13 / 16
第五話
正体不明の寂寥感
しおりを挟む
ついに、帝国に旅行に行く日がやってきた! この日の為に宿題は日記と自由研究と工作を残して全て片付けてしまったし。旅行期間は二週間、色々と楽しもう。何せ、国境を越える事からして初体験なのだ。
母が心配そうに見送る中、元気よく手を振って家を後にした。母は国境寸前まで見送りに行くと言っていたが、笑顔で断った。ガーデニア姉様とラウル兄様が、ちょうど仕事の合間だからと国境近くまで送ってくれる、と言って頂いたのだがお忙しい中さすがにそれは申し訳無さ過ぎて丁重にお断りした。
本当は、子供らしく素直に甘えれば良いのかもしれないけど。純粋な好意を向けられた時、どう反応すれば良いのか戸惑ってしまう。本当はとても嬉しい、でもどう表現して良いのかわからないのだ。相手が見返りを求めた好意なら、気楽に甘えられるけれど。
さて、ウジウジ考えても暗くなるだけだ。せっかくの旅行なのだ、楽しまなければ勿体ない。帝国との国境まで自宅から徒歩40分ほどで着いてしまう。歩きながら風を感じたり周りの景色を楽しむのが好きだ。だから魔道バスや魔道電車は使わない。
あぜ道を只管歩いて行く。果物畑や麦畑が広がる中、向日葵が道の両端に立ち並ぶ箇所に差し掛かった。雲一つない青空に、向日葵とのコントラストは心を元気にする組み合わせだと思う。ジージーと数多のセミが鳴いていて、夏休みなんだなぁ、と実感する。ほんの少しだけ歩みが遅くなった。正面の道から人が歩いて来るのが見えたからだ。スムーズにすれ違えるように今から左に避けておく。子供を肩車した父子連れだ。白いTシャツに紺色の短パン、蛍光イエローのビーチサンダルといういでたちの男性と、黄色のTシャツワンピースの女の子が、四歳くらいだろうか……嬉しうに男性の頭にしがみついていた。面差しがよく似ている、恐らく父子で間違いないだろう。父親は娘を落とすものかと両腕で娘の足をおさまえている、それだけ密着していたら暑いだろうに、汗だくになっても気にせず楽しそうに会話をしている。すれ違い様に見やると、父親はリュックを背負っており、その中から虫取り網が飛び出ていた。
虫取り遊びは、魔法で簡単に出来てしまうがこうして太古のやり方で楽しむ事が子供の情操教育に効果的。汗まみれ、泥んこになって子供と思い切り遊ぶ日を設けましょう……という育児論が幅を利かせている。季節ごとの長期休暇を利用して、自然豊かな場所に家族連れで遊びに来ているのをよく見かける。この辺りは自然豊かだから尚更。もう長期休暇の風物詩となっている。幼い頃、その光景を見掛けて自分にはどうして父親がいないのか不思議に思った。その隙間を埋めるようにして、前ラインゲルト辺境伯御夫妻に可愛がって頂いた。本当に有難い。だから、漠然と感じる寂寥感の正体に深入りする必要もなく成長出来た。
けれども、楽しそうな家族連れをみると、今でもほんの少しだけ、得体の知れない感情が襲って来る。心の隙間に入り込む虚無の風……例えるなら、誰も居なくなった廃村に吹く秋の風、そんなイメージだ。もう少し私が大人になって色々経験したら、この感情の正体を突き止め、心をかき乱される事は無くなるのだろうか。この気持ちは、誰にも言えない。言ったら母親が悲しむような気がした。
そんな事を思っている内に、いつの間にか大通りに出るところだった。ここから先は、魔道自動車や魔道バイク、魔道バス、魔道自転車などが行き交っているから、ボーッと歩くのは危険だ。とは言っても、事故になりそうな場合は、各乗り物に設置義務のある『危険回避魔道具』が危険を察知して回避出来るように保護してくれる仕組みとなっている。このシステムの開発により、事故による怪我人の発生率は限りなく0に近く、死亡事故の発生は皆無となった。とは言っても、一年に一度義務付けられている定期メンテナンスを怠ったり、摩耗した魔法石を新しいものと変えていない怠惰な持ち主もいるから、油断は禁物だ。バレなければ良いと、平気で法を侵す輩はいつの時代、どこにでも存在するものだ。
あ! 辺境騎士団の方々が見えてきた。黒を基調にして銀色ボタンのついた軍服がカッコいいのよね。そろそろ国境が近いのだ。何だかワクワクしてきた。
母が心配そうに見送る中、元気よく手を振って家を後にした。母は国境寸前まで見送りに行くと言っていたが、笑顔で断った。ガーデニア姉様とラウル兄様が、ちょうど仕事の合間だからと国境近くまで送ってくれる、と言って頂いたのだがお忙しい中さすがにそれは申し訳無さ過ぎて丁重にお断りした。
本当は、子供らしく素直に甘えれば良いのかもしれないけど。純粋な好意を向けられた時、どう反応すれば良いのか戸惑ってしまう。本当はとても嬉しい、でもどう表現して良いのかわからないのだ。相手が見返りを求めた好意なら、気楽に甘えられるけれど。
さて、ウジウジ考えても暗くなるだけだ。せっかくの旅行なのだ、楽しまなければ勿体ない。帝国との国境まで自宅から徒歩40分ほどで着いてしまう。歩きながら風を感じたり周りの景色を楽しむのが好きだ。だから魔道バスや魔道電車は使わない。
あぜ道を只管歩いて行く。果物畑や麦畑が広がる中、向日葵が道の両端に立ち並ぶ箇所に差し掛かった。雲一つない青空に、向日葵とのコントラストは心を元気にする組み合わせだと思う。ジージーと数多のセミが鳴いていて、夏休みなんだなぁ、と実感する。ほんの少しだけ歩みが遅くなった。正面の道から人が歩いて来るのが見えたからだ。スムーズにすれ違えるように今から左に避けておく。子供を肩車した父子連れだ。白いTシャツに紺色の短パン、蛍光イエローのビーチサンダルといういでたちの男性と、黄色のTシャツワンピースの女の子が、四歳くらいだろうか……嬉しうに男性の頭にしがみついていた。面差しがよく似ている、恐らく父子で間違いないだろう。父親は娘を落とすものかと両腕で娘の足をおさまえている、それだけ密着していたら暑いだろうに、汗だくになっても気にせず楽しそうに会話をしている。すれ違い様に見やると、父親はリュックを背負っており、その中から虫取り網が飛び出ていた。
虫取り遊びは、魔法で簡単に出来てしまうがこうして太古のやり方で楽しむ事が子供の情操教育に効果的。汗まみれ、泥んこになって子供と思い切り遊ぶ日を設けましょう……という育児論が幅を利かせている。季節ごとの長期休暇を利用して、自然豊かな場所に家族連れで遊びに来ているのをよく見かける。この辺りは自然豊かだから尚更。もう長期休暇の風物詩となっている。幼い頃、その光景を見掛けて自分にはどうして父親がいないのか不思議に思った。その隙間を埋めるようにして、前ラインゲルト辺境伯御夫妻に可愛がって頂いた。本当に有難い。だから、漠然と感じる寂寥感の正体に深入りする必要もなく成長出来た。
けれども、楽しそうな家族連れをみると、今でもほんの少しだけ、得体の知れない感情が襲って来る。心の隙間に入り込む虚無の風……例えるなら、誰も居なくなった廃村に吹く秋の風、そんなイメージだ。もう少し私が大人になって色々経験したら、この感情の正体を突き止め、心をかき乱される事は無くなるのだろうか。この気持ちは、誰にも言えない。言ったら母親が悲しむような気がした。
そんな事を思っている内に、いつの間にか大通りに出るところだった。ここから先は、魔道自動車や魔道バイク、魔道バス、魔道自転車などが行き交っているから、ボーッと歩くのは危険だ。とは言っても、事故になりそうな場合は、各乗り物に設置義務のある『危険回避魔道具』が危険を察知して回避出来るように保護してくれる仕組みとなっている。このシステムの開発により、事故による怪我人の発生率は限りなく0に近く、死亡事故の発生は皆無となった。とは言っても、一年に一度義務付けられている定期メンテナンスを怠ったり、摩耗した魔法石を新しいものと変えていない怠惰な持ち主もいるから、油断は禁物だ。バレなければ良いと、平気で法を侵す輩はいつの時代、どこにでも存在するものだ。
あ! 辺境騎士団の方々が見えてきた。黒を基調にして銀色ボタンのついた軍服がカッコいいのよね。そろそろ国境が近いのだ。何だかワクワクしてきた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
一般人になりたい成り行き聖女と一枚上手な腹黒王弟殿下の攻防につき
tanuTa
恋愛
よく通っている図書館にいたはずの相楽小春(20)は、気づくと見知らぬ場所に立っていた。
いわゆるよくある『異世界転移もの』とかいうやつだ。聖女やら勇者やらチート的な力を使って世界を救うみたいな。
ただ1つ、よくある召喚ものとは異例な点がそこにはあった。
何故か召喚された聖女は小春を含め3人もいたのだ。
成り行き上取り残された小春は、その場にはいなかった王弟殿下の元へ連れて行かれることになるのだが……。
聖女召喚にはどうも裏があるらしく、小春は巻き込まれる前にさっさと一般人になるべく画策するが、一筋縄では行かなかった。
そして。
「──俺はね、聖女は要らないんだ」
王弟殿下であるリュカは、誰もが魅了されそうな柔和で甘い笑顔を浮かべて、淡々と告げるのだった。
これはめんどくさがりな訳あり聖女(仮)と策士でハイスペック(腹黒気味)な王弟殿下の利害関係から始まる、とある異世界での話。
1章完結。2章不定期更新。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
侵略国家の皇女に転生しましたが他国へと追放されたので祖国を懲らしめます
think
恋愛
日本から転生を果たした普通の女性、橘美紀は侵略国家の皇女として生まれ変わった。
敵味方問わず多くの兵士が死んでいく現状を変えたいと願ったが、父によって他国へと嫁がされてしまう。
ならばと彼女は祖国を懲らしめるために嫁いだ国スイレース王国の王子とともに逆襲することにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる