ツクヨミ様の人間見習い

大和撫子

文字の大きさ
7 / 51
第二話

契約【四】

しおりを挟む
 
 「これから申し上げる事は、受け取り方によってはもしかしたら御不快に感じる事があるかもしれませんが、決して他意はなく事実をありのまま述べますね」
「はい、勿論です」

 出来るだけ穏やかにこたえた。アンダリュサイトの瞳に、ほんの少し憂いの影を含ませる。恐らく、その容姿に関する事でのトラブルの類だろう、何となくそんな気がする。

「……私はこの通りの容姿ですから、男女を問わずアプローチを受ける事は多いのです」
「はい……あぁ、そうですよね」

 ……あぁ、やっぱりね。自分の桁外れの美貌をしっかり認めている。自信家かな? けどまぁ、これだけ美しければ当然だよね。変に卑屈になられたらそれはそれで『嫌味な奴』と思われるだろうし、どちらにしても大変だ……

「更にはクライアントのパートナーがいきなり怒鳴り込んで来て。クライアントが心変わりして私に乗り変えたのでは? などとあらぬ誤解を受けなどトラブルが絶えず、非常に困るようになってきました」
「はい……お察しします」
(あー、美し過ぎるが故の宿命……てやつか)

「予約ではなく、個人的なお誘いの電話やメールが届いたり、待ち伏せされていたり。最近では業務に支障が出て来るようになってしまいまして……」
「うわぁ……ストーカー、それはさぞ、大変でしたねぇ」
(うーん、美し過ぎるというのも難儀なもんだわねぇ)
「はい、それはもう……」

 憂いを秘めた瞳に、長い睫毛が伏せられる。桜色の頬に影が伸びる。つくづく、神が腕によりをかけて制作した宇宙の芸術品みたいな男だと思う。

 だけどここまでの美貌だと、近づこうとする前に無理だと悟って拝むだけに留まりそうだけれど。アプローチしようとする奴らって……媚薬にやられて理性を失った愚か者か、恋にとち狂ったど阿呆しかいないと思うの。

「そこで、思い付いたのです!」

 彼は悪戯っ子のように瞳を輝かせた。先程と正反対の面差しだ。けれどもあまり……良い予感がしない。

 そう言えば、今朝方自分用に引いたタロットの一枚引きは『塔』だった事を思い出した。

 『塔』……あたし独自の解釈もあるけれど、「衝撃、想定外の出来事」または「ガーンと来るような出来事」「己の培って来た常識を壊す、壊される時」

 それに対するアドバイスは、『吊るされた男』……。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...