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第四話
十六回目のバースデー
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夏休みに入って三日目。庭の銀梅花が最後の満開を迎える頃、私は十六回目の誕生日を迎えた。これで、保護者の同伴が無くても一人で国境を越える事が出来る。但し保護者の同意は必要ではあるが、そこは問題無い。この日を夢見て、コツコツとお小遣いを貯めて来たのだ。
その貯めたお金の中から、当時の母と一応父らしきクズ、そしてなんちゃって聖女の間に何があったのか? 事実を知る為にしかるべき機関へとこっそりと依頼するつもりだった。その期間は、私のように誰にも知られずに真相を知りたいという訳アリの未成年でも依頼を受けてくれるのだ。但し、こっそり身辺を色々と調べた挙句、犯罪の匂いがしない、と判定が出れば……という条件つきだが。それと、いくら自己責任とは言っても未成年だ、万が一結果を知ってメンタルに悪影響を及ぼす場合が無きにしも非ずなので、専門の心理カウンセラーも常在させているという。
けれども、何とも有難い事に。全ての事情をご存じの……もしかしたら、大人の事情を絡めたら、当事者である私よりも詳しいかもしれない……ガーデニアのお姉様とラウルのお兄様が全面協力を申し出てくださって。何と、当時の事を調べてまとめてくださったのだ! その裏では、現ラインゲルト辺境伯御夫妻のお力が働いているのは言うまでもない。現ラインゲルト辺境伯御夫妻……キアラ様もジルベルト様も、そしてガーデニアお姉様やラウルお兄様も、聖女絡みの話には敏感だ。それは恐らく、ジルベルト様とキアラ様の過去に起因しているのだ思う。
きっと、放っておけないのだ。過去の自分たちと重なって。
今から六年ほど前、当時は帝国の皇太子だったジルベルト様は、聖女という名前のついた略奪女の魅惑とマインドコントロールの罠にハマってしまったという過去があった。事態はそう簡単な事でもなく、背後には略奪女に全てを捧げた愚者の、幻惑魔術と記憶と時間操作、洗脳という禁術の複合デパート的な存在が絡み、帝国のみでなく全世界を巻き込んだ事件が発生した。結局は略奪女もジルベルト様も、愚者の術に嵌められただけで愛など無かった、と公式に発表されたが。
帝国民たちの面前でキアラ様に婚約破棄、略奪女との婚約発表、キアラ様への断罪の果てに民衆によって公開処刑……大昔の令嬢モノのテンプレートのような糞展開をやらかしたジルベルト様の事を、当時の私は「これで帝国の未来は終わったな。人の婚約者を平気で奪うクズが聖女な訳ねーだろ、馬鹿が。何をされたか知らないが、こんな残酷な形で公開処刑も平気でいる感覚、似非聖女確定。男ってバカしかいないんだな」と鼻で笑ったのを覚えている。今にして思えば、自分の父親と重ねてジルベルト様を重ねていたのだろう。
最初、現ラインゲルト辺境伯御夫妻と帝国もジルベルト様とキアラ様がイコールで結びつかなかった。それほど、今のお二人は仲睦まじく、見ているこちらも幸せな気分になれるご夫婦だった。過去にあのような壮絶な体験をしてもそれを乗り越えて結ばれたお二人は、それこ真実の愛で結ばれた二人の言えるのではないかと思う。
……私にもいつか、出会えるのだろうか……
とてもそうは思えないが。
ふと、品のある甘い香りが鼻をくすぐった。母が窓を開けたのだ。庭は、最後の見せ場とばかりに銀梅花が咲き誇っている。
「……今年も銀梅花が綺麗ね。あなたが生まれた時も、銀梅花がとても綺麗に咲いていてね。素敵な香りが辺りを包み込んで素敵だったわ。それに因んで、あなたの名前をミルティアとつけたの」
今回で十六回は聞いただろう台詞を、母は言いながら微笑んだ。嬉しそうなのに、どこか寂しそうに見える笑みで。だから私の、照れたように微笑みを返す。そう見えるよう何度も鏡を見て練習したのだ。
今日は朝から晩まで、母親が腕によりをかけて御馳走を作ってくれる日だ。手伝いは必要ないというから、私は今日一日、どこぞやの深窓の令嬢気分で読書をしたり、魔道具を作ったりして母親に呼ばれるまで趣味に没頭する。
母親と不倫男、略奪女や周囲の人々にまつわる調査書は未だ目を通していない。早く読んでしまって、やるせない怒りに我を忘れて人に迷惑をかけない! と言い切れる自信が無いのだ。だから、こっそり不倫男と略奪女とその子供が幸せに暮らしているという家を秘かに見に行く前日まで、調査書を読むのは封印しようと思う。
その貯めたお金の中から、当時の母と一応父らしきクズ、そしてなんちゃって聖女の間に何があったのか? 事実を知る為にしかるべき機関へとこっそりと依頼するつもりだった。その期間は、私のように誰にも知られずに真相を知りたいという訳アリの未成年でも依頼を受けてくれるのだ。但し、こっそり身辺を色々と調べた挙句、犯罪の匂いがしない、と判定が出れば……という条件つきだが。それと、いくら自己責任とは言っても未成年だ、万が一結果を知ってメンタルに悪影響を及ぼす場合が無きにしも非ずなので、専門の心理カウンセラーも常在させているという。
けれども、何とも有難い事に。全ての事情をご存じの……もしかしたら、大人の事情を絡めたら、当事者である私よりも詳しいかもしれない……ガーデニアのお姉様とラウルのお兄様が全面協力を申し出てくださって。何と、当時の事を調べてまとめてくださったのだ! その裏では、現ラインゲルト辺境伯御夫妻のお力が働いているのは言うまでもない。現ラインゲルト辺境伯御夫妻……キアラ様もジルベルト様も、そしてガーデニアお姉様やラウルお兄様も、聖女絡みの話には敏感だ。それは恐らく、ジルベルト様とキアラ様の過去に起因しているのだ思う。
きっと、放っておけないのだ。過去の自分たちと重なって。
今から六年ほど前、当時は帝国の皇太子だったジルベルト様は、聖女という名前のついた略奪女の魅惑とマインドコントロールの罠にハマってしまったという過去があった。事態はそう簡単な事でもなく、背後には略奪女に全てを捧げた愚者の、幻惑魔術と記憶と時間操作、洗脳という禁術の複合デパート的な存在が絡み、帝国のみでなく全世界を巻き込んだ事件が発生した。結局は略奪女もジルベルト様も、愚者の術に嵌められただけで愛など無かった、と公式に発表されたが。
帝国民たちの面前でキアラ様に婚約破棄、略奪女との婚約発表、キアラ様への断罪の果てに民衆によって公開処刑……大昔の令嬢モノのテンプレートのような糞展開をやらかしたジルベルト様の事を、当時の私は「これで帝国の未来は終わったな。人の婚約者を平気で奪うクズが聖女な訳ねーだろ、馬鹿が。何をされたか知らないが、こんな残酷な形で公開処刑も平気でいる感覚、似非聖女確定。男ってバカしかいないんだな」と鼻で笑ったのを覚えている。今にして思えば、自分の父親と重ねてジルベルト様を重ねていたのだろう。
最初、現ラインゲルト辺境伯御夫妻と帝国もジルベルト様とキアラ様がイコールで結びつかなかった。それほど、今のお二人は仲睦まじく、見ているこちらも幸せな気分になれるご夫婦だった。過去にあのような壮絶な体験をしてもそれを乗り越えて結ばれたお二人は、それこ真実の愛で結ばれた二人の言えるのではないかと思う。
……私にもいつか、出会えるのだろうか……
とてもそうは思えないが。
ふと、品のある甘い香りが鼻をくすぐった。母が窓を開けたのだ。庭は、最後の見せ場とばかりに銀梅花が咲き誇っている。
「……今年も銀梅花が綺麗ね。あなたが生まれた時も、銀梅花がとても綺麗に咲いていてね。素敵な香りが辺りを包み込んで素敵だったわ。それに因んで、あなたの名前をミルティアとつけたの」
今回で十六回は聞いただろう台詞を、母は言いながら微笑んだ。嬉しそうなのに、どこか寂しそうに見える笑みで。だから私の、照れたように微笑みを返す。そう見えるよう何度も鏡を見て練習したのだ。
今日は朝から晩まで、母親が腕によりをかけて御馳走を作ってくれる日だ。手伝いは必要ないというから、私は今日一日、どこぞやの深窓の令嬢気分で読書をしたり、魔道具を作ったりして母親に呼ばれるまで趣味に没頭する。
母親と不倫男、略奪女や周囲の人々にまつわる調査書は未だ目を通していない。早く読んでしまって、やるせない怒りに我を忘れて人に迷惑をかけない! と言い切れる自信が無いのだ。だから、こっそり不倫男と略奪女とその子供が幸せに暮らしているという家を秘かに見に行く前日まで、調査書を読むのは封印しようと思う。
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