18 / 37
第十三話
夏祭りⅣ
しおりを挟む
花火大会の開場には、余裕を持って着いた。場所取りは労せずに出来た。咲喜と山内さんが、皆の分の飲み物、カキ氷を購入しに。あたしと玉岡先輩は、場所の確保に残った。明るい内に、場所の詳細を確認し、当麻にLINERをする。未だに、既読にはならない。
……モエトフタリデナニヲシテルノ?……
油断すると、すぐに疑念が胸を過ぎる。不安に押し潰されそうになる。
「先日お借りした本、興味深かったです」
恐怖と強い不安感は、あたしをやけに饒舌にさせる。何か話していないと、気が変になりそうだった。
「それは良かった。漫画形式になっているから、読みやすいんじゃないかな、と思ってね。無自覚なアダルトチルドレン、日本人には少なくないんじゃないかな。僕も含め」
玉岡先輩は、どこか遠くを見つめるような眼差しで話し始めた。
「玉岡先輩も、ですか?」
意外に感じた。
「お待たせ!」
咲喜達が飲み物とカキ氷を手に戻ってくる。
「有り難う」
「有り難う、混んできた?」
あたしと玉岡先輩は、お礼を述べつつ品物を受け取る。そしてお金を咲喜に支払った。飲み物はウーロン茶、カキ氷は宇治抹茶。玉岡先輩も同じだ。暑いときは、スッキリした物が良い飲み物は500mlのペットボトルだ。
「ペットボトル、大して冷えて無いのに200円とか。高いよね!」
咲喜の言葉に、一同は頷きあう。当麻は、まだ既読にならない。努めて、平静を装う。しばらく雑談を楽しんだ。
…パチパチ…ヒュー…パァン…
不意に、空に紅い花が咲いた。花火大会の始まりの合図だ。あたし達は、空に注目した。それを合図に、空に大輪の花が咲く。いくつも、いくつも。
咲喜と山内さんは、肩を寄せ合って青空を見上げる。屋台に並んでいた人も、通りを歩いていた人も、一旦足を止めて夜空の華を愛でる。
この会場に限らず、この花火を見た人はその一時だけ、縁が出来る。紅い華、青い華、緑の星、菊の花、白い滝。夜空は花が咲き乱れ、豪華絢爛な世界が創り出される。
人々はしばし、悲しみや不安、怒り等を忘れ夜空に紡ぎ出される百花繚乱に見とれる。
夜空に花が咲き乱れ、消えた後の余韻は何と虚しく、物悲しいのだろう。その虚しさを感じさせぬ程、次々と花が咲いて行く。それは、辛さや寂しさ、憎しみなどの負の感情を紛らわす為に、ある人は酒に、ある人はギャンブルに、ある人は食物に、またある人は買い物に。依存に走る心理とよく似ている。
ヒュー…ポン…ポンポンポン
一際豪華に、大輪の花が咲き続ける。
…わぁ…パチパチパチパチ…
人々の歓声と拍手が響き渡る。咲喜も、山内さんも、隣の玉岡先輩も。あたしも皆に合わせて、拍手をする。紅い花火が上がった時、彼と右手を繋ぎ左の肩越しにそれを見ると、そのカップルは永遠に結ばれる。そんなお呪いを聞いた事があった。実は今回、それを試してみようとしていたのに……。馬鹿なあたし。当麻は今、萌恵と花火を見ているのだろうか。何故か、夜空の花々が霞んで見えた。その時、
「相沢さん?!」
玉岡先輩は驚いたようにあたしを見つめ、右手であたしの肩を抱き、自らの胸に引き寄せた。驚きのあまり、一瞬何が起こったか理解出来ない。
「ごめん、泣いていたから、つい……」
玉岡先輩は、右手で軽くあたしを抱きしめ左手でぎこちなく頭撫でながら、そう呟いた。そして
「泣きたい時は、我慢しなくても良いんだよ」
と続けた。彼の思いがけない言葉に、漸くあたしは、泣いていた事に気付いた。
…ヒック…
涙を自覚した途端、嗚咽が込み上げてしまう。そして堰を切ったように、涙が溢れた。素直に甘えてしまう自分。もう気を張るのに疲れ、抗う力は残ってはいなかった。くたくただった。咲喜と山内さんは、そんなあたしの様子を気遣わしげに見ていたが、すぐに夜空を見上げた。彼らの気遣いが、心底有難かった。
「菜々!」
不意に、当麻の声が響いた。その声に、反射的に離れるあたしと玉岡先輩。
「当麻……」
その名を呼んだ。待ち焦がれたその姿。けれどもその隣には彼の左腕にその身を絡める……
「……萌恵」
あたし達は全員、一瞬だけ時が止まったみたいに動けなかった。ザワザワ人々のざわめきも。花火の音も、一気に遠ざかる。
「お姉ちゃんて、ビッチだったんだぁ。へぇー。萌恵、意外ー」
沈黙を破ったのは萌恵の可愛らしい、けれどもどこかに棘を含んだ声だった。
……モエコソ、ドウシテトウマトウデヲクンデルノ……
と聞きたいのに、口から飛び出した咄嗟の台詞は、言い訳だった。
「萌恵、何言って……」
「違うよ!」
説明しようとするのを強く遮り玉岡先輩はあたしの前に立ちはだかった。まるで、守るみたいに。あたしもすぐに立ち上がる。咲喜と山内さんも立ち上がった。
「僕は玉岡樹。バスケ部二年だ。ビッチなんかじゃないよ。相沢さんが、悲しそうにしていたから。思わず、抱き寄せちゃったんだ。僕が、一方的にね」
玉岡先輩は、萌恵と当麻にゆっくり、ハッキリと言い切った。そしてそっと、左手であたしの右手を引き、自分の前に立たせると、一歩後ろに下がった。当麻と萌恵に向き合うあたしの構図が出来上がる。しばらく沈黙が訪れた。
……モエトフタリデナニヲシテルノ?……
油断すると、すぐに疑念が胸を過ぎる。不安に押し潰されそうになる。
「先日お借りした本、興味深かったです」
恐怖と強い不安感は、あたしをやけに饒舌にさせる。何か話していないと、気が変になりそうだった。
「それは良かった。漫画形式になっているから、読みやすいんじゃないかな、と思ってね。無自覚なアダルトチルドレン、日本人には少なくないんじゃないかな。僕も含め」
玉岡先輩は、どこか遠くを見つめるような眼差しで話し始めた。
「玉岡先輩も、ですか?」
意外に感じた。
「お待たせ!」
咲喜達が飲み物とカキ氷を手に戻ってくる。
「有り難う」
「有り難う、混んできた?」
あたしと玉岡先輩は、お礼を述べつつ品物を受け取る。そしてお金を咲喜に支払った。飲み物はウーロン茶、カキ氷は宇治抹茶。玉岡先輩も同じだ。暑いときは、スッキリした物が良い飲み物は500mlのペットボトルだ。
「ペットボトル、大して冷えて無いのに200円とか。高いよね!」
咲喜の言葉に、一同は頷きあう。当麻は、まだ既読にならない。努めて、平静を装う。しばらく雑談を楽しんだ。
…パチパチ…ヒュー…パァン…
不意に、空に紅い花が咲いた。花火大会の始まりの合図だ。あたし達は、空に注目した。それを合図に、空に大輪の花が咲く。いくつも、いくつも。
咲喜と山内さんは、肩を寄せ合って青空を見上げる。屋台に並んでいた人も、通りを歩いていた人も、一旦足を止めて夜空の華を愛でる。
この会場に限らず、この花火を見た人はその一時だけ、縁が出来る。紅い華、青い華、緑の星、菊の花、白い滝。夜空は花が咲き乱れ、豪華絢爛な世界が創り出される。
人々はしばし、悲しみや不安、怒り等を忘れ夜空に紡ぎ出される百花繚乱に見とれる。
夜空に花が咲き乱れ、消えた後の余韻は何と虚しく、物悲しいのだろう。その虚しさを感じさせぬ程、次々と花が咲いて行く。それは、辛さや寂しさ、憎しみなどの負の感情を紛らわす為に、ある人は酒に、ある人はギャンブルに、ある人は食物に、またある人は買い物に。依存に走る心理とよく似ている。
ヒュー…ポン…ポンポンポン
一際豪華に、大輪の花が咲き続ける。
…わぁ…パチパチパチパチ…
人々の歓声と拍手が響き渡る。咲喜も、山内さんも、隣の玉岡先輩も。あたしも皆に合わせて、拍手をする。紅い花火が上がった時、彼と右手を繋ぎ左の肩越しにそれを見ると、そのカップルは永遠に結ばれる。そんなお呪いを聞いた事があった。実は今回、それを試してみようとしていたのに……。馬鹿なあたし。当麻は今、萌恵と花火を見ているのだろうか。何故か、夜空の花々が霞んで見えた。その時、
「相沢さん?!」
玉岡先輩は驚いたようにあたしを見つめ、右手であたしの肩を抱き、自らの胸に引き寄せた。驚きのあまり、一瞬何が起こったか理解出来ない。
「ごめん、泣いていたから、つい……」
玉岡先輩は、右手で軽くあたしを抱きしめ左手でぎこちなく頭撫でながら、そう呟いた。そして
「泣きたい時は、我慢しなくても良いんだよ」
と続けた。彼の思いがけない言葉に、漸くあたしは、泣いていた事に気付いた。
…ヒック…
涙を自覚した途端、嗚咽が込み上げてしまう。そして堰を切ったように、涙が溢れた。素直に甘えてしまう自分。もう気を張るのに疲れ、抗う力は残ってはいなかった。くたくただった。咲喜と山内さんは、そんなあたしの様子を気遣わしげに見ていたが、すぐに夜空を見上げた。彼らの気遣いが、心底有難かった。
「菜々!」
不意に、当麻の声が響いた。その声に、反射的に離れるあたしと玉岡先輩。
「当麻……」
その名を呼んだ。待ち焦がれたその姿。けれどもその隣には彼の左腕にその身を絡める……
「……萌恵」
あたし達は全員、一瞬だけ時が止まったみたいに動けなかった。ザワザワ人々のざわめきも。花火の音も、一気に遠ざかる。
「お姉ちゃんて、ビッチだったんだぁ。へぇー。萌恵、意外ー」
沈黙を破ったのは萌恵の可愛らしい、けれどもどこかに棘を含んだ声だった。
……モエコソ、ドウシテトウマトウデヲクンデルノ……
と聞きたいのに、口から飛び出した咄嗟の台詞は、言い訳だった。
「萌恵、何言って……」
「違うよ!」
説明しようとするのを強く遮り玉岡先輩はあたしの前に立ちはだかった。まるで、守るみたいに。あたしもすぐに立ち上がる。咲喜と山内さんも立ち上がった。
「僕は玉岡樹。バスケ部二年だ。ビッチなんかじゃないよ。相沢さんが、悲しそうにしていたから。思わず、抱き寄せちゃったんだ。僕が、一方的にね」
玉岡先輩は、萌恵と当麻にゆっくり、ハッキリと言い切った。そしてそっと、左手であたしの右手を引き、自分の前に立たせると、一歩後ろに下がった。当麻と萌恵に向き合うあたしの構図が出来上がる。しばらく沈黙が訪れた。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる