実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

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願いが叶う島

第41話 宝座の天使

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 気が付くとネーヴェは、海の上ではなく、森の中にいた。

「シエロ様?」

 答えは返らない。
 見回しても、ここには自分一人のようだ。
 目の前にある大木の幹を見つめ、しばし考え込み、ネーヴェはシエロが「帰りは瞬間転移でフォレスタに送ってもらう」と言っていたことを思い出した。
 神海の天使様は、人間を瞬時に遠くへ移動させる魔法が使えるということだ。おそらく、船の帆柱マストにとまった白いふくろうの姿の天使が、ネーヴェをここに転移させたのだと思われる。
 しかし、何のために?

「説明が欲しいですわ……」

 ネーヴェは何気なく歩き出し、片足の先が地面に着かなかったので、本能的に後ずさった。
 落とし穴だろうか。
 視線を下に向け、ネーヴェは自分の思い違いに気付く。
 そこにあったのは穴ではなく、地面の終わりだ。そして、ネーヴェが地面だと思って踏んでいたのは、丸太のような木の枝だった。
 重なりあった枝の間に、空が見える。
 空が下にあるということは、ここは木の上だ。
 とんでもない巨木の枝に置き去りにされたのだと気付き、ネーヴェは青ざめた。

「つまりここは、神海の天使様の止まり木なのですね」
「そうだよ、人の子。セフィロトの枝にようこそ」

 下にある空から白い梟が飛んできて、眼前でぱっと人の姿に変身した。
 真っ白な司祭服をまとった淡い金髪の美しい青年だ。見た感じ、ネーヴェより少し年下くらいの年齢に見えるが、底知れない紫水晶の瞳と白い大きな翼が、悠久の時を生きる天使の風格を漂わせている。

「私はルシエル。宝座スローンの天使だ」

 天使の中で最高位という宝座の天使が、自分になんの用だろう。
 ネーヴェは緊張し、彼の次の言葉を待った。

「早速だけど、君に聞きたいことが」
 
 ぐぅぅぅ~~~~
 台詞せりふの途中で、空腹を知らせる音が鳴った。
 ネーヴェのお腹の音ではない。

「……」

 ルシエルから聞こえると感じるのは、気のせいだろうか。

「君に聞きたいことが」
 
 ぐぅぅぅ~~~~
 気を取り直して、ルシエルはもう一度、話を続けようとしたが、さっきより大きな音が鳴って中断を余儀なくされた。
 ネーヴェは、恐る恐る問いかける。

「ルシエル様、お腹が空いていらっしゃるのですか」
「……実は、かれこれ七百年くらい食べてないんだ」
「え?!」

 ルシエルは風に金髪と翼をそよがせ、決めポーズを取った。

「大丈夫だよ。私は生命の樹を守護する天使だから、食べなくても生きていける。食べない方が頭が冴える―――そう見栄を張って七百年経った」
 
 そんなに長い間、食べなくても生きていけるのは、さすが天使というほかない。
 しかし、ネーヴェは不遜ながら天使様が可哀想になった。

「食事は、体の維持に必要なだけとは限りませんわ。心の栄養にもなると言う学者もおります。もしよろしければ、私が何かお作りしましょうか?」
「いいの?!」

 ルシエルは、ぱっと顔を輝かせる。
 その感情に合わせるように、翼が上下した。
 天使様は皆そうなのだろうか。たまにシエロの翼を見て、動きに感情が現れているなと思っていたネーヴェは、ほっこりした。
 ほっこりして……なぜ一人だけ樹の上に転移させられたか、質問するのを、うっかり忘れてしまった。

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