深紅の愛「Crimson of love」~モブキャラ喪女&超美形ヴァンパイアの戀物語~

大和撫子

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第十一話

まさかのモテ期突入か?!……ナンテネ・その六

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 少し早めの登校。この時間帯は、朝練に励む運動部が校庭、或いは体育館で掛け声がこだましている。そんな中、気配を消してひっそりと学園内に向かう薔子。その手には白いスイセンの花束を携えている。美化委員の活動の一環で、教室に飾る花を飾るのだ。前日まで飾っていたミニバラの花束が、少し色褪せて来た為、新しくする。

 静かに教室内に足を踏み入れる。勿論、室内には誰も居ない。それを狙って早めに登校しているのだ。薔子によると、切り花を花瓶にさしている姿など、誰にも見られたくはないのだそうだ。

(特に、スクールカーストトップ、二番あたりのリア充男女に見られたら気まずいわぁ。『ヤベ、ブスが花をいけるなんてヤバくね?』『いやぁん、お花が可哀相ー』なんて動画に撮られてSNSになんかアップされたらメンドイしね。姉さんや蕾、パパとママにまで迷惑かけた悪いし)

 毎回そう意識しながら手早く作業をこなす。だが、花自体にはことのほか丁寧に扱う。

(ミニバラさん、今まで有り難うね。水仙さん、これから宜しくね)

 心の中で、そう声を掛けながら行っているのだ。ミニバラは丁寧に新聞紙にくるみ、裏庭に少しだけある草地に置いて自然に返すのである。

 そんな薔子の様子を、教室内の前と後ろの二つの出入り口のうち、後ろの方からそっと見つめるアドニスの姿があった。
(さてと、早くミニバラちゃんを置きに行って来ようっと)

 新聞紙に包んだミニバラを抱え、教室を出ようとしたその時、

「薔子ちゃんの『しょう』の字は薔薇の花から取ったんだよね?」

 教室の後ろの方より、甘く柔らかい男の声が響いた。驚いて振り返る。目にしたのは

「え? ア、アドニス……先生?」

 微笑みを浮かべるアドニスの姿だった。

(そんな! 気配すら全く感じなかったなんて……)
「やぁ、夢の中以来だね」
 驚きを隠せない薔子に、彼は親しげに話しかける。

「え、えぇ? ゆ、夢?」

 動揺を隠せない薔子。額に冷や汗が浮かぶ。彼はゆっくりと近づいた。

「ごめんごめん、驚かせてしまってるね。大丈夫だよ。この空間はほんの少しだけ切り離したから、僕たちの姿は誰にも見られないし気付かれない」
(……ただ一人を覗いては、だけどね)

 表面上は優しく親し気な笑みで接しながら、内心では志門の事を思い浮かべてほくそ笑む。

(待って、これはまたもや夢かしら? そうよね、きっと)

 薔子は必死にこの状況を理解し、落ち着こうと努力していた。そんな彼女を目の当たりにして、アドニスは嬉しそうにクスクスと笑う。

「やっぱり、面白い子だ。僕の思っていた通り。これはね、夢でも妄想の世界にいる
訳でもないよ。至ってリアル、現実さ。ただ、ちょっとだけ異空間に移動してるだけで。時を止めることは重罪だからね」

 彼はゆっくりと説明を始めた。

(ふむ、やっぱり時を止めたりするのって重罪よね。ラノベでもアニメや漫画でもよく使われる設定……じゃなくて、よ。先ずは状況を整理しないと!)

 薔子は内心で目まぐるしく思考する。

「えっと、あの……つまり……」
「じゃあ、そうだな。最も分かり易く言うとね……」

 見かねたアドニスが助け船を出す。

「イザー……じゃなくて、来栖志門と同じだよ、と言えば良いかな」
(コイツの名を使わなきゃならないのは不本意極まりないが、仕方ないな。あまり時間も無いし)

「え? 志門先生と? ですか!?」

 すると薔子はパッと顔を輝かせる。それを見て、アドニスはほんの僅かに嫉妬の念を感じ取った。

「て事は、もしかしてアドニス先生は……」

 ヴァンパイア!? と言おうとして慌てて両手で口をおさえた。

(あたしの馬鹿っ!! もし違ったら私が頭の変な子と思われるのは良いとして、志門先生に迷惑が掛かるじゃない!)

 アドニスには彼女の心の声など筒抜けだった。

(なるほど、律儀で誠実な娘だ。この気立ての良さは人間にしておくのは惜しいな。それに、思いの外イザークに惹かれているようだ。今はまだ、無意識のようだ。今のうちならまだこちらに意識を向けさせるのは容易《たやす》いさ)


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。そう、僕は志門先生と同じヴァンパイアなんだ。だから、異空間に移動したりとか、時空を少しだけ切り離したりとさ普通に出来たりする訳さ」

 心の中の想いを表にはおくびにも出さず、例によって蕩けるような笑みで応じた。

(うわぁ、光の王子様……て感じ)
「……先生も、ヴァンパイア?」
「そうなんだよ。志門先生と種族は違って、僕は純血、正統派ヴァンパイアなんだけどね」
「どうして、私に正体を……?」

 薔子は何処かふわふわと夢心地だ。酔った時、てこんな感じかしら? と思いながら。まだ心のどこかでは夢だと思っていた。

「君に、興味が出て来たからさ」
「興味?」
「つまり、一人の女の子として、て意味でね」
「え?」
「さ、もう時間切れだ。またゆっくり話そうね」

 アドニスは右目を軽く閉じウィンクする。薔子は顔かボット火がついたように熱くなった。

「あれ?」

 我に返ると、新聞紙に包んだミニバラの花束を腕に抱え、裏庭の茂みに佇んでいた。腕時計を確認する。

(あれ、まだこんな時間。5分くらいしか経ってないのね。それにしても何だったのかしら、今の。夢? 大丈夫か、自分)

 ミニバラを新聞紙から出し『今まで有り難う、ゆっくり休んでね』と心の中で呟きながら、茂みにミニバラを置く。そして新聞紙を焼却炉前のゴミ箱に捨てると、教室に戻っていった。

(アドニス先生、女の子として興味がある、て……。まさかまさか……薔子ついにモテ期が来た! だったりして)

 席に座り、ニヤリと笑う。

(ないない、あるわけない。調子こくなよ、自分)

 自戒し、バックから本を取り出した。

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