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鳥は鳥籠に戻る
鳥は鳥籠に戻る⑤
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ペンションの裏手では、花や野菜やハーブなどいろんなものを育てていて、そこからアレンジしてお客様に提供しているのだ。
──こんなものかな。
花を抱えて外に出ようとすると、道路からペンションに向かう小道を車が走ってくるのが見えた。
ランチのお客様?早いな……。ご案内した方がいいかしら?
珠月がペンションの建物をぐるりと回って、玄関の方に向かうと、車を降りてきた男性と目が合った。
車から降りてきたその男性は、珠月を見て目を見開いている。
見間違えるはずもない。
すらりとした肢体、整った顔立ち、涼し気な瞳と目元の泣きぼくろ。
何度、触れたか分からない。
「みつ……き?」
「け、圭一郎……さん……?」
珠月はくるりと踵を返して、裏手に向かおうと小走りになる。
──うそ⁉︎ 何で? 何で⁉︎
確かに別荘からはそんなに離れていないけれど、圭一郎はここで外食するようなことはなかったのに。
後ろを追ってきた圭一郎に、珠月は畑の中で捕まった。
後ろからぎゅうっと抱かれる。
大好きな圭一郎の腕だ。
2人の息が荒い。
「な……んで逃げる、のっ……」
「だ……って……」
こんな風に腕に閉じ込められたら、もうどこにも行きたくなくなってしまうから。
「夢……じゃ、ないよな……?」
そんなこと、珠月が聞きたい。この腕が本物なのか。この声が本当に圭一郎のものなのか。
「けいいちろ……さん」
「みつき……珠月、珠月っ!」
どうしよう、どうしよう……大好き、大好きっ……。
自分の前で交差されているその腕を、ぎゅうっと珠月は掴んだ。
ずっと、自分を抱きしめてくれていた腕。
ずっと、抱きしめられたかった腕だ。
「ずっと会いたかった、探した……」
後ろから聞こえるその切なげな声に、珠月はごめんなさい……と小さな声で謝った。
「みっちゃん、えーと、大丈夫かな……」
オーナーの手にフライパン、奥さんがその後ろからこっそり覗いている。
「いや、みっちゃんをすごい勢いで追いかけていくのが見えたものだから、不審者だったら困るなあ……と」
珠月はそれを聞いて、ギョッとする。
「不審者じゃないです! だ、ダメですっ」
くるりと圭一郎の方を向いて、両腕に圭一郎を庇った。
くすっと笑った圭一郎が、珠月の頬を撫でる。
「やっと、顔が見えた」
それは珠月にとっても同じことで。
やっと……と言っていた圭一郎は、胸の中で時折思い出していた圭一郎よりも、もっともっと素敵だった。
「圭一郎さん……圭一郎さんっ!」
今度は、珠月がぎゅうっと抱きついた。
「珠月……本当に珠月なんだな」
やっと、息ができた人のような深い息をついて、圭一郎は抱きしめた珠月の頭をふわりと撫でる。
その後、オーナーに今日はこのままお休みにしていいよと言われた珠月は、自分の部屋に圭一郎を連れて行った。
オーナーがコーヒーとケーキを用意してくれて、にこにこと珠月を見ている。
「あの……急にお休みいただいて、すみません」
何となく、なにか言わないといけない雰囲気なのかなと珠月は謝った。
オーナー夫婦はにこにこしているだけだ。
奥さんは珠月にそっと囁いた。
「忘れられない人って、彼でしょ?」
珠月は真っ赤になる。そんなの隠しようがない。
「あのっ! えーと、そうです……」
「頑張って!」
──何をですかー?
珠月はオーナー夫婦に励まされて、ケーキを持って部屋に入ると圭一郎がきょろきょろしていた。
「あの……あまり見ないでくださいね。なんか恥ずかしい……です」
「いや、居心地よさそうだなと」
ペンションは、最盛期の頃は何人も住み込みを雇って人を使っていたらしいが、今はそんなこともなく住み込みで働いているのは珠月だけだ。
部屋数に余裕があるので、以前2部屋だったところを1部屋に改装して使わせてもらっている。そのため部屋の中にはミニキッチンや洗面所、シャワールームも完備しているのだ。
──こんなものかな。
花を抱えて外に出ようとすると、道路からペンションに向かう小道を車が走ってくるのが見えた。
ランチのお客様?早いな……。ご案内した方がいいかしら?
珠月がペンションの建物をぐるりと回って、玄関の方に向かうと、車を降りてきた男性と目が合った。
車から降りてきたその男性は、珠月を見て目を見開いている。
見間違えるはずもない。
すらりとした肢体、整った顔立ち、涼し気な瞳と目元の泣きぼくろ。
何度、触れたか分からない。
「みつ……き?」
「け、圭一郎……さん……?」
珠月はくるりと踵を返して、裏手に向かおうと小走りになる。
──うそ⁉︎ 何で? 何で⁉︎
確かに別荘からはそんなに離れていないけれど、圭一郎はここで外食するようなことはなかったのに。
後ろを追ってきた圭一郎に、珠月は畑の中で捕まった。
後ろからぎゅうっと抱かれる。
大好きな圭一郎の腕だ。
2人の息が荒い。
「な……んで逃げる、のっ……」
「だ……って……」
こんな風に腕に閉じ込められたら、もうどこにも行きたくなくなってしまうから。
「夢……じゃ、ないよな……?」
そんなこと、珠月が聞きたい。この腕が本物なのか。この声が本当に圭一郎のものなのか。
「けいいちろ……さん」
「みつき……珠月、珠月っ!」
どうしよう、どうしよう……大好き、大好きっ……。
自分の前で交差されているその腕を、ぎゅうっと珠月は掴んだ。
ずっと、自分を抱きしめてくれていた腕。
ずっと、抱きしめられたかった腕だ。
「ずっと会いたかった、探した……」
後ろから聞こえるその切なげな声に、珠月はごめんなさい……と小さな声で謝った。
「みっちゃん、えーと、大丈夫かな……」
オーナーの手にフライパン、奥さんがその後ろからこっそり覗いている。
「いや、みっちゃんをすごい勢いで追いかけていくのが見えたものだから、不審者だったら困るなあ……と」
珠月はそれを聞いて、ギョッとする。
「不審者じゃないです! だ、ダメですっ」
くるりと圭一郎の方を向いて、両腕に圭一郎を庇った。
くすっと笑った圭一郎が、珠月の頬を撫でる。
「やっと、顔が見えた」
それは珠月にとっても同じことで。
やっと……と言っていた圭一郎は、胸の中で時折思い出していた圭一郎よりも、もっともっと素敵だった。
「圭一郎さん……圭一郎さんっ!」
今度は、珠月がぎゅうっと抱きついた。
「珠月……本当に珠月なんだな」
やっと、息ができた人のような深い息をついて、圭一郎は抱きしめた珠月の頭をふわりと撫でる。
その後、オーナーに今日はこのままお休みにしていいよと言われた珠月は、自分の部屋に圭一郎を連れて行った。
オーナーがコーヒーとケーキを用意してくれて、にこにこと珠月を見ている。
「あの……急にお休みいただいて、すみません」
何となく、なにか言わないといけない雰囲気なのかなと珠月は謝った。
オーナー夫婦はにこにこしているだけだ。
奥さんは珠月にそっと囁いた。
「忘れられない人って、彼でしょ?」
珠月は真っ赤になる。そんなの隠しようがない。
「あのっ! えーと、そうです……」
「頑張って!」
──何をですかー?
珠月はオーナー夫婦に励まされて、ケーキを持って部屋に入ると圭一郎がきょろきょろしていた。
「あの……あまり見ないでくださいね。なんか恥ずかしい……です」
「いや、居心地よさそうだなと」
ペンションは、最盛期の頃は何人も住み込みを雇って人を使っていたらしいが、今はそんなこともなく住み込みで働いているのは珠月だけだ。
部屋数に余裕があるので、以前2部屋だったところを1部屋に改装して使わせてもらっている。そのため部屋の中にはミニキッチンや洗面所、シャワールームも完備しているのだ。
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