ツクヨミ様の人間見習い

大和撫子

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第二話

契約【二】

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 「長きに渡ってこの仕事を続けて行くとなると、当然の事ながら様々な価値観をお持ちのクライアントに遭遇します。中には目には霊感などに対して懐疑的な方も少なくないでしょ。霊感商法などと思われても困りますしね」

(あぁ……成る程ねぇ)

「そこで! 統計学を始めとした学問の分野での占いが出来る方を望んでいます」

(うーん、確かに……マスターした占いはそのだけど……色々と突っ込んで聞きたい事はあるけれど、今は静かに聞いておこうか)

 流れるようにして言葉を紡ぐ彼を見て、『立石に水』とはこういう事なのかと妙に納得する。

「妃翠さん、ご希望の方、或いはあなたの方が最適と思われるクライアントはあなたにお任せしようと思っております」
「え? 私に……ですか?」
(いやいや、それは無理なのでは……)

「そして、『妻』についてですが……」
「はい」
(あ、え? 待って待って? 話は未だ消化し切れていない……)
「これは、勿論入籍などする必要はございません」
「は、はぁ……」
(それってつまり、ファンタジーでお馴染みの展開?……)
「形だけのもので結構です。夫婦で経営しているとクライアントに思って頂けたら十分なので。表向きだけしっかりと口裏合わせて頂けましたら。結婚指輪は……」
(え? え? ゆ、指輪?)
「ごくシンプルなものをご用意しておりますから、同意頂けまして契約書にサインをして頂けましたらこの場でお渡しします。ですから、あなたの戸籍に傷がつく事は一切ございませんので御安心下さい」

 彼はそう言い切ると、満足そうに微笑む。あー……そんな優しい笑顔、普通の女の子ならイチコロだよぉ。そして彼はおもむろに黒鞄の中から分厚い書類とボールペンを取り出し、私の前に置いた。

「あの、これって……」
「はい、契約書です。目を通して頂いてから再度給与や福利厚生のお話をさせて頂けましたらと思うのですが」
「契約書なのは分かりますけど……」
(いや、そうじゃなくて!)

 彼は不思議そうに首を傾げている。いやいやいや、この説明で「はい、そうですか。宜しくお願いします」なんて言う人の方が少ないだろう。まぁ、この彼の色香……色香って本来は女性に使う言葉らしいけれど……に惑わされてポーッとしてる子なら何も考えないで契約しちゃうかもしれないけれども。

 それかもしかして……最近で言うところのキャラなのだろうか? ここは曖昧にせず、ハッキリと問わないと。

 意を決して、姿勢を正し真っすぐに彼を見つめた。それに応じるように、彼も姿勢を正す。向き合ってくれる気持ちはあるようだ。

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