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番外編(第一部の終了後)
かき氷 前編
しおりを挟む異世界にも夏という季節があるらしい。
大変暑い。
死ぬほど暑い。
「僕はかき氷が食べたい……」
樹がそう発言したのは、夏風の都アストラルへ向かって旅をする道中の、ある日の午前中。
太陽は中天に差し掛かり、日光がきつくなってくる時刻だった。
一緒に森を歩いていた他のメンバーが、樹の発言に足を止める。
「確かに冷たいものが食べたいわ。冷たくて甘いもの」
「甘いものいいですねえ」
真っ先に同意したのは女子だった。
女性勇者の結菜は甘いものが食べたいと言い、エルフの少女ソフィーがうんうんと頷く。
「甘くなくていいけどよ。冷たいもんは欲しいな」
「暑くて溶けそうだ」
甘いものが苦手な勇者の少年、智輝は、冷たければ良いと言う。
隣で暑さに弱いらしい水属性の勇者の青年、英司はぐったり呻いた。
「かき氷とは何ですか?」
吸血鬼の青年アルスは、日光に弱いので黒い日傘を差している。彼は英司と同様にだるそうな様子だった。
異世界の住人であるソフィーとアルスは「かき氷」を知らない。
樹は、彼等に向かって説明する。
「かき氷っていうのは、氷を削って細かくしたものに、甘く砂糖を煮詰めたものを掛けた食べ物だよ」
「それは美味そうですな」
「だろう」
皆、それぞれ冷たいものを想像してすっかり足を止めてしまっている。
想像の中だけでも涼に浸ろうとしている面々を前に、樹は眼鏡をくいっと持ち上げた。世界樹の近くでは眼鏡を外していた樹だが、人間が多い地域では碧の瞳は目立つので、眼鏡を掛けている。細い銀のフレームの端がキラリンと光った。
「よし。今日はかき氷を作ろう」
「え?! どうやって?」
「そこに氷の勇者がいるじゃないか」
注目を集めた英司が、数歩後ずさった。
彼は水属性の精霊演武に秀でており、得意な魔法は冷気を使った氷の攻撃である。
「待ってくれ! 魔法を使うのは体力が要るんだ。俺はもうこの暑さでしんどくて魔法を使う気力が無い……」
「情けないな。それでも君は勇者なのか」
「根性だせよ英司!」
「無駄に元気がありあまってる智輝と一緒にするな! とにかくちょっと休ませてくれ」
木陰に入って涼む英司は、戦闘不能のようである。
樹は腕組みした。
「じゃあ、水場を探して英司を充電するか」
「俺は電化製品じゃない……」
「智輝たちは動けるんなら、果物を探してきてくれないか。果物でシロップを作ろう」
「お、いいなそれ!」
火の属性の勇者である智輝は、この炎天下でも体力が有り余っているらしい。
果物を探してくれと言われて特に反対する様子もない。
むしろ森を駆け回りたくてうずうずしているようだ。結菜は「仕方ないなあ。甘いもののためなら」と言ってソフィーの腕を捕まえた。
「一緒に探してくれるよね、ソフィーちゃん!」
「ふえっ? 私でよければ」
エルフであるソフィーにとって、森は自分の庭のようなものだ。
結菜はソフィーを引っ張って歩き出す。
「樹はどうするんだ?」
智輝は、腕組みする樹を振り返って聞く。
「僕は動かずに寝て待つことにする」
「おい!」
「冗談だ。そこの動けそうにない英司と、干からびそうなアルスを引っ張って水場を探すさ」
樹の背後からは「動けない動きたくない……」という悲痛な叫びが聞こえたが、智輝も樹も軽くそれを無視した。
かくしてかき氷作成作戦が始まった。
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