俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

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本編・第二部

107 *

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 鏡の中のダークブラウンの瞳が、激しい劣情で細く歪んでいる。その瞳に真っ直ぐに貫かれて、身体の奥が震えた。

 これまで幾度も智さんに抱かれているけれど、如何せん、こうして迫られても嬉しさより羞恥心の方が勝ってしまう。

「っ、ちょっ、今日、へいじつっ……」

 耳まで赤くしながら身体を捩って、智さんの腕から抜け出そうと試みていると。智さんの腕の力がふっと抜けて。

「……嫌なら我慢する」
「………は?」

 これまでの智さんの言動からは考えられない言葉が放たれて、私は思わずあんぐりと口を開けた。

 私がどんなに抵抗したって、その腕で、その指で、その声で。私を抗えない快楽の海に突き落としていく、智さんなのに。

 鏡越しに視線が交差する。智さんが、手に持った予備バッテリーをカタリと洗面台の天板に置いて、ふたたびやわらかく私を抱きしめた。そのまま真っ赤に染まった私の左耳にキスを落としていく。

「知香が決めて。するか、しないか」

 ふっと、智さんが笑った瞬間、獣のような瞳が嘘のようにふわりと和んだ。その表情に、その言葉に。大きく目を見開く。

(私に、選べ、と……!?)

 いつも。智さんがセックスに持ち込むのは強引で。深く口付けられて、身体をまさぐられて。もう私の深いところまで刻み込まれた快楽を呼び起こされて……なし崩し的になだれ込まされる、という方が正しい。

 だから。だから、こうやって、選択を私に委ねられることは、初めてのことで。

「…ぁ、え、と……」

 どうしていいかわからず、視線がふよふよと泳ぐ。智さんはやわらかく笑ったまま。

「嫌なら、いーんだ。平日だしな」

 そうして、するり、と、私を抱きしめていた腕が解かれて、智さんが天板に置いた予備バッテリーをふたたび手に取った。私に背を向けて、脱衣所の扉を開こうと腕を伸ばしていく。

 ……身体の、奥に灯った熱を無視なんかできなくて。俯いたまま、智さんの寝間着のトップスの裾を、ぱし、と掴んでしまった。

 智さんの動きが止まって、首だけを捻らせて私を振り返る姿が鏡に反射して。その智さんの動きを、視界の端で捉えた。

「……知香?」
「……ぅ」

 恥ずかしい。その想いでいっぱいで、涙が滲むのを自覚した。

 智さんが日本を発つのは明々後日17日…金曜日の、朝。今ここで、平日だから、という理由で断ってしまえば……結果的に智さんが帰ってくる24日の夜まで、お預けになってしまう、ということ。

「知香?、なんだろ?」

 智さんがくるりと身体を反転させる。その言葉に、握りしめていた智さんの寝間着の裾から手を離す。顔を真っ赤にしながら視線を上げると、目の前の切れ長の瞳が…その薄い唇が、形容しがたいほど意地悪に歪んでいた。

 その智さんの表情で、私は完全に理解した。


 この人。絶っ対、……!!


(……なんで私ってば天邪鬼なこと口走っちゃったの!?)

 どんなに恥ずかしくったって、智さんに触れて貰えないのは寂しい。恥ずかしさのあまり、天邪鬼にも『』だなんて単語を口にしてしまったけれど。どうせならいつも通りなだれ込まされる方がここまで羞恥心を煽られることも無かった。

「……っ、智さんの、ばかっ」
「ん? なんのこと?」

 あくまでも。私に言わせたい、のだろう。

 ゆっくりと、智さんの口の端が釣り上げられる。その仕草にすら、胸の奥が、下腹部が、ぎゅうと締め付けられていく。私の意思とは反して反応していく自分の身体が恨めしい。

「~~~っ、」

 それを悟ってなお、智さんの顔を見ていることなんて出来なくて、智さんから思いっきり視線を逸らした。

 理性と本能の葛藤。明日も仕事なんだという理性と、中途半端に呼び起こされた快楽が叫ぶ本能。

 お互いが私の身体の全てを支配しようと容赦なくせめぎ合う。その狭間で、どっちつかずの私の身体だけが……ゆっくりと、溺れていく。

 とろり、と。蜜が溢れた。その感覚に、びくりと身体が大きく震える。

「どーした? 知香」

 くすくすと、智さんが笑う声がする。

 ショーツすら身につけていない、バスタオル一枚だけの私。このままだと、重力に逆らう事無く滴り落ちていくだろう。期待して待っている、ということが露呈してしまう。

「……っ、おねがい……」

 身体に巻き付けたバスタオルをぎゅっと握り締めながら、俯いたまま声を絞り出した。

「なんのお願い?」

 低く甘い声で笑われて。曖昧な言葉で許してくれる雰囲気など、どこにもない。とろり、と、ふたたび蜜が溢れて……太ももを滴り落ちていく感覚があった。

 もう……無理。限界。

「っ、抱いて……」

 私の一言に、智さんがふっと息を漏らした。

「んー……今日のところは、勘弁してやる」

 そうして、智さんが私の頬に触れて。

「本当はセックスしたいって言わせたかったんだけどな?泣きそうな知香が可愛すぎたから、許してやる」

 そのままその手をするりと滑らせて、私の顎を取って。深く、深く、口付けられていく。

「っ、ふ……んっ」

 舌を絡めとられ吸い込まれる。鼻にかかった私の甘い声が、脱衣所に響いて。

 私の口の中を、我が物顔で動き回る……智さんの熱い舌。その動きに翻弄され、頭の芯が痺れて、何も考えられなくなる。

 何度も角度を変えて、私を味わわれていく。もう、私の身体は……智さんのなすがまま。

 ちゅ、と、リップ音がして、唇が開放される。つぅ、と、銀の糸が妖しく煌めて。

 久しぶりに出来た深い呼吸。ゆっくり瞼を開くと、獰猛な獣の光を宿した瞳が、私を真っ直ぐに貫いていた。その瞳から目を逸らしながら、考えていたことを口にする。

「っ、その、せめて……寝間着くらい羽織らせて……っ」

 する、にしても、このままバスタオル1枚でベッドまで行きたくない。肩を出したまま廊下やリビングを移動して、湯冷めをして風邪を引いてしまえば元も子もないのだから。

 私の頭上から、ふっと、智さんが笑う声がして。

「……どうせ裸になるのに?」

 その言葉に、瞬時に顔に血流が集まっていく。弾かれたように顔を上げて、智さんの顔を睨みつけた。

「っ、もっ、あからさますぎるっ」
「でも、却下」

 智さんが心底愉しそうに口を歪ませて。

「え」
「もう我慢できねぇ」

 しれっとそう言うと、私の身体をひょいと抱えあげて、洗面台の天板に座らせる。

「ちょっ、まさかここでっ」

 慌てて智さんの腕を掴んで静止する。するにしてもゴムを置いているベッドに行くと思っていた。

 そうして、はたと。以前、お風呂場で抱かれたことを思い出す。さぁっと血の気が引いていく。

「……洗面台ここにもゴムを隠してるの!?」
「ん? そーだけど?」

 事もなさげに智さんが返事をする。いつの間にかバスタオルを挟み込んで固定していた重なりに智さんの手がかけられて、ハラリ、と、バスタオルが解かれる。私の身体が明るい照明の下に露わになって。

「……知香…スタイル良くなった?」
「……へ?」

 智さんが、しげしげと私の身体を眺めている。それに気がついて、思わず両腕で胸を隠した。

 確かに、最近、ブラジャーがキツくなった気がする。生理前だから張っているのかな、と思っていたけれど、生理が終わってからもそのキツさは変わらなくて、どうしてだろう、と思っていたのだった。

 隠した両腕を智さんの大きな手に掴まれて左右に広げられる。

「隠すなよ。綺麗なのに」
「っ、やだっ」

 あまりの恥ずかしさにぎゅっと目を瞑る。

「だめ。さっきから知香の可愛い顔見て喉から手が出そうなくらい我慢してんの。ちゃんと見せて」

 紡がれたその言葉の恥ずかしさに、心臓があり得ない速度で跳ねている。シャワーお灸の効果であるサラサラの汗が引いたばかりなのに、今度はじっとりとした汗が滲んでいく。

「最初に見たときよりも格段によくなってる。正直、喉から手、どころの騒ぎじゃねぇんだけど?」
「もっ、そういうことっ、言わないでってばっ…」

 さっきから…智さんは私の羞恥心を煽るようなことばかり口にする。あまりの事態に、目の奥が熱くなる。

「ねぇ、知香さん。セックスが女性にもたらす効果って知ってます?」

 急に声のトーンが変わって、ビクリと身体を震わせた。私のその様子に、再び智さんが吐息を漏らして笑う。

「ほんと俺の声に弱ぇな。可愛い」

 そう口にして、智さんが私のデコルテに舌を這わせていく。智さんの舌の動き合わせて、チリチリと、軽い痛みが刺している。

「ぁっ………っ、う、」
「色んなホルモンが分泌される。そのホルモンの効果で……食欲が抑えられるホルモン、それから痩せやすくなるホルモンが分泌されたり、な? あとは」

 さっき自分でも確認した、薄くなった所有痕に次々と上書きされていく。智さんの黒髪が私の首筋にさらりと当たって、途方もない愛おしさが込み上げる。その間にも、智さんの言葉が紡がれて。

「全身の筋肉を使うから。引き締まるところが引き締まって、出るところは出るように……身体が変わっていく。今の知香みたいに」

 今の、私、みたいに。

 その言葉で、ブラジャーがキツくなったことの要因をハッキリと認識した。

「……え!?」

 智さんに、週に何度も抱かれているから。だから……私の身体が、変わっていっている。その事実に、智さんに掴まれていた私の腕から力が抜けていくのがわかった。

 するり、と、智さんの手が私の腕を離して、つぅ、と。私の腰のくびれをなぞった。

「ひゃ、ぁっ……」

 その感覚に身体が大きく跳ねる。ぞくり、と。なにかが背筋を這い上がってくる感覚を堪えきれず、思わず喉を反らせた。

「……うん。くびれも前より際立ってきてる」

 自らを納得させるように、智さんが呟いていく。

「俺の手で。知香のすべてが変わってく。これは……まじでそそるなァ…」

 つぅ、と、智さんが目を細めた。獲物を見据えて舌なめずりしているような……ダークブラウンの、瞳。

「知香が変わってんのを、ここまでまざまざと見せつけられてさ? ……これから1週間も知香に触れられねぇなんて、どんな罰ゲームだよ」

 ぞくり、と、身体が震える。身体の奥から、痺れていく。

 だからさ? と。智さんが笑みを含んだような声で、そっと呟いた。






「今日は……壊れるくらい、抱いていいだろ?」






 理性と本能がせめぎ合いをしていた、私の身体。その言葉によって、本能が理性を上回り、私の全身を、本能がぐわりと支配した。


 その剥き出しになった野性的な本能に従うまま。


 こくりと、頷いた。
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