輝く月は天の花を溺愛する

如月 そら

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第三章 救国の天女

第三章①

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鴻璘こうりん様、失礼致します」
 劉が中に入ると、鴻璘の寝台に蓮花が寝かされていて、その横に鴻璘が座っていた。
 桃園房から出てきて、慣れない旅を続けてきた上に治療まで施したのだ。疲れで倒れてしまってもおかしくはなかった。

 寝台に横たわっている蓮花を鴻璘が愛おし気に撫でている。通常ならば王族の寝台に寝かせるなど考えられないことなのに。
 鴻璘は蓮花の頬にそっと触れていた。

「静かにしろ。彼女、名前は何だった?」
「蓮花様です」
「蓮花……。良い名だな。本当に桃園房の住人なのか?」

「本当です。力をなくしたそうで、祝福された力はないそうですが」
「それでもあれ……か」
 生死の境をさまよっていたものを助けた。

「力のある桃園房の住人というのはどういうものか、考えるだに恐ろしいな」
「だから人目にはつかないところに住まうのでしょう。彼ら自身はとても穏やかな性格で、質素な暮らしを好むのです」
「なるほどな」

 鴻璘は、蓮花の服をそっと撫でる。
「だが、美しい。着飾っても映えるだろうな」
「左様ですね」

 素朴な格好をしていてさえ天女のように美しいのだ。着飾れば宮廷では追随を許さないほどの美貌だろう。
「兄は所望するだろうか」
「分かりません」

 第一王子である王太子はすでに格式のある女性と婚姻している。
 第二王子である煌月はその美貌と名声は高いものの婚姻はまだだ。
 第二王子に遠慮してか、それを言い訳に女性と遊びたいからか、第三王子である鴻璘も婚姻はまだである。

 鴻璘は英雄とも呼ばれる兄の煌月をとても尊敬していた。だから煌月が欲しいというのなら、それに手を出すようなことはしない。
 いつもなら、欲しい女性は必ず手に入れた。

 蓮花は美貌も度胸もとても魅力的だ。
(この人がとても欲しい)
 鴻璘は思ったけれど、兄はこの人を必ず欲しがるだろうと確信していた。そしてこの人もきっと兄を想うだろう。手を出すことはできない。この人は兄の恩人だ。
(恩人として思うことは許してほしい)

 * * *
 
 全身を刺すような痛みと呼吸をしてもしても肺に空気が入らないような苦しみに煌月は苛まれていた。
 もう無理かもしれないと思った時に、唇に温かいものが触れた。

 なにかが口の中に入ってきて温かいそれが喉を滑り降りるのを感じる。
 何度も繰り返すうち痛みが徐々に消えていき、呼吸が出来るようになってきた。

 そして、意識を取り戻す。
 目を開けた時、目の前にいたのは天女かと見紛うほどの美しい人だった。
 この人が助けてくれたのだとすぐに分かった。なぜか既視感がある。助けられたのは初めてではないような……。

「そなた……」
 そう言って手を伸ばすと彼女は真っ赤になってしまった。
 美しいのに、赤くなる様はとても愛らしい。

「私……」
 声までもが好ましかった。
「助けて……くれたのか、媛……」
「あの……私っ……」
「ありがとう」

 もっと、近づきたい。お礼を言いたい。抱きしめたい。
 なのに意識を保っていることができなくて、煌月はまた深い眠りについてしまった。けれどこの眠りは先ほどまでのものとは違って自分の身体が抵抗し始めていることを煌月は感じていた。

 * * *

「んっ……」
 蓮花が目を覚ますと手元の辺りで男性が顔を伏せて眠っている。
 これはどうしたことなのだろうか。
 蓮花の身動きを感じて男性もゆっくり目を覚ましたようだ。

「蓮花、おはよう」
 んーっと大きく伸びをしているのは、とても綺麗な人だ。
「お……はようございます……」

 ──てか、誰?
 いや、見覚えならある。昨日散々黙れと怒鳴りつけた人だ。昨日はぎゃあぎゃあ喚くしか芸のない人かと思ったら、こうして朝日の中で落ち着いて見るとどことなく気品がある。
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