海を見ていた「潮騒のメロディ」

大和撫子

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第十三話

夏祭りⅣ

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 花火大会の開場には、余裕を持って着いた。場所取りは労せずに出来た。咲喜と山内さんが、皆の分の飲み物、カキ氷を購入しに。あたしと玉岡先輩は、場所の確保に残った。明るい内に、場所の詳細を確認し、当麻にLINERをする。未だに、既読にはならない。

……モエトフタリデナニヲシテルノ?……

 油断すると、すぐに疑念が胸を過ぎる。不安に押し潰されそうになる。

「先日お借りした本、興味深かったです」

 恐怖と強い不安感は、あたしをやけに饒舌にさせる。何か話していないと、気が変になりそうだった。

「それは良かった。漫画形式になっているから、読みやすいんじゃないかな、と思ってね。無自覚なアダルトチルドレン、日本人には少なくないんじゃないかな。僕も含め」

 玉岡先輩は、どこか遠くを見つめるような眼差しで話し始めた。

「玉岡先輩も、ですか?」

 意外に感じた。

「お待たせ!」

 咲喜達が飲み物とカキ氷を手に戻ってくる。

「有り難う」
「有り難う、混んできた?」

 あたしと玉岡先輩は、お礼を述べつつ品物を受け取る。そしてお金を咲喜に支払った。飲み物はウーロン茶、カキ氷は宇治抹茶。玉岡先輩も同じだ。暑いときは、スッキリした物が良い飲み物は500mlのペットボトルだ。

「ペットボトル、大して冷えて無いのに200円とか。高いよね!」

 咲喜の言葉に、一同は頷きあう。当麻は、まだ既読にならない。努めて、平静を装う。しばらく雑談を楽しんだ。

…パチパチ…ヒュー…パァン…

 不意に、空に紅い花が咲いた。花火大会の始まりの合図だ。あたし達は、空に注目した。それを合図に、空に大輪の花が咲く。いくつも、いくつも。
 咲喜と山内さんは、肩を寄せ合って青空を見上げる。屋台に並んでいた人も、通りを歩いていた人も、一旦足を止めて夜空の華を愛でる。

 この会場に限らず、この花火を見た人はその一時だけ、えにしが出来る。紅い華、青い華、緑の星、菊の花、白い滝。夜空は花が咲き乱れ、豪華絢爛な世界が創り出される。
 人々はしばし、悲しみや不安、怒り等を忘れ夜空に紡ぎ出される百花繚乱に見とれる。

 夜空に花が咲き乱れ、消えた後の余韻は何と虚しく、物悲しいのだろう。その虚しさを感じさせぬ程、次々と花が咲いて行く。それは、辛さや寂しさ、憎しみなどの負の感情を紛らわす為に、ある人は酒に、ある人はギャンブルに、ある人は食物に、またある人は買い物に。依存に走る心理とよく似ている。

ヒュー…ポン…ポンポンポン

 一際豪華に、大輪の花が咲き続ける。

…わぁ…パチパチパチパチ…

 人々の歓声と拍手が響き渡る。咲喜も、山内さんも、隣の玉岡先輩も。あたしも皆に合わせて、拍手をする。紅い花火が上がった時、彼と右手を繋ぎ左の肩越しにそれを見ると、そのカップルは永遠に結ばれる。そんなお呪いを聞いた事があった。実は今回、それを試してみようとしていたのに……。馬鹿なあたし。当麻は今、萌恵と花火を見ているのだろうか。何故か、夜空の花々が霞んで見えた。その時、

「相沢さん?!」

 玉岡先輩は驚いたようにあたしを見つめ、右手であたしの肩を抱き、自らの胸に引き寄せた。驚きのあまり、一瞬何が起こったか理解出来ない。

「ごめん、泣いていたから、つい……」

 玉岡先輩は、右手で軽くあたしを抱きしめ左手でぎこちなく頭撫でながら、そう呟いた。そして

「泣きたい時は、我慢しなくても良いんだよ」

 と続けた。彼の思いがけない言葉に、漸くあたしは、泣いていた事に気付いた。

…ヒック…

 涙を自覚した途端、嗚咽が込み上げてしまう。そして堰を切ったように、涙が溢れた。素直に甘えてしまう自分。もう気を張るのに疲れ、抗う力は残ってはいなかった。くたくただった。咲喜と山内さんは、そんなあたしの様子を気遣わしげに見ていたが、すぐに夜空を見上げた。彼らの気遣いが、心底有難かった。

「菜々!」

 不意に、当麻の声が響いた。その声に、反射的に離れるあたしと玉岡先輩。

「当麻……」


その名を呼んだ。待ち焦がれたその姿。けれどもその隣には彼の左腕にその身を絡める……

「……萌恵」

 あたし達は全員、一瞬だけ時が止まったみたいに動けなかった。ザワザワ人々のざわめきも。花火の音も、一気に遠ざかる。


「お姉ちゃんて、ビッチだったんだぁ。へぇー。萌恵、意外ー」

 沈黙を破ったのは萌恵の可愛らしい、けれどもどこかに棘を含んだ声だった。

……モエコソ、ドウシテトウマトウデヲクンデルノ……

 と聞きたいのに、口から飛び出した咄嗟の台詞は、言い訳だった。

「萌恵、何言って……」
「違うよ!」

 説明しようとするのを強く遮り玉岡先輩はあたしの前に立ちはだかった。まるで、守るみたいに。あたしもすぐに立ち上がる。咲喜と山内さんも立ち上がった。

「僕は玉岡樹。バスケ部二年だ。ビッチなんかじゃないよ。相沢さんが、悲しそうにしていたから。思わず、抱き寄せちゃったんだ。僕が、一方的にね」

 玉岡先輩は、萌恵と当麻にゆっくり、ハッキリと言い切った。そしてそっと、左手であたしの右手を引き、自分の前に立たせると、一歩後ろに下がった。当麻と萌恵に向き合うあたしの構図が出来上がる。しばらく沈黙が訪れた。
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