僕は花を手折る

ことわ子

文字の大きさ
13 / 21

花を手折るまで後、2日【1】

しおりを挟む
「リシュ! ねぇ、リシュってば!」

 自室にて一人、机に向かって一心不乱に手紙を書いている時だった。
 突然背後から女の人に声をかけられ、僕は慌てて立ち上がった。
 書きかけの手紙が落ちたのも気づかずに、大きな動作で振り返る。
 何回も言うが、僕の部屋に無断で入れる人物は限られている。まずはエステラ姉さんを始めとした家族、そして『花』に決まったシセル、そしてもう一人が――。

「リシュ、久しぶり!」
「パメラ!」

 そこには僕の婚約者であるパメラが思い出の中より伸びた金色の髪を優雅に揺らしながら、満面の笑みで立っていた。驚いている僕の顔を見てケラケラと笑い声を上げる。
 貴族の令嬢にしては日に焼けた肌が快活なパメラの瞳と相まって活動的なイメージを与える。
 相変わらず、ひらひらとしたドレスは好んでいないようで、涼しげな青が印象的なスマートなデザインのものを着ている。僕は流行も世間の評価も分からなかったが、それがパメラに似合っていることだけは分かった。
 久しぶりの再会に僕は思わず両手を大きく広げ、パメラに抱きついた。パメラも僕の背中に優しく手を回し、再会を喜んでくれた。

「いつぶり?」
「九年と一か月と三日」
「そう言うとこ、本当にパメラは変わらないよね」
「リシュも相変わらず冴えないわね」

 パメラはそう言って僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。最早愛犬のような扱いだが、今更気にならない。前に会った時は同じくらいだった背は僕の方が高くなり、パメラは背伸びをして手を伸ばした。少し不服そうな顔をしながら唇を突き出し、それでも頭を撫でることをやめようとはしない。パメラのこの、悔しそうな、むくれているような顔を見るのも久しぶりだ。
 僕は懐かしさから笑い、されるがままに目を細めた。

 僕の正式な婚約者であるパメラは僕の母方の従姉妹で親戚ではあるが、王族ではない。それ故に、窮屈なしきたりに縛られることなくのびのびと生活していた。仮にも第三王子の婚約者であるにも関わらず、本人たっての希望で、婚約が決まった十歳の年から海外に留学するという奔放ぶりだ。
 それを知った大臣たちは憤慨し、僕に違う貴族をあてがう話がでたらしいのだが、僕がパメラを気にいっていたため白紙になった。
 以降、手紙でのやりとりのみで近状報告を続けていた僕たちだったが、そういえば最近お互いにやりとりの頻度は少なくなっていた。
 僕は僕で色々あったし、パメラも向こうで忙しくしていると思っていた。

「そう言えば、どうしてパメラはここに?」

 突然の再会嬉しさにすっかり忘れていたが、海外にいるはずのパメラが何故自分の部屋にいるのか分からない。
 僕が質問すると、パメラは急にニヤニヤとした下世話な笑みを浮かべた。そういえば、パメラは噂好きなところがあったのを思い出した。そこが唯一パメラの直してほしいところだったが、本人に伝えたことはまだ、無い。
 近い将来、王族に加わることが決まっている人間がするような表情ではない顔をしていたが、僕はそれを訂正する気はなかった。訂正すればするほど僕が気に入っている今のパメラが、擦り減っていってしまう気がするからだ。
 パメラがパメラらしくいられる場所を守ることも僕の仕事だと思っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

公爵家令息と幼馴染の王子の秘め事 ~禁じられても溺愛は止められない~

すえつむ はな
BL
代々王家を支える公爵家の嫡男として生まれたエドウィンは、次代の王となるアルバート王太子の話し相手として出会い、幼い頃から仲の良い友人として成長した。 いつしかエドウィンの、そしてアルバートの中には、お互いに友人としてだけでない感情が生まれていたが、この国では同性愛は禁忌とされていて、口に出すことすら出来ない。 しかもアルバートの婚約者はでエドウィンの妹のメアリーである…… 正直に恋心を伝えられない二人の関係は、次第にこじれていくのだった。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

KINGS〜第一王子同士で婚姻しました

Q矢(Q.➽)
BL
国を救う為の同盟婚、絶対条件は、其方の第一王子を此方の第一王子の妃として差し出す事。 それは当初、白い結婚かと思われた…。 共に王位継承者として教育を受けてきた王子同士の婚姻に、果たしてライバル意識以外の何かは生まれるのか。 ザルツ王国第一王子 ルシエル・アレグリフト 長い金髪を後ろで編んでいる。 碧眼 188cm体格はしっかりめの筋肉質 ※えらそう。 レトナス国第一王子 エンドリア・コーネリアス 黒髪ウェーブの短髪 ヘーゼルアイ 185 cm 細身筋肉質 ※ えらそう。 互いの剣となり、盾となった2人の話。 ※異世界ファンタジーで成人年齢は現世とは違いますゆえ、飲酒表現が、とのご指摘はご無用にてお願いいたします。 ※高身長見た目タチタチCP ※※シリアスではございません。 ※※※ざっくり設定なので細かい事はお気になさらず。 手慰みのゆるゆる更新予定なので間開くかもです。

オレの優しい幼馴染

mm
BL
オレ、ベイラにはとにかく優しい幼馴染がいる。ニコイチと言われるほど仲のいいオレたちだったが、コルムが騎士科に入りモテ始めると女子からのオレへの風当たりが強くなってきた。 黙って耐えていたオレだったが、もう我慢の限界だ。 離れようとするオレにコルムが襲いかかってきて・・・ 尽くしたい脳筋✖鈍感坊ちゃま 学園BL 第13回BL大賞

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

騎士は魔石に跪く

叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。 魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。 他サイト様でも投稿しています。

処理中です...