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side A ジュリアの物語
第5話
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「・・・あれ?」
目を覚まして視界に入った天井に違和感を覚えて、つい呟いた。
だんだんと意識がハッキリとしてきて思い出した。
そうだ、私、公爵家の養女になったのだった。
カーテンを開けて、優しい光を浴びながら背伸びをする。
バルコニーに出てみると、美しい庭園がよく見える。
「まさか、こんな事になるなんて、未だに夢を見ているみたいだわ。」
このめまぐるしい一ヶ月の出来事を思い起こす。
見たこともないような豪華で華やかな庭園を見ながら、あの優しい両親に囲まれて暮らした故郷は、遠い世界になってしまった、と思った。
寂しくなって涙が溢れてくる。
当たり前にそこにあった幸せは、泡のように消えてしまった。
当たり前だと思っていた未来は、跡形も無く消えてしまった。
公爵様を頼って、こんな場違いな所に来てしまって、本当に良かったのだろうか。
昨日初めてお会いした、小公爵様のことを思い出す。
「公爵様にそっくりだったけれど、あまり似てなかったな・・・。」
見た目はとてもよく似てらした。
だけど、どこか冷たい印象の小公爵様は、とても優しい公爵様とは似ていないなと感じた。
「仲良くなれるのかな・・・。」
従弟達のことを思いだすと、不安になってくる。
私が養女になったことで、小公爵様に迷惑がかかるのでは無いか。
どうしてそこまで考えてから養女にならなかったのか。
自分の考えの甘さに情けなくなってくる。
「なるべくご迷惑をかけないように気をつけなきゃ。」
ここは子爵家じゃないのだから。
まずは今後の過ごし方について、公爵様と小公爵様、ううん、お義父様とお義兄様にきちんと確認しよう。
そう気持ちを切り替えて、メイドを呼んで身支度を整えた。
○○○
「おはようございます、お義父様、お義兄様。」
食堂へお二人が入ってこられたのを見て、その場に立ち上がり挨拶をした。
「おはよう、ジュリア。そんなに畏まらなくていい、楽にしなさい。家族になったのだから。」
微笑みながら、そう声をかけてくださるお義父様。
本当に優しい方だな。
「ありがとうございます。」
笑顔でそう答えていると、お義父様は入り口で立ち止まっているお義兄様に目を向ける。
「ライナス、何をしている。早く席につきなさい。」
そう促されて、お義兄様が席につかれる。
「すみません、なんだかまだ慣れなくて。」
どうしよう、『まだ慣れない』っていうのは、やっぱり私の事よね?
突然義妹ができたと言われても、困るに決まっている。
「すみません。」
そう言った私の声は、すごく小さな声になってしまった。
「あぁ、いや、気にしないで。」
お義兄様のそっけない態度に思わず体が縮こまってしまう。
「ジュリア、ライナスの事は気にしなくて良い。冷める前に朝食を食べよう。」
お義父様にそう優しく言ってもらうと安心する。
「はい。」
まだ、お会いしたばかりだもの。
慣れないのも当たり前よね。
緊張しすぎないようにしよう。
お義父様がそうしてくれたように、少しずつ。
少しずつ慣れていけたらいいな。
「お、おいしい・・・!」
気分を切り替えて食べ始めた公爵家の朝食が、あまりにも美味しくて思わず呟いた。
まさかそれを聞いて、お二人が優しい顔をしていたとは気付かなかった。
目を覚まして視界に入った天井に違和感を覚えて、つい呟いた。
だんだんと意識がハッキリとしてきて思い出した。
そうだ、私、公爵家の養女になったのだった。
カーテンを開けて、優しい光を浴びながら背伸びをする。
バルコニーに出てみると、美しい庭園がよく見える。
「まさか、こんな事になるなんて、未だに夢を見ているみたいだわ。」
このめまぐるしい一ヶ月の出来事を思い起こす。
見たこともないような豪華で華やかな庭園を見ながら、あの優しい両親に囲まれて暮らした故郷は、遠い世界になってしまった、と思った。
寂しくなって涙が溢れてくる。
当たり前にそこにあった幸せは、泡のように消えてしまった。
当たり前だと思っていた未来は、跡形も無く消えてしまった。
公爵様を頼って、こんな場違いな所に来てしまって、本当に良かったのだろうか。
昨日初めてお会いした、小公爵様のことを思い出す。
「公爵様にそっくりだったけれど、あまり似てなかったな・・・。」
見た目はとてもよく似てらした。
だけど、どこか冷たい印象の小公爵様は、とても優しい公爵様とは似ていないなと感じた。
「仲良くなれるのかな・・・。」
従弟達のことを思いだすと、不安になってくる。
私が養女になったことで、小公爵様に迷惑がかかるのでは無いか。
どうしてそこまで考えてから養女にならなかったのか。
自分の考えの甘さに情けなくなってくる。
「なるべくご迷惑をかけないように気をつけなきゃ。」
ここは子爵家じゃないのだから。
まずは今後の過ごし方について、公爵様と小公爵様、ううん、お義父様とお義兄様にきちんと確認しよう。
そう気持ちを切り替えて、メイドを呼んで身支度を整えた。
○○○
「おはようございます、お義父様、お義兄様。」
食堂へお二人が入ってこられたのを見て、その場に立ち上がり挨拶をした。
「おはよう、ジュリア。そんなに畏まらなくていい、楽にしなさい。家族になったのだから。」
微笑みながら、そう声をかけてくださるお義父様。
本当に優しい方だな。
「ありがとうございます。」
笑顔でそう答えていると、お義父様は入り口で立ち止まっているお義兄様に目を向ける。
「ライナス、何をしている。早く席につきなさい。」
そう促されて、お義兄様が席につかれる。
「すみません、なんだかまだ慣れなくて。」
どうしよう、『まだ慣れない』っていうのは、やっぱり私の事よね?
突然義妹ができたと言われても、困るに決まっている。
「すみません。」
そう言った私の声は、すごく小さな声になってしまった。
「あぁ、いや、気にしないで。」
お義兄様のそっけない態度に思わず体が縮こまってしまう。
「ジュリア、ライナスの事は気にしなくて良い。冷める前に朝食を食べよう。」
お義父様にそう優しく言ってもらうと安心する。
「はい。」
まだ、お会いしたばかりだもの。
慣れないのも当たり前よね。
緊張しすぎないようにしよう。
お義父様がそうしてくれたように、少しずつ。
少しずつ慣れていけたらいいな。
「お、おいしい・・・!」
気分を切り替えて食べ始めた公爵家の朝食が、あまりにも美味しくて思わず呟いた。
まさかそれを聞いて、お二人が優しい顔をしていたとは気付かなかった。
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