憧れの世界に召喚された変態

覚醒シナモン

文字の大きさ
10 / 24

第10話:キャンプの夜と祭壇への道筋

しおりを挟む

カイトたちが用意したキャンプ地は、森の喧騒から巧妙に隔絶された、束の間の安息を与えてくれる場所だった。焚き火の暖かな光が俺たちの顔を照らし、ギガンテス・スコローペンドラとの激闘で強張っていた体と心が、少しずつ解きほぐれていくのを感じた。
夕食は、カイトが手際よく調理した保存食と、俺たちが持参した干し肉や木の実を合わせたものだった。ギルドの保存食は栄養バランスが考えられており、味も驚くほど良かった。ミルブルック村の素朴な食事とは違う、洗練された味わいに、俺はまた一つ、外の世界の豊かさを垣間見た気がした。
「カイトさんたちのギルドというのは、本当に大きな組織なんですね。ミルブルック村では、そんな話、聞いたこともありませんでした」
俺が素朴な疑問を口にすると、カイトは苦笑いを浮かべた。
「大陸全土に支部があると言っても、辺境の小さな村までその名が轟いているわけではないだろうな。俺たち資源開発部門は、特に未開の地へ赴くことが多いから、一般の民と接する機会も少ないんだ」
「シルフィさんとロックさんは、どうしてギルドに?」ルナが、少し緊張しながらもシルフィに尋ねた。
シルフィは、焚き火の炎を見つめながら、静かに口を開いた。フードは外しており、月明かりに照らされたその横顔は、彫刻のように美しかった。長いエルフ耳が、時折ぴくりと動く。
「私は……森と共に生きる一族の出身だ。だが、故郷の森も近年、原因不明の病に侵され始めている。ギルドの知識と技術を借りれば、その治療法が見つかるかもしれないと期待して、仲間入りした」
その声には、故郷を思う切実な響きが籠っていた。ルナもエルフとして、シルフィの言葉に深く共感したのか、神妙な顔で頷いている。
ロックは、パンを頬張りながら快活に答えた。
「オイラは元々、廃都でガラクタ拾いをしてたんだ! ある日、ギルドの調査隊に拾われてさ。手先が器用だってんで、罠の解除とか道具の修理とか、色々やらされてるうちに、いつの間にか正式メンバーよ! ま、毎日新しい発見があって退屈しねえし、メシも美味いから満足してるぜ!」
彼の屈託のない笑顔は、場の雰囲気を和ませた。小柄な体には、見た目以上の知識と経験が詰まっているのかもしれない。
食事を終えると、バルドがカイトやシルフィと、専門的な話で盛り上がり始めた。バルドは古代文字や魔法の成り立ちについて、カイトは各地の地質や鉱脈の分布について、シルフィは森の精霊や薬草の秘められた力について、それぞれが持つ知識を惜しみなく披露し合い、熱心に議論を交わしている。俺には難しい話も多かったが、彼らの会話から、世界には俺の知らないことが無限に広がっているのだということを改めて実感した。
(知識こそが力になる……か。俺も、もっと色々なことを学ばなければ)
その間、ゴルドはカイトからギルド式の武器の手入れ方法を教わり、黙々と剣を磨いていた。ロックは、俺が使っていた少し刃こぼれしたナイフを見つけると、「ちょっと貸してみな!」と言って、あっという間に見事な切れ味に研ぎ直してくれた。その手際の良さには舌を巻く。
やがて話題は、明日に迫った「忘れられた祭壇」への調査に移った。カイトが懐から羊皮紙の地図を取り出し、焚き火の光にかざす。それは、この北の森のさらに奥深く、これまで誰も足を踏み入れたことのないような領域を示していた。
「これが、我々がこれまでの調査で得た『忘れられた祭壇』に関する情報だ。正確な位置は不明だが、おおよその方角と、いくつかの目印となる地形が記されている。問題は、そこへ至る道筋に、強力な魔獣の縄張りや、古代の罠が仕掛けられている可能性が高いということだ」
地図を覗き込むと、そこには危険を示す赤い印がいくつも記されていた。
「祭壇そのものも、何らかの守護者がいるか、あるいは強力な魔力が渦巻いている危険な場所だろう」シルフィが静かに付け加えた。彼女の翠の瞳が、不吉な光を宿しているように見えた。「古いエルフの伝承によれば、あの祭壇は『大地の怒りを鎮める場所』であると同時に、『呼び起こす場所』でもあると……」
「つまり、下手をすれば、ギガンテス・スコローペンドラ以上の化け物と遭遇する可能性もあるということか」ゴルドが厳しい表情で言った。
作戦会議は深夜まで及んだ。斥候はカイトと、森の知識に長けたシルフィが務める。前衛はゴルドと、必要に応じて俺も加わる。後衛からの魔法支援はバルド。ロックは罠の解除や攪乱、そして土魔法による防御を担当する。ルナは薬草による支援と、エルフとしての感覚を活かして周囲の異変を察知する役割を担うことになった。
俺の力については、バルドとカイトが慎重に議論を重ねた。
「レン殿の力は、確かに強力じゃが、発動条件が不安定な上に消耗も激しい。切り札として温存し、ここぞという場面で使うべきじゃろう」
「同意だ。無理に力に頼ろうとせず、基本は仲間との連携で危機を乗り越える。その上で、レンの力が最大限活きる状況を作り出すことが重要になる」
俺は、二人の言葉を胸に刻んだ。仲間を守るために、この力を正しく使わなければならない。
「ミルブルック村も……この森の異変が解決しなければ、いつ危険に晒されるか分かりません」俺は、作戦会議の最後に自分の想いを口にした。「この調査で得られる知識や、もしかしたら素材や資源も、村の発展と防衛のために役立てたいんです。そのためにも、必ず祭壇の謎を突き止めたい」
その言葉に、カイトは力強く頷いた。「その意気だ、レン。ギルドとしても、辺境の村が自立し、発展していくことは歓迎すべきことだ。我々が持つ知識や技術で協力できることがあれば、遠慮なく言ってくれ」
その言葉は、俺にとって何よりも心強いものだった。
夜が更け、それぞれが仮眠を取るために寝床についた。俺はなかなか寝付けず、焚き火の燃えさしを見つめていた。隣ではルナが、シルフィから借りたエルフ族の古い歌集のようなものを静かに読んでいる。その横顔は真剣で、時折、小さく口ずさむメロディは、どこか懐かしく、優しい響きを持っていた。彼女の長い髪が、焚き火の光を受けて柔らかな輝きを放っている。その髪から漂う甘い香りが、俺の心を落ち着かせてくれるのを感じた。
(この仲間たちとなら、きっとどんな困難も乗り越えられる)
ゴルドの静かな寝息、バルドの思索にふける横顔、カイトの頼もしい背中、シルフィの神秘的な雰囲気、ロックの快活な笑顔、そして、すぐそばにいるルナの穏やかな気配。その全てが、俺にとってかけがえのないものになりつつあった。
やがて東の空が白み始め、鳥たちのさえずりが聞こえてきた。
俺たちは手早く朝食を済ませ、装備を最終確認する。カイトから渡された、ギルド製の小型の通信機のような魔道具の使い方も教わった。これで、離れていても互いの状況を確認できるという。また一つ、新しい技術に触れた。
「よし、準備はいいな」カイトが全員を見回し、力強く言った。「目標は『忘れられた祭壇』。何が待ち受けているか分からんが、全員で必ず生きて帰るぞ!」
「「「応!!」」」
俺たちの声が、朝の森に力強く響き渡った。
新たな仲間との絆を胸に、未知の脅威が待ち受ける森の最深部へと、俺たちは確かな一歩を踏み出した。祭壇が近づくにつれて、森の空気が徐々に重く、淀んでいくのを感じながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...