義務のある『危険回避魔道具』が危険を察知して回避出来るように保護してくれる仕組みとなっている。このシステムの開発により、事故による怪我人の発生率は限りなく0に近く、死亡事故の発生は皆無となった。とは言っても、一年に一度義務付けられている定期メンテナンスを怠ったり、摩耗した魔法石を新しいものと変えていない怠惰な持ち主もいるから、油断は禁物だ。バレなければ良いと、平気で法を侵す輩はいつの時代、どこにでも存在するものだ。
あ! 辺境騎士団の方々が見えてきた。黒を基調にして銀色ボタンのついた軍服がカッコいいのよね。そろそろ国境が近いのだ。何だかワクワクしてきた。
母が心配そうに見送る中、元気よく手を振って家を後にした。母は国境寸前まで見送りに行くと言っていたが、笑顔で断った。ガーデニア姉様とラウル兄様が、ちょうど仕事の合間だからと国境近くまで送ってくれる、と言って頂いたのだがお忙しい中さすがにそれは申し訳無さ過ぎて丁重にお断りした。
本当は、子供らしく素直に甘えれば良いのかもしれないけど。純粋な好意を向けられた時、どう反応すれば良いのか戸惑ってしまう。本当はとても嬉しい、でもどう表現して良いのかわからないのだ。相手が見返りを求めた好意なら、気楽に甘えられるけれど。
さて、ウジウジ考えても暗くなるだけだ。せっかくの旅行なのだ、楽しまなければ勿体ない。帝国との国境まで自宅から徒歩40分ほどで着いてしまう。歩きながら風を感じたり周りの景色を楽しむのが好きだ。だから魔道バスや魔道電車は使わない。
あぜ道を只管歩いて行く。果物畑や麦畑が広がる中、向日葵が道の両端に立ち並ぶ箇所に差し掛かった。雲一つない青空に、向日葵とのコントラストは心を元気にする組み合わせだと思う。ジージーと数多のセミが鳴いていて、夏休みなんだなぁ、と実感する。ほんの少しだけ歩みが遅くなった。正面の道から人が歩いて来るのが見えたからだ。スムーズにすれ違えるように今から左に避けておく。子供を肩車した父子連れだ。白いTシャツに紺色の短パン、蛍光イエローのビーチサンダルといういでたちの男性と、黄色のTシャツワンピースの女の子が、四歳くらいだろうか……嬉しうに男性の頭にしがみついていた。面差しがよく似ている、恐らく父子で間違いないだろう。父親は娘を落とすものかと両腕で娘の足をおさまえている、それだけ密着していたら暑いだろうに、汗だくになっても気にせず楽しそうに会話をしている。すれ違い様に見やると、父親はリュックを背負っており、その中から虫取り網が飛び出ていた。
虫取り遊びは、魔法で簡単に出来てしまうがこうして太古のやり方で楽しむ事が子供の情操教育に効果的。汗まみれ、泥んこになって子供と思い切り遊ぶ日を設けましょう……という育児論が幅を利かせている。季節ごとの長期休暇を利用して、自然豊かな場所に家族連れで遊びに来ているのをよく見かける。この辺りは自然豊かだから尚更。もう長期休暇の風物詩となっている。幼い頃、その光景を見掛けて自分にはどうして父親がいないのか不思議に思った。その隙間を埋めるようにして、前ラインゲルト辺境伯御夫妻に可愛がって頂いた。本当に有難い。だから、漠然と感じる寂寥感の正体に深入りする必要もなく成長出来た。
けれども、楽しそうな家族連れをみると、今でもほんの少しだけ、得体の知れない感情が襲って来る。心の隙間に入り込む虚無の風……例えるなら、誰も居なくなった廃村に吹く秋の風、そんなイメージだ。もう少し私が大人になって色々経験したら、この感情の正体を突き止め、心をかき乱される事は無くなるのだろうか。この気持ちは、誰にも言えない。言ったら母親が悲しむような気がした。
そんな事を思っている内に、いつの間にか大通りに出るところだった。ここから先は、魔道自動車や魔道バイク、魔道バス、魔道自転車などが行き交っているから、ボーッと歩くのは危険だ。とは言っても、事故になりそうな場合は、各乗り物に設置義務のある『危険回避魔道具』が危険を察知して回避出来るように保護してくれる仕組みとなっている。このシステムの開発により、事故による怪我人の発生率は限りなく0に近く、死亡事故の発生は皆無となった。とは言っても、一年に一度義務付けられている定期メンテナンスを怠ったり、摩耗した魔法石を新しいものと変えていない怠惰な持ち主もいるから、油断は禁物だ。バレなければ良いと、平気で法を侵す輩はいつの時代、どこにでも存在するものだ。
あ! 辺境騎士団の方々が見えてきた。黒を基調にして銀色ボタンのついた軍服がカッコいいのよね。そろそろ国境が近いのだ。何だかワクワクしてきた。
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