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25話:歪な豊穣の代償と疼く共犯者たち
しおりを挟むあの異常なまでの「豊穣」から数日が過ぎた。ミルブルック村の畑の一角は、今や異世界の庭園と化していた。天に届かんばかりに巨大化した野菜、毒々しいまでに鮮やかな色彩を放つ果実、そして、夜になると燐光を発する奇妙な穀物。村人たちは、その光景を遠巻きに眺め、畏怖と、そして拭いきれない疑念の眼差しを向けていた。
「レン様の力は……確かに、我々を飢えからは救ってくださるのかもしれん。だが、あれは……本当に、神の恵みと言えるのだろうか……」 村の長老の一人が、そう呟いた言葉が、今の村全体の雰囲気を象徴していた。
収穫された作物は、バルドとカイトが慎重に調査を進めていた。その結果、驚くべきことに、それらは極めて高い栄養価と、未知の魔力を微量に含んでいることが判明した。しかし、同時に、長期的に摂取した場合の副作用や、他の動植物への影響は全くの未知数だった。 「これは……諸刃の剣じゃな」バルドは、巨大なカボチャを撫でながら言った。「上手く利用すれば、村の食糧事情を劇的に改善し、さらには交易品として莫大な富をもたらすやもしれん。だが、その代償は……」
その「代償」の一端は、間違いなく俺自身と、そしてルナとシルフィが負っていた。 あの畑での力の暴走と、それを鎮めるための倒錯的な「調律」以来、俺たちの関係は、より深く、そしてより歪なものへと変貌していた。
夜ごと、俺の部屋を訪れるルナとシルフィ。それは、もはや慰めや気遣いのためではなかった。彼女たちは、まるで何かに取り憑かれたかのように、俺の「調律」を求めるのだ。 「レンさん……私たちの感情が……あなたの力になるのなら……もっと……もっと、使ってください……」 ルナは、潤んだ瞳で俺を見つめ、その白い喉を震わせながら懇願する。彼女の髪の分け目から漂う甘い香りは、以前にも増して濃厚になり、俺の理性を麻痺させる。彼女の柔らかな耳朶や、無防備に晒される首筋に、俺の指先が触れるたび、彼女は恍惚とした表情で身を捩らせ、甘い吐息を漏らすのだ。
シルフィもまた、冷静沈着な仮面の下に、激しい渇望を隠していた。 「レン……あなたのその指先が……私の魂の最も敏感な場所に触れる時……私は、自分が自分でなくなるような……恐ろしくも、抗いがたい感覚に襲われる……。もっと……私を、あなたの『楽器』にして……」 彼女の長い銀髪が、俺の体に絡みつき、その豊満な臀部が、俺の視線を釘付けにする。彼女の足の裏や、脇腹といった「弱点」を、俺の精神的な触手が優しく、しかし執拗に刺激するたび、彼女は誇り高いエルフの仮面を剥ぎ取られ、ただの「女」としての喘ぎ声を上げる。その光景は、俺の歪んだ支配欲と、くすぐりフェチとしての本能を、極限まで満たした。
俺たちは、互いの歪んだ欲望と、共犯者としての秘密の共有によって、危険なほどに強く結びついていた。彼女たちの感情のオーラは、俺の力の源泉となり、そして俺の力は、彼女たちに未知の快楽と、そして魂の変容をもたらしていた。それは、もはや純粋な「仲間」の関係ではなく、歪んだ主従であり、倒錯的な愛の形だったのかもしれない。
ゴルドやバルド、カイト、ロックは、俺たち三人の異様な雰囲気に気づいてはいたが、深く詮索することは避けていた。彼らもまた、俺の力の恩恵(あるいは、その危険な副作用)を目の当たりにし、どうすることもできない無力感を感じていたのだろう。
そんなある日、カイトがギルド本部との定期連絡から戻り、深刻な顔で俺に告げた。 「レン……ゼータからの新たな指示だ。例の『黒いオーブ』……あれが、最近、奇妙な活動を始めたらしい。ギルドの解析によれば、オーブは周囲の負の感情エネルギーを吸収し、それを特定の周波数で増幅、放射しているという。そして、その放射先は……このミルブルック村だ」
「何だって!?」
「村人たちの間に、最近、些細なことで諍いが起きたり、悪夢にうなされる者が増えているという報告がある。オーブが、無意識のうちに村人たちの精神に干渉し、負の感情を煽っている可能性がある」カイトは続けた。「ゼータは、これを新たな“不安定要素”の兆候と判断し、君にオーブの『再調律』、あるいは『無力化』を命じている」
またしても、俺の力が必要とされるのか。そして、それは間違いなく、ルナとシルフィの「協力」を必要とするだろう。
俺は、ギルドが厳重に保管している「黒いオーブ」の前に立った。それは、以前と変わらず、吸い込まれそうなほどに黒く、しかし、今は微かに、禍々しい赤黒い光を明滅させている。そして、その表面からは、村人たちの不安や不満、嫉妬といった、どろりとした負の感情のオーラが、まるで粘つく糸のように伸びているのが見えた。
「これを……調律する……?」
それは、「深淵の囁き」を調律した時とは、また異なる種類の困難さを伴う作業になるだろう。あの時は、純粋な「虚無」で対抗した。だが、今回は、村人たちの生活に根差した、生々しい負の感情だ。
「レンさん……私たちに、できることがあるのなら……」 ルナとシルフィが、いつの間にか俺の背後に立っていた。彼女たちの瞳には、不安と、そしてどこか期待するような、複雑な光が宿っている。
俺は、二人の差し出す歪んだ献身を、もはや拒むことができなかった。そして、俺自身の魂もまた、この禁断の儀式を、心のどこかで渇望していたのだ。
「……ああ。君たちの力が必要だ。だが、今回は……もっと深く、もっと危険な領域に踏み込むことになるかもしれない」
俺は、二人の手を取り、黒いオーブへと意識を集中させた。額の刻印が、新たな「調律」の始まりを告げるかのように、鈍く、しかし力強い光を放ち始める。
ミルブルック村の、そしていつか築かれるかもしれない「王国」の未来は、この歪な豊穣の代償と、俺たちの倒錯的な絆の上に、危ういバランスで成り立っている。そして、そのバランスは、今、新たな試練に晒されようとしていた。
俺たちの「王道ではない」物語は、甘美な破滅の予感を孕みながら、さらにその深淵へと進んでいく。
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