俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

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本編・第三部

204 *

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 すぅ、すぅ、と。背後から聞こえてくる、規則的な寝息。私の身体の前に回された智の腕。その腕の隙間から自分の腕を伸ばしてスマホを探す。

 指先に充電コードが当たる感覚があって、少し乱暴だけれどそのコードをずるずると引っ張った。ケーブルとスマホを分離させて、スマホの電源ボタンを押して今の時刻を確認する。

(7時、かぁ……寝過ぎちゃった。そろそろ…起きよう、かな)

 今日は土曜日。お休みではあるけれど、土日もなるべく平日と同じ時間に起きるようにしている。そろそろ起きなければ。

 そうっと私の身体の前に回された智の腕を解いて、寝返りを打つ。しゅるり、と、シーツの衣擦れ音が響いた。

(……あれからずっと残業だったし、ものすごく疲れてるよねぇ…)

 心の中で小さく呟きながら、そっと智の頬に触れる。目の下の隈が思っていた以上に深くて、その隈をそっとなぞった。


 智は、三井商社の決算訂正のため、連日遅くまで残業している。特に昨晩なんて、日付が変わる頃に帰宅したくらいだ。スーツのジャケットを受け取りながら帰りの電車内で浅田さんや藤宮くんに会ったことを話しているうちから、かなり眠そうだった。
 ひとまずお風呂に入るように促したものの、しばらくしてもリビングに戻って来ず、心配になって様子を見に行くと湯船に浸かったままうとうとしていたから肝が冷えた。
 慌てて揺り起こしてベッドに向かわせると、スコン、と。眠りに落ちて―――今に、至る。


(今日は……気が済むまで寝かせておこう…)

 寝溜めはあまり身体に良くない、と知っているのだけれども。2週間ずっと働き詰めだったのだから、今日くらいは。

 智の顔から手を離して、ゆっくりと身体を起こし智を起こさないようにベッドから抜け出す。そっと、リビングと寝室を仕切るドアを閉めた。

 軽い朝食を口にして、洗濯機を回す。私もゴールデンウィーク明けから残業が続いていて、掃除も軽くしか出来ていなかった。本当は掃除機をかけたいけれど、智を起こしたくはない。フローリングワイパーでいつもよりも丁寧に掃除を進めていく。

 掃除をしながら、生活用品で不足しているものをチェックしていく。智が起きたら買い物に連れて行ってもらおう、と考えながら。

 ふい、と、壁掛け時計を見遣ると、あっという間に11時前だった。手を洗いエプロンを身につけて、昼食の準備を軽く済ませる。

 そっと。寝室とリビングを仕切るドアを開く。智はまだぐっすりと眠っているようだった。

「…………」

 音を立てないように、忍び足で。ベッドに近付いて、私がいつも寝そべる定位置に腰を下ろした。


 智は依然、気持ちよさそうに、すぅすぅ、と。深い眠りについている。
 こんな風に無防備に眠れるのは、きっと、それだけ私に心を許してるから……なのだろう。


 身につけていたエプロンを外して軽く畳み、枕の横に置いて、よいしょ、と。自分の足もベッドに引き上げる。そのままするりとかけ布団の中に潜り込んだ。

 気が済むまで寝かせておこうと思ったけれど、よく考えたら昨晩は夕食も取らずに寝入っている。今日のお昼になにも口にしなければ24時間以上食事をしていない計算になる。断食のような状態になってしまうことを鑑みると、さすがにそれは看過できない。

 あと1時間くらい寝かせれば、ちょうどお昼時になる。そのくらいになったらお腹に優しい昼食を作って起こせばいい。

「……」

 じっと。智の穏やかな寝顔を見つめる。

(………本当、大変だったんだろうなぁ…)

 私が智と出会った9月は、まだ夏の太陽が残っていて。智も顔や腕が日焼けしていた。それから冬を越して日焼けした肌が回復すると、智は元来色白なのだと気がついた、のだけれど。

 その色白な顔も、疲れの為に顔色が悪いように見える。すっとした頬から、顔の輪郭……それに顎にかけて、いつも以上に白さが際立っているように感じる。

 新部門の本格稼働に向けて仕事を頑張っている、というのも知っているし、黒川さんの一件で行っている過去の決算訂正の作業も忙しい、というのもわかっている。それに伴う疲労から、こうも顔色が白いのだ、ということも。

 でも。付き合っている智の方が、肌が白い……というのはなんだか悔しい。むぅ、と、知らず知らずのうちに口の先が尖っていく。

 胸の中にじわりと膨らんだ悔しさを跳ね除けるように、ベッドサイドに置いていた通関士のテキストに手を伸ばす。智の隣に身体を横たえたまま、ゆっくりとテキストを読み進めていく。


 すう、すぅ、という規則的な寝息と、私がページを捲る微かな音だけが響く寝室。


 ふっと気がつくと、ベッドサイドの時計はお昼を指していた。そろそろ起きて貰おう。

 手に持ったテキストをパタンと閉じていつもの位置に戻し、くるりと寝返りを打った。

 智は、相変わらずよく眠っていた。

 気になっていた目の隈も、少し薄くなっている。顔にも血色が戻って、先ほどよりは良くなったように見える。智の表情を確認して、ほぅ、と、安堵のため息をついた。

 回復したような智の表情を視認すると、まだ少し……眠らせてあげたいような気もして。

 伸ばした手のひらを智の頬に当てる。穏やかな寝顔に、穏やかな寝息。隣でこんなにリラックスしている智の姿を見られるのも彼女特権。幸せだなぁと顔が綻ぶ。

 ふい、と。智の首元に視線を向ける。5月に入ったから、私も智も寝間着を薄手のものに変えた。智の方は首元が緩くて、鎖骨より下が少しだけ見えるタイプのもの。

 その、鎖骨の下も……白い。やっぱり智は私よりも白いんじゃないか。思わず眉間に皺が寄る。

 いつだって、私の身体に所有痕を残していく智。ゴールデンウィーク中にお仕置きと称してたくさんつけられた所有痕は2週間が過ぎてほとんど消えてしまっているけれど、正直に言ってこの所有痕さえなければ、私も…智には劣るけれども肌は白い方だと自認している。

 思わず悔しくなって、噛み付いてやりたい気持ちがウズウズとせり上がってきた。けれど、しっかり寝入っている智を噛み付いて起こすのも気がひける。

(……)

 そんな智の白い肌に。私と同じように、所有痕を刻んであげれば。この悔しい気持ちが少しだけ解消されるような、そんな気がして。

 鍛えられた胸に手を当てて、鎖骨より下の……ワイシャツで隠れる位置に、きつく吸いついた。そっと唇を離すと、白い肌に主張する紅い華。

(思ったよりも……ちゃんとつくんだ…)

 白い肌に紅く咲いた…私の華。満足気に顔を綻ばせると、するりと顎を拘束されて、上を向かされる。


 強制的に上を向けさせられた私の視界に。愉しそうに細められたダークブラウンの瞳が、飛び込んできた。


「っ、お、おおっ、起きてたのっ!?」

 驚きで声が裏返る。所有痕をつけていたこと、絶対にバレている……!!
 急に襲ってくる羞恥心から顔が真っ赤になっていくのを自覚した。

「ん。ちょっと前から。何してんだろなってずっと見てた」

 くすくす、と。智が声をあげて、視界が半転する。智の顔の向こう側に……見慣れた寝室の天井。あっという間に組み敷かれたのだと理解した時には、もう遅かった。

「責任。取れよな?」

 智が意地悪く口の端を歪めてニヤリと笑う。ドク、ドク、と。普段よりも大きい鼓動の音が身体に響いている。
 智の口から投げられたその言葉が意味するところを理解してはいるけれど、念のため……おずおずと疑問を投げかけた。

「……あの。なんの…責任?」

 そっと問いかけた私の疑問に、智は喉の奥を、くくくっ、と鳴らしながら。

「決まってんだろ?になった」

 そう言葉を紡いで、私の唇を奪っていった。智の熱い舌が腔内に侵入して、舌が絡め取られていく。

「んっ、ふ……ん、んっ」

 深い口付けに、思考が乱されて。身体の奥に……焼けるように、ジリジリと火を灯されていく。

 智は片手で器用に、私の寝間着の前ボタンを外していく。起きてすぐに着替えるべきだった、寝間着のまま掃除なんてするんじゃなかった、と……思いっきり後悔しても、すでに後の祭りで。

 唇が解放されて、ぼうっとした思考をクリアにしようと深く呼吸をしていると、智の顔が移動してサワリと黒髪が頬に当たる。耳の中にまで舌を差し込まれて、思わず甲高い声があがった。

「ふ、ぅあっ……あっ……も、やっ、だっ、ご飯っ…準備して、る……のにっ」

 ピチャピチャと。淫らな水音に、聴覚が支配される。息も絶え絶えに、私が紅い華をつけた智の胸を少し押して抵抗するけれど、ふにふにとナイトブラの上から胸を揉まれて。次第に身体から力が抜けていく。

「今は知香を食べてぇの」

 智の掠れたような声。その声にどくんっと心臓が跳ねる。情欲を孕んだ、低く甘い声が。私の左の耳元でそっと響いた。

「ノルウェー行って、ゴールデンウィークで帰省。その後は残業続きでやっと知香を思う存分食べれるって思ったら、今度は俺たちの生活に章が乱入でマトモに知香に触ることだって出来やしねぇ。。ちょっとは気付けよな?」

「なっ、ななっ………っ、」

 、と。珍しく直接的に欲望をぶつけられて、顔が一気に火照る。一瞬怯んだところをするりとナイトブラが押し上げられた。

「もっ……ば、かっ…ちょ、っとおっ!」

 外気に晒された蕾がぷっくりと主張し始めている。その蕾を口に含まれて身体が大きく跳ねた。もう片方の蕾も、優しく指の腹で刺激され、弾かれて。

「あっ、ちょ、……っ、ん、っ、ふぅっ……」

 智が口にしたように。確かに、3週間近く味わっていない、何かが這い上がってくるようなこの感覚。久方ぶりの快感に、溺れてしまいそうで。思わずシーツをぎゅっと握り締めて唇を噛んだ。

 智が、自分の昂ぶりを私の腰や太ももに当ててくる。その行動が私を煽るためにわざとやっていることだ、なんて。智の性格を理解し始めた私が、気がつかないはずもない。

「もっ、ほんとっ、……意地、悪っ」

 昂ぶりを身体に当てられるだけで。これから私の身体に起こるであろう出来事を想像して、とろりと蜜が溢れていく。その感覚に、羞恥心から涙がじんわりと滲んだ。

 私よりも肌が白いのが悔しく感じて、智の鎖骨の下に所有痕をつけただけだったのに。気がつけばセックスに雪崩れ込まされている。この状況に納得がいかず、ぎゅう、と。ダークブラウンの瞳をキツく睨みあげた。

 ふっと。智が愉しそうに声をあげて笑う。

「だ~から。目ぇウルウルさせて言ったって効果ねぇぞ?」

 そうして、するり、と。寝間着のズボンの中に智の熱い手のひらが差し込まれて、もう意味をなしていないショーツに指が這わされる。

「ひゃぁっ!ちょっ、あっ……!」

 くすくす、と。智が小さく吐息を漏らしながら、ふたたび私の左耳元で囁くように声を発した。

「知香さん?まだ1度目ですけど。……こんなに濡らして、体力持たないんじゃないんですか?」

 智の声のトーンが変わる。私が弱いその声に、びくりと身体が跳ねた。
 告げられた言葉。その中の一言に、さぁっと血の気が引いていく。

「……1度、目……?」

 ギシギシと、錆びたロボットのように、カクカクとした動きで顔を左側に向けて、ダークブラウンの瞳と視線を合わせた。引き攣ったような声が自分の喉から転がっていく。

「ん?当たり前。今日は知香を目いっぱい食うつもりだけど?」

 これ見よがしな笑みを浮かべた智の薄い唇から放たれた、決定的な言葉。その言葉の意味を噛み砕けなくて呆然と切れ長の瞳を見つめていると。

「知香がそーやって可愛いことするからだろ?……じゃ、イタダキマス」

 ふっと。智が、口の端を愉しそうに吊りあげた。



 その言葉の通り。いや、もはや宣言の通り……この日は、一日中。智に思う存分、食べられた。



 悔しさから所有痕をつけた代償にしては、重すぎる気がする。そんなことを、食べられている最中、ずっと考えていた。

 智から与えられる……愛と快楽に、溺れながら。
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