天使と悪魔の新解釈「見習い悪魔は笛を吹けるか?」

大和撫子

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第六話

恵茉、ついに人間期間終了す!

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 恵茉は黒い羽を、西日に透かして眺めている。

「綺麗……」

 思わず呟いた。闇色の羽は、一見すると烏のものと似ている。しかしよく見ると、ブラックラメのようにキラキラ輝いているのだ。それは西日に透かす事により、闇色が夜空のように深い藍色のように見え太陽が当たる部分はまるで朧月夜のように見える。

 ベリアルが迎えに来る日は今日だ。約束の16時迄あと30分程度。マンション敷地内に設けられている小さな公園で、ベンチに座って待っているところだ。

 今日は普通に起きて普通に学校に行って普通に友達と接して帰宅した。

 美術部はすっかり幽霊部員となっていた。イラスト、デッサン、版画、水彩画、アクリル画、油絵、CD、パステル、陶芸、水彩色鉛筆、等、多岐に渡っていて各自好きなものをいくつでも選択できる。

 好きな事に打ち込める貴重な時間だったのだが。

「兄さんだったら、凄い賞とか取れてたんだろうなぁ。水彩画でも油絵でも、何でも描けたもんなぁ……」

 しみじみと呟く。恵茉自身は無冠だ。だが賞が取れないのは仕方が無い。勿論実力も大いに関係するが、その時の時代の思想、好み、そしてその時の流行が大いに左右する。まして商業が絡めば尚更、その作品は売れるか? これはとても大切な事だ。そして売れるものを創り出せる力。これは一種の才能であり、人を魅せ、支配できるカリスマ性が必要である。誰もが持てるものではない。

 ただ、美術、音楽、書物等、優れた作品が何十年も何百年も後になって評価される事も稀にだがある。それは、いつの時代もそのあたりの事情が大きく関わってくるからだろう。

 だからと言って恵茉は自分の作品が何十年、何百年後かに優れた評価が! などと夢見る夢子ではなかったが……。良くも悪くも、彼女は現実的なのだ。

 部活自体は、嫌いでは無かった。では、何故幽霊部員となったのか?

 切っ掛けは、二年女子の部員の一人が、一年女子のイラスト構図を見てパクリ、イラスト系のとある大きな賞を受賞した事である。その二年女子は、コンテストに出品すれば必ず何かしらの賞を受賞する。周りからは実力派で通っている。パクられた方は不愉快だし、盗作に非常に厳しい時代だ。声を上げれば、彼女の作品がパクリだと公にバレてしまうだろう。

 と、思われるが……。恵茉に言わせるそう簡単にはいかないのが人間の理不尽なところなのだそうだ。

 まず、彼女自身業界では名が知れていて実力派で通っている事。ファン、というか盲目な信者が多数いる事。彼女が登録しているイラスト投稿サイトでは特に、かなりの信者がいるらしい。パクられた方は無名でファンもいない。パクられたと声を大にしても、それをフォローしてくれる者が居ない。何より、パクリか?否かの判断基準が非常に曖昧である為、人の作品を見たり読んだりして「閃いた」だけだ、と言われたらそれまでである。

 それに、これだけ作品が溢れているのだ。アイデアが被る場合もあるだろう。自分の方が最初に閃いたのだ、むしろパクれたのは自分 だ! と主張されたら圧倒的に二年女子の方が有利なのだ。

 いつの時代も、真面目に誠実にコツコツ積み重ねる者より、器用に人のフンドシで相撲を取るようなずる賢さ、そこに何の罪悪感も無い者の方が人生上手くいき、成功するものだ。

 勿論、全ての成功者がそんな小物だ、と言う話では無い。一般的な傾向を見て言える事、という話である。

 彼女のパクリは今に始まった事では無い。言ってしまえばパクリ作品が評価されている訳である。彼女自身、何の罪悪感も無いのだろう。ただ、今回の賞はその道の者なら誰もが憧れ、欲してやまないものだ。受賞出来たら、将来が約束されたも同然のものだ。

 自分がパクられた訳では無いし、パクられれるほど素晴らしいものも描けないが、仮にも絵描きなら、プライドの欠片も無いのか?人の作品を無断拝借てまで得たいのは名声か? そもそも、パクったとは思ってないのか?

……それにしては、日の目が当たらない、無名な人の中の優れた作品を選んでパクってるようなのだが……。

 そもそも成功とは何ぞや? 努力しても頑張って報われるべき人間が、報われない世の中って何なのだろう?

……何もかも、馬鹿馬鹿しくなってしまった……

 これが理由だった。

 報われるべき人間が報われないで、ズルくて言い加減な人間の方が成功しやすいのは何故か?まず、悪魔側の代表意見としてベリアルに聞いてみたい。もしかしたら、人間の知らない法則があるのかも知れない。

 出来たら、天使側の話も聞いてみたいものだ。兄の理不尽な死についても。人間期間ラスト一週間の間で、ベリアルに聞きたい事をノートに箇条書きにしていた。


※ここでお知らせである!※

 ご覧頂いている皆さまの中で、ベリアルを始めとする魔族に聞いてみたい事があれば、気軽にコメントでお知らせ頂きたい。随時、恵茉がベリアルに質問し、作中で回答していこうと思う。もちろん、仮名、匿名で書くのでご安心頂きたい。


 バサッバサッバサッ…… 頭上から羽音が響いた。上を向くと、ベリアルの姿が……。

「約束の時間だ。心の残りは無いか?」

 と恵茉の正面に舞い降りた。西日が、彼のローズレッドの瞳を照らし、深紅とも、朱赤とも言い難い不思議な色合いを醸し出した……。
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