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【ナル】握り潰したカカオ
しおりを挟む「おじゃましまーす」
軽快な声でリビングに入って、キョロっと辺りを見渡した。電気は点いてなくて、カーテンレースを貫通して夕方の淡い陽が薄暗い部屋を照らす。
今日はバレンタインだから。日頃仲良くしてくれるつぼみちゃんにチョコを渡そうと思って。
再度キョロキョロと辺りを見渡して、ことりとリビングのテーブルにチョコを2つ置いた。
一つは、ほんのり甘い……彼女が好きだと言っていたアールグレイのチョコ。もう一つは……カカオ90%の真っ黒なチョコレート。
チョコを置いたすぐ其処にあるノートパソコン。
autumn イチ ゼロ ゼロ ハチ と打ち込んでパソコンを起動。立ち上がったパソコンの画面を覗き込み───へたりと床に座り込んだ。
───目に写ったのは、吐瀉物に膝をつけて嗚咽と共に泣きじゃくる大好きな親友と、一目で自由が利かないんだと判断出来る……私の……大切な人。
スピーカーから漏れ出る音声なんて耳に入って来なくて、ヒュッと、喉が鳴った。
バクバク鼓動が速り息が荒くなる。
はっはっ、と荒い息を吐き今一度画面に目を向ければ彼の肩に頭を預け噦り上げている親友と何かを悟った様な、決意を固めたかの様な目をしている私の大切な人。
ただ判るのは、もう、元の関係には戻れないという事。
肩が震えて、次第に笑いが込み上げて来る。クツクツ喉が鳴り、堪え切るのを忘れて「っはは!」って声を狭い部屋に響かせた。
───あぁ、いけない。この儘だと二人に聞えちゃう。
込み上げて来る笑いを何とか抑え込んでそっとパソコンを閉じた。
つぼみちゃんが彼の事を好きだと知っていたから。私の恋人に想いを寄せてるのを私は知っていたから。
───それなら私は、身を引かないとだよね?
だって私はりぶらくんの恋人で、つぼみちゃんの親友なんだから。大切で大好きな二人が幸せになる様願い、手助けするのは当たり前でしょ?
未だ治まらない笑いをグッと堪えながらゆっくりと立ち上がり、チョコと一緒に置いた真っ白な何も書いてない……否、書かなかったメッセージカードを手に取り、赤ぁいペンで『お幸せに』と書いたら踵を返して外へ。
外へ出た瞬間冷たい外気が無遠慮に体温を奪い去っていく。はぁ……と手に白い息を吐いて徐ろに空を見ればグラデーションがかかっていて。
不意に視界が霞始め空に靄がかかる。目に張った水を指で横に流し真っ直ぐ前を向いた。
私が思考した事が一般的に良くない事でも、決断をし、実行に移ったのは彼等だから。
自分で考えて心理を利用し陥れた事に変わりはないから。
そう、自分に言い聞かせて後悔なんてないと心の中で言い張って。
頬を伝う生暖かな涙も、心の奥底で芽を咲かせる後悔も全部全部全部全部知らないふり気付かないフリをして。
───後ろ髪を引かれる想いも全て気の所為だと自分に言い聞かせる様に歩を進めた──……。
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