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第五話

顔が見えない世界での絆やご縁って? その二

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『おはよう、今起きたよ』
『今からお昼ぅ~、なんーんてね。食品サンプルでーす。ナポリタンとコンソメスープに野菜サラダ』

 ほぼ毎日、一日に5.6回ほど呟いているようだ。彼女は専業主婦で少し体が弱いらしいので心配していたみのりだが、どうやら元気でやっている様子にホッとする。食品サンプルも頻繁に作成している様子で、コンテストに出るようだ。仲間も新たに出来たようでよくやり取りをしている。しかし。胸のざわつきはおさまらない。何か違和感があるのだ。

『やっぱり、自分にとってマイナスになるような人とは縁を切るべきだとつくづく思う』

 今から一週間ほど前の呟きだ。(ま、まさか……)みのりはドキリとした。

『何かあった?』
『どうしたの?』

 複数の仲間たちが絡む。

『前絡んでた物つくり仲間がいんだけど、本当は最初から合わなくて。それでも意見の相違が出るたびに明け方まで語り合ってきたのね。でも、その人何度話してもレベルの低い人だったから、仏の顔も三度。ここでのフォローも外させて貰ったし、もう一つの写真投稿サイトでも、その人の写真をお気に入りに登録してたんだけど、作品もレベル低いしフォロー外したの。こっちはプロ目指してるからさ、学芸会のお遊びレベルに付き合うのは時間の無駄だし、私体弱いからさ。高いレベルの人たちと切磋琢磨し合って自分を高めたいな、て。もう完全に縁を切ったから』

「え? これって、私のこと? 意味が分からないんだけど」

 みのりは驚愕しつつ、今開いているサイトを見る。

「えーーー? フォロー外されてるし!」

 慌ててもう一つの写真投稿サイトを見てみる。

「……フォロー外されてるし。何なの? 一体。彼女は体が弱くて、お姑さん夫婦と同居。夜遅くなら話せるから、てことで。お姑さん、舅に意地悪されるとかで明け方まで愚痴を聞いていたりはしたけど……」

 憤慨しながら、再びSNSの画面を開き、続きを読む。

『あー。分かる分かる、いるよね、趣味でやっていてただ褒めて欲しいだけの人。私たちとは次元が下というか、結局は耳の痛いアドバイスは受け入れられないんだよね』

『そうそう、甘えてるだけっていうか。イイネのマークを増やして天狗になってるっていうか』

 仲間の同調。

『そうなんだよ。その人もさぁ、何を勘違いして天狗になってるか知らないけど、他の人の作品を見て真似されたとかさぁ。お前のショボいカスみたいな作品なんかパクるやついるか、つーの。話合わせて宥めるの明け方まで頑張ってさ、何とか諭そうとしたんだけど無理だったわ。ダメだコイツ、縁を切ろう! て決めてから一切連絡とってないし、連絡来ても無視してるし。フォローも外したから通じてると思うんだけどね』

『それがいいよ、次元が低い人はまた別に仲間が出来るだろうし。そういう人たちで乳繰り合えばいいよ』
『私たちはプロ目指して頑張ろうね』

 みのりは怒りで頭が真っ白になっていた。

「何これ? 話捏造されてるし。全然違う話になってるし。何か不満があったなら、個人の連絡先知ってるんだからダイレクトメールなりラインなりしてくればいいじゃん。嘘つき女め!」

 よほど、本人にラインでもして問い正そうと思ったが、すんでのところで躊躇した。

「それまでのご縁だった、てことだ。話しても彼女の中では捏造話が真実になってるし。それこそ時間の無駄だ。明け方ま愚痴に付き合ってやった日々は何だったんだ……」

『誰のこと? 気になる』
『私も』

 何人か彼女に問いかけている人が見受けられた。恐らく、サイト上のダイレクトメールでみのりの話をあることないこと話してるのだろう。久々に、激しく落ち込む出来事だった。



「……て事があってね、寝耳に水の捏造話だったし、なんだか後味の悪さだけが残ったんだよね……」

 木曜日の午前5時過ぎ。「本源郷」では朝礼が終わり開店準備をしながら、みのりはスタッフに経緯を話して聞かせていた。月曜日の内に準備してあるので、ほとんど準備は終わっている。

「うわっ、女って怖いなぁ。災難だったねぇ」

 オーナーは気の毒そうにみのりを見つめながら言った。

「でも、何かいざこざで怒って揉めるより、彼女の方から離れてくれて良かったじゃない」

 華乃子は慰めるようにみのりの肩を叩いた。一同は気遣わし気に彼女を見つめている。

 店内は朝のBGM、子犬のワルツが軽やかに流れている。
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