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第六話
え? 初デートは異世界で?・その一
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甘い余韻に浸りながら、薔子はゆっくりと現実に返る。意志の力は及ばず、キューン、と甘酸っぱさが胸に広がるのを覚える。
「これは……イエローカードよ。すぐにレッドカードになりそうな勢いで熟したオレンジ色に変わりつつある……かも」
冷静になろうと、敢えて声を出して呟く。そして両手で両頬をパンパン、と強めに叩いた。
「マズイ、これはマズイわ。彼は見目麗しい女と付き合い過ぎて、一時的にモブキャラ喪女という正反対のキャラに興味を示しているだけなのよ! 言わば、珍獣を珍しがって面白がっているだけ。元は美女好きなんだから、一時的なものよ。惹かれたら私が一方的に傷ついて滑稽なだけ。気を付けないと。恋の始まりは失恋の予兆なんだから、肝に銘ずるのよ、薔子」
強く自分に言い聞かせると、大きく頷いた。
「さて、アホな夢見てないで、さっぱりと風呂にでも入ってシャキッとしよう。そしてまた本の続きでも読もう、と」
気持を無理矢理切り替え、テーブルの上を片付け始めた。
**********
「ね、ね、薔子、薔子ってば!」
学校より帰宅し、門から庭に足を踏み入れた薔子を、待ち構えたように足早に近寄り、眩しい程の笑顔で話しかける美女。深緑色のチャイナドレスが、細い腰と豊かな胸と、右太股から深めに入ったスリットが、雪のように白く形の良い長い足を引き立てる。明るい栗色にカラーリングした髪は優雅に波立ち、腰まで伸ばされて夕陽に輝く。細面に優雅な眉、彫りの深い顔立ちに長い睫毛に縁取られたアーモンド型の瞳は、キラキラと煙水晶《スモーキークォーツ》なように輝いていた。
「な、何? 姉さん。今日の帰りは早かったのね」
薔子は内心、(あー、面倒くさいのにつかまった)と半ばウンザリしつつ応じる。美女は姉の麗華であった。
「うん。撮影は午前中で終わったから。それよりもさ、超イケメンのスクールカウンセラーが来たんだって?」
瞳を爛々と輝かせて、薔子ににじり寄る。学園は、幼稚園と小学校、中学と高校、大学と大学院の三つに大きくわかれている。離れている距離は5.60m程ではあるが。故に大学に通っている麗華には、志門の話は噂に聞く程度であった。
「あぁ、そうみたい。女の子に大人気みたいよ」
「そうなんだぁ! 蕾が騒いでたからさぁ」
「あ、蕾に聞いたならそっちのが詳しいかも」
「蕾はストライクゾーンが広いから、ちょっとイケメンでも超イケメン、て言うじゃない?」
「あ、あぁ……」
姉妹は互いに苦笑しあった。
「だからさ、クールな薔子に聞こうと思って。ね、久しぶりに一緒にお茶しましょ」
「あ、でも……」
「いいじゃない。もう用意させてるしさ。リビングに行こう!」
麗華は渋る妹を気にもせず、妹の背後にまわると両手で薔子の背中を押して促した。
(あー、今日は『喪女の恋』の漫画の新巻発売日で買って来たのにぃ……)
薔子は心の中で叫んだ。
白いレースのカーテン越しに、西日がが柔らかく窓から差し込んでいる。長方形の大きな白いテーブルの上に、白いカップが向かい合わせに二つ。クリアレッドの液体で満たされている。ローズヒップティーだ。その真ん中に、クリア硝子の丸い器に、手作りと思われるチョコチップクッキーとスイートポテトが美しく盛られている。
「で、どんなイケメンなの? 芸能人に例えたら誰似?」
窓側の席に座る麗華の髪は、西日に照らされて赤みがかった黄金色に透けて見える。瞳は琥珀のように艶やかだ。
(姉さん、ハリウッド女優みたいにゴージャスな美人だよなぁ)
薔子はぼんやりと見とれながら、姉が興味を示す理由をはかりかねてモヤモヤとしていた。
「んーと、芸能人では……居ないかなぁ。乙女ゲームに出て来そうな美形長髪キャラ……て感じかな」
「あら、2.5次元キャラみたいな?」
「あぁ、そうかも……」
「写真は?」
「ないよ。興味ないし」
(嘘つきだな……)と感じながら会話を交わす。
「もう、薔子ったら。少しは男の子に興味もちなさないよ。年頃なのに」
その言葉に、内心ムッときながらもヘラヘラと笑いながら応じる。
「アハハ、興味なんか持ったら相手が失礼ですよん」
途端に麗華から笑顔が消え、気の毒そうに薔子を見つめた。
「そんな事……。もっと自信持ちなさいよ。眉を整えて、コンタクトにしただけで随分変わる……」
「そこまでして、相手に媚びてまで好きになって貰おうとは思わないですよーだ。姉さんは何でスクールカウンセラーに興味が?」
姉をおどけた口調で遮り、話題を変える。
(眉整えてコンタクトにしただけで変わるなんて、漫画やアニメ、ラノベの世界だけだっつーの。下手な慰め方されると逆に傷つくんだよ!)
内心では激しい怒りが渦巻いていた。麗華は諦めたように苦笑すると、
「業界の人ってさ、自分が如何にして売れるかとか、そういう野心の目で異性を見たり、また役柄に入り込み過ぎて現実を見失って恋に恋したりとかが多いのよ。だから、スクールカウンセラーとかなら身元も確かだろうし、イケメンと聞いたら興味出てね」
と答えた。薔子はキュッと心臓が縮まるような痛みを感じた。
「これは……イエローカードよ。すぐにレッドカードになりそうな勢いで熟したオレンジ色に変わりつつある……かも」
冷静になろうと、敢えて声を出して呟く。そして両手で両頬をパンパン、と強めに叩いた。
「マズイ、これはマズイわ。彼は見目麗しい女と付き合い過ぎて、一時的にモブキャラ喪女という正反対のキャラに興味を示しているだけなのよ! 言わば、珍獣を珍しがって面白がっているだけ。元は美女好きなんだから、一時的なものよ。惹かれたら私が一方的に傷ついて滑稽なだけ。気を付けないと。恋の始まりは失恋の予兆なんだから、肝に銘ずるのよ、薔子」
強く自分に言い聞かせると、大きく頷いた。
「さて、アホな夢見てないで、さっぱりと風呂にでも入ってシャキッとしよう。そしてまた本の続きでも読もう、と」
気持を無理矢理切り替え、テーブルの上を片付け始めた。
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「ね、ね、薔子、薔子ってば!」
学校より帰宅し、門から庭に足を踏み入れた薔子を、待ち構えたように足早に近寄り、眩しい程の笑顔で話しかける美女。深緑色のチャイナドレスが、細い腰と豊かな胸と、右太股から深めに入ったスリットが、雪のように白く形の良い長い足を引き立てる。明るい栗色にカラーリングした髪は優雅に波立ち、腰まで伸ばされて夕陽に輝く。細面に優雅な眉、彫りの深い顔立ちに長い睫毛に縁取られたアーモンド型の瞳は、キラキラと煙水晶《スモーキークォーツ》なように輝いていた。
「な、何? 姉さん。今日の帰りは早かったのね」
薔子は内心、(あー、面倒くさいのにつかまった)と半ばウンザリしつつ応じる。美女は姉の麗華であった。
「うん。撮影は午前中で終わったから。それよりもさ、超イケメンのスクールカウンセラーが来たんだって?」
瞳を爛々と輝かせて、薔子ににじり寄る。学園は、幼稚園と小学校、中学と高校、大学と大学院の三つに大きくわかれている。離れている距離は5.60m程ではあるが。故に大学に通っている麗華には、志門の話は噂に聞く程度であった。
「あぁ、そうみたい。女の子に大人気みたいよ」
「そうなんだぁ! 蕾が騒いでたからさぁ」
「あ、蕾に聞いたならそっちのが詳しいかも」
「蕾はストライクゾーンが広いから、ちょっとイケメンでも超イケメン、て言うじゃない?」
「あ、あぁ……」
姉妹は互いに苦笑しあった。
「だからさ、クールな薔子に聞こうと思って。ね、久しぶりに一緒にお茶しましょ」
「あ、でも……」
「いいじゃない。もう用意させてるしさ。リビングに行こう!」
麗華は渋る妹を気にもせず、妹の背後にまわると両手で薔子の背中を押して促した。
(あー、今日は『喪女の恋』の漫画の新巻発売日で買って来たのにぃ……)
薔子は心の中で叫んだ。
白いレースのカーテン越しに、西日がが柔らかく窓から差し込んでいる。長方形の大きな白いテーブルの上に、白いカップが向かい合わせに二つ。クリアレッドの液体で満たされている。ローズヒップティーだ。その真ん中に、クリア硝子の丸い器に、手作りと思われるチョコチップクッキーとスイートポテトが美しく盛られている。
「で、どんなイケメンなの? 芸能人に例えたら誰似?」
窓側の席に座る麗華の髪は、西日に照らされて赤みがかった黄金色に透けて見える。瞳は琥珀のように艶やかだ。
(姉さん、ハリウッド女優みたいにゴージャスな美人だよなぁ)
薔子はぼんやりと見とれながら、姉が興味を示す理由をはかりかねてモヤモヤとしていた。
「んーと、芸能人では……居ないかなぁ。乙女ゲームに出て来そうな美形長髪キャラ……て感じかな」
「あら、2.5次元キャラみたいな?」
「あぁ、そうかも……」
「写真は?」
「ないよ。興味ないし」
(嘘つきだな……)と感じながら会話を交わす。
「もう、薔子ったら。少しは男の子に興味もちなさないよ。年頃なのに」
その言葉に、内心ムッときながらもヘラヘラと笑いながら応じる。
「アハハ、興味なんか持ったら相手が失礼ですよん」
途端に麗華から笑顔が消え、気の毒そうに薔子を見つめた。
「そんな事……。もっと自信持ちなさいよ。眉を整えて、コンタクトにしただけで随分変わる……」
「そこまでして、相手に媚びてまで好きになって貰おうとは思わないですよーだ。姉さんは何でスクールカウンセラーに興味が?」
姉をおどけた口調で遮り、話題を変える。
(眉整えてコンタクトにしただけで変わるなんて、漫画やアニメ、ラノベの世界だけだっつーの。下手な慰め方されると逆に傷つくんだよ!)
内心では激しい怒りが渦巻いていた。麗華は諦めたように苦笑すると、
「業界の人ってさ、自分が如何にして売れるかとか、そういう野心の目で異性を見たり、また役柄に入り込み過ぎて現実を見失って恋に恋したりとかが多いのよ。だから、スクールカウンセラーとかなら身元も確かだろうし、イケメンと聞いたら興味出てね」
と答えた。薔子はキュッと心臓が縮まるような痛みを感じた。
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