海を見ていた「潮騒のメロディ」

大和撫子

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第二十話

決断と再出発Ⅲ

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 そしてふと思った。あたしは意外と、薄情でドライなのではないかと。萌恵に対して、割と辛辣に思っていた事に今更ながら気づいたのだ。例えば、萌恵の言動をすぐに当麻の気を引く為の演技だ、と感じたり。今もそうだ。
死のうとまでしている萌恵に対して、世の中どうしようもない事もあるんだよ、と諭したい気分になっている。そして同時に、萌恵が本気で死のうとはしていない事にも気づいている。あたしは案外、悲劇のヒロインぶった偽善者なのかもしれない。嫌な奴だ。

 だけど今、あたしは自分を変える切っ掛けの瞬間にいるのだ。泣き腫らした顔をした萌恵と自宅に帰ったら、両親に何と言われるか。気が重い。逃げ出したい。だからこそ、やり抜く価値はあるのだ。

 萌恵が泣き止むのを待ち、あたしたちは店を出た。午前10時前。丁度良い時間だ。全員が無言で、バスに揺れる。当麻は約束通り、あたしたちを家の前まで送った。

「後で連絡する」

 当麻はあたしに笑みを見せ、自宅に帰って行った。本当はこのまま、当麻はあたの両親に挨拶する予定だった。しかし、萌恵の泣いた後でそれをするのはさすがにタイミングが悪い。日を改める事にしたのだ。予定では、明日当麻の家に挨拶に行く。けれども、それも保留にした。それらの事を、レストランで打ち合わせをするあたしたちを、萌恵は虚ろな目で見ていた。

「萌恵、どうしたの?」

 母親は萌恵を見るなりすぐに声をかける。

「一人にして!」

 と母親の手を振り払うと、二階の自分の部屋に駆け上がって行った。父親はまだ寝ているらしい。

「ただ今」

 と母親に声をかける。

「萌恵に何があったの?」

 挨拶もなく、あたしを睨みつけた。予想通りの反応で、内心で苦笑してしまう。母親は顎でリビングに行け、と促した。リビングでソファに座っていると、母が父を連れてやってきた。

「萌恵を泣かせたのか!」

 開口一番、父は怒鳴りつけた。

……怖い、逃げたい……

 けれども、それではなんの解決にもならない。話が通じても通じなくても、自分の思いを自分の言葉で伝えないと。大丈夫。世に問題になっている虐待、毒親まではいかない二人だから。万が一、身の危険を感じたらすぐに逃げ出せば良いのだ。

 海をイメージする。

…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…

 イメージの波。潮騒のメロディが響いてくる。呼吸をそこに乗せて、地球の鼓動に自らの鼓動を合わせるイメージをする。

…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…

 ほら、落ち着いてきた。

…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…

 大丈夫、きっと大丈夫。あたしは向かい側に座る両親をしっかりと見つめた。

「泣かせた訳じゃないよ。きっちり話し合いをしただけだよ」

 あたしはゆっくりと説明を始めた。

「……しかし、何だって当麻君は、萌恵じゃなくてお前を選んだんだ?あの子は可愛いし、頭も良い」
「おかしいわよね、あなた。でも、萌恵は当麻君じゃなきゃ嫌だ、言うのよ。菜々子、何とか当麻君にお願いして、萌恵と付き合うように言いなさいよ」

 開いた口が塞がらない。何を言ってるんだろう? この人達。論点はそこではない。萌恵を溺愛するあまり、頭のネジが何処か外れてしまったのだろうか。自分の両親だけれど、価値観も考え方もまるでズレている。

『親は、分かり合う事は出来ない。縁を切る覚悟で決別を。あなたはあなたの人生を歩いて行って良い』

 最近読んだ『毒親』に関する本の中の言葉を、思い出した。その本は、作者の体験談を元に書かれたもので、読みやすくて主人公に感情移入し、一気に読んでしまった。
 あたしの両親は、毒親まではいかないけれど。分かり合えない、という事は分かった。もう、迷わない。両親に愛して貰おうなんて不可能な夢、追いかけるのは辞めよう。その為に、良い子を演じたり両親が望む姿になろうとするのは、辞めよう。
 人の気持ちは自分に都合良いように操作出来ない。だから、両親と分かり合うのも無理なのだ。

「そんな事したら、当麻も困るし。萌恵のプライドも踏みにじる事になるでしょ。ダメなものはダメだし、無理なものは無理だよ」

 本気で覚悟を決めたら、自分の本心を言の葉に乗せて話す事。今この瞬間に出来てしまった。さっき迄の私なら、ここまでハッキリと言えなかったろう。

「何だ! 親に向かってその口の聞き方!」
「何よ、生意気ね」

 両親は何やらいきり立っているが、気にならなかった。いや、正直に言おう。短大を卒業するまでは資金の援助を絶たれたら困るな、そう感じた。やはり、私本来はドライで現実的な価値観の持ち主なのかも知れない。

「冷静に考えたら、分かることだよ。今晩は泊まるけど、明日帰るね」

 しっかりと自分の意思を述べ、自分の部屋に引き上げた。これ以上話しても、時間の無駄だ。余計拗れるだけだ。

……ほら、あたしはやっぱり現実的だ。山羊座の特徴かな……

 などと思いながら、階段をのぼって自室を目指す。


ーーーーーー


「ごめんな」

 やがて、ぽつりと彼は言った。視線は海を見たままだ。

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