異世界デビューに失敗したので現地の少年を最強系主人公に育てたいと思います。

にしだ、やと。

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4. 幕間 ある熟練魔導師が見たもの

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「ローシュさん、それじゃあよろしくお願いしますね」
「ああ、早めに終わらせてくるよ」

 リュフタン領の都市メイクラッドのハンターズギルドで、受付の女性と男が話していた。
 ローシュと呼ばれたその男は渡された紙切れに目を落としながら、トントンと指で木製のカウンターを叩く。

「しかしこんな場所まで雷狼……ラウォルグが出てくるとはね。目撃情報があったのは魔素の薄い地域なんだろう?」
「ええ、南方の農村に近い山中ですよ。ローシュさんのおっしゃる通り安定した地域なので高位の魔獣が出るはずないんですけどね……」
「ま、どっかから流れてきたんだろう。ラウォルグ位になると産まれた土地を離れる個体もいると聞く」

 どちらにせよ、と肩をすくめてローシュは続ける。

「早めに駆除した方がいいのは変わりない。被害が出た後じゃ遅いからな」
「ええ。ローシュさん居てくれて助かりました。うちの管轄で動かせる戦力でフットワークが軽いの、ローシュさんくらいですし」
「ははは、そりゃもっと働けって嫌味かい?」
「いえいえ、そんな!」

 軽口を叩くだけ叩くと、ローシュは手をひらひらと振りながらくたびれたマントを翻していった。
 残された受付嬢はホッとしながらも、うちの戦力ももっと底上げしていかないとダメなのかなあ、なんてボソリと呟いていた。

「さて、とりあえず目撃情報があったっていう山を見に行ってみるか……飛ばせば二日以内には着くだろう」

 受付嬢が言っていた通り、ローシュはハンターとしては特に身軽に行動できる人物だった。
 普通のハンターは大抵三人から五人程度のチームを組んで活動するし、そうすれば必然的に移動方法も制限され、準備にも手間がかかるようになる。
 きっと他のハンターに依頼を回していたら、手配だけでも二日、準備に一日、移動で三日はかかっていただろう。

 そしてもしそうしていたなら……彼らは助からなかったかもしれないし、あの光景を誰かが目撃することも決してなかっただろう。

「ん……なん、だ……? 魔力の流れが、変わった?」

 彼が異変に気付いたのは、目的地にあと半刻もすればたどり着く、といったところだった。
 それまでは流し気味で地走鳥ラナバルドを走らせていたローシュだったが、肌にひりつく感覚に直感し、速度を上げる。

「こいつぁ……ラウォルグが暴れたあとか⁉︎」

 山の麓まで辿り着いたローシュが目にしたのは、乱雑になぎ倒された木々の残骸だった。
 その痕跡はさらに山中へと続いており、巨大な魔獣が獲物を追って走り回っていることを彼に想像させた。

「その獲物が人間じゃあなきゃいいんだけどな……しかしラウォルグ相手に逃げ続けられる獲物が人間以外にいるか……?」

 ともかく、跡を辿るしかない。
 嫌な予感を背筋に感じつつ、彼が走り始めようとした、その時だった。

 轟! という圧倒的な魔力の奔流が、山中から天に向けて突き抜けていった。
 それは、とても並のラウォルグが放つ一撃とは思えない、ローシュですら震え上がるほどの強大な魔力流であった。
 とっさに魔力障壁を張らなければ、魔導師である彼は”酔って“しまっていたことだろう。

「い、今のは……本当にラウォルグなのか⁉︎ 古龍種にすら匹敵しそうな……」

 とにかく、現場に急がないとマズい。
 あの魔力流の原因がなんであれ、少なくともラウォルグが絡んでいることには違いないし、最悪の場合ということもあり得る。
 ローシュはわずかに震える体を叱咤して、急ぎ始めた。

「おいおい、嘘だろ?」

 その場所にたどり着いたとき、彼が見たのは三つの驚愕の光景だった。
 まず一つは、瀕死の大人二人と、おそらく彼らの子供らしき少年が大穴の中央で倒れていたこと。少年は気を失っていたものの、幸いにも無傷だった。両親の方も、急いで応急処置を施せば命は助かるだろう。
 二つ目は、その少年から膨大な魔力の残滓が漂っていること。つまり……状況から察するに、先ほどの魔力流はこの少年が解き放ったものだ、ということだ。
 そして三つ目。それは、あれだけの魔力をぶつけられたというのにに、当のラウォルグの方は一時的に気を失っているだけ、ということだ。

「知りたいことは山ほどあるが……ともかくやれることを全部やるしかないな」

 本当に幸いだったのは、この場に駆けつけたのがローシュだった、ということだろう。
 彼は少年が解き放った魔力よりもずっと小さな魔力を体内で練り上げ、洗練された動きで、こう唱える。

其は力なり<U>其は我が意によりて風となり<R>其は我が腕もて全て斬り裂く剣とならん<U>

 それはたった三つの言の葉からなる、神秘の術理。
 彼が言葉を紡ぐたび、小さな魔力はその輝きを大きく増す。
 彼が言葉を紡ぐたび、輝く魔力は形を持ち、空気を震わせる。
 彼が言葉を紡ぐたび、生まれた風は激しさを増し、やがて完全なる真空を生み出す。

 だがそれでも、決して彼は揺らがない。
 ただ悠然と右腕をかざし、そして、完成させる。

「解き放て――ヴァクス・フェル」

 瞬間、音が止み、風が駆け抜けた。
 首を失った魔獣は、完全にその活動を停止した。
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