山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

文字の大きさ
65 / 266
*三年前* その背中を追いかけて

52 手紙

しおりを挟む
(※リュンクス視点に戻る)
 
 夜が更けるまで、ねっちり責められ、リュンクスは疲労困憊だった。
 
「もうノクト先輩とは話さない……」
「それはいいが、オルフェの情報は聞けたのか」
「あ!」
 
 カノンが巻貝を捨てるのを止めるために「ノクト先輩にオルフェの事を聞いたらどうかな?!」と言って説得したのだった。
 すっかり忘れていた。
 既に起床してきっちりローブを羽織ったカノンは、まだ床の中のリュンクスを見下ろして呆れている。
 
「まあ、あまり期待していなかったが」
「つ、次の時に聞くから!」
「その時は俺も一緒に聞かせてくれ。ノクト先輩と話したい」
 
 いったいどんな話になるのだろうか。
 不安にリュンクスは身を震わせた。
 残念ながら、サーヴァントのリュンクスに拒否という選択肢はない。
 今日は、塔の授業は休みだ。
 自堕落に一日ベッドでごろごろ過ごしても問題ない。体もだるいし、夕方まで寝ていようかと、リュンクスは考えた。
 その時、部屋のドアの隙間から、白い便箋が舞い込んできた。
 
「……伝言紙の魔術か」
「オルフェ先輩からだ! うっ」
 
 紙を拾おうとして、寝台から落ちた。
 カノンが苦笑しながら伝言紙を取り上げる。
 伝言紙の魔術は、文字ではなく音声が仕込まれている。
 カノンが封を破くと、便箋からオルフェの声が流れた。
 
『……本日、ミスティアの街に買い出しに行くことになった。リュンクス、お前に荷物持ちを命じる』
「はぁ?!」
「オルフェのサーヴァントになったのか?」
「まさか」
 
 契約を結んでもいないのに、命令口調。
 オルフェはいったい何を考えているのだろうか。
 便箋を持ったカノンは不機嫌になっている。
 買い出しの集合時間は、午後の太陽が頂上に来る頃。二時間ほどしか余裕がない。
 リュンクスは布団から這い出して準備を始めた。
 
「行くのか?」
「うん」
 
 カノンは真剣な顔をして言った。
 
「くれぐれも気を付けて……必ず無事に俺の部屋に帰ってきてくれ」
 
 部屋を繋げたのは、無事を確認するためだったのだと、今更ながら気付き、リュンクスは胸が熱くなった。




 カノンに体調を回復させる魔術を掛けてもらい、リュンクスは集合場所に赴いた。
 意外なことに、オルフェは取り巻きを連れず一人だった。
 
「荷物持ちはしませんよ。けど、オルフェ先輩が何を買うのか気になって来ました」
 
 開口一番、そう告げると、オルフェは仏頂面になった。
 
「本当に生意気な奴だ。ノクト・クラブスとも、そんな調子で話をするのか?」
「ノクト先輩は、俺の言い返しを結構楽しんでましたよ」
 
 帰れと言われなかったので、リュンクスはオルフェと共に、ミスティアの街への転送扉をくぐった。
 
「ノクト・クラブスとは、いつもどんな話をする?」
「先輩はいつも、俺に魔術を教えてくれるから、授業みたいな話が多いかな」
 
 魔術のレクチャーをしている時は、ノクトは真面目なのだ。
 しかしノクトは卒業だ。連絡手段があると言っても、就職したノクトが長々と講義してくれる機会は少なくなるだろう。
 リュンクスは少し切なくなった。
 
「サーヴァントに魔術を教える? 何を考えてるんだ?」
 
 オルフェの怪訝な呟きで、リュンクスの感傷は断ち切られた。
 
「サーヴァントなんて、単なる魔力貯蔵用のタンクだろう。魔術を教えて何になる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

流れる星は海に還る

藤間留彦
BL
若頭兄×現組長の実子の弟の血の繋がらない兄弟BL。 組長の命で弟・流星をカタギとして育てた兄・一海。組長が倒れ、跡目争いが勃発。実子の存在が知れ、流星がその渦中に巻き込まれることになり──。 <登場人物> 辻倉一海(つじくらかずみ) 37歳。身長188cm。 若い頃は垂れ目で優しい印象を持たれがちだったため、長年サングラスを掛けている。 組内では硬派で厳しいが、弟の流星には甘々のブラコン。 中村流星(なかむらりゅうせい) 23歳。身長177cm。 ストリートロックファッション、両耳ピアス。育ててくれた兄には甘えん坊だが、兄以外の前では──。 表紙イラストは座頭狂様に描いて頂きました✨ ありがとうございます☺️

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...