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第二話
契約【四】
しおりを挟む「これから申し上げる事は、受け取り方によってはもしかしたら御不快に感じる事があるかもしれませんが、決して他意はなく事実をありのまま述べますね」
「はい、勿論です」
出来るだけ穏やかにこたえた。アンダリュサイトの瞳に、ほんの少し憂いの影を含ませる。恐らく、その容姿に関する事でのトラブルの類だろう、何となくそんな気がする。
「……私はこの通りの容姿ですから、男女を問わずアプローチを受ける事は多いのです」
「はい……あぁ、そうですよね」
……あぁ、やっぱりね。自分の桁外れの美貌をしっかり認めている。自信家かな? けどまぁ、これだけ美しければ当然だよね。変に卑屈になられたらそれはそれで『嫌味な奴』と思われるだろうし、どちらにしても大変だ……
「更にはクライアントのパートナーがいきなり怒鳴り込んで来て。クライアントが心変わりして私に乗り変えたのでは? などとあらぬ誤解を受けなどトラブルが絶えず、非常に困るようになってきました」
「はい……お察しします」
(あー、美し過ぎるが故の宿命……てやつか)
「予約ではなく、個人的なお誘いの電話やメールが届いたり、待ち伏せされていたり。最近では業務に支障が出て来るようになってしまいまして……」
「うわぁ……ストーカー、それはさぞ、大変でしたねぇ」
(うーん、美し過ぎるというのも難儀なもんだわねぇ)
「はい、それはもう……」
憂いを秘めた瞳に、長い睫毛が伏せられる。桜色の頬に影が伸びる。つくづく、神が腕によりをかけて制作した宇宙の芸術品みたいな男だと思う。
だけどここまでの美貌だと、近づこうとする前に無理だと悟って拝むだけに留まりそうだけれど。アプローチしようとする奴らって……媚薬にやられて理性を失った愚か者か、恋にとち狂ったど阿呆しかいないと思うの。
「そこで、思い付いたのです!」
彼は悪戯っ子のように瞳を輝かせた。先程と正反対の面差しだ。けれどもあまり……良い予感がしない。
そう言えば、今朝方自分用に引いたタロットの一枚引きは『塔』だった事を思い出した。
『塔』……あたし独自の解釈もあるけれど、「衝撃、想定外の出来事」または「ガーンと来るような出来事」「己の培って来た常識を壊す、壊される時」
それに対するアドバイスは、『吊るされた男』……。
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