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オレがしたい【トナミ】
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家に着くなり、オレは直ぐに風呂場に直行した。どうしても今日あったことを全て洗い流したくて急いで服を脱ぐ。こんなことで全部帳消しになるとは思っていないが、ゼンの家にあいつと会った汚い自分で上がりたくなかった。
「トナミー? 大丈夫かー?」
情緒が不安定な状態を散々見せてしまったせいか、ゼンが外から心配そうな声をかけてきた。
大丈夫じゃないと言ったら、ゼンは本気で心配してくれるだろう。
そうしないためにも俺は声を出す。
「心配なら一緒に入る?」
「大丈夫そうだなー」
オレとしては本気だったが、冗談で流されてしまった。無理もないな、と少し凹む。オレは今まで散々軽口でゼンを揶揄ってきた。今更、本気です、なんて言ったところで相手にしてもらえないだろう。
ぎゅぅ、と痛み続ける胸に手を当てる。
ゼンが一緒に帰ろと手を伸ばした瞬間、胸が痛み出した。手に触れるとその痛みは更に増し、大きく脈打った。
この痛みがなにを意味するかくらい、経験がないオレでも分かった。
今更自分の想いに気づいたところで手遅れなのに、ドクドクと過剰に巡る血液は全身を熱くさせていた。
ゼンはオレを従業員兼同居人として見ることに決めたし、オレもそれを受け入れた。その時点で、それ以上を望んではいけないと強く自分を戒めたはずなのに、自分の意志の弱さが嫌になる。
オレはシャワーを浴びながら皮膚が赤くなるまで全身を洗った。しばらくすると湯煙で目の前が白く霞み始めた。流石にもう出よう、そう思っているとまた声がした。
「トナミー? 本当に大丈夫かー?」
ゼンの過保護スイッチを押してしまったのか、再び声をかけられた。いつもより長い時間入っていることが気になったのだろう。
大丈夫なのに、と思う反面、自分のことを心配してくれる人が身近にいることが嬉しかった。
「ゼンー!」
風呂場のドアを開けて、名前を呼ぶ。
ゼンはすぐに飛んできてくれた。何も気にしてないという顔を装っているが、気にしているのがバレバレで面白くなる。と、同時に愛おしさも募る。
「トナミ? どうした?」
何も答えないオレを不審に思って、ゼンがドアの前までやってきた。オレは勢いよくドアを開けると、ゼンの腕を思い切り引き、風呂場へ引っ張り込んだ。
「は、え?」
何が起こったか分からないゼンはオレに引っ張られるまま足を滑らせて尻もちをついた。
ゼンは頭からシャワーを被り、あっという間にびしょ濡れになった。
普段は上げている前髪が水で額に張り付き、妙な色気が漂い始めて思わず見惚れる。老けているという印象だった顔も、前髪を下ろすと大分幼く見えるなと思った。
いや、それ以前に自分がゼンを見る目が変わったのだと思った。恋は盲目。こんな恥ずかしい言葉が自分に当てはまる日が来るなんて思わなかった。
「何す──」
「やっぱり一緒に入ろ?」
「ハァ!?」
文句を言われる前に馬乗りになる。全裸のオレを見て、ゼンは目線を逸らしていた。
男同士なのだから、裸くらいなんでもないと思っていたが、ゼンは違うようだった。単にオレに申し訳ないと思っているならまだいいが、オレの顔が女顔のせいで、女の子に見立てているのなら面白くない。
今目の前にいるのはオレなのに。
手慣れた手つきでゼンの服を脱がそうとすると止められた。
「だから! もうこういうことする必要ないんだって!」
何を勘違いしているのか、ゼンはオレが責任感で奉仕しようとしていると思っているらしい。勿論、助けてもらったお礼の意味もあったが、半分くらいは自分の欲のためだった。
思いを伝えられないのなら、せめて少しでも触れ合いたい。それがゼンのためになるのなら尚更だ。
「オレがしたいんだよ」
「なんでだよ……」
「ゼンはオレを助けてくれた。だから今度はオレがゼンの助けになりたい……」
「でも、」
「罪悪感感じる必要ないよ。だってこれがオレの仕事だったんだから」
仕事を強調する。そこにオレの気持ちは入っていないと嘘をつく。そうしないと触れられない。
ゼンは少し悩んで、オレの腕から手を離した。
同意と捉えたオレは、水で張り付いたゼンの服を一枚一枚ゆっくりと脱がしていった。
ゼンの肌に近付いてくる度に、どんどん自分の熱が上がり始める。今までどんな男に抱かれてもこんな気持ちになったことはなかった。
上半身を全部脱がせてから、改めてゼンの身体を見る。
最初は身体だけが好きだった。
でも今は。
オレはゼンの首に腕を回すと思い切り抱き付いた。全身でゼンを感じて、とんでもない幸福感がオレを包む。
左耳たぶを唇で挟むと肩をすくめた。軽く吸い付くように耳にキスをする。
「それ、ゾワゾワする」
「だから、ゾワゾワじゃなくて弱いんだってば」
「絶対違う」
言い張るゼンが可愛くて、笑ってしまう。
馬鹿にされたと思ったのか、ゼンは俯いてしまった。
もっとゼンの顔が見たい。
オレは両手でゼンの顔を上向かせると、にっこりと笑った。
「トナミー? 大丈夫かー?」
情緒が不安定な状態を散々見せてしまったせいか、ゼンが外から心配そうな声をかけてきた。
大丈夫じゃないと言ったら、ゼンは本気で心配してくれるだろう。
そうしないためにも俺は声を出す。
「心配なら一緒に入る?」
「大丈夫そうだなー」
オレとしては本気だったが、冗談で流されてしまった。無理もないな、と少し凹む。オレは今まで散々軽口でゼンを揶揄ってきた。今更、本気です、なんて言ったところで相手にしてもらえないだろう。
ぎゅぅ、と痛み続ける胸に手を当てる。
ゼンが一緒に帰ろと手を伸ばした瞬間、胸が痛み出した。手に触れるとその痛みは更に増し、大きく脈打った。
この痛みがなにを意味するかくらい、経験がないオレでも分かった。
今更自分の想いに気づいたところで手遅れなのに、ドクドクと過剰に巡る血液は全身を熱くさせていた。
ゼンはオレを従業員兼同居人として見ることに決めたし、オレもそれを受け入れた。その時点で、それ以上を望んではいけないと強く自分を戒めたはずなのに、自分の意志の弱さが嫌になる。
オレはシャワーを浴びながら皮膚が赤くなるまで全身を洗った。しばらくすると湯煙で目の前が白く霞み始めた。流石にもう出よう、そう思っているとまた声がした。
「トナミー? 本当に大丈夫かー?」
ゼンの過保護スイッチを押してしまったのか、再び声をかけられた。いつもより長い時間入っていることが気になったのだろう。
大丈夫なのに、と思う反面、自分のことを心配してくれる人が身近にいることが嬉しかった。
「ゼンー!」
風呂場のドアを開けて、名前を呼ぶ。
ゼンはすぐに飛んできてくれた。何も気にしてないという顔を装っているが、気にしているのがバレバレで面白くなる。と、同時に愛おしさも募る。
「トナミ? どうした?」
何も答えないオレを不審に思って、ゼンがドアの前までやってきた。オレは勢いよくドアを開けると、ゼンの腕を思い切り引き、風呂場へ引っ張り込んだ。
「は、え?」
何が起こったか分からないゼンはオレに引っ張られるまま足を滑らせて尻もちをついた。
ゼンは頭からシャワーを被り、あっという間にびしょ濡れになった。
普段は上げている前髪が水で額に張り付き、妙な色気が漂い始めて思わず見惚れる。老けているという印象だった顔も、前髪を下ろすと大分幼く見えるなと思った。
いや、それ以前に自分がゼンを見る目が変わったのだと思った。恋は盲目。こんな恥ずかしい言葉が自分に当てはまる日が来るなんて思わなかった。
「何す──」
「やっぱり一緒に入ろ?」
「ハァ!?」
文句を言われる前に馬乗りになる。全裸のオレを見て、ゼンは目線を逸らしていた。
男同士なのだから、裸くらいなんでもないと思っていたが、ゼンは違うようだった。単にオレに申し訳ないと思っているならまだいいが、オレの顔が女顔のせいで、女の子に見立てているのなら面白くない。
今目の前にいるのはオレなのに。
手慣れた手つきでゼンの服を脱がそうとすると止められた。
「だから! もうこういうことする必要ないんだって!」
何を勘違いしているのか、ゼンはオレが責任感で奉仕しようとしていると思っているらしい。勿論、助けてもらったお礼の意味もあったが、半分くらいは自分の欲のためだった。
思いを伝えられないのなら、せめて少しでも触れ合いたい。それがゼンのためになるのなら尚更だ。
「オレがしたいんだよ」
「なんでだよ……」
「ゼンはオレを助けてくれた。だから今度はオレがゼンの助けになりたい……」
「でも、」
「罪悪感感じる必要ないよ。だってこれがオレの仕事だったんだから」
仕事を強調する。そこにオレの気持ちは入っていないと嘘をつく。そうしないと触れられない。
ゼンは少し悩んで、オレの腕から手を離した。
同意と捉えたオレは、水で張り付いたゼンの服を一枚一枚ゆっくりと脱がしていった。
ゼンの肌に近付いてくる度に、どんどん自分の熱が上がり始める。今までどんな男に抱かれてもこんな気持ちになったことはなかった。
上半身を全部脱がせてから、改めてゼンの身体を見る。
最初は身体だけが好きだった。
でも今は。
オレはゼンの首に腕を回すと思い切り抱き付いた。全身でゼンを感じて、とんでもない幸福感がオレを包む。
左耳たぶを唇で挟むと肩をすくめた。軽く吸い付くように耳にキスをする。
「それ、ゾワゾワする」
「だから、ゾワゾワじゃなくて弱いんだってば」
「絶対違う」
言い張るゼンが可愛くて、笑ってしまう。
馬鹿にされたと思ったのか、ゼンは俯いてしまった。
もっとゼンの顔が見たい。
オレは両手でゼンの顔を上向かせると、にっこりと笑った。
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