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鳥は鳥籠に戻る
鳥は鳥籠に戻る⑥
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それもオーナーが彼女の部屋を広くしてあげたいんだよねと言ったら、地元の工務店の人が格安でさっさとやってくれてしまったのだ。
そんな話をすると
「ふうん……」
と圭一郎は目を伏せる。
「あ、ごめんなさい。興味なかったですよね」
「俺がいなかった間の珠月の生活に興味ないわけじゃないけど。それ男でしょう?」
「おじいちゃまですよ。親方って感じの」
「え? そうなんだ。ごめん、俺の方こそ……」
「いえ……」
そんな風に言われて、珠月は胸がドキドキするのを抑えることができなかった。
もしかして、やきもちをやいてくれたんだろうか?
そう思うと珠月の胸がきゅん、とする。
珠月はデスクの椅子に圭一郎に座ってもらって、自分はベッドに腰かけた。
マグを持ってふーふーしながら、圭一郎がコーヒーを飲んでいるのをちらりと見る。
圭一郎は少しコーヒーに口をつけ、そんな珠月を見てふっと笑っていた。
「そうやって珠月がふうふうしながら、コーヒーを飲んでいるのを毎朝見ていたのに」
「あ……」
珠月はマグをベッドのサイドテーブルに置いた。
そして、気づいた。
いつもならきっと、珠月の隣に座るはずなのに、距離を置いたまま圭一郎はデスクの椅子に座っている。
向かい合って座る2人の距離に、珠月はいっそう切なさを感じる。
あの時、この人を置いてきたのは自分なのに……。
「あれから……」
圭一郎の声がして、ぴくん、と珠月は身体を揺らした。
「すぐに珠月を追ったんだよ。けれど、珠月は見つからなくて」
知っていた。
だから、珠月は声のする方をあえて避けて走ったのだ。
「まさか……別荘からこんな目と鼻の先にいるなんて思わないだろう……。どうして? 珠月? 聞いてもいい?」
珠月はこくっと頷く。
「別荘はとても居心地よくて、圭一郎さんの側にずっといたいって思いました」
「だったら……!」
そう言う圭一郎に、珠月は緩やかに首を降った。
「でもお電話しているのを聞いて、いつまでもこのままではいけないって思ったんです」
「やはり俺のためか……」
圭一郎のため息が聞こえる。
この人をきっと悲しませてしまった、と思うと珠月は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「夢のようでした。ステキな彼とステキな別荘。愛されて、お姫様のように扱われて。でも……かえらなきゃ……って」
「自宅には帰れなかっただろう」
あの事故の時の様子から察するに、親族か誰かが自宅には入り込んでいたはずだ。
「そうではなくて現実に、です。もう夢は終わりって。いつかは終わらせなくてはいけなかった。だから……」
「確かに目は覚めたな」
淡々とした圭一郎の声。
そうだ。
圭一郎は優しい人だから、きっと別荘から消えた珠月を心配して探してくれただけなんだ。
素敵な人なのだし、今はきっとお付き合いしている人がいるだろう。
実家は病院で自身もお医者さま。背も高くて見た目も素敵で、そして優しい。こんな人がいつまでもひとりなわけがない。
「圭一郎さん、私、嘘をつきました」
「ああ、記憶?」
「はい……実は、数日で回復していたんです」
とたんに圭一郎が真っ赤になる。
「じゃ……あ……」
「彼じゃない……って知ってたんです。でもあそこにいる間は圭一郎さんに愛されている珠月でいたかった。だからナイトアクアリウムも行ったことがないって知っていました」
それでも圭一郎の口から語られるそれを聞いていたら、一緒に行った思い出があるかのような気持ちになった。
可愛くて、愛されている珠月。
本当に夢のように幸せだったのだ。
圭一郎が顔を俯かせる。
「じゃあ、君にとっては気分悪かったな。そんな、得体の知れない男が彼氏なんて言い出して、君を……」
そんな話をすると
「ふうん……」
と圭一郎は目を伏せる。
「あ、ごめんなさい。興味なかったですよね」
「俺がいなかった間の珠月の生活に興味ないわけじゃないけど。それ男でしょう?」
「おじいちゃまですよ。親方って感じの」
「え? そうなんだ。ごめん、俺の方こそ……」
「いえ……」
そんな風に言われて、珠月は胸がドキドキするのを抑えることができなかった。
もしかして、やきもちをやいてくれたんだろうか?
そう思うと珠月の胸がきゅん、とする。
珠月はデスクの椅子に圭一郎に座ってもらって、自分はベッドに腰かけた。
マグを持ってふーふーしながら、圭一郎がコーヒーを飲んでいるのをちらりと見る。
圭一郎は少しコーヒーに口をつけ、そんな珠月を見てふっと笑っていた。
「そうやって珠月がふうふうしながら、コーヒーを飲んでいるのを毎朝見ていたのに」
「あ……」
珠月はマグをベッドのサイドテーブルに置いた。
そして、気づいた。
いつもならきっと、珠月の隣に座るはずなのに、距離を置いたまま圭一郎はデスクの椅子に座っている。
向かい合って座る2人の距離に、珠月はいっそう切なさを感じる。
あの時、この人を置いてきたのは自分なのに……。
「あれから……」
圭一郎の声がして、ぴくん、と珠月は身体を揺らした。
「すぐに珠月を追ったんだよ。けれど、珠月は見つからなくて」
知っていた。
だから、珠月は声のする方をあえて避けて走ったのだ。
「まさか……別荘からこんな目と鼻の先にいるなんて思わないだろう……。どうして? 珠月? 聞いてもいい?」
珠月はこくっと頷く。
「別荘はとても居心地よくて、圭一郎さんの側にずっといたいって思いました」
「だったら……!」
そう言う圭一郎に、珠月は緩やかに首を降った。
「でもお電話しているのを聞いて、いつまでもこのままではいけないって思ったんです」
「やはり俺のためか……」
圭一郎のため息が聞こえる。
この人をきっと悲しませてしまった、と思うと珠月は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「夢のようでした。ステキな彼とステキな別荘。愛されて、お姫様のように扱われて。でも……かえらなきゃ……って」
「自宅には帰れなかっただろう」
あの事故の時の様子から察するに、親族か誰かが自宅には入り込んでいたはずだ。
「そうではなくて現実に、です。もう夢は終わりって。いつかは終わらせなくてはいけなかった。だから……」
「確かに目は覚めたな」
淡々とした圭一郎の声。
そうだ。
圭一郎は優しい人だから、きっと別荘から消えた珠月を心配して探してくれただけなんだ。
素敵な人なのだし、今はきっとお付き合いしている人がいるだろう。
実家は病院で自身もお医者さま。背も高くて見た目も素敵で、そして優しい。こんな人がいつまでもひとりなわけがない。
「圭一郎さん、私、嘘をつきました」
「ああ、記憶?」
「はい……実は、数日で回復していたんです」
とたんに圭一郎が真っ赤になる。
「じゃ……あ……」
「彼じゃない……って知ってたんです。でもあそこにいる間は圭一郎さんに愛されている珠月でいたかった。だからナイトアクアリウムも行ったことがないって知っていました」
それでも圭一郎の口から語られるそれを聞いていたら、一緒に行った思い出があるかのような気持ちになった。
可愛くて、愛されている珠月。
本当に夢のように幸せだったのだ。
圭一郎が顔を俯かせる。
「じゃあ、君にとっては気分悪かったな。そんな、得体の知れない男が彼氏なんて言い出して、君を……」
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