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友達として
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今でも好きだ。
正真正銘立派な愛の告白のはずなのに、なぜかそのまま受け止められないのは、レクシリルの表情がいつもと変わらないものだったからだろうか。
無表情から発せられた重い言葉の違和感に、俺は言葉を失った。
「どう見ても、好き、って感じじゃない、……よな?」
「?」
俺の言いたいことが分からないようで、レクシリルは小首を傾げた。今では似ても似つかないが、この仕草はだけはクレメリッサとよく似ていると思った。
「なんか、表情も変わらないし……心ここに在らずって感じがする」
口に出して自分で納得した。
人生で初めてされた告白に、こんなに冷静でいられるわけがない。その理由が分かった気がした。
「……ごめん」
なぜか謝られた。
別に責めているわけでも、怒っているわけでもないので、そういう態度を取られると反応に困る。
レクシリルは少し考えるような顔をした後、控え目に口を開いた。まるでこの後しようとしている話を口に出すか迷っているような態度だった。
「大泣きしたあの日、それを兄たちに揶揄われてから上手く表情に出せなくなった」
「え、…………え!?」
「皇族なのに、情けないと」
「…………」
レクシリルの無表情の原因がまさかの自分にあるとは思わず絶句する。
とりあえず、あの女の子にトラウマを与えてはいなかったと分かり安心したところで、また次の問題が露呈した。
レクシリルが今なお無表情で感情表現が下手なところを見ると、もしかしたらあのキスよりもレクシリルの人生を狂わせてしまったかもしれない。
黒歴史だなんだ、と後悔できる自分はまだマシだったのだと罪悪感が募る。
「ごめん……って言っても今更かもしれないけど……」
今日二度目の謝罪。
俺の謝罪に果たして意味があるんだろうか、と考え始めるが、それでも自分の非に対しては出来る限り責任を持ちかった。
「別に明世は悪くない」
「いや、俺が直接の原因じゃないかもしれないけど、大元の原因を作ったのは俺だし、ちょっと責任感じる……」
よほど俺の声が沈んでいたのが効いたのか、珍しく少しだけ焦ったような表情でレクシリルは瞳を泳がせた。揺れる緑の瞳に見入ってしまう。
「なぁ、俺が手伝えることってあるか?」
「手伝う……?」
「そう。事情を知ってる俺なら、手伝えることもあるんじゃないかと思ったんだけど」
あの日のトラウマを払拭することは出来ないにしても、レクシリルの感情を上手く表に出せるようにサポートする事は出来るかもしれない。俺以外にも湖々やアルバートと交流すれば、そのうち自然に笑うことができるかもしれない。
「どうだ?」
「うん。明世が友達になってくれるなら、嬉しい」
「友達……?」
突然の友達発言に首を捻ったが、おそらくレクシリルの中で自分のサポートをしてくれる人イコール友達なのだろう。皇族として育っている割には発想が可愛いな、と思わず小さく吹き出した。
「分かった。今日から友達な」
「うん」
皇族と友達なんて恐れ多い、と思いつつ、ふと親父の言葉が頭に浮かんできた。
滅多に作れない人脈を作れるかもしれない。
今でもその言葉に一切魅力は感じなかったが、何だかんだで親父の言った通りになってしまったなと思った。
それでも、心なしか嬉しそうな顔をしているように見えるレクシリルを見て、まぁいいか、と悪くない気分になった。
「そう言えばレクシリルは……」
なんで俺たちと勉強することになったんだ? と当たり障りのない話題を振ろうとした瞬間、何かに引っかかりを感じた。
友達。友達、友達……?
レクシリルは俺に友達になって欲しいと言ってきた。今でも好きだと言ったその口で。
と、いうことは、俺のことはラブじゃなくてライクの方だったんだな、分かり、心底安堵した。
その安心がいけなかった。
全てのことが丸く収まったと思い込んだ俺は、急に感じ始めた空腹感を満たすように、朝食を食べ始めた。
自己紹介がてら世間話も織り交ぜつつ会話をする。レクシリルの表情は変わらなかったが、俺がした質問には真面目すぎるくらい真面目に答えてくれた。
会話の中でレクシリルは十八歳だと分かり、そんなに年下だったのかと驚いたりもした。
始まった時とは打って変わり、和やかな雰囲気で食事を終えると、レクシリルとはそこで一旦解散した。
また後で、なんていかにも友達みたいなノリで手を振ると、レクシリルは迷った挙句、腰のあたりで小さく手を振り返してくれた。『友達』の一歩としてはまずまずだ。
食べたこともない豪華な朝食に満足した俺は、一番重要なことを聞き忘れていることに気付かず、ふわふわとした足取りのまま部屋へと戻った。
正真正銘立派な愛の告白のはずなのに、なぜかそのまま受け止められないのは、レクシリルの表情がいつもと変わらないものだったからだろうか。
無表情から発せられた重い言葉の違和感に、俺は言葉を失った。
「どう見ても、好き、って感じじゃない、……よな?」
「?」
俺の言いたいことが分からないようで、レクシリルは小首を傾げた。今では似ても似つかないが、この仕草はだけはクレメリッサとよく似ていると思った。
「なんか、表情も変わらないし……心ここに在らずって感じがする」
口に出して自分で納得した。
人生で初めてされた告白に、こんなに冷静でいられるわけがない。その理由が分かった気がした。
「……ごめん」
なぜか謝られた。
別に責めているわけでも、怒っているわけでもないので、そういう態度を取られると反応に困る。
レクシリルは少し考えるような顔をした後、控え目に口を開いた。まるでこの後しようとしている話を口に出すか迷っているような態度だった。
「大泣きしたあの日、それを兄たちに揶揄われてから上手く表情に出せなくなった」
「え、…………え!?」
「皇族なのに、情けないと」
「…………」
レクシリルの無表情の原因がまさかの自分にあるとは思わず絶句する。
とりあえず、あの女の子にトラウマを与えてはいなかったと分かり安心したところで、また次の問題が露呈した。
レクシリルが今なお無表情で感情表現が下手なところを見ると、もしかしたらあのキスよりもレクシリルの人生を狂わせてしまったかもしれない。
黒歴史だなんだ、と後悔できる自分はまだマシだったのだと罪悪感が募る。
「ごめん……って言っても今更かもしれないけど……」
今日二度目の謝罪。
俺の謝罪に果たして意味があるんだろうか、と考え始めるが、それでも自分の非に対しては出来る限り責任を持ちかった。
「別に明世は悪くない」
「いや、俺が直接の原因じゃないかもしれないけど、大元の原因を作ったのは俺だし、ちょっと責任感じる……」
よほど俺の声が沈んでいたのが効いたのか、珍しく少しだけ焦ったような表情でレクシリルは瞳を泳がせた。揺れる緑の瞳に見入ってしまう。
「なぁ、俺が手伝えることってあるか?」
「手伝う……?」
「そう。事情を知ってる俺なら、手伝えることもあるんじゃないかと思ったんだけど」
あの日のトラウマを払拭することは出来ないにしても、レクシリルの感情を上手く表に出せるようにサポートする事は出来るかもしれない。俺以外にも湖々やアルバートと交流すれば、そのうち自然に笑うことができるかもしれない。
「どうだ?」
「うん。明世が友達になってくれるなら、嬉しい」
「友達……?」
突然の友達発言に首を捻ったが、おそらくレクシリルの中で自分のサポートをしてくれる人イコール友達なのだろう。皇族として育っている割には発想が可愛いな、と思わず小さく吹き出した。
「分かった。今日から友達な」
「うん」
皇族と友達なんて恐れ多い、と思いつつ、ふと親父の言葉が頭に浮かんできた。
滅多に作れない人脈を作れるかもしれない。
今でもその言葉に一切魅力は感じなかったが、何だかんだで親父の言った通りになってしまったなと思った。
それでも、心なしか嬉しそうな顔をしているように見えるレクシリルを見て、まぁいいか、と悪くない気分になった。
「そう言えばレクシリルは……」
なんで俺たちと勉強することになったんだ? と当たり障りのない話題を振ろうとした瞬間、何かに引っかかりを感じた。
友達。友達、友達……?
レクシリルは俺に友達になって欲しいと言ってきた。今でも好きだと言ったその口で。
と、いうことは、俺のことはラブじゃなくてライクの方だったんだな、分かり、心底安堵した。
その安心がいけなかった。
全てのことが丸く収まったと思い込んだ俺は、急に感じ始めた空腹感を満たすように、朝食を食べ始めた。
自己紹介がてら世間話も織り交ぜつつ会話をする。レクシリルの表情は変わらなかったが、俺がした質問には真面目すぎるくらい真面目に答えてくれた。
会話の中でレクシリルは十八歳だと分かり、そんなに年下だったのかと驚いたりもした。
始まった時とは打って変わり、和やかな雰囲気で食事を終えると、レクシリルとはそこで一旦解散した。
また後で、なんていかにも友達みたいなノリで手を振ると、レクシリルは迷った挙句、腰のあたりで小さく手を振り返してくれた。『友達』の一歩としてはまずまずだ。
食べたこともない豪華な朝食に満足した俺は、一番重要なことを聞き忘れていることに気付かず、ふわふわとした足取りのまま部屋へと戻った。
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