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第五話
顔が見えない世界での絆やご縁って? その三
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「……なんかゾクゾク来るんだけどさ。その子、そうやって注目浴びたいタイプっぽいね。別に、みのりちゃんは食品サンプルでプロを目指してる訳じゃないけど、どこかで対抗意識があったんだろうね。マウントの取り合いというか。まぁ、どんな業界もいるよね。そのまま繋がってたとしても、いずれ合わなくなって離れる、ていうかさ」
調理担当の小椋蒼介《おぐらそうすけ》は、穏やかに切り出した。彼は28歳。幼い時より、人の本音や潜在意識の声を感じ取れる体質の持ち主だ。俗に言う「エンパス」体質である。話を聞いていて、伝わって来たみのりのトラブルの相手の感情をそのまま伝えたのだ。
「そうですか。やっぱり、最初から合わなかった、て彼女も言ってたけど……それはそのセリフ、そのまま返してあげるって感じだったけど……」
みのりは少しホッとした笑顔を見せた。
「もう開店準備は終わってるし、開店までまだ40分も時間があるわね。良かったら真帆ちゃん、占ってあげたら?」
華乃子は声をかけた。
「おー、それは良い」
とオーナー。真帆はそうするつもりではいたが、立場的にまだアルバイトの上に新人である身の上で、どう声をかけていいのやら迷っていた。すぐに快諾した。
「え? いいの? 有難う。このトラブルの意味を占って欲しいな、て。この出会いは、何か意味があったのか、たまたま運が悪かったのか。それを知って、スッキリ前向きにいきたいな、て。チャチャッと簡単でいいからさ」
みのりは嬉しそうに言った。
「畏まりました! 早速占ってみますね! すぐ用意します」
真帆はそう言って、普段バッグの中に入れて持ち運んでいるマルセイユ版タロットとタロットクロスを取りに行った。
(なるほど、これは僕の出番でもあるかな)
姿を隠し、一部始終を天井から見ていた太宰は頃合いを見計らって姿を現そうと真帆が戻って来るのを待った。
「……では、素早く本質を視る為にマルセイユ版タロットの大アルカナ22枚、三枚引きで占いますね!」
真帆はそう言いながらテーブルの上に広げた紫色タロットクロスの上にマルセイユ版タロットのミニサイズをシャッフルし始めた。店に置いておく用と、自宅用、持ち運び用と分けて持っているのだ。
そして通常通り、みのりにも参加してもらい、タロットを上から6.7.8枚目を表に返し、左から横に並べて置く。
「過去『運命の輪』、現在『世界』、未来『星』……」
真帆は展開されたタロットを読みあげ、説明していく。
「(※)では通訳しますね。今回の場合……過去は、たまたま偶然タイミングがあってご縁が繋がった。現在、つまり今はもう十分やり切った。つまり、このご縁の中でみのり先輩が学ぶ事はやりきった、て意味ですね。もしここに『死神』が出たなら、絵の通り鎌でズバッと強制的に絶ち切られた、為す術もばく万事休す、という意味になるんですが、全てものゴールを示す『世界』なので、まぁ結果はどうあれ、みのり先輩は最善を尽くした感じです。未来に『星』が出ているので、純粋な自分……つまり本来のみのり先輩の姿に戻っていく。更に言えば、今回のご縁はきれいさっぱり諦める、水に流す。そんな意味合いがありますね」
真帆の説明を聞きながら、みのりは心がスーッと軽くなっていくのを感じた。
「……そっかぁ。あれだけ夜通し語り合っても、それまでのご縁だった、て事かぁ」
しみじみとみのりは言った。
「そうですね。ご縁て本当に不思議だと思います。何年ブランクがあっても、また繋が人もいれば、一時期とても親密だったのに徐々に疎遠になったり、ある日突然音信不通になったり……」
「そうだねぇ」
一同は納得したように穏やかな雰囲気となった。
『そうそう、その人とはどんなに頑張ってもそうなったご縁、て感じだよね』
「わっ!」
「だ、太宰先生」
突然、真帆の左隣に姿を現した太宰。驚く真帆とみのりを始めとした一同。
「あら、太宰先生、おはようございます」
そんな中、華乃子だけは普段通りの笑顔で対応した。
『華乃子さん、おはようございます。皆もおはよう。でね、ちなみにその人、みのりちゃんが見た問題のツイッター、仲間の会話ごと丸々削除している筈だよ』
太宰は流れるように切り出した。
「えー? マジですか……」
みのりは呆れつつSNSを確認してみる。
「……あ、本当だ……」
苦笑いを浮かべる。
「えー、なんだなかぁ……。一方的に騒いで証拠隠滅かぁ」
彰仁も呆れたように言った。
『……ていうかね、その人、自分の中で納得したらそういうの削除とか、或いは色々周りに聞かれて面倒くさくなったりして削除する感じ。あんまり深い意味は無いみたいだね』
太宰は笑顔で答える。
「そうなんですか? なるほど。たまたまご縁があったけど、やっぱり合わなくて決別するご縁、て感じなんですねぇ。顔が見えないインターネット上の世界のご縁で、所詮はこんなもんなのでしょうか?」
『そうだねぇ。やっぱりリアルに出会った人の方が続き易い傾向はあるみたいだね。でも、一概には言えないかな。インターネット上の付き合いだけでずっと続いてる人もいるにはいるしね。全てはご縁、てやつだと思うよ。人の数だけご縁の形がある。それは家族でも、他人でも。血の繋がりがあってもなくてもね』
「なりほど……」
みのりを始め、一同は大いに納得するのだった。
『あ、それでその子、別にみのりちゃんだけにそうしただけじゃなくて、過去にもいるみたい。これらもそういう事していくだろうね。すべては自分の気分次第、て感じみたいだから。だから、真帆ちゃんの鑑定通り、もう十分やり切ったんだし、気にする事ないよ。この子はこの子で、同じような価値観とか波長の合う人とご縁が繋がっていくだろうしね。そしてもし本当に必要なご縁だったら、いつかまた繋がるものだからさ』
と太宰は締めくくった。
……凄いわ。とてもあの「人間失格」を地で行くような先生とは思えない深みのあるお言葉……
心の声がダダ漏れになる事も気にせず、真帆は感心する。それの場にいるスタッフ達は皆同じような事を思っていた。
(僕だって、ただ幽霊になって好き勝手にフラフラしてる訳じゃないさ……)
太宰は一同の心の声に苦笑した。敢えてそれを言葉にはせず、ほんの少しだけ哀し気な影をその瞳に宿して皆を見つめた。
「解決したところで……お、ちょうど良い時間だ」
オーナーは自らの腕時計を見る。
「さて、皆! 今日も一日気持ち良くおもてなしするよ!」
と一同に気合いを入れる。
「「「はい!!!」」」
皆元気よく返事をして持ち場につく。
カランカランカラン
ドアのベルがなった。オーナーが外に営業中の看板を出したのだ。今日も「本源郷」の一日が始まる。
(※質問内容等や流派によって解釈は異なります。また、マルセイユ版タロットとウェイト版では解釈が異なるカードがあります)
調理担当の小椋蒼介《おぐらそうすけ》は、穏やかに切り出した。彼は28歳。幼い時より、人の本音や潜在意識の声を感じ取れる体質の持ち主だ。俗に言う「エンパス」体質である。話を聞いていて、伝わって来たみのりのトラブルの相手の感情をそのまま伝えたのだ。
「そうですか。やっぱり、最初から合わなかった、て彼女も言ってたけど……それはそのセリフ、そのまま返してあげるって感じだったけど……」
みのりは少しホッとした笑顔を見せた。
「もう開店準備は終わってるし、開店までまだ40分も時間があるわね。良かったら真帆ちゃん、占ってあげたら?」
華乃子は声をかけた。
「おー、それは良い」
とオーナー。真帆はそうするつもりではいたが、立場的にまだアルバイトの上に新人である身の上で、どう声をかけていいのやら迷っていた。すぐに快諾した。
「え? いいの? 有難う。このトラブルの意味を占って欲しいな、て。この出会いは、何か意味があったのか、たまたま運が悪かったのか。それを知って、スッキリ前向きにいきたいな、て。チャチャッと簡単でいいからさ」
みのりは嬉しそうに言った。
「畏まりました! 早速占ってみますね! すぐ用意します」
真帆はそう言って、普段バッグの中に入れて持ち運んでいるマルセイユ版タロットとタロットクロスを取りに行った。
(なるほど、これは僕の出番でもあるかな)
姿を隠し、一部始終を天井から見ていた太宰は頃合いを見計らって姿を現そうと真帆が戻って来るのを待った。
「……では、素早く本質を視る為にマルセイユ版タロットの大アルカナ22枚、三枚引きで占いますね!」
真帆はそう言いながらテーブルの上に広げた紫色タロットクロスの上にマルセイユ版タロットのミニサイズをシャッフルし始めた。店に置いておく用と、自宅用、持ち運び用と分けて持っているのだ。
そして通常通り、みのりにも参加してもらい、タロットを上から6.7.8枚目を表に返し、左から横に並べて置く。
「過去『運命の輪』、現在『世界』、未来『星』……」
真帆は展開されたタロットを読みあげ、説明していく。
「(※)では通訳しますね。今回の場合……過去は、たまたま偶然タイミングがあってご縁が繋がった。現在、つまり今はもう十分やり切った。つまり、このご縁の中でみのり先輩が学ぶ事はやりきった、て意味ですね。もしここに『死神』が出たなら、絵の通り鎌でズバッと強制的に絶ち切られた、為す術もばく万事休す、という意味になるんですが、全てものゴールを示す『世界』なので、まぁ結果はどうあれ、みのり先輩は最善を尽くした感じです。未来に『星』が出ているので、純粋な自分……つまり本来のみのり先輩の姿に戻っていく。更に言えば、今回のご縁はきれいさっぱり諦める、水に流す。そんな意味合いがありますね」
真帆の説明を聞きながら、みのりは心がスーッと軽くなっていくのを感じた。
「……そっかぁ。あれだけ夜通し語り合っても、それまでのご縁だった、て事かぁ」
しみじみとみのりは言った。
「そうですね。ご縁て本当に不思議だと思います。何年ブランクがあっても、また繋が人もいれば、一時期とても親密だったのに徐々に疎遠になったり、ある日突然音信不通になったり……」
「そうだねぇ」
一同は納得したように穏やかな雰囲気となった。
『そうそう、その人とはどんなに頑張ってもそうなったご縁、て感じだよね』
「わっ!」
「だ、太宰先生」
突然、真帆の左隣に姿を現した太宰。驚く真帆とみのりを始めとした一同。
「あら、太宰先生、おはようございます」
そんな中、華乃子だけは普段通りの笑顔で対応した。
『華乃子さん、おはようございます。皆もおはよう。でね、ちなみにその人、みのりちゃんが見た問題のツイッター、仲間の会話ごと丸々削除している筈だよ』
太宰は流れるように切り出した。
「えー? マジですか……」
みのりは呆れつつSNSを確認してみる。
「……あ、本当だ……」
苦笑いを浮かべる。
「えー、なんだなかぁ……。一方的に騒いで証拠隠滅かぁ」
彰仁も呆れたように言った。
『……ていうかね、その人、自分の中で納得したらそういうの削除とか、或いは色々周りに聞かれて面倒くさくなったりして削除する感じ。あんまり深い意味は無いみたいだね』
太宰は笑顔で答える。
「そうなんですか? なるほど。たまたまご縁があったけど、やっぱり合わなくて決別するご縁、て感じなんですねぇ。顔が見えないインターネット上の世界のご縁で、所詮はこんなもんなのでしょうか?」
『そうだねぇ。やっぱりリアルに出会った人の方が続き易い傾向はあるみたいだね。でも、一概には言えないかな。インターネット上の付き合いだけでずっと続いてる人もいるにはいるしね。全てはご縁、てやつだと思うよ。人の数だけご縁の形がある。それは家族でも、他人でも。血の繋がりがあってもなくてもね』
「なりほど……」
みのりを始め、一同は大いに納得するのだった。
『あ、それでその子、別にみのりちゃんだけにそうしただけじゃなくて、過去にもいるみたい。これらもそういう事していくだろうね。すべては自分の気分次第、て感じみたいだから。だから、真帆ちゃんの鑑定通り、もう十分やり切ったんだし、気にする事ないよ。この子はこの子で、同じような価値観とか波長の合う人とご縁が繋がっていくだろうしね。そしてもし本当に必要なご縁だったら、いつかまた繋がるものだからさ』
と太宰は締めくくった。
……凄いわ。とてもあの「人間失格」を地で行くような先生とは思えない深みのあるお言葉……
心の声がダダ漏れになる事も気にせず、真帆は感心する。それの場にいるスタッフ達は皆同じような事を思っていた。
(僕だって、ただ幽霊になって好き勝手にフラフラしてる訳じゃないさ……)
太宰は一同の心の声に苦笑した。敢えてそれを言葉にはせず、ほんの少しだけ哀し気な影をその瞳に宿して皆を見つめた。
「解決したところで……お、ちょうど良い時間だ」
オーナーは自らの腕時計を見る。
「さて、皆! 今日も一日気持ち良くおもてなしするよ!」
と一同に気合いを入れる。
「「「はい!!!」」」
皆元気よく返事をして持ち場につく。
カランカランカラン
ドアのベルがなった。オーナーが外に営業中の看板を出したのだ。今日も「本源郷」の一日が始まる。
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