異世界デビューに失敗したので現地の少年を最強系主人公に育てたいと思います。

にしだ、やと。

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3. 一度は言ってみたかった、あのセリフ

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 空間魔力の揺らぎを察知した俺は、感じるままに魂でその揺らいだ魔力を捉えて、何が起きているのかを確認した。
 少し苦戦したものの、大まかな状況を理解できる程度には魔力操作ができるようになってきた。
 もしかしたら体質――もとい魂質が合っていたのかもしれないな。

 ま、その話は今はおいといて、だ。
 状況は思ったよりも逼迫していた。
 俺がいた場所は地中にある小さな空洞だったらしいのだが、今この空洞は完全に空洞ではなくなっていた。
 すなわち、何かがツッコんできて天井を崩壊させて、地面に空いた大穴へと変貌してしまっていたのだ。

 それだけならまだいい。地盤がゆるくなって土砂崩れでも起きたと思えばいいだけだから。
 だが、現実はもっとひどい。
 禍々しいほどに大きく歪んだ魔力の塊。そいつがじっとこちらを睨みつけるように漂っていた。
 一瞬、俺を見ているのか? と思ったがそうじゃない。視線の先には、かなり小さな魔力の塊が一つ、そして今にも消え失せそうなほど弱りきった魂が二つ、寄り添い合っていたのだ。

 魔力でしか捉えられない俺には、現実でどういう状況になっているのかは推測することしかできない。
 だが、ここまで状況が揃っていれば日本で生まれ育った俺にとってはあまりにも簡単な推理だった。

 ――ヤバい魔獣的なサムシングが家族襲いかかって両親が死にかけ。ほっとけば全員犠牲になる。

 幸いなのは、何故かあの魔獣の魂が睨みつけてくるだけで一向に襲いかかって来る気配を見せていないことだ。
 とはいえ、このまま放っておけば両親は衰弱死するだろうし、そもそも魔獣がいつまでも待ってくれる保証というものもない。

 どうしたものか。
 正直言って、今の俺にできることなんてたかが知れている。だって魂だもの。
 この物語がご都合主義的だったなら、そもそも俺は肉体を持ってここにさっそうと現れて、神様から与えられた最強の魔法とかで解決するんだろうけど、それは出来ない相談だ。
 なら、どうするか。

 ――ま、答えは決まってるんだけどな。

 根拠はなかった。
 けど、なぜか俺なら出来ると、確信があった。
 だから。

 改めて、集中する。
 イメージするのは糸電話だ。魔力を束ね、糸となし、魂と魂を繋ぎ合わせる。
 互いの魂の大きさは関係ない。波長を合わせ、意思だけを強く意識し、小さな魂に言霊を届ける。

 送り届けるメッセージはもちろん決まっている。古今東西、地球も異世界も、少年少女が窮地に求める言葉はたった一つだけだ。

『弱きものよ……力が……欲しいか……?』

 くぅーーー! 一度言ってみたかったんだよね、これ!
 絶体絶命のピンチに、何故か脳に直接届くメッセージ。厳かな声で、圧倒的強大な力を思わせるこの言葉を!

『……え?』

 案の定、小さな魂はキョトンとした様子だった。
 だが、無意識に反応を送り返してくる辺り、素養は申し分なさそうだった。

『弱きものよ……力が、欲しいか……? 邪悪なるものを打ち払い、親愛なる者を助ける、その力が……!』

 調子に乗って、もう一回メッセージを送る。
 同じ言葉に付け加えて具体的な状況も分かっているぞという意味を込めた、期待を煽るメッセージだ。
 当然、返事はすぐに返ってきた。

『本当に……パパとママを助けられるの……?』

 なるほど、疑うくらいの余裕と知性は備えているようだ。
 そりゃそうだよな、怪しい声から誘われたら、疑うよね。うん、当然だ。
 よし、それなら敢えてこういう路線でいってみるか。

『弱きものよ……貴様が貴様自身の犠牲を厭わぬのならば……それは造作も無いことだ……貴様に、その覚悟はあるか?』
『僕自身の犠牲……覚悟……』
『時間はないぞ……さあ、疾く選ぶのだ……』
『覚悟なら……ある……! だから悪魔様! 僕に力を‼』
『よかろう……小さな強き者よ……‼』

 うわー、悪魔様だって! そんな風に思われちゃってたかー。
 うーん、どっちかって言うとこの土地に封印された古の神様的な、そういうイメージで語りかけてたんだけどな。まあいいか。
 約束通り、力を貸してやろう。

 遊びは程々にしておいて、俺は再び集中のモードに移った。
 やることは単純だ。
 つないだパスを通じて、俺自身の魂をこの弱い魂――多分少年だな――と、強制的にリンクさせる。
 そうして、この少年の体の中に俺の魂を取り込んでもらうのだ。
 多分そうすれば、俺はもっと十全な形で魔力を行使できるし、おそらく、この少年と感覚を共有することで世界を見ることが出来るようになる。

 ――集中。
 魔力接続、状態良好。波長合わせ、問題なし。器への移動を開始――。

 そして。

 ぶっつけ本番の憑依が完了するのと、魔獣が動き始めるのとはほとんど同じタイミングだった。

「グルアアァァァァァァァッッ‼」

 一時的に完全に乗っ取った少年の身体で、魔獣の咆哮を耳にする。
 全長は優に三メートルを越しているであろう巨大な化け物が全身の毛を逆立たせると、周囲の木々が震えだし、やがて空間の魔力が物理現象へと昇華していった。
 バチバチと準備運動のように、青白い雷光が魔獣の周囲をほとばしり始めていた。

「うっわ、やば……っっ」

 声変わりをまだ経ていない若すぎる声が自分の喉から出たことにもびっくりしつつ、目の前で起きている現象に、感動する。
 何もしないと、死ぬ。
 だが――何もしなければ、だ。

 肉体を得たことで、俺は完全に確信していた。

 いける。

 俺ならこいつを倒せる。

 魔法をどうやって生み出せばいいのかまではまだ理解できていなかったが――この程度の魔獣なら問題ない。
 尻もちをついたままの姿勢で、すっと右腕だけを目の前に掲げる。

 そして。

「喰らいやがれ」

 アニメの主人公のようにわざとらしくカッコつけて、俺は呟きながら解き放った。
 俺の中で暴れまわる、ありったけの魔力の奔流を、暴れまわるままに。

 そして世界がぐらりと揺れるような感覚を覚えて――俺の意識は再び途絶えた。
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