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第十四帖
黒闇②
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伊周は意気消沈し、東三条の邸に引き籠る。道兼との差が光と闇のように対照的だ。
その頃、京の都では疫病が流行っていた。左大臣をはじめとした道兼の側近たちが、次々と罹患し、この世を去って行った。一族の栄光を妬む何者かの呪詛ではないかという噂がまことしやかに流れる中、かの道兼も疫病に感染。五月八日に死をむかえた。悲願の関白となって七日目で亡くなった事から、後に藤原道兼の『七日関白』と呼ばれるようになる。
……これで、関白となる候補は伊周様と叔父の道長様のお二人になった。でも皇太后様はきっと、道長様を推す筈。そうなると、道長様の御息女が入内する筈。そしたら定子様のお立ち場は……。でも、御門は定子様の事を深く愛してらっしゃるから、きっと大丈夫よね……
午前中のほんのひと時だけ定子が文壇に顔を出した。気遣うように、帝が寄り添って。近親者が亡くなり、喪に服している事を示す青鈍色を単衣に身に着けており、薄墨色を重ねていた。それは定子の、少しやつれ青ざめた肌に透き通るような美しさと気品を与えていた。気丈に振る舞っていたが、道隆の死が相当に堪えているのは一目瞭然だった。
鳳仙花は溜息と共に目の前の台に両肘をおき、頬杖をついた。このような態度は通常はハシタナイものとして慎む。だが、今鳳仙花は一人で文壇の庭に面する縁側にいた。そこは黒い御簾がかけられ、直接顔を見られぬように配慮されている。また、庭の作りも周りを椿や躑躅で垣根のように植えられており、訪問者にも直ぐには見られないように配慮されている。故に一人で寛ぎ易い場所となっおり、鳳仙花のお気に入りの場所の一つだった。それに、ここは実光と出会った場所でもある。また逢えるのではないか、という微かな期待も心の片隅にあった。
今日は仕事が休みの日の為、庭の絵でも描いてみようかと道具を一式持ち寄り、準備をしていた鳳仙花だったが、考え事ばかりしていてちっとも捗らない。文壇の女房たちも口にこそ出さないが、誰が関白となるか気になって仕方無いようだ。それによって、身の振り方を考えなければいけないからだ。もし道長が関白となり、その娘が入内するとなれば鳳仙花達の居場所はまず危うくなる。母親は「何も心配はいりません。あなたは磨爪師としての術と話術、そして幅広い知識をしっかりと身に着けなさい」と言っていたが、それでも不安は残る。
……それにしても伊周様。噂が本当だとしたら随分と荒れてらっしゃるようだけど。一族を恨んだり妬んだりする人って、多すぎて絞り切れないと思うし……
いつも表向きは華やかなりし京の都。だが、このところ平安京周辺では不穏な噂がこだましていた。その内の一つは、道長と伊周が宮廷内で激しく言い争い、その声が御殿の外にまで聞こえて来る事が度々ある、という事だ。その噂は、鳳仙花が出張する先々で聞くので恐らく事実なのであろう。その影響からか、貴族が出かける際は従者を最低でも二、三十人は警護に当たらせた。そうでもしないと、夜盗の襲撃を受けてしまうのだ。女性の一人での外出は、例え五十人程の従者を引き連れたとしても避けられた。その上、黄昏時から明け方にかけて魑魅魍魎が跋扈しているという。その為、外出自体がことごとく避けられた。
……隆家様……
鳳仙花はかつての初恋の人でもある伊周の弟に想いを馳せた。
……恐らく、隆家様は伊周様のお傍についていらっしゃる。そして警護と援護をしてらっしゃるのだわ。儀に篤く、正義感のお強い方。さがな者、と言われるくらいですもの……
ほんの少しだけ、胸がキュッとなる。
つい先日、道長の従者と隆家の従者が街中で鉢合わせし、大乱闘となったらしい。そこで、道長の従者が殺されてしまったのだ。両者の従者の何人かは深手を追い、予断を許さない状況にあるという。
更には、伊周の母方の祖父である高階成忠が孫に加担する為、道長に呪詛をかけている、という噂まで流れた。呪詛は重罪に値する。
カサカサカサカサ
その時、庭先で草を掻き分けているような音が響いた。鳳仙花は長い物想いから我に返る。
……もしかして『ましろ』では?……
そう思ったら、居ても立っても居られなくなり、御簾を掻き分け慌てて沓を履き庭先に飛び出る。
……早く見つけてあげないとどこかへ行ってしまうかも……
子猫を見つけ、保護しようとしゃがみ込む。衣装の裾が汚れるかもしれない事など、考えにも及ばなかった。古道の高鳴りを抑える事が出来ない。実光に会えるかもしれない、そんな期待に胸が膨らむ。子猫と同じ目線になろうと、目の前の草を掻き分ける。
「ましろ? ましろなの? おいで」
それでも声の高さと質に注意しながら音が響いた方向に声をかけた。
ガサ、ガサガサ、ガサ……
草を掻き分け、鳳仙花の居る方向に突き進む音が聞こえる。
……やっぱり、ましろだ。実光様……
甘い予感に陶酔しかけた。音はドンドン近づく。子猫にしては軽やかさが足りない気もしたが、成長したのだろうと思った。
ガサガサ、ガサ
「ましろ!……て、あっ!」
目の前に現れたのは、純白の小さくて柔らかな生き物では無く、桜色の狩衣に紫の指貫姿の……
「こ、伊周様……」
驚きのあまり悲鳴を呑み込み、後ろに倒れそうになる。
「おっと! 危ない」
彼はそう言うと同時に素早く屈みこみ、左手で鳳仙花の右手首を掴み、右手で背中を支えた。そして軽々と抱えるようにして立たせた。相変わらず甘くてよく通る声だ。
「久しぶりだね、鳳仙花ちゃん」
呆然と見上げる鳳仙花に、伊周は柔らかな笑みで話しかけた。
その頃、京の都では疫病が流行っていた。左大臣をはじめとした道兼の側近たちが、次々と罹患し、この世を去って行った。一族の栄光を妬む何者かの呪詛ではないかという噂がまことしやかに流れる中、かの道兼も疫病に感染。五月八日に死をむかえた。悲願の関白となって七日目で亡くなった事から、後に藤原道兼の『七日関白』と呼ばれるようになる。
……これで、関白となる候補は伊周様と叔父の道長様のお二人になった。でも皇太后様はきっと、道長様を推す筈。そうなると、道長様の御息女が入内する筈。そしたら定子様のお立ち場は……。でも、御門は定子様の事を深く愛してらっしゃるから、きっと大丈夫よね……
午前中のほんのひと時だけ定子が文壇に顔を出した。気遣うように、帝が寄り添って。近親者が亡くなり、喪に服している事を示す青鈍色を単衣に身に着けており、薄墨色を重ねていた。それは定子の、少しやつれ青ざめた肌に透き通るような美しさと気品を与えていた。気丈に振る舞っていたが、道隆の死が相当に堪えているのは一目瞭然だった。
鳳仙花は溜息と共に目の前の台に両肘をおき、頬杖をついた。このような態度は通常はハシタナイものとして慎む。だが、今鳳仙花は一人で文壇の庭に面する縁側にいた。そこは黒い御簾がかけられ、直接顔を見られぬように配慮されている。また、庭の作りも周りを椿や躑躅で垣根のように植えられており、訪問者にも直ぐには見られないように配慮されている。故に一人で寛ぎ易い場所となっおり、鳳仙花のお気に入りの場所の一つだった。それに、ここは実光と出会った場所でもある。また逢えるのではないか、という微かな期待も心の片隅にあった。
今日は仕事が休みの日の為、庭の絵でも描いてみようかと道具を一式持ち寄り、準備をしていた鳳仙花だったが、考え事ばかりしていてちっとも捗らない。文壇の女房たちも口にこそ出さないが、誰が関白となるか気になって仕方無いようだ。それによって、身の振り方を考えなければいけないからだ。もし道長が関白となり、その娘が入内するとなれば鳳仙花達の居場所はまず危うくなる。母親は「何も心配はいりません。あなたは磨爪師としての術と話術、そして幅広い知識をしっかりと身に着けなさい」と言っていたが、それでも不安は残る。
……それにしても伊周様。噂が本当だとしたら随分と荒れてらっしゃるようだけど。一族を恨んだり妬んだりする人って、多すぎて絞り切れないと思うし……
いつも表向きは華やかなりし京の都。だが、このところ平安京周辺では不穏な噂がこだましていた。その内の一つは、道長と伊周が宮廷内で激しく言い争い、その声が御殿の外にまで聞こえて来る事が度々ある、という事だ。その噂は、鳳仙花が出張する先々で聞くので恐らく事実なのであろう。その影響からか、貴族が出かける際は従者を最低でも二、三十人は警護に当たらせた。そうでもしないと、夜盗の襲撃を受けてしまうのだ。女性の一人での外出は、例え五十人程の従者を引き連れたとしても避けられた。その上、黄昏時から明け方にかけて魑魅魍魎が跋扈しているという。その為、外出自体がことごとく避けられた。
……隆家様……
鳳仙花はかつての初恋の人でもある伊周の弟に想いを馳せた。
……恐らく、隆家様は伊周様のお傍についていらっしゃる。そして警護と援護をしてらっしゃるのだわ。儀に篤く、正義感のお強い方。さがな者、と言われるくらいですもの……
ほんの少しだけ、胸がキュッとなる。
つい先日、道長の従者と隆家の従者が街中で鉢合わせし、大乱闘となったらしい。そこで、道長の従者が殺されてしまったのだ。両者の従者の何人かは深手を追い、予断を許さない状況にあるという。
更には、伊周の母方の祖父である高階成忠が孫に加担する為、道長に呪詛をかけている、という噂まで流れた。呪詛は重罪に値する。
カサカサカサカサ
その時、庭先で草を掻き分けているような音が響いた。鳳仙花は長い物想いから我に返る。
……もしかして『ましろ』では?……
そう思ったら、居ても立っても居られなくなり、御簾を掻き分け慌てて沓を履き庭先に飛び出る。
……早く見つけてあげないとどこかへ行ってしまうかも……
子猫を見つけ、保護しようとしゃがみ込む。衣装の裾が汚れるかもしれない事など、考えにも及ばなかった。古道の高鳴りを抑える事が出来ない。実光に会えるかもしれない、そんな期待に胸が膨らむ。子猫と同じ目線になろうと、目の前の草を掻き分ける。
「ましろ? ましろなの? おいで」
それでも声の高さと質に注意しながら音が響いた方向に声をかけた。
ガサ、ガサガサ、ガサ……
草を掻き分け、鳳仙花の居る方向に突き進む音が聞こえる。
……やっぱり、ましろだ。実光様……
甘い予感に陶酔しかけた。音はドンドン近づく。子猫にしては軽やかさが足りない気もしたが、成長したのだろうと思った。
ガサガサ、ガサ
「ましろ!……て、あっ!」
目の前に現れたのは、純白の小さくて柔らかな生き物では無く、桜色の狩衣に紫の指貫姿の……
「こ、伊周様……」
驚きのあまり悲鳴を呑み込み、後ろに倒れそうになる。
「おっと! 危ない」
彼はそう言うと同時に素早く屈みこみ、左手で鳳仙花の右手首を掴み、右手で背中を支えた。そして軽々と抱えるようにして立たせた。相変わらず甘くてよく通る声だ。
「久しぶりだね、鳳仙花ちゃん」
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