俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

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本編・第三部

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 オフィスビルの1階に併設されているカフェのテラス席に、4人で腰を下ろした……その、途端。

「三木さん、日曜日って予定空いていますか?よかったら俺と映画でもどうですか?」

 南里くんが三木ちゃんに向かってアプローチをかけ始めた。

(……すごいな。本当に片桐さんみたい)

 さっきまで私に矢継ぎ早に質問を飛ばしていた時とは全然違う、『男の人』の表情をしている。仕事中は全然そういう雰囲気がないのに、休憩にはいるとこれ。まるで片桐さんだ。

「悪いけど。実家の手伝いがあるの。南里に割く時間はないわ」

 ブラックのアイライナーに彩られた勝気な瞳に明らかな嫌悪感を宿して、拒絶の言葉を紡いでいく。

 三木ちゃんが片桐さんから私を守ってくれたように、私も三木ちゃんを守りたい。ぐっと手元のサンドイッチを握りしめて、南里くんに向き直る。

「南里くん、三木ちゃんはご実家が自営業なんですって。仕事もこなして、ご実家のお手伝いもしてる。だから休日は無理に誘わないであげて」

 南里くんのくりくりした瞳をじっと見つめながら、制止の言葉を投げかける。私の言葉に、一瞬考え込むように南里くんが瞳を瞬かせた。

「……そうなんですね。じゃぁ、別の手段を考えます」

「いや、だから……」

 そうじゃなくて。思いっきり拒絶されているのに、どうしてこうも頑固なんだろう。思わず眩暈がする。

 その後も南里くんが三木ちゃんを誘っては、三木ちゃんがばっさりと切っていく会話が続く。加藤さんも、呆れたように時折制止の声をあげている。

 南里くん以外の3人が手元のサンドイッチを食べ終えても続くその会話に、半ば関心しかかった、その時。

 店内から漂ってくるコーヒーの淹れたての良い薫りに混じって、ふわり、と。親しみ深い香水の香りが漂った。思わず顔をそちらの方に向けて、驚いて声をあげる。

「………小林くん?」

 そこにはトレーを持って立っている小林くんがいた。空いた席が無いか探していたのだろう。私の声に、小林くんが驚いたように目を見張り、ぺこり、と、頭を下げた。その澄んだ瞳と視線がかち合う。

「……一瀬さん」

 小林くんのその言葉に、三木ちゃんがピクリと反応した。

(……?)

 三木ちゃんのその仕草に疑問を抱くも、ひとまず立ちっぱなしの小林くんに声をかけなければ。

 カフェの喧騒に紛れて小林くんの声が遠くに聞こえていたから、その喧騒に負けないように、いつもより大きく声を張り上げた。

「席、無いの?」

 私の言葉に、はい、と口を動かしながら、こくん、と。小林くんが首を縦に振った。

(……どうしよう)

 ゆっくりと、手元のトレーに視線を落とす。私は食べ終えてしまったから席を代ってもいいけれど、そうなると南里くんに迫られている三木ちゃんを守れなくなる。かといって、完全に食べ終えている私が席を立たないのも不自然だ。

「……一瀬さんのお知り合いですか?」

 ぽつり、と。南里くんが小林くんをじっと見つめたまま呟く。南里くんの問いに、小林くんの澄んだ瞳と南里くんのくりくりした瞳を交互に見ながら返答する。

「先週まで通関部にいたの。あなたたちの1期先輩よ」

「そうなんですか!先輩なら聞きたいこといっぱいありますから、ここに座っていただきたいですね。詰めれば座れそうだと思いますけど」

 私の返答に、南里くんがガタガタと音を立てながら、ずりずりと椅子を動かしていく。4人掛けの丸テーブルは、詰めて椅子を持ってくれば5人座れるだろう、と踏んでの南里くんの行動。

 南里くんが口にした、聞きたいこと。通関部の仕事のことだけでなく、南里くんが配属される前の三木ちゃんの様子を聞きたい、ということなのだろう。南里くんの魂胆が透けて見えて、思わず苦笑いが漏れた。

「あの、私、ちょっと昼休みに総務部に行こうと思っていたので。実は給与振り込み口座の登録をしてなくって、書類を貰いに行こうと思っていたので。……私の席に座って頂いて構いませんから」

 加藤さんがそう口にして、トレーを持って席を立った。そのまま、小林くんの横を通って姿が見えなくなっていく。
 その様子に、三木ちゃんが後を追うように席を立つ。

「加藤、ちょっと待って。先輩、私、先に帰ってますね!小林、私、席代わる。椅子は持ってこなくていいわ」

 そう三木ちゃんが前半は明るく、後半は小林くんに向けていた、いつものような突き放す口調で言葉を紡ぎ、自分のトレーを手に持った。

(………まぁ、自分のことを目の前で根掘り葉掘り聞かれたく無いものね…)

 三木ちゃんの気持ちを察して、私は小さく頷いてから三木ちゃんの背中を見送った。春の陽射しを浴びて、三木ちゃんの明るいトーンの髪がキラキラと揺らめいている。

 小林くんが三木ちゃんの後ろ姿を眺めながら、少し考え込むように口を結んで立っていた。暫くしてから小林くんが足を動かして三木ちゃんが座った席に腰を下ろしていく。

「どう?販売部の仕事は」

 手持無沙汰になった手で、食べ終えたサンドイッチの包み紙を綺麗に折りたたみながら隣に座った小林くんに問いかける。

「………新しい仕事を覚えるのはやっぱり大変ですね。でも、新鮮で面白いと思っています。通関部でやっていた仕事の裏で、販売部ではこんなことをやっていたのかと感心しきりです」

 トレーに乗った紙コップに口を付けながら、小林くんがぽつりと返答してくれる。その言葉に、畜産販売部で日々奮闘している様子が目に浮かぶ。頑張ってね、と、声をあげようとした、その瞬間。

「俺、三木さんが好きなんです。で、いろいろと三木さんの好みをリサーチしていて。先週まで通関部にいたあなたならなにかご存じでないですか?」

 席についた小林くんに、直球ストレートで南里くんが言葉を投げかけた。小林くんが言葉を探すように澄んだ瞳を瞬かせ、ふい、と、南里くんから視線を外す。

「………俺も知らないですね」

 その小林くんの仕草に、その声色に。一瞬の違和感を抱いた。

(なんか……イライラしてる?)

 小林くんは普段、感情をあまり表に出さない。その澄んだ瞳に宿る感情が読めるようになったのは、私がきっと、教育係だったから、だろう。

 というか、寡黙な小林くんからイライラしているような雰囲気を感じ取るのは、私はほぼ初めてと言っていいだろう。穏やかそうな小林くんの、ある種の苛烈な一面を垣間見て少し驚く。

(………通関部といろいろと勝手が違うだろうから、その点でイライラしているのかな)

 販売部の仕事は新鮮で面白いと感じているとはいうものの。小林くんは通関部での『顧客獲得のための営業』経験はあるけれど、販売部はバイヤー……つまり、『商品を売り込む営業』だ。今までとは畑違いの『営業』の分野。覚えることも多くて大変なのだと思う。

 そんなことを考えていたら、南里くんが小林くんから私に視線を滑らせて、真っ直ぐに問いかけた。

「どんな人がタイプとかでもいいので、知ってることがあったら教えてください」

「えぇ~……そうねぇ…」

 例えそれを知っていても、南里くんに教えたくはない。だって、三木ちゃんには好きな人がいるのだから。片桐さんにそっくりな南里くんの手助けをすることは、正直、したくない。

「……片桐係長のような人ではない人がいいんじゃないですか。三木さん、えらく片桐係長のこと嫌ってましたから」

 小林くんが、私に視線を合わせて、ぽつりと言葉を紡いだ。そのまま、ほう、と息を軽く吐いて、手元のサンドイッチを口に含んでいく。小林くんの言葉に、思わず乾いた笑みが漏れた。

「あはは……それは言えてるかも」

 まるで、片桐さん2号なのだ、南里くんは。片桐さんに明らかな嫌悪感を示していた三木ちゃんが、南里くんのことを好意的に見れるわけがない。

 じっと、南里くんが食べかけのサンドイッチを手に持ったまま、そのくりくりした瞳で小林くんを見つめている。小林くんはその視線に気がついていないのか、黙々とサンドイッチを頬張っていく。

 相変わらず、小林くんはひとつひとつの所作が洗練されていて綺麗だ。思わずその所作に見惚れてしまう。

 男の人でこんなに所作が綺麗な人って、滅多にいないんじゃないんだろうか。智も食事の時の所作は綺麗だけれど、きっと小林くんの所作の上品さには敵わないだろう。

 あっという間にサンドイッチを食べ終えた小林くんが、ごちそうさまでした、と声をあげた。

 ゆっくりと、紙カップに手を伸ばして、口をつけて。椅子から立ち上がる。テラス席の屋根から射し込む木洩れ日に、小林くんのネクタイピンがキラリと煌めいて。ほわり、と、小林くんの香水の香りが漂った。

 そうして、小林くんが南里くんをじっと見つめて。

「席、ありがとうございました。では」

 来た時と同じように、ぺこり、と、私に向けて頭を下げた。小林くんがトレーを持ってテーブルから離れていく。

「ううん。お礼は加藤さんと三木ちゃんにね」

 午後も頑張って、と、口にして、ひらひらと手のひらを小林くんに振った。すっと、小林くんが背を向けて、カフェの喧騒の中に遠ざかっていく。

 その背中をぼうっと眺めて、はっと我に返る。腕時計を確認すると、もうお昼休みも半ば。

「南里くん、そろそろ私たちも帰りま…しょ……?」

 振り向いて視界に入った南里くんが、小林くんが消えていった方向をじっと見つめている。その瞳に。まるで、滾っているような、そんな感情の焔が宿っていて。思わず、言葉に詰まった。

「……南里くん?」

 私の呼びかけに、はっと我に返ったように。南里くんが私に視線を合わせて、くしゃりと笑う。

「あ、すみません。なんでしたっけ、一瀬さん」

 その屈託のない笑顔は。配属された初日に第一印象で抱いたチワワのように、可愛らしい笑顔だった。

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