遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました

如月 そら

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19.カ、カチコミ…?

カ、カチコミ…?①

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「若い巡査がいちばん市民と触れ合う。いい警官がたくさんいる所轄内は治安が良くなる……というのが父の持論なんだ」

 鷹條が父を警察官としても尊敬していることがよく分かるエピソードだった。
「俺とは、また違う立場で治安維持に努めてる、ということだよな」

 鷹條のように国の要人を警護する仕事もあれば、父のように後進を育てる仕事もある。

 お互いに同じ職業についていて深く理解しながら、お互いを尊敬していると感じた。亜由美はここへ連れてきてくれた鷹條に感謝する。

「千智さん……」
 亜由美はつん、と鷹條の服の袖を引っ張る。
「ん?」

「この場所に連れてきてくれてありがとう。ご両親にお会いできて、とっても嬉しい」
「そうか」

 いつものように鷹條の感情が大きく揺らぐことはないけれど、ほんのりと嬉しそうにしている気配を感じて、亜由美も嬉しくなった。

 鷹條が官舎に足を向ける。亜由美に向かって手を差し出したので、その手を亜由美はぎゅっと握った。

 小さな門を開けて、小道を通り官舎の庭にまた戻る。
「あら……」

 客間を賑わせていた寮生たちは亜由美たちのためにさっと帰ったのだろう。もう、誰もいなくてちゃぶ台を拭いている母に二人で手を繋いで戻ってきたところを見られてしまった。

 母はにこーっと猫のように目を細める。
「いいわねぇ、仲が良くて」
「あ、あのっ、私もお手伝いします!」

「大丈夫よ? あの子たち片付けて帰ってくれたから。人数が多いから一度に片付いたわ」
 そこへ父がお菓子の入った皿を持って客間へ入ってきた。

「なんだー、二人で温泉にいってたんだな」
 お土産のお菓子で分かったらしい。鷹條は庭から客間に上がる時も、亜由美の手を繋いでいてくれている。

「うん。泉質がとてもよかった」
「美人の湯とか言うらしいな」

 母に「どうぞ」と座布団を差し出されて、亜由美は「ありがとうございます」と受け取り座る。
 二人が座ると両親も目の前に座った。急にかしこまった雰囲気になる。

「お付き合いしている杉原亜由美さん。結婚も考えていて、上にも報告はしています」
 さっきも紹介はしてくれていたけれど、改めて将来のことや、上司のことも含めて鷹條は亜由美を両親に紹介してくれた。

「そうか……。まあ、千智がここへ連れてくるというのだから本気だろうとは思っていたよ」
 父の言葉に鷹條はこくりと頷く。

「いろいろあって、亜由美は内部事情も分かってる。けど俺が護りたいって思ってる人なんだ」

「ああ、大変な目にあったそうだね」
「あ……の」
 亜由美が声を上げると、ん? と父が首を傾げた。本当に鷹條ととても良く似ていた。

「大変な目にあったから、千智さんを好きになったんじゃないんです。その前から千智さんは優しくて、私は、その……立場を知る前から素敵な人だと思っていました。けど手の届かない人だと諦めていたんです」

 鷹條は諦めていた亜由美に真っすぐな気持ちを向けてくれて、亜由美を何度も何度も護ってくれた人だ。

「千智さんの関係者の方にもお会いして、今回こうやって官舎に連れてきてくださって、私は嬉しかったです。千智さんのお仕事はきっと、家族の支えが必要なお仕事なんだと理解しました」

「亜由美、そういうつもりじゃなかったんだけど……」
 鷹條の言葉に亜由美は首を横に振る。

「だって、千智さんも久木さんとか彼女の理解が得られなくてお別れしたとか言っていたでしょ? やっぱり覚悟は必要なんだと思うの」

「そうね、亜由美ちゃんの言う通りよ」
 母がうんうんと頷いていた。
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