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(第二部)第三章 ここからもう一度
06 英司の精霊演武
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激しい物音と叫び声に、就寝中だったイェーサーは飛び起きた。
イェーサーは子爵の地位についている貴族の男性で、この屋敷は彼の持ち物だ。愛娘が嫁に行ってしまって以来、彼は魔晶石のコレクションを愛でることを趣味としていた。
パジャマ姿のまま、大切な魔晶石の元に駆け付ける。
「何が起きておる?!」
「魔物の襲撃のようです!」
「魔物?! このツェンベルンにか?!」
今の国王になってから、ツェンベルンが戦火に襲われることは無かった。
イェーサーは驚き、慌てふためく。
「魔晶石を持って逃げないと!」
「いけません、魔晶石など置いて行った方が良い」
警護で屋敷内に詰めていた騎士団第二部隊の隊長ルベールは、イェーサーを説得しようとした。魔物の目的は、使い手のいない魔晶石に思われたからだ。
「イェーサー様、魔晶石より命の方が大切です! 屋敷の者を集めて避難させませんと!」
「う、うるさい!」
ルベールと屋敷の主の言い争いに、周囲の騎士や屋敷の者がおろおろしている。
イェーサーは魔晶石の入った宝石箱を抱えこむ。
そこに、屋敷の壁を破って悪魔が入り込んできた。
「うわああっ!」
屋敷の者が悲鳴を上げて逃げ惑う。
「一般人を退避させろ!」
ルベールは叫びながら、悪魔に向かって剣を構えた。
隊長位の彼は火の魔晶石が埋め込まれた魔法剣を支給されている。しかし、悪魔の大きさと迫力に、これは倒せないかもしれないとルベールは内心、恐怖した。
悪魔が吐く炎が屋敷の壁を炙る。
一歩、一歩、近づいてくる悪魔に合わせてルベールは後退した。
気が付くと、自分ともう一人の騎士、背後に宝石箱を抱え込むイェーサーだけになっている。
悪魔が剛腕を振りかぶる。
避けようとした隣の騎士が吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
英司が到着したのは、この時だった。
悪魔と戦うルベールと、背後で震える太った貴族の男を見て、英司は瞬時に状況を把握した。
悪魔の脇を走り抜けてイェーサーに駆け寄る。
「おい、あんた、命と宝石と、どっちが大事なんだ?!」
震える貴族の男が抱える宝石箱からは、覚えのある精霊の気配がした。
英司は声を張り上げて貴族の男、イェーサーの胸倉をつかんだ。
「ま、魔晶石に決まっておるだろう!」
「本気で言ってるのか?!」
ちょうどその時、ルベールの叫び声が聞こえる。
悪魔と戦っていたルベールの身体が薙ぎ払われ、その手にあった魔法剣が折れて弾け飛んだ。切っ先が空中を飛んで、ちょうどイェーサーの隣の床に突き刺さる。
「ひえっ!」
さすがのイェーサーも青ざめた。
「このままだと、あんたは死ぬぞ」
「しし、死にたくない!」
「なら、その魔晶石を俺に譲れ。あんたの命と魔晶石を交換だ!」
詰め寄って言う英司。
極限の選択を迫られたイェーサーは目を白黒させる。
しかし悪魔は選択を待ってくれない。
「ちっ!」
踏み込んでくる悪魔の剛腕を、英司はイェーサーの腕を引きながら避けたが、すんでで間に合わずに爪に引っ掛けられた。イェーサーから引きはがされる。
尻もちをついて、ただ一人で悪魔を見上げたイェーサーの手から宝石箱が落ちる。
床に落ちた宝石箱の蓋が衝撃で開き、青い石が転がり落ちた。
悪魔を見上げながら貴族の男は絶体絶命を知って狼狽える。
「くそうっ、石でもなんでもくれてやるから、助けてくれ!」
「……聞いたぜ」
悪魔の爪がかすって体勢を崩していた英司は、起き上がりながら不敵に笑った。
イェーサーの前に滑り込むと、その足元に転がる青い石を拾い上げる。それは、悪魔が石に向かって手をのばそうとした直前だった。素早く石をかすめとった英司は、悪魔から距離を取る。
「待たせたな、リリス……」
冷たい石に唇を寄せる。
その瞬間、硝子にひびが入るように青い石に亀裂が入った。
英司の手の中で青い石が砕け散る。
『待っていたわ、エイジ』
清冽な水色の光が英司を取り巻いた。
彼の頭上で、巫女姿の精霊が6枚の光の翅を広げる。その姿は淡く幻想的に透き通っていた。
水の上位精霊、藍水霊巫女、リリス。
「行くぞ」
精霊の姿が光の粒となって散り、代わりに英司の両手に透明な氷の刃を持つ細剣が現れる。
双剣は英司の精霊武器だ。
武器を構えた英司を認めて、悪魔が吠えた。
ビリビリと空気が震える。
しかし英司はその威嚇を毛ほども感じていないように、冷静に双剣を手に地を蹴る。
精霊演武、中級の第二種、縮地。
一瞬で距離を詰めた英司は、クロスさせるように悪魔の胴体に剣を突き立てる。
勝負は一瞬でついた。
「凍って砕けろ!」
双剣から伝った冷気が悪魔に染み入っていく。
動きを止めた悪魔の身体に霜が降りて全身が凍り付き、次の瞬間それは悪魔の全身を縦横無尽に切り裂いた。
イェーサーは子爵の地位についている貴族の男性で、この屋敷は彼の持ち物だ。愛娘が嫁に行ってしまって以来、彼は魔晶石のコレクションを愛でることを趣味としていた。
パジャマ姿のまま、大切な魔晶石の元に駆け付ける。
「何が起きておる?!」
「魔物の襲撃のようです!」
「魔物?! このツェンベルンにか?!」
今の国王になってから、ツェンベルンが戦火に襲われることは無かった。
イェーサーは驚き、慌てふためく。
「魔晶石を持って逃げないと!」
「いけません、魔晶石など置いて行った方が良い」
警護で屋敷内に詰めていた騎士団第二部隊の隊長ルベールは、イェーサーを説得しようとした。魔物の目的は、使い手のいない魔晶石に思われたからだ。
「イェーサー様、魔晶石より命の方が大切です! 屋敷の者を集めて避難させませんと!」
「う、うるさい!」
ルベールと屋敷の主の言い争いに、周囲の騎士や屋敷の者がおろおろしている。
イェーサーは魔晶石の入った宝石箱を抱えこむ。
そこに、屋敷の壁を破って悪魔が入り込んできた。
「うわああっ!」
屋敷の者が悲鳴を上げて逃げ惑う。
「一般人を退避させろ!」
ルベールは叫びながら、悪魔に向かって剣を構えた。
隊長位の彼は火の魔晶石が埋め込まれた魔法剣を支給されている。しかし、悪魔の大きさと迫力に、これは倒せないかもしれないとルベールは内心、恐怖した。
悪魔が吐く炎が屋敷の壁を炙る。
一歩、一歩、近づいてくる悪魔に合わせてルベールは後退した。
気が付くと、自分ともう一人の騎士、背後に宝石箱を抱え込むイェーサーだけになっている。
悪魔が剛腕を振りかぶる。
避けようとした隣の騎士が吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
英司が到着したのは、この時だった。
悪魔と戦うルベールと、背後で震える太った貴族の男を見て、英司は瞬時に状況を把握した。
悪魔の脇を走り抜けてイェーサーに駆け寄る。
「おい、あんた、命と宝石と、どっちが大事なんだ?!」
震える貴族の男が抱える宝石箱からは、覚えのある精霊の気配がした。
英司は声を張り上げて貴族の男、イェーサーの胸倉をつかんだ。
「ま、魔晶石に決まっておるだろう!」
「本気で言ってるのか?!」
ちょうどその時、ルベールの叫び声が聞こえる。
悪魔と戦っていたルベールの身体が薙ぎ払われ、その手にあった魔法剣が折れて弾け飛んだ。切っ先が空中を飛んで、ちょうどイェーサーの隣の床に突き刺さる。
「ひえっ!」
さすがのイェーサーも青ざめた。
「このままだと、あんたは死ぬぞ」
「しし、死にたくない!」
「なら、その魔晶石を俺に譲れ。あんたの命と魔晶石を交換だ!」
詰め寄って言う英司。
極限の選択を迫られたイェーサーは目を白黒させる。
しかし悪魔は選択を待ってくれない。
「ちっ!」
踏み込んでくる悪魔の剛腕を、英司はイェーサーの腕を引きながら避けたが、すんでで間に合わずに爪に引っ掛けられた。イェーサーから引きはがされる。
尻もちをついて、ただ一人で悪魔を見上げたイェーサーの手から宝石箱が落ちる。
床に落ちた宝石箱の蓋が衝撃で開き、青い石が転がり落ちた。
悪魔を見上げながら貴族の男は絶体絶命を知って狼狽える。
「くそうっ、石でもなんでもくれてやるから、助けてくれ!」
「……聞いたぜ」
悪魔の爪がかすって体勢を崩していた英司は、起き上がりながら不敵に笑った。
イェーサーの前に滑り込むと、その足元に転がる青い石を拾い上げる。それは、悪魔が石に向かって手をのばそうとした直前だった。素早く石をかすめとった英司は、悪魔から距離を取る。
「待たせたな、リリス……」
冷たい石に唇を寄せる。
その瞬間、硝子にひびが入るように青い石に亀裂が入った。
英司の手の中で青い石が砕け散る。
『待っていたわ、エイジ』
清冽な水色の光が英司を取り巻いた。
彼の頭上で、巫女姿の精霊が6枚の光の翅を広げる。その姿は淡く幻想的に透き通っていた。
水の上位精霊、藍水霊巫女、リリス。
「行くぞ」
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双剣は英司の精霊武器だ。
武器を構えた英司を認めて、悪魔が吠えた。
ビリビリと空気が震える。
しかし英司はその威嚇を毛ほども感じていないように、冷静に双剣を手に地を蹴る。
精霊演武、中級の第二種、縮地。
一瞬で距離を詰めた英司は、クロスさせるように悪魔の胴体に剣を突き立てる。
勝負は一瞬でついた。
「凍って砕けろ!」
双剣から伝った冷気が悪魔に染み入っていく。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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