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9. ピンチのお嬢様と通りすがりの主人公
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「ちょっと、やめなさいよ!」
日課となりつつある市街探索をしていると、路地裏の方から女の子の声が聞こえてきた。
ほとんど叫び声に近く、不穏さすら感じさせたが周りの人々は気に留めた様子もない。
もしかしたらこんなものは日常茶飯事なのかな? と俺は何となく思ったが、セイロは違ったようだ。
『どうしよう! 助けに行ったほうがいいかな⁉︎』
おうおう、何が起きてるのかも分かってないのにとりあえず助けなきゃなんて思えるとは、なかなか熱い性格をしてるじゃないか。
『落ち着けって。とりあえず声のする方を覗いて見てから考えような』
『う、うん!』
心の中でのやり取りをすませ、早足で声がした路地裏にたどり着くと、そこでは絵に描いたような光景が広がっていた。
「おうおう、嬢ちゃんよー。そーんな態度はねえんじゃねぇかぁ?」
「だから、謝っているでしょう⁉︎ いいから早く退きなさいよ‼︎」
「あぁん? 言葉で謝ればいいってもんじゃぁないだろうがよぉ。こっちは楽しみにしてたカフィ・クルルのクルル焼きが台無しになったんだからよぉ?」
「ふん、その見た目でスイーツだなんて、随分愉快なことだわ」
「てめっ、喧嘩売ってんのか⁉︎」
「売ってるのはあなた達の方よ」
なるほど。チンピラっぽい男二人が強気そうな女の子に因縁をふっかけている。そんな状況みたいだ。
これは街の人たちが気に留めないのもわからないでもない。
所詮は単なる小競り合い。大人が子供をいじめているようにも思えるが、あの子の威勢を見せられたらそうとも思いきれないだろう。
『どうしよう、フェズ! 女の子がいじめられてるよ!』
『みたいだな』
だが、優しいセイロはいじめの現場だと認識したらしい。
助けてあげたいけど自分じゃとても助けられない、それで二の足を踏んでいるといったところだな。
「あん? よく見りゃいいペンダント付けてるじゃねえか。どれ、ちょっと見せてみろよ」
「っ!!」
チンピラの一人がおもむろに、少女の首元に腕を伸ばす。
その動作は緩慢ではあったがあまりに不意をつくものだったため、少女の方も反応が遅れ、ペンダントに触れられてしまったようだ。
その瞬間、強気な態度を取っていた彼女が過剰な拒絶反応を見せた。
パシン!
心地よいくらいの音が路地裏に炸裂する。
「痛ってぇ……なにすんだゴラァ⁉︎」
少女が男の手をはたき落したのだ。
へらへらした様子で絡んでいた男も、これには腹が立ったらしい。
雰囲気が、変わった。
「ったく、ガキだと思って舐めてかかってれば調子に乗りやがってヨォ、いっぺん痛い目合わしたほうがいいみてぇだな?」
「少女趣味はねぇが、たまには悪くないかもなぁ? へへっ」
「ちょっ、な、なによ‼︎」
あー、こりゃまずい。
完全に事案発生ですわ。
多分あの少女はまだ若いからなんのことを言ってるのか分かんないんだろうが、あの下卑た声音がナニを考えているのかはすぐ想像がつく。
流石に止めないと、だが。
『どうしようどうしよう』
うーん、セイロは流石に使い物にならないな。
ちょっと試してみるか?
『なあセイロ、少しの間だけ代わってくれないか?』
『え? 代わるって?』
『ほら、魔獣のときみたいに、身体のコントロール権を俺に譲って欲しいんだ。あの男二人倒したら返すからさ』
多分なんだが、主人格であるセイロが許可すれば俺がセイロの代わりに身体を動かせるはず。
あの時もそういう状況だったし、この手のお話ならこういう設定が定番だ。だからきっとうまくいく。多分。絶対。
『うーん、分かったけどどうすればいいんだろう』
『俺に任せる、って思いながらこう唱えてみてくれ。チェンジ、ってな』
『思いながら……ちぇんじ? わかった。やってみる』
打ち合わせている間にも、事態は進んでいる。
男達は懐からナイフを取り出して、少女ににじり寄っていた。
まずいな、急がないと。
すぅー、とセイロがゆっくり息を吸う。
心を落ち着かせようとしているんだろう。
そしてそれから、よし、と手をぎゅっと握って、心の中で叫んだ。
『……チェンジっ‼︎』
途端、俺とセイロが完全に繋がった感触がした。
セイロという人格を塗り替えるのではなく、魂と魂の位置が交換するような感覚。
ふわりと浮上する心地を覚えたその直後、俺は大地に立っていた。
『おぉ、うまくいった』
『で、出来たの?』
『ああ、セイロの方でも分かるだろ?』
『うん、なんか変な感じ。動こうと思っても動けないし、窓を通して見てる感じがする』
『はは、それがいつもの俺の感覚だな』
どうやらチェンジをすると、完全に立場が入れ替わるみたいだ。
仕組みはさっぱりだが、特に問題もなさそうだし良しとしておこう。
『んじゃ、ちょっと片付けてくる』
『うん、お願いっ』
久々に身体を動かす感覚を楽しみながら、俺は悠々とした足取りでチンピラ達に近づいていく。
「あーあー、そこの人達? お取り込み中とのとこ悪いんだけどさ」
俺がそう声をかけると、今にも襲いかかろうとしていた男達がものすごい形相でグルっとこちらに振り向いた。
おうおう、如何にも雑魚っぽい反応だ。
「んだてめぇ」
「俺が誰かって? うーん、そうだな」
っと、セイロは俺、なんて名乗らないか。
ま、でもいいや。それよりなんて言おうかな。
馬鹿正直に名前を教えるのもアホらしいし。
「名乗るほどの名前はないけど、あえてこの場で名乗るなら」
わざとらしくもったいぶって、
「通りすがりの主人公、かな?」
思い切り、カッコつけてやった。
日課となりつつある市街探索をしていると、路地裏の方から女の子の声が聞こえてきた。
ほとんど叫び声に近く、不穏さすら感じさせたが周りの人々は気に留めた様子もない。
もしかしたらこんなものは日常茶飯事なのかな? と俺は何となく思ったが、セイロは違ったようだ。
『どうしよう! 助けに行ったほうがいいかな⁉︎』
おうおう、何が起きてるのかも分かってないのにとりあえず助けなきゃなんて思えるとは、なかなか熱い性格をしてるじゃないか。
『落ち着けって。とりあえず声のする方を覗いて見てから考えような』
『う、うん!』
心の中でのやり取りをすませ、早足で声がした路地裏にたどり着くと、そこでは絵に描いたような光景が広がっていた。
「おうおう、嬢ちゃんよー。そーんな態度はねえんじゃねぇかぁ?」
「だから、謝っているでしょう⁉︎ いいから早く退きなさいよ‼︎」
「あぁん? 言葉で謝ればいいってもんじゃぁないだろうがよぉ。こっちは楽しみにしてたカフィ・クルルのクルル焼きが台無しになったんだからよぉ?」
「ふん、その見た目でスイーツだなんて、随分愉快なことだわ」
「てめっ、喧嘩売ってんのか⁉︎」
「売ってるのはあなた達の方よ」
なるほど。チンピラっぽい男二人が強気そうな女の子に因縁をふっかけている。そんな状況みたいだ。
これは街の人たちが気に留めないのもわからないでもない。
所詮は単なる小競り合い。大人が子供をいじめているようにも思えるが、あの子の威勢を見せられたらそうとも思いきれないだろう。
『どうしよう、フェズ! 女の子がいじめられてるよ!』
『みたいだな』
だが、優しいセイロはいじめの現場だと認識したらしい。
助けてあげたいけど自分じゃとても助けられない、それで二の足を踏んでいるといったところだな。
「あん? よく見りゃいいペンダント付けてるじゃねえか。どれ、ちょっと見せてみろよ」
「っ!!」
チンピラの一人がおもむろに、少女の首元に腕を伸ばす。
その動作は緩慢ではあったがあまりに不意をつくものだったため、少女の方も反応が遅れ、ペンダントに触れられてしまったようだ。
その瞬間、強気な態度を取っていた彼女が過剰な拒絶反応を見せた。
パシン!
心地よいくらいの音が路地裏に炸裂する。
「痛ってぇ……なにすんだゴラァ⁉︎」
少女が男の手をはたき落したのだ。
へらへらした様子で絡んでいた男も、これには腹が立ったらしい。
雰囲気が、変わった。
「ったく、ガキだと思って舐めてかかってれば調子に乗りやがってヨォ、いっぺん痛い目合わしたほうがいいみてぇだな?」
「少女趣味はねぇが、たまには悪くないかもなぁ? へへっ」
「ちょっ、な、なによ‼︎」
あー、こりゃまずい。
完全に事案発生ですわ。
多分あの少女はまだ若いからなんのことを言ってるのか分かんないんだろうが、あの下卑た声音がナニを考えているのかはすぐ想像がつく。
流石に止めないと、だが。
『どうしようどうしよう』
うーん、セイロは流石に使い物にならないな。
ちょっと試してみるか?
『なあセイロ、少しの間だけ代わってくれないか?』
『え? 代わるって?』
『ほら、魔獣のときみたいに、身体のコントロール権を俺に譲って欲しいんだ。あの男二人倒したら返すからさ』
多分なんだが、主人格であるセイロが許可すれば俺がセイロの代わりに身体を動かせるはず。
あの時もそういう状況だったし、この手のお話ならこういう設定が定番だ。だからきっとうまくいく。多分。絶対。
『うーん、分かったけどどうすればいいんだろう』
『俺に任せる、って思いながらこう唱えてみてくれ。チェンジ、ってな』
『思いながら……ちぇんじ? わかった。やってみる』
打ち合わせている間にも、事態は進んでいる。
男達は懐からナイフを取り出して、少女ににじり寄っていた。
まずいな、急がないと。
すぅー、とセイロがゆっくり息を吸う。
心を落ち着かせようとしているんだろう。
そしてそれから、よし、と手をぎゅっと握って、心の中で叫んだ。
『……チェンジっ‼︎』
途端、俺とセイロが完全に繋がった感触がした。
セイロという人格を塗り替えるのではなく、魂と魂の位置が交換するような感覚。
ふわりと浮上する心地を覚えたその直後、俺は大地に立っていた。
『おぉ、うまくいった』
『で、出来たの?』
『ああ、セイロの方でも分かるだろ?』
『うん、なんか変な感じ。動こうと思っても動けないし、窓を通して見てる感じがする』
『はは、それがいつもの俺の感覚だな』
どうやらチェンジをすると、完全に立場が入れ替わるみたいだ。
仕組みはさっぱりだが、特に問題もなさそうだし良しとしておこう。
『んじゃ、ちょっと片付けてくる』
『うん、お願いっ』
久々に身体を動かす感覚を楽しみながら、俺は悠々とした足取りでチンピラ達に近づいていく。
「あーあー、そこの人達? お取り込み中とのとこ悪いんだけどさ」
俺がそう声をかけると、今にも襲いかかろうとしていた男達がものすごい形相でグルっとこちらに振り向いた。
おうおう、如何にも雑魚っぽい反応だ。
「んだてめぇ」
「俺が誰かって? うーん、そうだな」
っと、セイロは俺、なんて名乗らないか。
ま、でもいいや。それよりなんて言おうかな。
馬鹿正直に名前を教えるのもアホらしいし。
「名乗るほどの名前はないけど、あえてこの場で名乗るなら」
わざとらしくもったいぶって、
「通りすがりの主人公、かな?」
思い切り、カッコつけてやった。
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