押し花の記憶

大和撫子

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第二話

百花繚乱と金色の蝶々

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「わぁー! 綺麗な押し花がいっぱい!」

 やよいはアルバムを捲るなり、歓声をあげる。最初のページは、菫や四つ葉のクローバー、桜や梅、紫陽花等の押し花で埋め尽くされていた。

「金の蝶々?」

 続いて目を引いたのは、折り紙を切って作られたと思われる金色の蝶々だった。まるで今にも飛び立ちそうな程に、繊細な輪郭の蝶々だ。

「これは、お祖父ちゃん?」

 背が高くて非常に整った顔立ちの、青年の写真がページの真ん中に挟まれている。白黒の写真が、やよいにはとても新鮮に映った。

「そうだねぇ。若かりし頃のお祖父ちゃんだねぇ」

 三千代は懐かしそうに目を細める。

「……この押し花はね、お祖母ちゃんの小さい頃からの趣味でねぇ。このアルバムはね、お祖母ちゃんの趣味と
空想の世界を綴ったものなんだよ」

 とゆっくりと語り始めた。



~・~・~・~・~・~・~


「この方が三千代の許婚……」

 初めて泰隆の写真を見せられた時、素敵な方だと思った。三千代が数え年で13歳、小学校六年生の時だ。

「梅ヶ枝泰隆さん。老舗の料理店の次期当主よ。あなたはそこの女将になるの。今からそれに相応しい教養を、身につけなければなりませんよ」

 母親は淡々と話して聞かせた。三千代はただ、素敵な人の元にお嫁に行ける事が嬉しかった。


 時代は大正。親の命令は絶対。自由恋愛など許されない時代……。特に女性は、学問を身につけるより花嫁修業。見目麗しい女性は、男性側に請われれば女学校を中退して結婚した。良家の子女には洋装や袴が流行っていた。三千代も、好んで袴やワンピースを身につけていた。

 そんな時代だった。

 心ときめく人の元にいけるのが三千代にはただ嬉しかった。頂いた彼の写真をアルバムに貼り、好きだった押し花をあしらい、飾った。その時から、それは彼への想いを綴るものとなった。言葉は綴らない。万が一、誰かに見られても大丈夫なように。

 三千代の家は、代々続く小料理屋。三千代は次女として生まれた。

 嫁姑の関係の厳しさ。夫は外に愛人を囲うのが当たり前。浮気は男の甲斐性である。と、妻は文句一つ言わず三つ指をついて帰宅を待つ。そういった価値観にある事は、自身の両親、そして祖父母を見て肌で感じていた。

 初めて泰隆と対面したのは、三千代が数え年で15歳、泰隆は18歳の時だった。高身長で長い手足。端整な顔立ちの泰隆は、何人もの女性を虜にし憧れの的であった。既に、何人もの女性と浮き名を流していた。

……お写真で見るよりも更に素敵な方……

 三千代は一目で恋に落ちた。けれども泰隆の態度は冷たく、明らかに乗り気では無い縁談のようだった。


~・~・~・~・~・~・~



「……それにね、泰隆さんには、本気で愛して結婚したい方がいたんだよ」

 三千代はやよいを通り越して、どこか遠くを見るような眼差しをした。

(そんな。お祖母ちゃん、可哀想……)

 やよいは悲しく思いながらも、静かに祖母の次の言葉を待った。祖母はとても穏やかだった。
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