契約結婚~彼には愛する人がいる~

よしたけ たけこ

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第19話 side ネイサン

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僕はネイサン・トルコーダ。トルコーダ侯爵家の養子で、跡取りだ。

もとはネイサン・サルベール。サルベール伯爵家の三男だった。
サルベール伯爵家は子沢山で、僕には兄が二人と姉と妹がいた。
三男の僕は、将来どこかの婿に入るか家を出るかになるところだったから、格上の候爵家に養子に入ることになって両親は喜んでいた。
家族と離れるのは寂しいけれど、自分の将来を考えれば幸運な事だと思うことにした。

義父であるアーネスト様とは養子になる前に何回も会った。
厳しそうでちょっとぶっきらぼうな感じの人。仲良くなれるのか不安だった。

だから、すごく緊張しながらトルコーダ家にやって来たんだけど。
お義母様と会ってビックリした。
なんかキラキラしてた。それに、すごく優しそうな人だなって思った。
アーネスト様の奥様がこんな人だなんて、ちょっと意外って思った。

そして何故か、お義母様って呼んだら、ほんの一瞬だけ悲しそうな顔をして。
すぐに優しい顔に戻って、名前で呼ぶように言われた。
どうして?いいのかな?って思ってアーネスト様を見たら頷いた。

エレン様って名前で呼んだら、ホッとした顔をしていた。
何故だろうって思ったけれど、教えられていないことは聞いてはいけないのかなと思って我慢した。

不思議に思っていることはあるけれど、エレン様がすごく優しくてすぐに仲良くなれた。
今ではエレン様の温室で花のお世話を手伝ったり、エレン様とお茶をしながらお話するのが大好きだ。

そんな僕とエレン様の仲の良さにヤキモチをやいたのか、お義父さまも一緒にお茶をしたいと言い出して、3人でお茶会をすることになった日に異変が起きた。

自分から言い出したくせに、お義父様は来なかった。
エレン様は悲しそうな寂しそうな顔をして、よく分からない話を執事のリチャードとしてから部屋に戻って行かれた。
その後はリチャードもアンもトーマスも、他の使用人達も。皆が悲しそうな顔をしていた。

そしてお義父様が家に帰ってこなくなった。
3日後にやっと帰ってきたと思ったら、お義父様に呼ばれた。

○○○

「旦那様、ネイサン様がいらっしゃいました。」

「入れ。」

お義父様の書斎に入る。
ソファーに座るように言われて腰掛けると、向かいにお義父様が座った。

「ネイサンに話しておかなければならないことがある。」

なんか怖いな・・・。

「はい、なんでしょうか。」

「実は、私とエレンはいずれ離縁することが決まっている契約結婚だ。」

・・・え?

「私にはずっと昔、学生時代から結婚の約束をしている愛する女性がいる。しかし彼女は魔物の攻撃にあい、20年近く眠ったままだ。だから爵位を継承するためにエレンと結婚した。」

え、え、ちょっとまって。なにそれ。

「私の妻になるべき女性はアリスという。アリスが目覚めた時には、速やかにエレンとは離縁しアリスと結婚する事になっている。ネイサンも、そのつもりでいるように。」

え。ちょっと頭が追いついていかない。

「え・・・っと。それはエレン様もご承知の上だということですか?」

「そうだ。婚約前に契約書を交わしていて、結婚前にも再度確認している。・・・既に離縁届にもサインしている。」

うわー。なんだそれ。かなりショックだ。

「そして、ここ数日帰ってこられなかったのは、アリスの容態が悪かったからだ。これから私はアリスのことを優先するから、邸に居られない事が増える。ネイサンはこれまで以上に勉学と訓練に励むように。話は以上だ。」

「・・・はい。」

混乱したまま自室へ戻る。

だんだん義両親と仲良くなって、家族らしくなってきたと思っていたのに。
はじめから家族なんかじゃなかったんだ。

不思議に思っていたこともこれで全て納得した。

なぜ、エレン様をお義母様と呼んではいけないのか
なぜ、使用人達もエレン様を名前で呼ぶのか
なぜ、エレン様の部屋がお義父様の部屋から一番遠いところにあるのか
なぜ、エレン様が時々悲しそうな寂しそうな顔をしているのか


だけど、僕には分からない。
アリスとかいう人を愛してるのに他の人と結婚するなんて。
しかも契約だって、お義父様には何の損もないけど、エレン様は損しかないじゃないか。
どうしてそんなに酷い契約を結んだのだろう。

それに、お義父様はエレン様の事を好きなように見える。
本当にエレン様と離婚してアリスとかいう人と結婚するのかな?

僕が子どもだから分からないのかな。
でも、いろいろと考えてみたら、お義父様って最低な男だなって思ってきた。

よし、エレン様の事は僕が幸せにしよう!
だってあんな人じゃ、きっと誰も幸せにできないよ。
でも今の僕じゃ、まだお義父さまには勝てない・・・。

アリスとか言う人。
どうか、僕が大人になるまで眠っていてください。
僕がエレン様を救い出せるようになるまで。
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