敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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5.書道家の仕事

書道家の仕事③

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 俯いてそう言うとくすっと笑った声が聞こえた。
「香澄さん、からかったわけではないんです。嬉しくてつい。楽しみにしていますから」

 テーブルの上に置いてあった手を思いがけなく握られて、香澄はどきんとする。きゅっと握ったその手はすらりと長く骨ばっていて男性らしい。自分とは違う手のひらや体温に香澄はどきどきと胸を高鳴らせていた。

 食事を終えた二人は駐車場に向かい、神代の車に乗り込む。
 香澄は普段から車に乗ることも多いがそれは運転手付きの車で後部座席に乗ることが多かった。だから「どうぞ」と言われて助手席のドアを開けられた時は少し戸惑ってしまったのだ。

(それは、そうよね)
 交際しているのなら座るのはその席だろう。
「ありがとうございます」
 ドアを開けてもらったお礼を言ってシートに座る。すぐに神代も運転席に回ってシートに座ってエンジンをかける。

「少し寄り道をしたいんですけどいいですか?」
 慣れた様子でハンドルを切りながら聞かれて香澄は頷いた。
「はい。構いません」

 夕食の時間に待ち合わせをして、ゆっくり食事をしていたけれど、多少寄り道をしても差支えのない時間ではある。それに遅くなることは問題ない。
(寄り道ってことは、泊まりではないものね)

 そんなことを考えてあわてて香澄は首を振る。
 なにを考えているのか。神代は紳士だ。そんなことはあり得ないはずだ……たぶん。
 交際が初めての香澄にはこれから先どのようにお付き合いを進めていったらいいのか分からない。きっと神代は慣れているはずなのだから、任せるしかないのだ。

「さっき、少し迷っていましたか?」
「え?」
「車に乗る時。迷ったような戸惑ったような様子だったから。誘ってしまって大丈夫かなって思っています」

「あ……。実は、助手席に乗ることがあまりなかったんです。けど、確かにお付き合いをしているならこの席ですよね」
「あははっ、確かに香澄さんの環境ならそうでしょうね。ご希望なら後部座席でもいいですよ。この車はあまり快適ではないかもしれませんが」

 よく見ると車にはドアが二つしかない。いわゆるツーシーターの車だった。スポーツカーだ。エンジン音も普段より大きいことに香澄は初めて気づいた。

「ドアが二つだけなんですね」
「そう。ツーシーターってやつです。趣味で乗っている車ですね。今は屋根がありますが、天気が良ければ屋根をしまってオープンにすることもできますよ」
「オープンカー! 話は聞いたことがありますが、乗ったのは初めてです」
「今度天気のいい日に、空気のいいところでオープンにしましょう。海際とかも気持ちいいですよ」
「はい! ぜひ!」

 約束を少しずつ重ねてゆくことがこんなにも幸せなことだとは香澄は知らなかった。
「今日はどこに連れていってくださるんですか?」
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