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昔は、”消えたくないから願いを叶えよう”と思った。
けれど今は、自分が死んだら、土砂は再び崩れだし、村を襲う。
それを恐ろしく感じ、”生きねばならない”と思うようになった。
そう、俺は死んではならない。
なんとしてでも生き延びて、この村を守る。
その決意が、今まさに消えかけている俺を生かしているのだと思う。
(……いいや、忘れてはいけないな)
男の脳裏には一人の女性の顔が浮かんでいた。
毎日毎日、村からここまでの距離を一人で来る白髪頭の女性。
『いつもありがとう』と祠に向かって言ってくれる、不思議な女性だ。
そして、俺の姿を見た初めての人間でもある。
彼女はいつものようにやってきては、祠に手を合わせる。
俺は何気なくその時、賽銭箱の上に座り込んだのだが、女性は物音に気づいたのか、目を開けた。
そして、がっちりと視線がぶつかった。
俺は驚きのあまり言葉を失ったが、女性は目が合うと、呟いた。
「最期に、貴方に会えてよかったわ。私にとっても、あの子にとっても」
そういって、くしゃくしゃに笑った顔を、俺は生涯忘れることはないだろう。
きっと彼女は、もう長くない。
神と呼ばれる者の姿を見れるのは、大半がまだ幼い子供と、歳を重ねた高齢者だ。
そしてその高齢者のほとんどは・・・
その続きのが浮かんだものの、ゴクリと言葉を飲み込んだ。
脳裏に浮かんだ映像をかき消したとき、遠くから心配そうな声が聞こえた。
「---い、おい!生きてるか!!」
「ん・・・あぁ」
声に引き寄せられ、現実へ戻って返事をすれば、八咫烏は安堵のため息をついた。
「良かった・・・いくら声をかけても動かなかったから、ポックリ逝っちまったのかと」
その言葉に小さく笑いながら男は言う。
「少し、昔の事を思いだしていたんだ……」
男は八咫烏の翼に体を預ける。
頭上から、おっ、と驚いた声が聞こえたが、八咫烏が男を退かす事はなかった。
「昔のお前はやんちゃだったよな~願いを叶えず遊び呆けて死にかけてたりさ。俺は、今のお前の方が好きだけど」
さらりとそんな事を恥ずかしげもなく言うものだから、男は小さく笑った。
すると、笑われたことに気が付いたのか、八咫烏はふてくされてしまった。
「・・・なんだよ」
「なんでもない」
二人はしばらく黙った後、同時に笑った。
冷たくも穏やかな風が過ぎてゆく。
その風に乗って聴こえてきた音に、八咫烏は首を素早く動かした。
「なぁ、鈴の音が聞こえないか?」
八咫烏の言葉で、男も耳をすます。
けれど男の耳に鈴の音は届かなかった。
「気のせいじゃないか?」
「鳥は人間と同じくらいの聴覚があるぞ?」
「・・・・・・」
男はもう一度注意深く耳をすました。
すると、確かに聴こえてきた。
リン、リン、リン、
その音は速いリズムを刻んで、どんどんこちらに近づいてくるのが分かった。
「鈴をつけた人間がこっちに向かってきてる!なぁ!土砂事件以降の新たな人間だっ!」
羽をバタつかせ、様子を見てくる!と飛んでいってしまった彼の羽ばたきの音と風を感じながら、男は呟いた。
「これが、最後の願いになるだろう」
その呟きは誰に届くこともなく、宙へと消えた。
けれど今は、自分が死んだら、土砂は再び崩れだし、村を襲う。
それを恐ろしく感じ、”生きねばならない”と思うようになった。
そう、俺は死んではならない。
なんとしてでも生き延びて、この村を守る。
その決意が、今まさに消えかけている俺を生かしているのだと思う。
(……いいや、忘れてはいけないな)
男の脳裏には一人の女性の顔が浮かんでいた。
毎日毎日、村からここまでの距離を一人で来る白髪頭の女性。
『いつもありがとう』と祠に向かって言ってくれる、不思議な女性だ。
そして、俺の姿を見た初めての人間でもある。
彼女はいつものようにやってきては、祠に手を合わせる。
俺は何気なくその時、賽銭箱の上に座り込んだのだが、女性は物音に気づいたのか、目を開けた。
そして、がっちりと視線がぶつかった。
俺は驚きのあまり言葉を失ったが、女性は目が合うと、呟いた。
「最期に、貴方に会えてよかったわ。私にとっても、あの子にとっても」
そういって、くしゃくしゃに笑った顔を、俺は生涯忘れることはないだろう。
きっと彼女は、もう長くない。
神と呼ばれる者の姿を見れるのは、大半がまだ幼い子供と、歳を重ねた高齢者だ。
そしてその高齢者のほとんどは・・・
その続きのが浮かんだものの、ゴクリと言葉を飲み込んだ。
脳裏に浮かんだ映像をかき消したとき、遠くから心配そうな声が聞こえた。
「---い、おい!生きてるか!!」
「ん・・・あぁ」
声に引き寄せられ、現実へ戻って返事をすれば、八咫烏は安堵のため息をついた。
「良かった・・・いくら声をかけても動かなかったから、ポックリ逝っちまったのかと」
その言葉に小さく笑いながら男は言う。
「少し、昔の事を思いだしていたんだ……」
男は八咫烏の翼に体を預ける。
頭上から、おっ、と驚いた声が聞こえたが、八咫烏が男を退かす事はなかった。
「昔のお前はやんちゃだったよな~願いを叶えず遊び呆けて死にかけてたりさ。俺は、今のお前の方が好きだけど」
さらりとそんな事を恥ずかしげもなく言うものだから、男は小さく笑った。
すると、笑われたことに気が付いたのか、八咫烏はふてくされてしまった。
「・・・なんだよ」
「なんでもない」
二人はしばらく黙った後、同時に笑った。
冷たくも穏やかな風が過ぎてゆく。
その風に乗って聴こえてきた音に、八咫烏は首を素早く動かした。
「なぁ、鈴の音が聞こえないか?」
八咫烏の言葉で、男も耳をすます。
けれど男の耳に鈴の音は届かなかった。
「気のせいじゃないか?」
「鳥は人間と同じくらいの聴覚があるぞ?」
「・・・・・・」
男はもう一度注意深く耳をすました。
すると、確かに聴こえてきた。
リン、リン、リン、
その音は速いリズムを刻んで、どんどんこちらに近づいてくるのが分かった。
「鈴をつけた人間がこっちに向かってきてる!なぁ!土砂事件以降の新たな人間だっ!」
羽をバタつかせ、様子を見てくる!と飛んでいってしまった彼の羽ばたきの音と風を感じながら、男は呟いた。
「これが、最後の願いになるだろう」
その呟きは誰に届くこともなく、宙へと消えた。
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