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心を預ける相手
第69話 天使にとっての正義と悪
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シエロの前に展開された百花の護りは、あっという間に半分を割っている。
本当に大丈夫なのだろうか。
「ラルクシエルに任せれば良いよ」
「ルシエル様」
「前に言ったよね。天使にとっての正義と悪は、何だと思う?」
不安に駈られているネーヴェに、ルシエルが急に訳の分からないことを言い出す。
「そんなことを言っている場合では」
「ヒントをあげよう。天使にとっての悪は、自分の欲のために他人を犠牲にすることだ。天使にとっての正義は、その逆だよ」
ついに、光の障壁が崩壊した。
シエロはすぐに上昇し、寸前で邪竜のあぎとを回避する。
邪竜は勢いあまって、生命樹の幹に突っ込んだ。
『な……ンダ。キモチワルい……』
そこで急に巨体をくねらせ、嘔吐を始める。
「やりましたわ!」
ネーヴェは拳を握って快哉を叫んだ。
邪竜はそこらじゅうに吐瀉物を撒き散らす。その中に、人間の姿を見つけて、ネーヴェは目を凝らした。
ボロボロになった黒い翼の下に力なく伏している男⋯⋯フレースヴェルグだ。どうやら烏《からす》の姿を保っている余裕が無くなったらしい。気を失っているようで、木の上に落ちてもピクリとも動かない。
フレースヴェルグが倒れている場所は、邪竜が暴れる真下だ。
助けにいけないか考えていると、ルシエルが察したように言った。
「あの黒い子は、私が回収しておいてあげるよ」
「ありがとうございます、ルシエル様」
「もう手加減は必要なくなったね。それでは仕上げだよ」
手加減?
ネーヴェは空を見上げた。
まだ戦いは続いている。起き上がって唸る邪竜を、冷徹な眼差しで見下ろすシエロは、体の前で垂直に剣を掲げた。
「我が戦いに一片の恐れもなく、惰弱な敗退もない。この決意と共に捧げし片翼をもって、我が神に勝利を約束しよう!」
それは宣誓だった。
シエロの周囲で、金剛石を砕いたような光の欠片が螺旋を描く。息を飲むほど美しい光景だが、同時に抜き身の刃を前にしているような緊迫感がある。
彼方《かなた》から神の祝福が満ちる気配。存在しない片翼が、黄金の光によって顕現する。白銀と黄金の一対の翼を広げ、天使は剣先を敵に向けた。
『うググ⋯⋯我は強く大きくなった! どんな魔物よりも、至高の天使よりも! 今の三界で最強なのは、この我だ!』
邪竜は、シエロを見上げ咆哮する。胃の中を吐き出したせいか苦し気だが、巨体の力強さを健在だ。
一直線にシエロに襲いかかる。
しかしシエロは一歩も引かず、その突撃と対峙した。
「敵がどれだけ強くても、ラルクシエルには関係ないんだよ」
「ルシエル様、それはどういう」
「ラルクシエルは、逃げずに戦う限り、絶対に勝利する。そういう神の加護なんだよ、あれは」
反則だよね、とルシエルは他人事のように言った。
「天の雷よ」
シエロが剣先を向けると、雷光が次々と邪竜に向けて放たれる。雷撃で目のくらんだ邪竜の狙いは逸れた。突っ込んできた邪竜の頭を悠々と避け、シエロは剣を振るう。
光を帯びた刃は、やすやすと邪竜の角を切り落とし、片目をえぐった。
邪竜は苦痛の咆哮をあげて仰け反ると、逃げようと身をひるがえす。
しかしシエロは流星のように飛んで、邪竜の顎の下に回り込んだ。
弧を描くような一線が、邪竜の喉を切り裂く。
そこから先は一方的だった。
逃げようにも袋小路の邪竜は精一杯あがいたが、シエロの剣に切り刻まれていく。脳天を割られても動いていたが、やがて生命樹の枝に横たわり静かになった。
本当に大丈夫なのだろうか。
「ラルクシエルに任せれば良いよ」
「ルシエル様」
「前に言ったよね。天使にとっての正義と悪は、何だと思う?」
不安に駈られているネーヴェに、ルシエルが急に訳の分からないことを言い出す。
「そんなことを言っている場合では」
「ヒントをあげよう。天使にとっての悪は、自分の欲のために他人を犠牲にすることだ。天使にとっての正義は、その逆だよ」
ついに、光の障壁が崩壊した。
シエロはすぐに上昇し、寸前で邪竜のあぎとを回避する。
邪竜は勢いあまって、生命樹の幹に突っ込んだ。
『な……ンダ。キモチワルい……』
そこで急に巨体をくねらせ、嘔吐を始める。
「やりましたわ!」
ネーヴェは拳を握って快哉を叫んだ。
邪竜はそこらじゅうに吐瀉物を撒き散らす。その中に、人間の姿を見つけて、ネーヴェは目を凝らした。
ボロボロになった黒い翼の下に力なく伏している男⋯⋯フレースヴェルグだ。どうやら烏《からす》の姿を保っている余裕が無くなったらしい。気を失っているようで、木の上に落ちてもピクリとも動かない。
フレースヴェルグが倒れている場所は、邪竜が暴れる真下だ。
助けにいけないか考えていると、ルシエルが察したように言った。
「あの黒い子は、私が回収しておいてあげるよ」
「ありがとうございます、ルシエル様」
「もう手加減は必要なくなったね。それでは仕上げだよ」
手加減?
ネーヴェは空を見上げた。
まだ戦いは続いている。起き上がって唸る邪竜を、冷徹な眼差しで見下ろすシエロは、体の前で垂直に剣を掲げた。
「我が戦いに一片の恐れもなく、惰弱な敗退もない。この決意と共に捧げし片翼をもって、我が神に勝利を約束しよう!」
それは宣誓だった。
シエロの周囲で、金剛石を砕いたような光の欠片が螺旋を描く。息を飲むほど美しい光景だが、同時に抜き身の刃を前にしているような緊迫感がある。
彼方《かなた》から神の祝福が満ちる気配。存在しない片翼が、黄金の光によって顕現する。白銀と黄金の一対の翼を広げ、天使は剣先を敵に向けた。
『うググ⋯⋯我は強く大きくなった! どんな魔物よりも、至高の天使よりも! 今の三界で最強なのは、この我だ!』
邪竜は、シエロを見上げ咆哮する。胃の中を吐き出したせいか苦し気だが、巨体の力強さを健在だ。
一直線にシエロに襲いかかる。
しかしシエロは一歩も引かず、その突撃と対峙した。
「敵がどれだけ強くても、ラルクシエルには関係ないんだよ」
「ルシエル様、それはどういう」
「ラルクシエルは、逃げずに戦う限り、絶対に勝利する。そういう神の加護なんだよ、あれは」
反則だよね、とルシエルは他人事のように言った。
「天の雷よ」
シエロが剣先を向けると、雷光が次々と邪竜に向けて放たれる。雷撃で目のくらんだ邪竜の狙いは逸れた。突っ込んできた邪竜の頭を悠々と避け、シエロは剣を振るう。
光を帯びた刃は、やすやすと邪竜の角を切り落とし、片目をえぐった。
邪竜は苦痛の咆哮をあげて仰け反ると、逃げようと身をひるがえす。
しかしシエロは流星のように飛んで、邪竜の顎の下に回り込んだ。
弧を描くような一線が、邪竜の喉を切り裂く。
そこから先は一方的だった。
逃げようにも袋小路の邪竜は精一杯あがいたが、シエロの剣に切り刻まれていく。脳天を割られても動いていたが、やがて生命樹の枝に横たわり静かになった。
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