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*三年前* その背中を追いかけて
53 マスターとサーヴァント
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サーヴァント属性の魔術師は、体内に魔力を溜める器官を持っている。そのためマスターから受け取った魔力を溜めておき、いざという時に備える事ができる。
しかし、便利な貯水池《どうぐ》のように扱われるのは心外だ。
リュンクスは憤慨した。
「ノクト先輩は、そうは言ってませんでしたよ。それに、マスターとサーヴァントが組む時の戦い方について、三年生以上になったら習うんでしょ。塔としても、サーヴァントをタンク扱いはしてないんじゃないですか」
帰らずの森で足手まといになった件で、リュンクスは「あの時どうすれば先輩達の役に立っただろう」と考えていた。
だからノクトに、戦いの心得について教えてくれと頼んだのだ。
「確かに、サーヴァントと組んで戦うやり方も習ったな。だが、そもそもサーヴァントは戦いに出たがらないだろう。根性もないし、実戦では使えない」
オルフェは、リュンクスの意見を肯定した上で、彼自身の考えを述べた。
「それにしても、お前は変わっているな。サーヴァントは命令を受けると快感を覚えるだろう。だから指示をしてやってるのに、気持ち良くならないのか」
リュンクスはぎょっとした。
あの命令口調は彼なりのサービスだったらしい。
大きなお世話だ。
「ならないです。俺はそういうの、ノクト先輩としか感じたことありません」
カノンに命令されても感じるが、それは今は秘密である。
リュンクスがオルフェの命令に動じないのは理由がある。
入学してすぐの頃、カノンに、他のマスターからの干渉を遮る術を教わったからだ。そういった技術を知らないサーヴァントは、契約を結んでいないマスターの言葉にも影響を受ける。
オルフェは、リュンクスの答えが気に入らないのか、冷ややかに言った。
「自分で選んだ主人にだけ尻尾を振るとでも言いたいのか。サーヴァントの癖に」
「いけませんか?」
「俺が本気を出せば、すぐにねじ伏せられる。その誇りがどれだけ薄っぺらいものか試してみるか」
リュンクスは、少し考えた。
「そうですね。先輩には敵わないです。襲われたら困るので、塔に帰りますね」
「おい、待て」
くるりと踵を返しかけたリュンクスを、オルフェは慌てて引き止めた。
「本当に調子が狂う……リュンクス、お前は気ままな猫か、自由な野生の獣のようだな」
ちょっと脅せば意見を引っ込めると思ったが、予想外だ。オルフェはそう呟き、表情をやわらげた。
「俺は思い通りにならない動物が好きだ。今までサーヴァントは好きでは無かったが、お前は面白いな」
オルフェはリュンクスに好意を持ったようだ。
仲良くなって情報を引き出す作戦は順調である。
しかしマスター属性の魔術師は皆、逆らうサーヴァントがツボなのだろうか。「動物が好き」と言ったオルフェの顔は、一瞬、無邪気な子供のように見えて、リュンクスは少し良心が痛んだ。
「……ところで、今日は何を買うんですか?」
「肉だ」
「は?」
オルフェは肉屋に足を踏み入れ、豚を丸ごと一頭買い上げた。
買った品物は転送魔術でどこかへ送っている。
「豚肉が好きなんですか?」
「これは塔の裏の森で飼っている魔獣用だ」
「それって規則違反なんじゃ」
「私は魔獣の研究で貴石級の資格を取るつもりなので、許可は得ている」
貴石級……塔が認定する、魔術で世界の発展に寄与した魔術師に与えられる等級だ。世界各国で通用する資格で、持っているだけで就職口に困らない。
「……俺も貴石級の資格って、取れるのかなあ」
リュンクスは、ふと思い付いて呟いた。
「お前が?」
オルフェは意表を突かれたようだ。
「世間知らずだから簡単に言えるのか、あるいは天才なのか……ノクト・クラブスのお墨付きなのだから、後者なのかもしれんが」
何やらオルフェは考え込み始め、リュンクスは放置された。
結局、豚肉を買いこんだ後、塔に戻ってすぐに解散した。
オルフェの手伝いから帰ってきた後。
先輩との会話を思い出して、リュンクスはもやもやしていた。
「オルフェ先輩は、サーヴァントは魔力のタンクだって言ってたんだけど、どう思う?」
「……一面においては真実だ」
カノンは、机に向かって書き物をしながら答えた。
「一面? カノン自身の考えは違うのか?」
「サーヴァント属性の魔術師は、欠けた魂を補う半身だ」
リュンクスがしつこく聞くと、カノンはペンを動かす手を止めて、振り返った。
「マスターは常に飢えている。サーヴァントを所有することでしか、飢餓を満たせない」
カノンの言葉の意味は、マスターではないリュンクスには理解しにくかった。サーヴァントはマスターの庇護無しに生きていくのは難しいが、マスターにもサーヴァントが必要ということか。
考え込むリュンクスに、カノンは僅かに苦笑した。
「君と出逢って初めて、大切にしたい、守りたいという気持ちを知った。きっと多くのマスターは、自分に欠けているものを知る事なく終わるのだろうな」
しかし、便利な貯水池《どうぐ》のように扱われるのは心外だ。
リュンクスは憤慨した。
「ノクト先輩は、そうは言ってませんでしたよ。それに、マスターとサーヴァントが組む時の戦い方について、三年生以上になったら習うんでしょ。塔としても、サーヴァントをタンク扱いはしてないんじゃないですか」
帰らずの森で足手まといになった件で、リュンクスは「あの時どうすれば先輩達の役に立っただろう」と考えていた。
だからノクトに、戦いの心得について教えてくれと頼んだのだ。
「確かに、サーヴァントと組んで戦うやり方も習ったな。だが、そもそもサーヴァントは戦いに出たがらないだろう。根性もないし、実戦では使えない」
オルフェは、リュンクスの意見を肯定した上で、彼自身の考えを述べた。
「それにしても、お前は変わっているな。サーヴァントは命令を受けると快感を覚えるだろう。だから指示をしてやってるのに、気持ち良くならないのか」
リュンクスはぎょっとした。
あの命令口調は彼なりのサービスだったらしい。
大きなお世話だ。
「ならないです。俺はそういうの、ノクト先輩としか感じたことありません」
カノンに命令されても感じるが、それは今は秘密である。
リュンクスがオルフェの命令に動じないのは理由がある。
入学してすぐの頃、カノンに、他のマスターからの干渉を遮る術を教わったからだ。そういった技術を知らないサーヴァントは、契約を結んでいないマスターの言葉にも影響を受ける。
オルフェは、リュンクスの答えが気に入らないのか、冷ややかに言った。
「自分で選んだ主人にだけ尻尾を振るとでも言いたいのか。サーヴァントの癖に」
「いけませんか?」
「俺が本気を出せば、すぐにねじ伏せられる。その誇りがどれだけ薄っぺらいものか試してみるか」
リュンクスは、少し考えた。
「そうですね。先輩には敵わないです。襲われたら困るので、塔に帰りますね」
「おい、待て」
くるりと踵を返しかけたリュンクスを、オルフェは慌てて引き止めた。
「本当に調子が狂う……リュンクス、お前は気ままな猫か、自由な野生の獣のようだな」
ちょっと脅せば意見を引っ込めると思ったが、予想外だ。オルフェはそう呟き、表情をやわらげた。
「俺は思い通りにならない動物が好きだ。今までサーヴァントは好きでは無かったが、お前は面白いな」
オルフェはリュンクスに好意を持ったようだ。
仲良くなって情報を引き出す作戦は順調である。
しかしマスター属性の魔術師は皆、逆らうサーヴァントがツボなのだろうか。「動物が好き」と言ったオルフェの顔は、一瞬、無邪気な子供のように見えて、リュンクスは少し良心が痛んだ。
「……ところで、今日は何を買うんですか?」
「肉だ」
「は?」
オルフェは肉屋に足を踏み入れ、豚を丸ごと一頭買い上げた。
買った品物は転送魔術でどこかへ送っている。
「豚肉が好きなんですか?」
「これは塔の裏の森で飼っている魔獣用だ」
「それって規則違反なんじゃ」
「私は魔獣の研究で貴石級の資格を取るつもりなので、許可は得ている」
貴石級……塔が認定する、魔術で世界の発展に寄与した魔術師に与えられる等級だ。世界各国で通用する資格で、持っているだけで就職口に困らない。
「……俺も貴石級の資格って、取れるのかなあ」
リュンクスは、ふと思い付いて呟いた。
「お前が?」
オルフェは意表を突かれたようだ。
「世間知らずだから簡単に言えるのか、あるいは天才なのか……ノクト・クラブスのお墨付きなのだから、後者なのかもしれんが」
何やらオルフェは考え込み始め、リュンクスは放置された。
結局、豚肉を買いこんだ後、塔に戻ってすぐに解散した。
オルフェの手伝いから帰ってきた後。
先輩との会話を思い出して、リュンクスはもやもやしていた。
「オルフェ先輩は、サーヴァントは魔力のタンクだって言ってたんだけど、どう思う?」
「……一面においては真実だ」
カノンは、机に向かって書き物をしながら答えた。
「一面? カノン自身の考えは違うのか?」
「サーヴァント属性の魔術師は、欠けた魂を補う半身だ」
リュンクスがしつこく聞くと、カノンはペンを動かす手を止めて、振り返った。
「マスターは常に飢えている。サーヴァントを所有することでしか、飢餓を満たせない」
カノンの言葉の意味は、マスターではないリュンクスには理解しにくかった。サーヴァントはマスターの庇護無しに生きていくのは難しいが、マスターにもサーヴァントが必要ということか。
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