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4.悪魔?小悪魔?

悪魔?小悪魔?④

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『婚姻生活に関する事柄についての契約』
 それをそっと開き目を通していく。

『家計負担の合意
結婚生活における合意
お互いの親族との付き合いの合意』

 確かにはっきりさせておくことで、トラブルが回避できるような内容になっている。

『契約の見直しについて』
 ふんふん……と美冬は書類に目を走らせてゆく。契約については1年ごとに見直すという文言もあった。

 確かに刻々と変化してゆく状況の中、見直しは大事だ。
 どれも納得できる内容である。

『離婚の際の条件の合意』

 それを見たとき美冬はぎくんとした。

 ──こんなことまで考えておかなくてはいけないのね。

 契約上の関係なのだと思い知らされる。
「どうした?」
「あ……いえ、離婚の際の条件とかまで決めておくものなんですね」 

「どうなるかなんて分からないからな。揉めそうなことは全部文書で契約上明らかにするのがメリットだろう」
 槙野にはさらりと返される。
 単にふざけたような人ではなくて、冷静なビジネスマンとしての姿が美冬には見えた気がした。

 書類のさらにその先は契約違反について、と記載があった。

『契約違反の場合のペナルティの合意』
【禁止行為について】
第22条 暴力行為は決して行わないこととする。
第23条 異性と二人きりでは会わないこととする。
第24条 重大な嘘や隠し事はしないこととする。
第25条 賭け事は禁止とする。
第26条 第22条~26条の禁止行為に違反した場合は、離婚の協議を行うものとする。
第27条 離婚時の慰謝料は離婚の原因を作出した者が支払うこととする。

 確かに契約とはそういうのものだし、揉めないために契約書を作成するものだ。また、何かあった場合の責任を明確にしておくメリットもある。
 そうして美冬は最後の文言を見て表情を緩めた。

『第28条 甲と乙は互いの誕生日と結婚記念日を一緒に祝うものとする』

「署名します」
 最後の条項に槙野の美冬への思いやりが見て取れたから。
 曖昧にしてもいいことなのに、あえてこの条項を槙野は入れてくれた。
 そんな気が美冬はしたから。

 美冬は隣の席に置いてあったカバンからボールペンを出し、その書類に署名をする。

 それを見た槙野はカバンから封筒を出した。
 中から書類を出して美冬に広げてその書類をテーブルに滑らせたのである。

『婚姻届』
 すでに槙野が記入するべきところは記入してあった。

「渡しておく。近々美冬のご両親にもご挨拶に行こうと思うが構わないか」
「お願いします」

「おじいさんのところも、か?」
 槙野はにっ、と笑った。
「当然よ。おじいちゃんのところにも行ってもらうわ」
 美冬も笑って返す。

 この高飛車高圧的大型犬が祖父とぶつかるとどうなるのか、美冬は見てみたかった。
(おじいちゃんは手強いわよ。吠え面かくといいわ)
 くふふっと思わず笑いが漏れる。

「お前っ、なにか企んでないか!?」
 野生の勘かしらね。勘がいいわ。
 美冬はさらに、にっこり笑ったのである。

「気のせいじゃないかしらね?」
「お前のその笑顔には嫌な予感しかしないんだが……」
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