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番外編/SS
You kissed me, whispering words of love. *
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このエピソードは時系列で言えばプロポーズ後(本編終章「252話」と「253話」の間)のエピソードとなります。お楽しみいただけましたら幸いです!
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自宅の地下駐車場に車が滑り込んでいく。運転席の智がギアをリバースに入れて、車を定位置に停めていくと、とん、と、車輪止めに車体が当たる感覚があって。私はシートベルトを外しながら欠伸を噛み殺しつつ、胸の中に凝り固まっていた緊張をため息にのせて吐き出すように身体をゆるりと弛緩させた。
「緊張、した……」
昨年のお盆は通関士試験の直前だったこともあり私の実家に帰省することは断念したけれど、その時に今回の年末年始の飛行機のチケットを予約していたのだ。
そして、今回は。……もちろん、結婚の挨拶を兼ねての帰省。26歳となった誕生日の日にプロポーズされ、智主体で、しかも驚くべきスピードで結婚の準備が始まった。
まずは今回の私の実家への挨拶。
9月に起こった例の事件はそのインパクトの大きさから全国ニュースで報道されてしまい、私や加藤さんの名前こそ報道されなかったものの、身内にはわかってしまう報道のされ方をしてしまった。報道があってすぐにお父さんから取り乱したような電話があって、両親にはふたたび心配をかけてしまった。
智はそのことから、私たちの結婚を反対されるのでは、と思っていたようだった。悪いのはもちろん逮捕されたあの人本人だけれども、私を危険に晒したのは自分に責任の一端がある、と……そう思っていたようで。ゴールデンウィークぶりの再会の挨拶もそこそこに私に席を外すように言って、両親と智の3人での時間もあった。そこでどういう会話がなされたのかは、私はわからない。そうしてしばらくした後に私が呼び込まれて、本題の結婚の挨拶となった。
両親は私たちの結婚をとても喜んでくれていた。智は非常に緊張していたようだったけれど、舞い上がるように智と会話を交わしていく両親の姿を見て少し涙ぐんでいたのが印象的だったように思える。
そうして、穏やかな大晦日を過ごして私の実家で新年を迎えた。数日間の滞在ののち、こちらに帰ってきた今日。空港からその足で智の実家に行っての報告。
……緊張、しないわけもなくて。初めてお会いするわけではないけれども、いざ結婚の挨拶、となると、本当に緊張した。昨晩は寝付きが悪かったし、帰りの飛行機の中でも眠れなかった。
そして、まさか今日の報告の場で、徹さんから結納の話が出るとは思っていなかった。結納、なんて私の頭になかったから本当に驚いた。最近は結納せずに顔合わせだけで済ませるカップルが多い、という知識はあったから、私たちもそうするのだろう、と思っていたけれど。
「結納はきちんとしたいと思っているよ。智本人もそういう意向だと聞いているから」
……と。今日久しぶりにお会いした徹さんは幸子さんの写真を手にして言葉を紡ぎながら、優し気な視線を私に向けて微笑んでいた。
その言葉から察するに、今日の時点で結納の話が出てきたのは智が事前に手回しをしていたから、ということ。本当にどこまで見越して行動しているのか……智の手際の鮮やかさに、ある種の末恐ろしさを感じてしまう。
そんな一連の大イベントを終えて、智の実家の近く……昨年、二年詣りに訪れた神社に立ち寄り初詣をして、こうして私たちの自宅に帰ってきた。ほっと胸を撫で下ろしているような私の様子に、智が苦笑しながらサイドブレーキを引いていく。独特のギアが噛みあう音がして、智はそのままエンジンを切りつつ助手席の私に視線を向けた。
「帰りの飛行機でも眠れてなかったろ?荷解きは俺がやるから知香はちょっと寝てな」
「え、いいよ……荷解きくらいはするよ?」
智から投げかけられた言葉に目を瞬かせながら返答する。確かに張り詰めていた緊張の糸が解けて眠気が押し寄せて来てはいるけれど、荷解きするくらいの元気はまだある、はず。
運転席から伸びて来た大きくて温かい手が私の頬を労わるように撫で、そうして私に言い含めるかのように。智が口を開きながら、細く整えられた眉をゆっくりと顰めた。
「目の下の隈、取れなくなったらどうするつもりなんだ」
「へ……?」
思わぬ言葉に、自分の喉から素っ頓狂な声が飛び出ていく。そんな私の様子にも構わず、不安気な表情をした智が頬に当てていた手を動かして、 長く角張った親指で……私の眦をそっと撫でていた。
「知香は肌が白いから青隈が目立ちやすいんだ。自分でもわかってるだろう?」
その言葉に。一瞬、息が止まった。
確かに……今朝、実家を出る直前にメイクをしていたとき。緊張からの寝不足がたたって薄っすらと隈が出来ているな、とは思っていた。けれどコンシーラーで隠しているし、そこまで目立つような隈でもないはずだったのに。
(本当、よく見てるなぁ……)
私をじっと見つめている、ダークブラウンの瞳。その瞳に、静かに射抜かれていく。
結局、私はなにひとつ智には隠し事なんて出来ないのだ、と……改めて実感した。
……けれども。
「大丈夫。ホットタオル使ったら隈は取れるだろうし、荷解きと片付けくらいはちゃんとするよ?」
頬に当てられた手に自分の手のひらを重ねながら、ニコッと笑みを返す。心配して貰えるのはありがたいことだと重々承知しているけれど、冬物ばかり詰め込んだ数日間分の衣類やお土産を詰め込んだスーツケースの荷解きを智に丸投げにはしたくはない。
確かに、智の実家に結婚の報告に行くにあたって緊張していたけれど。私の実家に結婚の挨拶と、それから数日間慣れない空間に滞在していた智の方が私よりも数倍緊張していたはずだ。おまけに私の実家から空港まで、そして帰ってきてからの運転も任せている。
目の前の智からは疲労の色なんて微塵も感じられないけれど、きっと得意のポーカーフェイスを駆使しているだけで酷く疲れているはず。寝不足からの隈が出来ているとはいえ、私だけが先に休むわけにはいかない。
私のその返答に智は不安気な表情を崩し、今度は不満そうな声色に変えて言葉を続けた。
「ホットタオル使っても取れなかったら結納でも式でも綺麗な写真が残せなくなっちまうだろう。俺のためと思って、ちょっとだけでいーから仮眠取ってくれ。頼む」
「……う…」
こんな風に、俺のために頼む、なんて言われてしまえば。それを無視してまで私の意思を貫き通すのは気が引ける。
(……)
不満気に細められ、私を真っ直ぐに見つめているダークブラウンの瞳から視線を外して少しばかり逡巡する。頬に当てられた智の手に自分の手を添えたまま、ゆっくりと目の前の智に視線を合わせた。
「……智も長時間の運転とかで疲れてるでしょう?私だけ寝ちゃうのは気が引けるの。だから荷解きする前にお互いにちょっとだけ仮眠する。これでどう?」
今は。お互いにお互いのことを想って、意見がぶつかり合っている。だから私は、その中間点を取った提案をすることにした。
「……ん、わかった。じゃ、お互いに15分だけ仮眠な?」
ふうわりと。やわらかく、ほぐれたような智の表情と、優しく細められた瞳。
きっと、私たちは同じ気持ちでいる。
……そう、実感する。
お互いに確信めいたなにかを抱いたまま、視線が絡まって。くすくすと、小さく笑いあった。
穏やかで、ゆっくりとした時間。こういう何気ない会話すらも、とても愛おしくて。とてつもなく幸せな時間を……過ごしていけている。
車のトランクからお互いのスーツケースとお土産の袋を手に持ってエントランスに足を向けた。1月の冷えた空気に白く彩られた智と私の吐息が顔に纏わりつく。
カチャリ、と、無機質な音とともにオートロックが解錠され、自動ドアが開く。そのままふたりでエレベーターに乗り込んで、久方ぶりの玄関を開いた。
「ただいま~」
「ん、ただいま」
お互いに声を上げ、自分のコートを脱いだ流れで智のコートを受け取ろうと手を伸ばすと、するり、と、智のコートが私の手に落ちてくる。その代わり、私の足元に置いていたスーツケースの取っ手を智が握り締めて、鍛えられた腕でふたつのスーツケースを持ち上げていった。
その背中を追いながらリビングに向かいふたり分のコートをハンガーにかけていくと、その間に智が暖房のリモコンを操作していた。
(……息が合ってる、なぁ)
お互いに無言のままでも、やることが決まっていれば補い合うように行動していることを実感して。こういうのを阿吽の呼吸、というのかな、と、思うと、口元が盛大に綻んでいく。
お互いに洗面台で手洗いを済ませて寝室に戻ると、ベッドから、ぽふん、と音が上がった。顔を上げると、先に布団に潜り込んでいた智が私の定位置を優しく叩いていた。
その場所に飛び込むように身体を投げると、智が少し驚いたような表情をした。その表情がひどく愛おしくて。そのまま智の腕を枕にして鍛えられた胸元にすりすりと頭を擦りつけると、智が苦笑したように掛け布団をずりあげて肩まで掛けてくれる。
「…………ちょっとだけ、な。おやすみ…」
「……ん、おやすみ」
智が先に入れてくれていた暖房のおかげで室温があがっていく。掛け布団の温かさも相まって、うとうとと微睡んで……意識が深いところまで沈んでいく。
気が付けば―――ふわふわと。緩やかに、暖かい海の中を彷徨っているような感覚に包まれていた。
大切で、心の底から愛おしい人が頬を撫でてくれているような幸せな感触に。ふっと意識が浮上する。
『智……』
この感触が、夢か、現か。判別なんて、全く出来ないけれど。頬を撫でる指先からは、愛おしむような、慈しむような、そんな感情が伝わってくる。
「……知香」
大好きな人の声がする。甘くて、低くて、私を愛して、揶揄って、意地悪して、私を翻弄する、大好きな……声。
「さ、とし……」
ゆっくりと、愛しているひとの名前を呼んだ。すると、ふっと。楽しそうな吐息の小さな音が耳に届く。
きっと……ダークブラウンの瞳を穏やかに細めて、やわらかく笑っているんだろうな、と容易に想像が出来て。私も嬉しくて、口元が綻んだ。
今度は、ふぅわりと。頭を撫でられているような感覚があった。とても気持ちよくて、それでもその手は熱くて。大きなその手で撫でられている感覚が心地よくて。離れないで欲しくて、ぎゅう、と。目の前の何かを掴んだ。
空に浮かぶ雲の上に乗って微睡んでいるような、そんな不思議な感覚を堪能していると、今度は、ぎゅう、と。優しく抱きしめられているような、そんな感覚に包まれた。
安心するにおいが鼻腔をくすぐる。私を大切に抱き締めてくれるのが嬉しくて、私もぎゅっと抱き締め返した。
「さとし……」
すると、今度は小さなキスが何度も降ってくる。雨のように、何度も何度も。唇だけでなくて、身体のあちこちに振ってくる、羽根のように軽い口付け。思わず、小さくため息が漏れた。
起きているのか眠っているのかわからない、曖昧な意識の中で。何かが押し入ってくる感覚に、大きく身体が跳ねた。
「っ、ん……さ、と……」
苦しいけれど、不快ではない。逆に……気持ちいい、感覚で。その恍惚感に酔いしれていると、何度も何度も……私の身体に教え込まれた、最奥まで貫かれたような甘い衝撃に、ぐっと息が詰まって。
ぐわり、と。意識が急浮上した。
甘い衝撃を逃がすようにはぁっと大きく息を吐き出しつつ、ぱちり、と、目を開くと。目の前には、燃えるような熱を孕んだ、切れ長の瞳があった。整った智の顔が、少しだけ苦しそうに歪められている。
「……さ、とし…?ど、したの…?」
苦しそうな表情。どうにかしてその苦痛を和らげたくて、思わず腕を伸ばして智の頬を触ろうとする、のだけれど。私の両手は、智に恋人繋ぎにされていて動かせない。智の顔の向こう側には、見慣れた天井。
どういうことかはわからないけれど、組み敷かれているということだけはわかった。それでも置かれているこの現状が飲み込めず、数度目を瞬かせる。
「……知香が悪いんだからな」
ムスッとした声で、智の薄い唇からよくわからない言葉が紡がれていく。
「へ?」
苦し気に顰められた眉。熱の籠った吐息が、はぁっと大きく吐き出される。熱い吐息が私の頬をくすぐって、思わず小さく身動ぎをした。
「結構深く寝入っているから、起こさねぇで俺だけで荷解きしようと思ったのに。頬撫でたらすっげぇ笑ってるし、俺の名前熱っぽく何度も呼ぶし」
「は、い……?」
何を言われているのか、寝起きの思考回路では、さっぱりわからない。
「何度も名前呼ぶから起きてんのかなと思って。でも呼んでも起きねぇから寝惚けてんだろうな、って思った。けど離れようとしたら服握られるし」
「……ん、んん?」
困惑したまま智の不服そうな表情を見つめていると、ふっと。口の端がゆっくりと。愉しそうにつり上がっていく。
「誘ってんのかなって思ってさ?続けたら、もっとって腰押し付けてくるから」
くくっ、と。智が喉を鳴らし、私を揶揄う様にじっと見つめて、切れ長の瞳を愉しげに歪ませた。
「……?……続けたら、って……え?」
智の表情から視線を滑らせれば、眼前にはしなやかで均衡の取れた肉体が飛び込んでくる。暖房の温かい風が私の肌を撫でていく感覚に、私も一糸纏わぬ姿になっていることを自覚した。
先ほどの微睡むような感覚の中で、最後に感じた……熱く、甘い衝撃。そうして、目の前の状況。そこから導き出される、結論。
「……!?」
さぁっと。血の気が引いていく。
状況把握を進めていくと、下腹部に感じるきつい圧迫感。智が苦しそうな表情をしていたから、正直、そちらまで気が回っていなかった。
「もう余裕ねぇから」
切なげな吐息とともに吐き出されたその言葉とともに、緩やかな律動が始まる。
「ひゃぁっ!っ、あっああっ!」
しっかりと覚醒していない身体に与えられる快楽は、いつもの倍以上に感じた。状況把握が出来るまでにクリアになった思考回路がふたたび白くぼやけていく。
ぐちゅ、ぱちゅ、と響く、淫らな水音。最奥を貫く熱い楔が生み出す強い快感に頭を打ち振るって、迫りくる大きな波を堪える。
「や、ぅ、んっ、あ、あ、ああぁっ」
あまりの快感に思わず背中と喉が反り返る。胸を智に突き出すような形になって、智がデコルテに小さくキスを落としていく。
チリチリと。薄くなった所有痕を上書きされていく、小さな痛みが走る。その間も止まらない律動。硬い楔の先端が、私の蜜壺の壁を容赦なく抉っていく。
「知香、はっ…感じ、やすいって……前から思ってたけど、な?……っ、寝惚けてっといつも以上に濡れてっから、……く、……すっげぇ、唆られた」
ぞくっとするような……強い情欲を孕んだ、視線。獣のような智に真っ直ぐに見つめられて、背筋を這い上がってくる甘美な痺れ。じっとりと、汗が滲んでいく。
「ひぅっ……っ、…ああっ、っうんっ、」
寄せては返す波に、溺れる。それだけが頭にあって、繋がれた智の手を必死に握り締めた。
「けど、帰省してて……久しぶり、だからな……ちゃんと解さねぇと、って思って……挿入るの、かなり我慢したんだ」
耳元で響く、少しだけ掠れた……低い、セクシーな声が、更に私の思考を乱していく。
「ああっ、あっ、んっ……ぅ、あ、はぁっ」
律動が止まり、今度はゆさゆさと最奥を揺られていく。何度も何度も、トン、トン、と。小刻みに揺らされる。膨らんでいく大きな何かを逃がそうと大きく息を吐くけれど。耳たぶを甘噛みされ、堪えきれないような息を吹き込まれる。
「寝惚けたまま、……ココをぐっちょぐちょにして感じてる知香さん。とっても可愛くて……壊したいって思いましたよ?」
私の、左の耳元で。一番弱い、智の声のトーンで。私の羞恥心を強く煽るような言葉がそっと囁かれる。
その言葉と、急に変わった智の声のトーンに。ばちん、と、視界が大きく弾けた。
「っ、あああっ………―――ッ!!」
何も考えられなくなる。真っ白な世界に投げ出されて、何も見えなくなる。ガクガクと身体が揺れて、突如訪れた絶頂に私の全てが支配される。
「っ、ちょ、や、ば……!!」
切羽詰まったような声とともに、智の身体の動きが止まる。ビクビクとナカが痙攣して、脈打つように蠢いていく。智の熱い楔の形が伝わって、涙が幾重もこめかみを伝っていく。
白んだ視界が緩やかに戻っていくのと同時に大きく息を吸うと、ひゅう、と音がして。喉の奥が痙攣しているのを感じた。
「……急に、イ、くなって……ほんっと、知香って俺の声弱ぇよな……」
智が整えられた眉を歪ませて呆れたように。それでも少しだけ掠れてしまった声で言葉を紡ぎ、何かを堪えるように唇を噛んだ。
「だ、ってぇっ……」
はらはらと零れ落ちる涙もそのままに、滲んだ視界のまま目の前の智を見上げる。
私が智のその声のトーンに弱いことなんて、ずっと前から分かっているくせに。それを利用して私を煽っているのは、智自身だろう。それで急にイくな、なんて、無理に決まっている。
私が伝えたいことが智には正確に伝わったのだろう。ふっと智が口の端を歪めて、不敵にわらった。それを合図に、ふたたびゆるゆると律動が始まる。
「あぁ、あっ、おく、やぁっ、あああっ、んんんん―――っ!!!」
一度達した身体。最奥を貫かれるたびに強い快感に激しく全身が戦慄いていく。
「っ、あ、いかわらず、素直、じゃねぇなぁ……気持ちいい、だろ?」
腰を打ち付けながら。智はぷっくりと主張する私の秘芽を、溢れ出た蜜を擦り付けるように自らの恥骨で撫であげていく。
「ひ、あああっ!やっ、む、りいっ」
その動きに伴ってナカの楔が壁を抉る位置が変則的になり、さらなる快感を引き出していく。イヤイヤと頭を打ち振るうも、私のイイ所を全て知っている智が容赦などしてくれるはずもなく。
シーツを握り締めて過ぎた快感を逃がそうとするけれど、私の手は智に恋人繋ぎにされたままで。逃げ場もなく許容範囲を超えてもなお止め処なく与えられる快楽に、ただただ大きな嬌声を上げながら身を任せるしかできない。
硬い先端でナカを抉られるたびに、ぐちゅり、と。大きな水音が聞こえてくる。
楔を引き抜かれて差し込まれるたびに、ぱちゅん、と。淫らな音が聞こえてくる。
いつもよりも盛大に響く水音に、智が律動を止めることなく小さくわらった。
「今年っ、初めての…セックス、に……知香も、興奮して、んな?」
「っ、やぁっ、そ、なことっ…!!」
ふたたび私の羞恥心を煽るような言葉が投げかけられて、火照った身体がさらに熱くなっていく。恥ずかしすぎて思いっきり顔を背けると、無防備な首筋にざらりとした舌が這わされた。
「うぁぁ、はぁっ、んん、も、やだっ、……っ、さ、と、しっ、」
智から与えられる愛と快楽に溺れ切ってしまった、この身体も、この感情も、全てが臨界点を突破していて。このまま上り詰めてしまえば壊れてしまいそうで、思わず悲鳴のような声で智の名前を呼んだ。
私のそんな様子に、智はふたたび小さく笑い声をあげた。はしたない喘ぎ声と、繋がった箇所から奏でられる淫らな音楽ともに熱い楔が膨張し、思いっきり最奥を貫かれていく。
「あぅっ、―――――っ!!」
「……く、知、香っ、……」
声にならない声で深い絶頂を迎える。
喉の奥が痙攣して、視界が真っ白に染まった。
智が2、3度腰を打ち付けて―――楔が、大きく爆ぜた。
お互いに目を瞑ったまま深い呼吸をしながら、寄せては返す強い余韻に浸る。パタリ、と、智の額から汗が落ちてきて、思わず目を開いた。
「……荷、解き、の、前に……お、ふろ…行かな、きゃ…」
掠れてしまった声で、ゆっくりと言葉を智に向ける。私の声に智も瞼を開けて、困ったように笑った。
「ん……そ、だな…」
楔が抜け出ていく感覚に小さくため息を漏らすと、小さなキスが、額に落とされていく。
「知香、まだ動けねぇだろ。一緒に入ろう」
智から投げかけられた言葉に思わずムッと眉を顰めた。整わない呼吸のまま、目の前のダークブラウンの瞳を睨み上げる。
「……だ、れのせいだと…」
「俺のせい」
くすくす、と。悪びれた素振りも見せずに、智が愉しげに笑いながら即答した。
そうして、お風呂場でふたたび智に襲われたのは―――言うまでもない。
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自宅の地下駐車場に車が滑り込んでいく。運転席の智がギアをリバースに入れて、車を定位置に停めていくと、とん、と、車輪止めに車体が当たる感覚があって。私はシートベルトを外しながら欠伸を噛み殺しつつ、胸の中に凝り固まっていた緊張をため息にのせて吐き出すように身体をゆるりと弛緩させた。
「緊張、した……」
昨年のお盆は通関士試験の直前だったこともあり私の実家に帰省することは断念したけれど、その時に今回の年末年始の飛行機のチケットを予約していたのだ。
そして、今回は。……もちろん、結婚の挨拶を兼ねての帰省。26歳となった誕生日の日にプロポーズされ、智主体で、しかも驚くべきスピードで結婚の準備が始まった。
まずは今回の私の実家への挨拶。
9月に起こった例の事件はそのインパクトの大きさから全国ニュースで報道されてしまい、私や加藤さんの名前こそ報道されなかったものの、身内にはわかってしまう報道のされ方をしてしまった。報道があってすぐにお父さんから取り乱したような電話があって、両親にはふたたび心配をかけてしまった。
智はそのことから、私たちの結婚を反対されるのでは、と思っていたようだった。悪いのはもちろん逮捕されたあの人本人だけれども、私を危険に晒したのは自分に責任の一端がある、と……そう思っていたようで。ゴールデンウィークぶりの再会の挨拶もそこそこに私に席を外すように言って、両親と智の3人での時間もあった。そこでどういう会話がなされたのかは、私はわからない。そうしてしばらくした後に私が呼び込まれて、本題の結婚の挨拶となった。
両親は私たちの結婚をとても喜んでくれていた。智は非常に緊張していたようだったけれど、舞い上がるように智と会話を交わしていく両親の姿を見て少し涙ぐんでいたのが印象的だったように思える。
そうして、穏やかな大晦日を過ごして私の実家で新年を迎えた。数日間の滞在ののち、こちらに帰ってきた今日。空港からその足で智の実家に行っての報告。
……緊張、しないわけもなくて。初めてお会いするわけではないけれども、いざ結婚の挨拶、となると、本当に緊張した。昨晩は寝付きが悪かったし、帰りの飛行機の中でも眠れなかった。
そして、まさか今日の報告の場で、徹さんから結納の話が出るとは思っていなかった。結納、なんて私の頭になかったから本当に驚いた。最近は結納せずに顔合わせだけで済ませるカップルが多い、という知識はあったから、私たちもそうするのだろう、と思っていたけれど。
「結納はきちんとしたいと思っているよ。智本人もそういう意向だと聞いているから」
……と。今日久しぶりにお会いした徹さんは幸子さんの写真を手にして言葉を紡ぎながら、優し気な視線を私に向けて微笑んでいた。
その言葉から察するに、今日の時点で結納の話が出てきたのは智が事前に手回しをしていたから、ということ。本当にどこまで見越して行動しているのか……智の手際の鮮やかさに、ある種の末恐ろしさを感じてしまう。
そんな一連の大イベントを終えて、智の実家の近く……昨年、二年詣りに訪れた神社に立ち寄り初詣をして、こうして私たちの自宅に帰ってきた。ほっと胸を撫で下ろしているような私の様子に、智が苦笑しながらサイドブレーキを引いていく。独特のギアが噛みあう音がして、智はそのままエンジンを切りつつ助手席の私に視線を向けた。
「帰りの飛行機でも眠れてなかったろ?荷解きは俺がやるから知香はちょっと寝てな」
「え、いいよ……荷解きくらいはするよ?」
智から投げかけられた言葉に目を瞬かせながら返答する。確かに張り詰めていた緊張の糸が解けて眠気が押し寄せて来てはいるけれど、荷解きするくらいの元気はまだある、はず。
運転席から伸びて来た大きくて温かい手が私の頬を労わるように撫で、そうして私に言い含めるかのように。智が口を開きながら、細く整えられた眉をゆっくりと顰めた。
「目の下の隈、取れなくなったらどうするつもりなんだ」
「へ……?」
思わぬ言葉に、自分の喉から素っ頓狂な声が飛び出ていく。そんな私の様子にも構わず、不安気な表情をした智が頬に当てていた手を動かして、 長く角張った親指で……私の眦をそっと撫でていた。
「知香は肌が白いから青隈が目立ちやすいんだ。自分でもわかってるだろう?」
その言葉に。一瞬、息が止まった。
確かに……今朝、実家を出る直前にメイクをしていたとき。緊張からの寝不足がたたって薄っすらと隈が出来ているな、とは思っていた。けれどコンシーラーで隠しているし、そこまで目立つような隈でもないはずだったのに。
(本当、よく見てるなぁ……)
私をじっと見つめている、ダークブラウンの瞳。その瞳に、静かに射抜かれていく。
結局、私はなにひとつ智には隠し事なんて出来ないのだ、と……改めて実感した。
……けれども。
「大丈夫。ホットタオル使ったら隈は取れるだろうし、荷解きと片付けくらいはちゃんとするよ?」
頬に当てられた手に自分の手のひらを重ねながら、ニコッと笑みを返す。心配して貰えるのはありがたいことだと重々承知しているけれど、冬物ばかり詰め込んだ数日間分の衣類やお土産を詰め込んだスーツケースの荷解きを智に丸投げにはしたくはない。
確かに、智の実家に結婚の報告に行くにあたって緊張していたけれど。私の実家に結婚の挨拶と、それから数日間慣れない空間に滞在していた智の方が私よりも数倍緊張していたはずだ。おまけに私の実家から空港まで、そして帰ってきてからの運転も任せている。
目の前の智からは疲労の色なんて微塵も感じられないけれど、きっと得意のポーカーフェイスを駆使しているだけで酷く疲れているはず。寝不足からの隈が出来ているとはいえ、私だけが先に休むわけにはいかない。
私のその返答に智は不安気な表情を崩し、今度は不満そうな声色に変えて言葉を続けた。
「ホットタオル使っても取れなかったら結納でも式でも綺麗な写真が残せなくなっちまうだろう。俺のためと思って、ちょっとだけでいーから仮眠取ってくれ。頼む」
「……う…」
こんな風に、俺のために頼む、なんて言われてしまえば。それを無視してまで私の意思を貫き通すのは気が引ける。
(……)
不満気に細められ、私を真っ直ぐに見つめているダークブラウンの瞳から視線を外して少しばかり逡巡する。頬に当てられた智の手に自分の手を添えたまま、ゆっくりと目の前の智に視線を合わせた。
「……智も長時間の運転とかで疲れてるでしょう?私だけ寝ちゃうのは気が引けるの。だから荷解きする前にお互いにちょっとだけ仮眠する。これでどう?」
今は。お互いにお互いのことを想って、意見がぶつかり合っている。だから私は、その中間点を取った提案をすることにした。
「……ん、わかった。じゃ、お互いに15分だけ仮眠な?」
ふうわりと。やわらかく、ほぐれたような智の表情と、優しく細められた瞳。
きっと、私たちは同じ気持ちでいる。
……そう、実感する。
お互いに確信めいたなにかを抱いたまま、視線が絡まって。くすくすと、小さく笑いあった。
穏やかで、ゆっくりとした時間。こういう何気ない会話すらも、とても愛おしくて。とてつもなく幸せな時間を……過ごしていけている。
車のトランクからお互いのスーツケースとお土産の袋を手に持ってエントランスに足を向けた。1月の冷えた空気に白く彩られた智と私の吐息が顔に纏わりつく。
カチャリ、と、無機質な音とともにオートロックが解錠され、自動ドアが開く。そのままふたりでエレベーターに乗り込んで、久方ぶりの玄関を開いた。
「ただいま~」
「ん、ただいま」
お互いに声を上げ、自分のコートを脱いだ流れで智のコートを受け取ろうと手を伸ばすと、するり、と、智のコートが私の手に落ちてくる。その代わり、私の足元に置いていたスーツケースの取っ手を智が握り締めて、鍛えられた腕でふたつのスーツケースを持ち上げていった。
その背中を追いながらリビングに向かいふたり分のコートをハンガーにかけていくと、その間に智が暖房のリモコンを操作していた。
(……息が合ってる、なぁ)
お互いに無言のままでも、やることが決まっていれば補い合うように行動していることを実感して。こういうのを阿吽の呼吸、というのかな、と、思うと、口元が盛大に綻んでいく。
お互いに洗面台で手洗いを済ませて寝室に戻ると、ベッドから、ぽふん、と音が上がった。顔を上げると、先に布団に潜り込んでいた智が私の定位置を優しく叩いていた。
その場所に飛び込むように身体を投げると、智が少し驚いたような表情をした。その表情がひどく愛おしくて。そのまま智の腕を枕にして鍛えられた胸元にすりすりと頭を擦りつけると、智が苦笑したように掛け布団をずりあげて肩まで掛けてくれる。
「…………ちょっとだけ、な。おやすみ…」
「……ん、おやすみ」
智が先に入れてくれていた暖房のおかげで室温があがっていく。掛け布団の温かさも相まって、うとうとと微睡んで……意識が深いところまで沈んでいく。
気が付けば―――ふわふわと。緩やかに、暖かい海の中を彷徨っているような感覚に包まれていた。
大切で、心の底から愛おしい人が頬を撫でてくれているような幸せな感触に。ふっと意識が浮上する。
『智……』
この感触が、夢か、現か。判別なんて、全く出来ないけれど。頬を撫でる指先からは、愛おしむような、慈しむような、そんな感情が伝わってくる。
「……知香」
大好きな人の声がする。甘くて、低くて、私を愛して、揶揄って、意地悪して、私を翻弄する、大好きな……声。
「さ、とし……」
ゆっくりと、愛しているひとの名前を呼んだ。すると、ふっと。楽しそうな吐息の小さな音が耳に届く。
きっと……ダークブラウンの瞳を穏やかに細めて、やわらかく笑っているんだろうな、と容易に想像が出来て。私も嬉しくて、口元が綻んだ。
今度は、ふぅわりと。頭を撫でられているような感覚があった。とても気持ちよくて、それでもその手は熱くて。大きなその手で撫でられている感覚が心地よくて。離れないで欲しくて、ぎゅう、と。目の前の何かを掴んだ。
空に浮かぶ雲の上に乗って微睡んでいるような、そんな不思議な感覚を堪能していると、今度は、ぎゅう、と。優しく抱きしめられているような、そんな感覚に包まれた。
安心するにおいが鼻腔をくすぐる。私を大切に抱き締めてくれるのが嬉しくて、私もぎゅっと抱き締め返した。
「さとし……」
すると、今度は小さなキスが何度も降ってくる。雨のように、何度も何度も。唇だけでなくて、身体のあちこちに振ってくる、羽根のように軽い口付け。思わず、小さくため息が漏れた。
起きているのか眠っているのかわからない、曖昧な意識の中で。何かが押し入ってくる感覚に、大きく身体が跳ねた。
「っ、ん……さ、と……」
苦しいけれど、不快ではない。逆に……気持ちいい、感覚で。その恍惚感に酔いしれていると、何度も何度も……私の身体に教え込まれた、最奥まで貫かれたような甘い衝撃に、ぐっと息が詰まって。
ぐわり、と。意識が急浮上した。
甘い衝撃を逃がすようにはぁっと大きく息を吐き出しつつ、ぱちり、と、目を開くと。目の前には、燃えるような熱を孕んだ、切れ長の瞳があった。整った智の顔が、少しだけ苦しそうに歪められている。
「……さ、とし…?ど、したの…?」
苦しそうな表情。どうにかしてその苦痛を和らげたくて、思わず腕を伸ばして智の頬を触ろうとする、のだけれど。私の両手は、智に恋人繋ぎにされていて動かせない。智の顔の向こう側には、見慣れた天井。
どういうことかはわからないけれど、組み敷かれているということだけはわかった。それでも置かれているこの現状が飲み込めず、数度目を瞬かせる。
「……知香が悪いんだからな」
ムスッとした声で、智の薄い唇からよくわからない言葉が紡がれていく。
「へ?」
苦し気に顰められた眉。熱の籠った吐息が、はぁっと大きく吐き出される。熱い吐息が私の頬をくすぐって、思わず小さく身動ぎをした。
「結構深く寝入っているから、起こさねぇで俺だけで荷解きしようと思ったのに。頬撫でたらすっげぇ笑ってるし、俺の名前熱っぽく何度も呼ぶし」
「は、い……?」
何を言われているのか、寝起きの思考回路では、さっぱりわからない。
「何度も名前呼ぶから起きてんのかなと思って。でも呼んでも起きねぇから寝惚けてんだろうな、って思った。けど離れようとしたら服握られるし」
「……ん、んん?」
困惑したまま智の不服そうな表情を見つめていると、ふっと。口の端がゆっくりと。愉しそうにつり上がっていく。
「誘ってんのかなって思ってさ?続けたら、もっとって腰押し付けてくるから」
くくっ、と。智が喉を鳴らし、私を揶揄う様にじっと見つめて、切れ長の瞳を愉しげに歪ませた。
「……?……続けたら、って……え?」
智の表情から視線を滑らせれば、眼前にはしなやかで均衡の取れた肉体が飛び込んでくる。暖房の温かい風が私の肌を撫でていく感覚に、私も一糸纏わぬ姿になっていることを自覚した。
先ほどの微睡むような感覚の中で、最後に感じた……熱く、甘い衝撃。そうして、目の前の状況。そこから導き出される、結論。
「……!?」
さぁっと。血の気が引いていく。
状況把握を進めていくと、下腹部に感じるきつい圧迫感。智が苦しそうな表情をしていたから、正直、そちらまで気が回っていなかった。
「もう余裕ねぇから」
切なげな吐息とともに吐き出されたその言葉とともに、緩やかな律動が始まる。
「ひゃぁっ!っ、あっああっ!」
しっかりと覚醒していない身体に与えられる快楽は、いつもの倍以上に感じた。状況把握が出来るまでにクリアになった思考回路がふたたび白くぼやけていく。
ぐちゅ、ぱちゅ、と響く、淫らな水音。最奥を貫く熱い楔が生み出す強い快感に頭を打ち振るって、迫りくる大きな波を堪える。
「や、ぅ、んっ、あ、あ、ああぁっ」
あまりの快感に思わず背中と喉が反り返る。胸を智に突き出すような形になって、智がデコルテに小さくキスを落としていく。
チリチリと。薄くなった所有痕を上書きされていく、小さな痛みが走る。その間も止まらない律動。硬い楔の先端が、私の蜜壺の壁を容赦なく抉っていく。
「知香、はっ…感じ、やすいって……前から思ってたけど、な?……っ、寝惚けてっといつも以上に濡れてっから、……く、……すっげぇ、唆られた」
ぞくっとするような……強い情欲を孕んだ、視線。獣のような智に真っ直ぐに見つめられて、背筋を這い上がってくる甘美な痺れ。じっとりと、汗が滲んでいく。
「ひぅっ……っ、…ああっ、っうんっ、」
寄せては返す波に、溺れる。それだけが頭にあって、繋がれた智の手を必死に握り締めた。
「けど、帰省してて……久しぶり、だからな……ちゃんと解さねぇと、って思って……挿入るの、かなり我慢したんだ」
耳元で響く、少しだけ掠れた……低い、セクシーな声が、更に私の思考を乱していく。
「ああっ、あっ、んっ……ぅ、あ、はぁっ」
律動が止まり、今度はゆさゆさと最奥を揺られていく。何度も何度も、トン、トン、と。小刻みに揺らされる。膨らんでいく大きな何かを逃がそうと大きく息を吐くけれど。耳たぶを甘噛みされ、堪えきれないような息を吹き込まれる。
「寝惚けたまま、……ココをぐっちょぐちょにして感じてる知香さん。とっても可愛くて……壊したいって思いましたよ?」
私の、左の耳元で。一番弱い、智の声のトーンで。私の羞恥心を強く煽るような言葉がそっと囁かれる。
その言葉と、急に変わった智の声のトーンに。ばちん、と、視界が大きく弾けた。
「っ、あああっ………―――ッ!!」
何も考えられなくなる。真っ白な世界に投げ出されて、何も見えなくなる。ガクガクと身体が揺れて、突如訪れた絶頂に私の全てが支配される。
「っ、ちょ、や、ば……!!」
切羽詰まったような声とともに、智の身体の動きが止まる。ビクビクとナカが痙攣して、脈打つように蠢いていく。智の熱い楔の形が伝わって、涙が幾重もこめかみを伝っていく。
白んだ視界が緩やかに戻っていくのと同時に大きく息を吸うと、ひゅう、と音がして。喉の奥が痙攣しているのを感じた。
「……急に、イ、くなって……ほんっと、知香って俺の声弱ぇよな……」
智が整えられた眉を歪ませて呆れたように。それでも少しだけ掠れてしまった声で言葉を紡ぎ、何かを堪えるように唇を噛んだ。
「だ、ってぇっ……」
はらはらと零れ落ちる涙もそのままに、滲んだ視界のまま目の前の智を見上げる。
私が智のその声のトーンに弱いことなんて、ずっと前から分かっているくせに。それを利用して私を煽っているのは、智自身だろう。それで急にイくな、なんて、無理に決まっている。
私が伝えたいことが智には正確に伝わったのだろう。ふっと智が口の端を歪めて、不敵にわらった。それを合図に、ふたたびゆるゆると律動が始まる。
「あぁ、あっ、おく、やぁっ、あああっ、んんんん―――っ!!!」
一度達した身体。最奥を貫かれるたびに強い快感に激しく全身が戦慄いていく。
「っ、あ、いかわらず、素直、じゃねぇなぁ……気持ちいい、だろ?」
腰を打ち付けながら。智はぷっくりと主張する私の秘芽を、溢れ出た蜜を擦り付けるように自らの恥骨で撫であげていく。
「ひ、あああっ!やっ、む、りいっ」
その動きに伴ってナカの楔が壁を抉る位置が変則的になり、さらなる快感を引き出していく。イヤイヤと頭を打ち振るうも、私のイイ所を全て知っている智が容赦などしてくれるはずもなく。
シーツを握り締めて過ぎた快感を逃がそうとするけれど、私の手は智に恋人繋ぎにされたままで。逃げ場もなく許容範囲を超えてもなお止め処なく与えられる快楽に、ただただ大きな嬌声を上げながら身を任せるしかできない。
硬い先端でナカを抉られるたびに、ぐちゅり、と。大きな水音が聞こえてくる。
楔を引き抜かれて差し込まれるたびに、ぱちゅん、と。淫らな音が聞こえてくる。
いつもよりも盛大に響く水音に、智が律動を止めることなく小さくわらった。
「今年っ、初めての…セックス、に……知香も、興奮して、んな?」
「っ、やぁっ、そ、なことっ…!!」
ふたたび私の羞恥心を煽るような言葉が投げかけられて、火照った身体がさらに熱くなっていく。恥ずかしすぎて思いっきり顔を背けると、無防備な首筋にざらりとした舌が這わされた。
「うぁぁ、はぁっ、んん、も、やだっ、……っ、さ、と、しっ、」
智から与えられる愛と快楽に溺れ切ってしまった、この身体も、この感情も、全てが臨界点を突破していて。このまま上り詰めてしまえば壊れてしまいそうで、思わず悲鳴のような声で智の名前を呼んだ。
私のそんな様子に、智はふたたび小さく笑い声をあげた。はしたない喘ぎ声と、繋がった箇所から奏でられる淫らな音楽ともに熱い楔が膨張し、思いっきり最奥を貫かれていく。
「あぅっ、―――――っ!!」
「……く、知、香っ、……」
声にならない声で深い絶頂を迎える。
喉の奥が痙攣して、視界が真っ白に染まった。
智が2、3度腰を打ち付けて―――楔が、大きく爆ぜた。
お互いに目を瞑ったまま深い呼吸をしながら、寄せては返す強い余韻に浸る。パタリ、と、智の額から汗が落ちてきて、思わず目を開いた。
「……荷、解き、の、前に……お、ふろ…行かな、きゃ…」
掠れてしまった声で、ゆっくりと言葉を智に向ける。私の声に智も瞼を開けて、困ったように笑った。
「ん……そ、だな…」
楔が抜け出ていく感覚に小さくため息を漏らすと、小さなキスが、額に落とされていく。
「知香、まだ動けねぇだろ。一緒に入ろう」
智から投げかけられた言葉に思わずムッと眉を顰めた。整わない呼吸のまま、目の前のダークブラウンの瞳を睨み上げる。
「……だ、れのせいだと…」
「俺のせい」
くすくす、と。悪びれた素振りも見せずに、智が愉しげに笑いながら即答した。
そうして、お風呂場でふたたび智に襲われたのは―――言うまでもない。
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