「堅香子」~春の妖精~

大和撫子

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第十六話

センセーショナル?!

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 先輩たちが登場すると、一年女子はこれ見よがしに声を一オクターブ高くして、朗らかにハキハキと挨拶をする。それは太陽も同じだった。

(あー、こういう人たちって要領よく立ちまわってさ。結局は先生とか味方につけたりして上手ーく世の中渡ってくんだよね)

 今までの経緯を降り返り、真凛は変に醒めた気分になった。

 彼女によると、世の中は『勧善懲悪』とはいかないらしい。この世は理不尽極まりないもので、もし人間というものを創り出した創造主というものがあるならば、生まれる予定の赤子には、容姿も才能も運気も全て気分次第、適当に与えているに違いないそうだ。前述したが……だからこそ、大して努力しなくてもスイスイと世の中を渡り栄光の道を行く者、努力が望んだ通りの、或いはそれ以上の結果として実り栄華の道を進む者、どんなに努力しても望んだ結果にはならず徒労と虚しさを抱えて生きる者、最初から諦めて何の努力せず惰性で生きる者……の大きく分けて四パターンの人間となるらしい。

「お早うございます。宜しくお願いします」

 揃ったところで、部長を中心に円を描くように並ぶと声を揃えて全員一斉に挨拶をする。

「今日は最初に校庭を3周走ってからストレッチ、発声練習と入っていきます。走れない事情がある人は先に申し出て下さい、挙手を」

 シーンとするギャラリー。

「では行きましょう。一年生は一列に並んでついてきてください」

 部長の指示の元、そのまま先輩たちの後について一列に並ぶ。

(うわぁ、ついていけるかなぁ……)

 真凛は不安に思いながらも、いよいよ本格的に部活が始まるのだとワクワクもしていた。

(もしかして皆のペースについていけなかったら申し訳ないから、一番後ろにしよう)

 先輩の後ろ、つまり一年の先頭に太陽が去り気なく並んだので、一年女子四人を先に並ばせようと道を譲る。すると壮吾が真凛を先に行けせて自らがしんがりになるように促した。正直言ってそれだと列から遅れににくいので敬遠したかったが、壮吾の思いやりを無にしたくなくて、ペコリと頭を下げて女子の後ろに並んだ。外に出るドア付近の靴箱置き場で少し列が乱れるものの、外へ出る時には元の一列に戻っている。

(うわ、眩しい!)

 スニーカーに履き替えながら外に出て思う。傾きかけた陽はまだ赤く、濃い黄色に照らし出して校庭が眩しい。

「一年生の中では、体を動かす習慣がなかった人もいると思うので、慣れるまではゆっくり走ります。ですが万が一ついて来れない場合は無理せず自分のペースで走ってください。では、これより二列で進みます」

 部長の指示に従い、前から順に偶数で並んでいる人が右斜め前に出る事で二列になっていく。真凛の右隣には壮吾が並ぶ事となった。ゆっくりと走り始める。

(頑張ってついて行かなきゃ)

 けれども走る速度は、早歩き程度のものだった。

(先輩たち、優しいなぁ。そういえば、演劇部でも全国で上位クラスだって聞いたけど、それでも思い上がる事なく謙虚というか。あれだ、『実るほど頭を下げる稲穂かな』てやつかも。……ていうかまだ始まったばかりだし、油断仕切って甘えたら駄目だけど……)

 そんな事を思いながら、遅れないようについていく。二周目を迎える頃には、周りを眺める余裕も出てきた。野球部、サッカー部、陸上部がそれぞれの区域で練習している。野球部は男子のみ、サッカー部と陸上部は男女別に別れているようだ。校門を入って右側の桜並木の小道を挟んで、右側んはテニスコートが四面あり、そこではテニス部が男女別に別れて練習に励んでいる。その隣は水泳部だ。授業では使われないが、水深m3から5mのプールと普通の授業に使われるプールがある。木製の塀と金網がプール場を囲むように高くはり巡らされている為、中は見えないが、バシャバシャと激しく水を弾く音が響く事から、男女共に練習に励んでいるのだろう。

 サッカー部や野球部に目をやると、サッカー部はコートの端に、野球部は後方に一年生が中腰になって見学している。

(どこの部活も一年生は最初そんな感じで。それは部活の特待生として推薦された人もそうで。その中から段々と頭角を現す子が抜きんでてきて。そうなると出る杭は打たれる、という試練が訪れたりするんだろうな。中にはそこで折れてしまう子もいるかもしれないけど、打たれれば打たれる程力強く伸びている子もいて。やっぱり、スクールカーストと同じなんだな……。私は、最下位底辺の陰キャラから、普通のキャラになれるんだろうか……)

 そもそも華々しく高校デビューを果たそうとしていた事の記憶は、忘却の彼方へと霧散したらしい。

「はい、ではここの広場をお借りして各自ストレッチをしましょう。前後左右両手を広げて各自ぶつからない場所に散らばってください」

 気付けばジョギングは終わり、校舎入口近くの花壇が植えられているちょっとした広場に誘導されていた。意外についていけた事に安堵する。

(随分とゆっくりなペースで走ってくださたのに、ついていけなっかったらさすがに情けな過ぎる)

 部長を囲むようにして部員たちは散らばる。

(ひえっ、やっぱり体かたいや。そういやお風呂上りにやろう、とか言ってやってなかった。今晩からやろう!)

「しばらくの間はこうして一人でストレッチをしますが、その内ペアを組んでやってもらうようになります。発声練習の時もそのペアでやってもらう感じになっていきます。では、舞台に戻りましょう。発声練習をします」

 各自体についた砂を払いつつ、元の一列に戻り部長の後に続いた。

(いよいよ、具体的に稽古が始まるんだ。なるべく足を引っ張らないようにしないと)

 

「仮入部希望の子たちは、もう少し考えてみる、との事でした。もし入部してきたら、大歓迎ですね。ではこれより先は一年生とそれ以外の上級生たちで分かれて発声練習に入ります。一年生の指導には、副部長と爽子さんの二人がつきます。経験者と初心者がいると思うので、二手に分かれて練習していく事になると思います」

 舞台の中央に部長が立ち、その周りを部員たちが囲んで説明を聞いている。

(あ、あのポニーテールの先輩も指導に当たってくださるんだ)

 演劇部を訪れた際、最初に対応してくれた彼女に親しみを感じていた真凛は少しだけホッとする。

「そうだ! 大事な発表があります。最初に言っおきましょう!」

 部長は一際声高く言葉を発した。全員、何事かと緊張感が走る。

「秋の文化祭と演劇コンクールに向けて、演目は同じ物を。オリジナル脚本で私が書き下ろします。演出も私が。相応しいと思う人を配役していきますので、そのつもりで。当然、下剋上です。先輩も新人も関係ありません。ヒロインだけ決まっているので発表しておきます!」

 部員たちはざわつく。どうやら異例の事らしい。

(うわ、初っ端から厳しい展開。下剋上って……間違い無く私はその他大勢、名前も貰えないし脚本にも載らないモブキャラで決まりだ……)

 普通のキャラへの道のりは果てしなく遠そうで苦笑してしまう。ヒロインの発表に、ピーンと張り詰めたような緊張と水を打ったような静けさが舞台を駆け巡る。先輩男子部員は静かに部長を見つめ、先輩女子部員は、自信のある数名は堂々と真っすぐに部長を見つめる。その他は皆目を閉じて両手を胸の前で握りしめ、祈るように発表を待つ者、特に関心無さそうに見て居る者と様々な反応を見せている。真凛始め一年女子四人、男子二人もさすがに傍観者だ。

(ヒロイン、誰かな。部長自ら脚本と演出もする作品のヒロインて、きっと魅力溢れる人だろうな)

 真凛は誰が選ばれるのか興味津々だ。

「ヒロインは、一年B組、久川真凛さん。以上です」

(え……)

 真凛は文字通り絶句、頭が真っ白になった。誰も彼もが皆驚愕のあまり硬直している。舞台に恐ろしい程の沈黙が走った。にわかには、何が起きたのか当の部長以外は全員が理解不能だった。
 
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