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心を預ける相手
第68話 百花の護り
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ルシエルは、生命の実パイを積み込んだ木箱を、袋小路に設置した。ネーヴェたちは木陰に隠れ、邪竜が現れるのを待った。
遠くから、バキバキと木の枝が折れる音が近付いてくる。
「ちょっと待って下さい。大きくなっていませんか」
ネーヴェは、邪竜が前に会った時よりも大きくなっていると感じた。
窮屈そうに木々を押しのける邪竜の頭には、気の所為か角も増えているようだ。
ルシエルが顎をさすりながら、のんきに呟く。
「道中、生命の実を食べたんだろうね⋯⋯」
「私の弓矢が効かなかったのも、もしかして」
「生命の実でパワーアップしてたからじゃないかな」
地上で通じた弓矢が、ここでは効かなかったのは、邪竜が生命の実を食べていたからのようだ。そして今も、生命樹をさまよう邪竜は成長し続けている。
「このまま大きくなるとマズイのでは⋯⋯」
ネーヴェは邪竜を間近に見て不安を覚えた。
しかし、ルシエルは動じていない。
「大丈夫。万が一ラルクシエルが失敗しても、僕が地下の永久牢に転移させて封じるだけだから。最終手段だけどね!」
「ああ、あの物騒な魔物が山ほど封じられた穴か。将来に問題を先送りしたくないな」
シエロは、ルシエルの言葉に眉をしかめる。
そうこう言っている間に、邪竜は首を伸ばし、不自然なパイが盛られた木箱を眺め始めた。さすがに、罠だと分かるだろうか。邪竜は人間と同じくらい頭が良いらしいし。
だが、ネーヴェの作った生命の実アップルパイは、邪竜にも美味しそうに見えたらしい。
ハラハラしながら見守っていると、邪竜は警戒しながら木箱の一番上のパイを舌先で舐める。
パイを味見した邪竜は、ぶるりと震えた。
なんだこの味は! こんな美味しいものを味わったことがない!
言葉にすれば、そんな感じだろうか。
邪竜は急に嬉しそうに体をねじると、残るパイの山を木箱ごと飲み込んだ。
喉がぽこっと膨らみ、食べ物が胴体に降りていくのが分かった。
効果は、どのくらいで出るだろうか。
満足げに木箱を咀嚼する邪竜。頑丈な木箱も邪竜にとってはパイの皮と変わらないようだ。
『……そこに隠れているのだろう。出てこい、天使ども』
邪竜はぐるりと見回し、ネーヴェたちの隠れている方を見た。
『残念だったな。我に毒は通じない』
失敗か? ネーヴェは落胆と焦燥で胸が落ち着かない。弓矢を握りしめると、シエロがそっとその手の甲に触れた。
「俺が出る。お前は隠れていろ」
「ですがシエロ様お一人に任せるのは」
「信じろ。お前の作ったパイは最高だ」
シエロは白い翼を広げると、ネーヴェたちを置いて木陰を出て行った。
『前に見た天使か。我は強くなった。もうお前よりも強い』
「そのようだな」
シエロを見た邪竜は、もう逃げる必要がないと、強さに自信があるようだ。
『天使はどんな味がするだろうか。楽しみだ』
邪竜は巨体をくねらせ、シエロに襲いかかる。
シエロはその場を動かない。
剣を構えた彼の前の空中に、白い光で描かれた紋様が現れ、邪竜の攻撃を防いだ。激しい光の火花が散ったが、邪竜は障壁をものともせずに突っ込んでくる。
そのまま邪竜と光の障壁のせめぎ合いが始まった。
「おや、百花の護りだ。ラルクシエルにとって苦手な魔法だろうに、ちゃんと編んでいたんだね」
ルシエルがのんびりとした様子で言う。
正直、ルシエルほど楽観的になれないネーヴェは、ハラハラしながら聞き返した。
「百花の護り? あの光の障壁は天使様の魔法ですか?」
「そう。光の線が花を描いているのが見えるかい。いざという時のために、百年掛けてあの紋様を編んでおくんだ。今、ラルクシエルは百年分の力を消費して守護防壁を組んでいる」
本来なら、国の守護に使うんだけどね、とルシエルは言った。
ピシリ……と硝子が砕けるような音と共に、空中に描かれた光の紋様が端から欠け始めた。
百年の力も、邪竜の前では為すすべがない。それだけ邪竜が強いということだ。
このままいくと光の障壁が崩壊する。そうなれば、邪竜は容赦なくシエロを丸のみにするだろう。
ネーヴェは、出ていくか迷った。
遠くから、バキバキと木の枝が折れる音が近付いてくる。
「ちょっと待って下さい。大きくなっていませんか」
ネーヴェは、邪竜が前に会った時よりも大きくなっていると感じた。
窮屈そうに木々を押しのける邪竜の頭には、気の所為か角も増えているようだ。
ルシエルが顎をさすりながら、のんきに呟く。
「道中、生命の実を食べたんだろうね⋯⋯」
「私の弓矢が効かなかったのも、もしかして」
「生命の実でパワーアップしてたからじゃないかな」
地上で通じた弓矢が、ここでは効かなかったのは、邪竜が生命の実を食べていたからのようだ。そして今も、生命樹をさまよう邪竜は成長し続けている。
「このまま大きくなるとマズイのでは⋯⋯」
ネーヴェは邪竜を間近に見て不安を覚えた。
しかし、ルシエルは動じていない。
「大丈夫。万が一ラルクシエルが失敗しても、僕が地下の永久牢に転移させて封じるだけだから。最終手段だけどね!」
「ああ、あの物騒な魔物が山ほど封じられた穴か。将来に問題を先送りしたくないな」
シエロは、ルシエルの言葉に眉をしかめる。
そうこう言っている間に、邪竜は首を伸ばし、不自然なパイが盛られた木箱を眺め始めた。さすがに、罠だと分かるだろうか。邪竜は人間と同じくらい頭が良いらしいし。
だが、ネーヴェの作った生命の実アップルパイは、邪竜にも美味しそうに見えたらしい。
ハラハラしながら見守っていると、邪竜は警戒しながら木箱の一番上のパイを舌先で舐める。
パイを味見した邪竜は、ぶるりと震えた。
なんだこの味は! こんな美味しいものを味わったことがない!
言葉にすれば、そんな感じだろうか。
邪竜は急に嬉しそうに体をねじると、残るパイの山を木箱ごと飲み込んだ。
喉がぽこっと膨らみ、食べ物が胴体に降りていくのが分かった。
効果は、どのくらいで出るだろうか。
満足げに木箱を咀嚼する邪竜。頑丈な木箱も邪竜にとってはパイの皮と変わらないようだ。
『……そこに隠れているのだろう。出てこい、天使ども』
邪竜はぐるりと見回し、ネーヴェたちの隠れている方を見た。
『残念だったな。我に毒は通じない』
失敗か? ネーヴェは落胆と焦燥で胸が落ち着かない。弓矢を握りしめると、シエロがそっとその手の甲に触れた。
「俺が出る。お前は隠れていろ」
「ですがシエロ様お一人に任せるのは」
「信じろ。お前の作ったパイは最高だ」
シエロは白い翼を広げると、ネーヴェたちを置いて木陰を出て行った。
『前に見た天使か。我は強くなった。もうお前よりも強い』
「そのようだな」
シエロを見た邪竜は、もう逃げる必要がないと、強さに自信があるようだ。
『天使はどんな味がするだろうか。楽しみだ』
邪竜は巨体をくねらせ、シエロに襲いかかる。
シエロはその場を動かない。
剣を構えた彼の前の空中に、白い光で描かれた紋様が現れ、邪竜の攻撃を防いだ。激しい光の火花が散ったが、邪竜は障壁をものともせずに突っ込んでくる。
そのまま邪竜と光の障壁のせめぎ合いが始まった。
「おや、百花の護りだ。ラルクシエルにとって苦手な魔法だろうに、ちゃんと編んでいたんだね」
ルシエルがのんびりとした様子で言う。
正直、ルシエルほど楽観的になれないネーヴェは、ハラハラしながら聞き返した。
「百花の護り? あの光の障壁は天使様の魔法ですか?」
「そう。光の線が花を描いているのが見えるかい。いざという時のために、百年掛けてあの紋様を編んでおくんだ。今、ラルクシエルは百年分の力を消費して守護防壁を組んでいる」
本来なら、国の守護に使うんだけどね、とルシエルは言った。
ピシリ……と硝子が砕けるような音と共に、空中に描かれた光の紋様が端から欠け始めた。
百年の力も、邪竜の前では為すすべがない。それだけ邪竜が強いということだ。
このままいくと光の障壁が崩壊する。そうなれば、邪竜は容赦なくシエロを丸のみにするだろう。
ネーヴェは、出ていくか迷った。
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