俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

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本編・第二部

108 *

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 智さんの大きな手がふたつの膨らみを、その存在を確かめるように撫で上げていく。ゆっくりと、まるで楽しむように。やわやわと、揉まれて、硬くなった蕾を器用に指と指の関節を使って、コロコロと弄ばれていく。

「っあ、……っ、ううっん……」

 羞恥で顔に熱が上る。甘く上がった嬌声が脱衣所に反響していく。お風呂場ほどでは無いけれど、まるでエコーがかかったかのような反響に思わず顔を逸らす。

 逸らせた顔を智さんのその大きな手のひらで挟まれて、智さんのほうに向けられ、智さんの薄い唇に、また私の唇を盗られていく。

 私のすみずみまで味わうように、奥へ、奥へと舌が差し込まれる。智さんは私の腔内を蹂躙したまま、片手を私の後頭部を固定して、もう片方の手で私の蕾を執拗に玩ぶ。

「ん……んっ……ぁ、ふ……」

 溢れ出る唾液が、私の顎を伝い首筋に流れていく。その感覚にふたたび身体が大きく跳ねた。

 唇が解放されて、溢れ出た唾液を智さんの舌が掬い上げるように首筋に舌を這わせた。ざらりとした熱い粘膜の感覚に、一際甘い声が上がる。

 智さんが、つぃ、と、私の後ろの鏡に視線を向けた。そして、ふっと笑った。

「……背中も、痕、つけてぇ」

 そう言葉を紡いで、軽々と私の身体を抱き上げ、反転させた。目の前の鏡に……デコルテに上書きされたたくさんの所有痕と…目を真っ赤にさせ、だらしなく口を開ききって天板にへたりと座り込む、あられも無い自分の姿が映し出される。

「やっ、やだっ……!!」

 顔を逸らしながら身体を元の方向に戻そうと全身に力を入れるも、智さんの腕がそれを許さない。やわやわとふたつのふくらみを揉みしだきながら、背中に舌を這わされ。チリチリと痕をつけられていく。

「あぅ……っ、ぅんんっ…ぅあっ…」


 鏡に映し出される、私の痴態。
 下から持ち上げられるように揉まれる感覚。
 智さんの、熱い吐息。
 蕾を弄ばれていく感覚。
 反響する、私の甘い声。
 ざらざらとした舌の感覚。


 その全てに。狂ってしまいそうなほどのモノが―――――弾けた。


「んっ、ぅ、―――――っ!!!」

 ばち、と、瞼の裏が白く弾けた。ふるりと全身が痙攣する。じっとりと、額に汗が滲んで。

「……え…」

 私は、私の身体に起きた事を受け止めきれずに、惚けたように鏡の中の自分を見つめた。全速力で走ったかのように心臓が跳ねて、呼吸が荒くなっている。

 鏡の中の切れ長の瞳が驚愕に彩られて。まるで金縛りにあったように身動ぎひとつせず、鏡に映り込む私を見ている。

(あ……私が髪切って、偶然ぶつかった時もこんな瞳してた……)

 自分の身体に起きた出来事から逃避するかのように、思考回路が過去まで巻き戻った。

「…………。知香。まさか」

 智さんの呆然とした呟きに一気に現実に引き戻される。

「っ、言わないでっ!!」

 その先は聞きたくない、あまりにも…………恥ずかしすぎる。弾かれたように、鏡から目を逸らした。羞恥心から、ほろりと涙が溢れていく。

「……っ、知香はほんと…どれだけ俺を堕としていくんだ」

 すっと。智さんの長い指が、私の目から零れた涙を拭って。嬉しそうに、笑った。

「俺の手で。変わっていく知香を全部、愛してる。もっと乱れた顔を、俺しか見れない、その可愛い顔を。俺に見せて?」

 そっと、左耳元で囁かれて。ゆっくりと、身体が持ち上げられた。絶頂を迎えた身体は一切言うことを聞いてくれない。そのまま、智さんに身を委ねる。お姫様抱っこされたまま……寝室のベッドに横たえられた。

「……鏡越しの知香も可愛いけど。やっぱ、正面から、いっぱい見たい」

 ギシリ、と、ベッドのスプリングが軋んだ。顔の左右に智さんの腕が置かれて。そして、智さんが、ふわりと微笑んだ。

「……な? 不感症、だなんて。アイツの嘘だったろ?」
「あ……」

 無音映画のように、盗み聞きあの日の光景が脳裏に蘇った。

 智さんが私を抱く時は。まるで壊れ物を扱うかのように、優しく…時に激しく。

 私の反応をくまなく観察しながら、私の身体のタイミングを見計らい……的確に快楽の海に突き落としては、掬い上げていく。

 そうやって抱いてくれる、その裏側の理由を、初めて感じ取った。



 不感症、と言われて、傷付けられた私の心を癒すかのように。
 私の身体に刻まれた、哀しい記憶を…上書きするかのように。

 女としての自信を全て失った、私を。智さんの手で、救い上げてくれようと、していたんだ。



「………ぁ…あり、が、と…」

 智さんの底無しの優しさに、止めどなく涙が溢れてきた。しゃくりをあげて泣く私を、智さんがぎゅうと抱きしめて。よしよし、と、子どもをあやすかのように、頭を撫でてくれる。

「……知香。愛してる。ずっと…そばにいてくれ」
「私も…愛してる……」

 ゆっくりと、唇が合わさって。啄むようなキスが繰り返される。小さなリップ音が寝室に響いて。火傷しそうなほど熱い智さんの手が私のふくらみをやわやわと揉みしだき……そっと、蕾に触れた。

「っ、や!」

 びりびりと、痺れるような感覚が走り抜ける。思わず智さんの唇振り払った。一度そこで絶頂を迎えたからか、いつもよりも敏感になっている気がして。気持ちよさよりも、痛みの方が勝った。

 そんな私の様子に気づいたのか、智さんがそっと蕾から指を離す。

 その動作に。私の身体を、智さんに与えられる快楽の全てを……智さんに把握されていることを改めて思い知って。胸の奥がぎゅうと疼いた。



 私が、痛い、と感じることを……智さんからは、絶対にされない。それを知ったこの安心感が、どれだけ―――私の心を解してくれているのか。智さんにも、届いていればいいのに。



 するり、と。智さんの手が、下腹部に伸びて。しとどに濡れそぼった秘裂に這わされて、ゆっくりと指の腹でなぞられる。先ほどから蜜が際限なく溢れていることは自分でも分かっているから、途方もなく恥ずかしい。

「んんっ、……ぅ」

 智さんの指がつぷりと秘裂に潜り込む。入口の壁を擦られて。

「はあっ、んんっ、あ、ぁあっ」
「ココ、好きだよなぁ、知香?」

 私に確認するかのような言葉が紡がれる。その言葉に返事なんてできるわけもない。智さんがふっと笑い、私の弱い場所を何度も角度を変えて擦り上げていく。その度に、背中がくんっと仰け反る。

 派手な水音を立てて繰り返される指の抽挿に。

「っあ、ああっ、くぅっ、ああああっ!!!」

 また、瞼の裏が白く弾けた。喉の奥が、全身が、痙攣する。痙攣がおさまらない内に、指が増えて……最奥をゆっくりと、容赦なく揺らされて。

「あああっ、まって、ぅんんっ!!」

 真っ白に染まった思考。許容を超えた身体の震えが止まらない。


 ―――感情も、身体も。全部全部、壊されて、しまいそう。


 ぽろぽろと涙が零れ落ちていく。零れ落ちた涙を智さんが舌で掬い上げ、耳元で一層低く……囁いた。

「……待たない。ほら……イけ」

 命令されるような……私の全てを支配するような、そんな言葉に、甘く強烈な感覚が弾けた。

「っ、あ、ああああっ!!」

 身体が弓のようにしなって、頭が真っ白になる。息をつく間もなく、熱い昂ぶりが…私の泥濘んだ秘裂に押し付けられ、一気に押し込められた。

「か、はっ……!!」

 あまりの衝撃に息が詰まる。嬌声の代わりに、ひゅうひゅうと音を立てた。訪れた絶頂の余韻をやり過ごす暇も無く、目の奥がチカチカして、智さんの顔が見えなくなる。

「っ、すまん……もう、我慢、出来なかった」

 白く染った視界がゆっくりと戻り、智さんの顔が……まるでカメラのフォーカスが合うように、私の前に現れる。

 私のナカに馴染ませるように、智さんは動かない。ナカが大きく蠢いて、智さんの昂りを締め付けている。

「っ、ほんと、知香のナカ、たまんね……」
「……っう、も、そぉいうこと…いわ、ないで…」
「ん? ホントのことだから、しょうがねぇじゃん?」

 智さんが笑いながらその言葉を口にして。私の真横の枕を手に取って、私の背中に腕を差し込み、するりと腰に枕を宛てがう。

 その途端。私の最奥に、深く、深く……熱い楔が潜り込んでいく。

「んんんっ! ん……んっ、んうぅっ」

 ぎゅっと奥歯を食いしばって強い快感に耐える。気を抜けば、また呆気なく登り詰めてしまうと気がついて。力の限りシーツを握りしめた。

「……これ、だろ?」

 ふっと、智さんがまた息を漏らして笑った。……確信犯、らしい。
  
「はっ、あっ…………よ、すぎてっ……や、だっ!」

 私の反応を見ながら、最奥を緩やかに貫かれていく。

「また…イきそう、だな?」

 そう聞いてくる智さんは、眉根をぐっと寄せて、余裕がないように見える。けれど、その低い声にはまだ余裕があった。その言葉に私は必死でコクコクと頷く。けれど、智さんの動きは止まらない。ぼんやりと霞んだ思考の中で、平日の夜だというのに、今日は一切手加減する気はないらしい、と気がついた。

「俺、さっき聞いたろ? ……壊れるくらい、抱いていいかって」
「だめっ、ああっ! あっ、ああっ、んんっ……ぅ、ああああっ!!!」

 ばちり、と。ふたたび視界が弾けて。深い快感が、一気に脳まで駆け上がった。ガクガクと脚が震えている。

 ナカに埋められたままの熱い楔が膨張していくのを感じた。緩やかだった律動が、容赦なく叩きつけられるような動き変わって。

「知、香……も、俺も、……限界」

 喉の奥が、全身が痙攣して、涙が止まらない。迫ってくる途方もない快感に、思わず智さんの腕に縋りつく。その縋りついた手を智さんが自らの背中に回した。

「掴むなら……俺を掴んで。爪立てていーから」

 智さんがそう呟いて、するり、と、私の首の後ろに腕を回した。全身が隙間なく密着する。胸も、お腹も……頬も、智さんにくっついて。

 そのまま奥深くを貫かれる。その衝撃に、目を大きく見開いて、思いっきり智さんの背中に爪を立てた。

「ぁっ、あああっ!!」
「……っ、ぐ…」

 私の身体がしなって、智さんが、余裕のない声で小さく呻いて。数度腰を打ち付けた。どくり、と、楔が弾けたのを感じ取って……ふたりで、大きく息を吐いた。







 深い呼吸を、同じタイミングで繰り返して息を整える。熱い楔が時折痙攣しているのを感じた。

「…んー。まだ、知香のナカに居てぇけど、ごめんな」

 その言葉と同時に、軽くキスをされて。スルリ、と楔が抜け出ていった。

「……っ、あ…」

 何度抱かれても、この喪失感には慣れない。パチン、と、ゴムを手早く処理していく智さんの横顔を、深呼吸しながら見つめた。



 いつになったら。薄い膜越しじゃない、智さんを感じることができるんだろう。



 そこまで考えて、はっと思考を取り戻す。

(……今日、思考回路が変だな、私)

 智さんが帰ってくる前に、ジュエリーケースを見ながら同じようなことを考えていたことを思い出した。

 纏わり付く考えを振り払い、キッチンからホットタオルを持ってきてくれた智さんに訊ねる。

「……会社の人たち…ホワイトデー、渡せた?」
「ん? あぁ、渡せた」

 全身にじっとりとかいた汗を、智さんが丁度いい温度に温まったタオルでゆっくり拭ってくれる。智さんが私から抜け出ていく喪失感は嫌いだけれど、事後のこの瞬間は割と好きだったりする。我ながら……ひどく矛盾していると思うけれど。

「その……黒川さん、は、あれからどうなの?」

 私には、あの日以降接触はない。けれど、智さんは同じ会社だし、なにより嫌がらせのチョコレートを用意してくるくらいだ。

 智さんが私の腕を持ち上げてゆっくりと拭ってくれる。ようやっと全身の力が入るようになってきたから、上半身を起こしながら、智さんの手からホットタオルを受け取って自分で拭いだす。

「あー……俺にも特に何もねぇんだけどな。ひとつ懸念があってな…」

 苦々しい表情をしながら、智さんがベッドサイドに置いたタバコの箱に右手を伸ばした。その箱をくるくると弄んでいる。

「ちょっと……あまりにも、センシティブすぎる話なんだ。だから、明日になったらこの話は忘れてくれ。いいな?」

 黒川さんの、センシティブな、話。なんだろう。智さんのダークブラウンの瞳が、真剣な光を宿して真っ直ぐに私を貫いた。

「あいつ、ウチの社長の……命の恩人の息子、らしい」
「え? ちょっと、何それ」

 普段の生活では耳にしない言葉に驚いて目を瞬かせる。
  
「黒川のことを池野課長に相談した時に、雷落とされつつ……それでも俺を信用して話してくれたことなんだ。幹部以外は知らねぇ事らしい。それ以外にも複雑な事情が絡み合ってた。なんでこんなやつがウチに在籍できているんだ、と思っていたが……」

 はぁっ、と、智さんが、タバコの箱を持っていない左手を額に当てて大きなため息をついた。

「だから……色々やらかしてもクビに出来ないって話しだ。実際アイツが学生時代に女絡みで警察沙汰起こしてるが社長がプライベートとして手助けした、っつう話もあるらしい」

 あまりのスケールの大きさに唖然とした。身体を拭き上げる動作を止めて、ぽつり、と、呟く。

「……ドラマみたい」

 だろ? と、智さんが呆れ返ったように声を上げた。額から手を離して、その左手が私の右手に絡まって。切れ長の瞳が、私を真っ直ぐに見つめた。

「だから、知香。俺が出張中は、GPSのアプリ。ちゃんと起動しておいてくれな。何かあったら遅いから。あれ、起動してると電池喰うから、充電もこまめに」

 智さんのその言葉に、ふるりと身体が震えた。その話が本当なら。智さんの出張中、私にも…警察に駆け込むようなそんな出来事が起きるかもしれないのだから。

「………俺は決めた。ウチの会社は好きだし、もっと大きくしたい。早いとこ課長になって、幹部になって。膿を出して、内側から改革する」

 ぎゅう、と。恋人繋ぎにされた手を強く握りしめられた。

「んで……社長になる。知香を、社長夫人にしてやりたい」
「……えっ!?」

 社長……。その言葉の意味を思考停止した脳の奥に叩き込んで…じんわりと噛み締める。

「だから、な? 知香は、俺が、

 そうして。小さなキスが額に落とされていく。

 智さんが紡いだ言葉の意味の大きさに混乱した私は、目の前にある穏やかなダークブラウンの瞳を……顔を赤くして見つめることしか、できなかった。
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