憧れの世界に召喚された変態

覚醒シナモン

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第5話:ミルブルックの絆と旅立ちの決意

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ミルブルック村での滞在も、気づけば三日が過ぎようとしていた。ゴルドの傷は村の薬師の献身的な治療とバルドの補助的な治癒魔法のおかげで、驚くほど順調に回復していた。もう普通に歩き回れるようになり、時折、宿の庭で軽く剣の素振りをする姿も見られるようになった。
その間、俺はバルドの言葉を何度も胸の中で反芻していた。「自分の内なる声に耳を傾けること」「仲間との絆を深めること」「ルナ嬢との信頼関係を大切にすること」――。どれも抽象的ではあるが、今の俺にとっては何よりも重要な指針のように思えた。
あの不可解な力。ルナの髪の香り。そして、自分の中に潜む、彼女の無防備な姿や特定の部位に妙に惹かれてしまう、この特殊な感覚。これら全てが、俺の中で複雑に絡み合い、答えの出ない問いとなって頭を巡っていた。
ある朝、俺が目を覚まして階下に下りると、ルナが宿屋の女将さんを手伝って、食堂の窓を拭いているところだった。朝日が差し込む窓辺で、彼女は背伸びをしながら一生懸命に手を伸ばしている。その拍子に、簡素なチュニックの裾が少し持ち上がり、すらりとした脚のラインと、キュッと引き締まったお尻の丸みが露わになった。俺は思わず息を呑み、視線が釘付けになる。昨日、子供たちと遊んでいた時の、あの無邪気な笑顔とくすぐったがる声が脳裏に蘇り、心臓がとくんと跳ねた。
「あ、レンさん、おはようございます!」
俺の視線に気づいたのか、ルナが振り返ってにっこりと微笑んだ。その笑顔は太陽のように明るく、俺の邪念を見透かされているわけでもないのに、何だかバツが悪くなって慌てて目を逸らした。
「お、おはよう、ルナ。早いね」
「はい! 女将さんがいつも良くしてくださるので、少しでもお手伝いできればと思って」
そう言って、彼女はまた窓拭きに戻る。その小さな背中を見つめながら、俺は自分の頬が熱くなっているのを感じていた。彼女の献身的な姿は本当に好感が持てるのに、自分の視線がどうしても不純な方向へ向かいがちなことに、内心でため息をつく。
その日の午後、ゴルドの体調もほぼ万全になったと判断し、俺たちは宿の一室に集まって今後の行動について話し合うことにした。
「さて、皆の意見を聞きたい。この村で得た情報は二つ。一つは、我々が最初に入った洞窟の奥にあるという古い遺跡。もう一つは、この村の北方に広がる森の奥地で、最近目撃されているという奇妙な魔物の存在だ」
バルドが地図を広げながら切り出した。地図には、ミルブルック村を中心に、周辺の地理が描き込まれている。
「遺跡には何か手がかりがあるかもしれんが、危険も伴うだろう。一方、奇妙な魔物というのも気掛かりだ。放置すれば、いずれこの村にも被害が及ぶやもしれん」ゴルドが腕を組み、思案顔で言う。
俺は、どちらを選ぶべきか迷った。遺跡には「勇者」や「盟約の力」に関する何らかのヒントが眠っているかもしれないという期待があった。だが、村の人々の安全を考えると、魔物の調査も無視できない。
「ルナはどう思う?」俺は隣に座る彼女に尋ねた。
ルナは少しの間、伏せていた長いまつ毛を揺らしてから、静かに顔を上げた。
「私は……どちらへ行くことになっても、皆さんと一緒なら大丈夫です。ただ、もし、あの魔物が本当に村の人たちを脅かすような存在なら、少しでも早く対処した方が良いのではないかと……」
彼女の言葉には、優しさと芯の強さが滲んでいた。その意見に、俺もゴルドも頷く。
「うむ、ルナ嬢の言う通りかもしれんな」バルドも同意した。「遺跡の探索も重要だが、まずは目の前の脅威となりうるものを排除する方が、勇者としての行動にも適うやもしれん」
「よし、決まりだな」ゴルドが力強く言った。「まずは北の森へ向かい、その奇妙な魔物の正体を確かめよう。場合によっては討伐も視野に入れる」
方針が決まると、俺たちはすぐに出発の準備に取り掛かった。食料や水、薬草、矢などの消耗品を補充し、それぞれの装備を点検する。俺とルナは一緒に村の市場へ買い出しに出かけた。
並んで歩きながら、様々な品物を見て回る。ルナは薬草の知識が豊富で、俺は荷物持ちに徹していたが、時折、彼女が何かを見定めようと屈んだり、店の主人と交渉するために身を乗り出したりするたびに、ふわりと甘い髪の香りが漂ってきて、俺は心臓が跳ねるのを抑えるのに必死だった。特に、彼女が背負っている小さな背嚢の紐を直そうと腕を上げた瞬間、脇のあたりが少し見えてしまい、俺は無意識に「あっ」と声を漏らしそうになるのを堪えた。くすぐったらどんな反応をするだろう、という考えがまた頭をもたげてくる。
「レンさん?どうかしましたか?」俺のぎこちない様子に気づいたのか、ルナが不思議そうに小首を傾げた。
「い、いや、何でもない! ちょっと考え事してただけだ」
慌てて取り繕う俺の言葉に、ルナは納得したのかしていないのか、ふわりと微笑んで再び品物選びに戻った。彼女のその無邪気さが、俺の罪悪感を少しだけ軽くしてくれたが、同時に、自分のこの感情をどう扱えばいいのか、ますます分からなくなるのだった。
その夜は、ミルブルック村で過ごす最後の夜となった。夕食の後、俺はバルドに呼び出され、宿の裏庭で二人きりで話をした。
「レン殿、明日からは再び危険な旅路となる。例の力についてだが、あまり意識しすぎる必要はない。だが、一つだけ覚えておくとよいかもしれん」
バルドは夜空の星を見上げながら、静かに語り始めた。
「古の勇者たちの伝承によれば、『盟約の力』は、単なる感情の高ぶりだけでなく、対象となる相手との深い精神的な同調――つまり、相手の喜びや悲しみ、恐怖や希望を、我がことのように感じられるほどの共感が、力の覚醒を促すことがあるという」
「精神的な同調……共感……」
「うむ。そして、それは一朝一夕に成るものではない。日々の小さな積み重ね、相手を理解しようとする真摯な心が、無意識の内に繋がりを深めていく。ルナ嬢の髪の香りが引き金になったというのも、あるいは、レン殿が彼女に対して抱いている特別な感情や共感が、その香りを介して顕在化したのかもしれんな」
バルドの言葉は、俺の胸に深く染み込んだ。ルナに対して抱いている特別な感情……それは、単なる仲間意識だけではない、もっと複雑で、温かくて、そして少しだけ後ろめたい思いも混じったものだ。
部屋に戻ると、ルナは自分の寝台で、明日の準備のために小さなナイフの手入れをしていた。灯火に照らされた彼女の横顔は真剣で、長いまつ毛が時折揺れている。
俺は意を決して、彼女のそばに腰を下ろした。
「ルナ、明日からまた、よろしく頼む。俺、まだ全然頼りないけど……ルナや皆の力になれるように頑張るから」
ルナはナイフを置くと、こちらに向き直って微笑んだ。
「レンさんこそ、いつも私たちを助けてくれてありがとうございます。レンさんがいてくれるだけで、私はとても心強いです」
その言葉は心からのものだと分かり、俺の胸が温かくなった。
「あのさ、ルナ……一つ、聞いてもいいかな?」俺は少し躊躇いながらも、口を開いた。「全然、関係ない話なんだけど……ルナは、その……くすぐったいのとか、平気な方?」
我ながら、あまりにも唐突で間抜けな質問だと思った。ルナは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに「えっ?」と小さく声を上げ、それから少し顔を赤らめた。
「く、くすぐったいのですか……?」彼女は戸惑ったように視線を彷徨わせ、「えっと……わ、私は……たぶん、すごく苦手……です。子供の頃から、ちょっと触られただけでも、びくってなっちゃうくらいで……」
そう言って、彼女は自分の脇腹のあたりを無意識に押さえた。その仕草が妙に可愛らしく、そして彼女の言葉が、俺の心の奥底にある何かを強く刺激した。すごく苦手、ちょっと触られただけでもびくって……。その情報を得ただけで、俺の想像力はあらぬ方向へと暴走しそうになる。
「そ、そうなんだ。ごめん、変なこと聞いて」俺は慌てて謝った。
「いえ……大丈夫ですけど……どうしてまた、そんなことを?」ルナが不思議そうに尋ねる。
「あー、いや、何となく、子供たちがルナをくすぐって遊んでたのを思い出してさ。楽しそうだったから」俺は適当な理由をつけて誤魔化した。
ルナは「ああ、あの子たちですか」と納得したように頷き、それから小さく笑った。「本当に、元気いっぱいで……でも、ちょっと手加減してほしい時もありますけど」と、悪戯っぽく付け加えた。
その屈託のない笑顔に救われつつも、俺は自分の胸の高鳴りを抑えることができなかった。
翌朝、俺たちはミルブルック村の村人たちに見送られ、宿を出立した。女将さんや薬師、そして昨日ルナと遊んでいた子供たちが、手を振って俺たちの旅の安全を祈ってくれる。
「レンさん、ゴルドさん、バルドさん、ルナさん! また絶対遊びに来てね!」
「魔物なんかに負けるなよー!」
温かい声援に送られ、俺たちは北の森へと続く道を踏み出した。ゴルドは先頭に立ち、バルドがそれに続く。俺とルナは、少し間を置いてその後ろを歩いた。
新たな目的地、未知の魔物、そしてまだ解明されない自分の力。不安がないわけではない。だが、隣を歩くルナの存在と、彼女から微かに漂ってくる甘い髪の香りが、不思議と俺に勇気を与えてくれるような気がした。
森の入り口に差し掛かった時、不意に、ざわざわとした木々の揺らめきと共に、獣のような低い唸り声が風に乗って聞こえてきた。それは、決して友好的なものではない、明らかな敵意を含んだ音だった。
ゴルドが即座に剣の柄に手をかけ、バルドが杖を構える。俺もルナを庇うように一歩前に出た。
「……来たか」
ゴルドの低い声が、新たな戦いの始まりを告げていた。
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