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*一年前* 冬至祭
153 先生の過去
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真相は本人に聞かなければ分からない。
リュンクスは、塔を登って七階のセイエルの研究室を目指した。
「失礼します……」
「リュンクスか。ノクトのところから戻ってきたのか」
セイエルは、ちょうど休憩するところだったと、リュンクスを研究室に招き入れた。
「チー!」
「あ、チルル?!」
竜の子は、突然、リュンクスの肩から飛び降り、セイエルの机の上に飾ってある花瓶に駆け寄った。
そして花瓶にさしてある黄色い花を、パクっと食べた。
「……」
研究室に沈黙が降りる。
リュンクスは恐る恐る、先生の表情を伺った。
セイエルは難しい顔をしている。
「……この花は、竜が好む花だったのか。竜を研究している弟子に、教えてやらねばなるまいな」
どうやら怒ってはいないらしい。
リュンクスは安堵した。
口をもぐもぐさせている竜の子が、これ以上の悪戯をしでかさないように捕まえる。
そして、忙しいセイエルの時間を取らないために、あえて直球で問いを投げかけた。
「先生、俺はセドリックについて調べました。先生はセドリックと同期なんですよね? この七階に研究室を持っているのは、セドリックと何か関係があるんですか?」
セイエルは、花が無くなった花瓶から視線を上げた。
特に動揺している様子はない。
「いつ聞いてくるかと思っていたが、予想より遅かったな。そうだ。私は彼を監視するため、この階を選んだ。おそらく向こうは、私が同級生だと気付いてもいないだろう」
やはり、セイエルはセドリックがいるから七階に研究室を構えたのだ。しかし、セドリックの方は、セイエルを知らないという。
一体どういうことだろうか。
「順番を追って話さねばなるまいな。ここから先は、記録には残されず無かった事にされた事件の物語だ。全容は、傍観者であった私しか知らない」
「傍観者? セイエル先生は、事件に関わっていなかったってこと?」
「そうだ」
セイエルは首肯する。
昔を思い出すように、少し目を瞑ると、ゆっくり話しだした。
「セドリックは、自身を取るに足りない影のような生徒だと考えていたようだ。進学するほどの成績を修めていたのだから、実際はそう悪くは無かった。しかし、卑下するのも無理はなかった。私達の世代には非常に目立つ魔術師がいたからだ。まるで太陽のように、そこが教室の中心のように目立つ生徒がいた。それがシルヴェストリス、君の母親だ」
「?!」
セイエルの口から、母親の名前が出て、リュンクスは驚いた。
「私は、シルヴェストリスと腐れ縁……世間一般で言うところの友人だった」
「セドリックは、母さんのことを」
「憧れくらいのものだっただろう。君の母親とセドリックは、ほとんど接点がない」
あれ? とリュンクスは疑問に思う。
セドリックは、母親のことを好いていた訳ではなかったのか。
「接点があるとすれば、マスターを通じてだな。セドリックのマスターは、カーマインという同級生だった。カーマインは成績上位の生徒で、シルヴェストリスとも仲が良かった」
知的で冗談も好む、ノクトのような性格の生徒だったらしい。背が高い赤毛の男性で、甘く優しい容姿をしていた。
セドリックは、カーマインに大層なついていたという。
「このカーマインが、事件の中心人物だ。四年生の半ば頃、事件が起こった。下級生が、血を抜かれて殺される事件だ」
話が急に陰惨な気配を帯び、リュンクスは嫌な予感を覚える。
セイエルは淡々と続けた。
「吸血鬼の仕業が疑われ、塔の中の捜索が行われた。その結果……カーマインが吸血鬼だということが、判明したのだ」
「!!」
リュンクスは、思わぬ話の成り行きに仰天した。
「吸血鬼が、生徒の振りをしていたってこと? そんなことが可能なんですか?」
「可能だ。吸血鬼は、もっとも人に近い魔物だ。魔術も使いこなす。妖精の混血である人間の魔術師とは、非常に似ている存在だ。彼らは自由に自身の外見年齢を操作するという」
リュンクスは少し考えて疑問を覚えた。
「……わざわざ生徒の振りをするような吸血鬼が、塔の中で殺人事件を起こすって、考えにくいような」
「よく気付いたな。その通りだ」
セイエルは「犯人がカーマインだとは、考えにくい」と頷いた。
「だが、ちょうど、その頃、吸血鬼が魔術師を襲う事件が多発していたのだ。カーマインは良からぬ企みを持って、塔に潜り込んだのでは、と嫌疑を掛けられた」
「でも、セドリックにとってはマスターなんだろ。マスターを疑うなんて……あれ? 吸血鬼とマスター契約を結べるんですか?」
リュンクスの矢継ぎ早の質問に、セイエルは苦笑する。
「吸血鬼は巧みに魔術を使う。似たような魔術で代用できるだろうな」
「そっか」
「カーマインは逃げようとしたが果たせず、塔の教師に倒された。その戦いの現場が、お前の研究室だ。セドリックは己のマスターを守ろうと戦いに踏み込み、死んだ」
さらりと、とんでもない事実が語られる。
セドリックは、カーマインを守るため、塔の教師と戦ったらしい。ごく普通の少年に見える彼のどこに、そんな勇気があったのだろう。
彼とカーマインの絆は、単なるサーヴァントとマスターの関係を超えて、相当深いものだったに違いない。
何しろ死した後も、その場に留まり続けているのだから。
リュンクスは、塔を登って七階のセイエルの研究室を目指した。
「失礼します……」
「リュンクスか。ノクトのところから戻ってきたのか」
セイエルは、ちょうど休憩するところだったと、リュンクスを研究室に招き入れた。
「チー!」
「あ、チルル?!」
竜の子は、突然、リュンクスの肩から飛び降り、セイエルの机の上に飾ってある花瓶に駆け寄った。
そして花瓶にさしてある黄色い花を、パクっと食べた。
「……」
研究室に沈黙が降りる。
リュンクスは恐る恐る、先生の表情を伺った。
セイエルは難しい顔をしている。
「……この花は、竜が好む花だったのか。竜を研究している弟子に、教えてやらねばなるまいな」
どうやら怒ってはいないらしい。
リュンクスは安堵した。
口をもぐもぐさせている竜の子が、これ以上の悪戯をしでかさないように捕まえる。
そして、忙しいセイエルの時間を取らないために、あえて直球で問いを投げかけた。
「先生、俺はセドリックについて調べました。先生はセドリックと同期なんですよね? この七階に研究室を持っているのは、セドリックと何か関係があるんですか?」
セイエルは、花が無くなった花瓶から視線を上げた。
特に動揺している様子はない。
「いつ聞いてくるかと思っていたが、予想より遅かったな。そうだ。私は彼を監視するため、この階を選んだ。おそらく向こうは、私が同級生だと気付いてもいないだろう」
やはり、セイエルはセドリックがいるから七階に研究室を構えたのだ。しかし、セドリックの方は、セイエルを知らないという。
一体どういうことだろうか。
「順番を追って話さねばなるまいな。ここから先は、記録には残されず無かった事にされた事件の物語だ。全容は、傍観者であった私しか知らない」
「傍観者? セイエル先生は、事件に関わっていなかったってこと?」
「そうだ」
セイエルは首肯する。
昔を思い出すように、少し目を瞑ると、ゆっくり話しだした。
「セドリックは、自身を取るに足りない影のような生徒だと考えていたようだ。進学するほどの成績を修めていたのだから、実際はそう悪くは無かった。しかし、卑下するのも無理はなかった。私達の世代には非常に目立つ魔術師がいたからだ。まるで太陽のように、そこが教室の中心のように目立つ生徒がいた。それがシルヴェストリス、君の母親だ」
「?!」
セイエルの口から、母親の名前が出て、リュンクスは驚いた。
「私は、シルヴェストリスと腐れ縁……世間一般で言うところの友人だった」
「セドリックは、母さんのことを」
「憧れくらいのものだっただろう。君の母親とセドリックは、ほとんど接点がない」
あれ? とリュンクスは疑問に思う。
セドリックは、母親のことを好いていた訳ではなかったのか。
「接点があるとすれば、マスターを通じてだな。セドリックのマスターは、カーマインという同級生だった。カーマインは成績上位の生徒で、シルヴェストリスとも仲が良かった」
知的で冗談も好む、ノクトのような性格の生徒だったらしい。背が高い赤毛の男性で、甘く優しい容姿をしていた。
セドリックは、カーマインに大層なついていたという。
「このカーマインが、事件の中心人物だ。四年生の半ば頃、事件が起こった。下級生が、血を抜かれて殺される事件だ」
話が急に陰惨な気配を帯び、リュンクスは嫌な予感を覚える。
セイエルは淡々と続けた。
「吸血鬼の仕業が疑われ、塔の中の捜索が行われた。その結果……カーマインが吸血鬼だということが、判明したのだ」
「!!」
リュンクスは、思わぬ話の成り行きに仰天した。
「吸血鬼が、生徒の振りをしていたってこと? そんなことが可能なんですか?」
「可能だ。吸血鬼は、もっとも人に近い魔物だ。魔術も使いこなす。妖精の混血である人間の魔術師とは、非常に似ている存在だ。彼らは自由に自身の外見年齢を操作するという」
リュンクスは少し考えて疑問を覚えた。
「……わざわざ生徒の振りをするような吸血鬼が、塔の中で殺人事件を起こすって、考えにくいような」
「よく気付いたな。その通りだ」
セイエルは「犯人がカーマインだとは、考えにくい」と頷いた。
「だが、ちょうど、その頃、吸血鬼が魔術師を襲う事件が多発していたのだ。カーマインは良からぬ企みを持って、塔に潜り込んだのでは、と嫌疑を掛けられた」
「でも、セドリックにとってはマスターなんだろ。マスターを疑うなんて……あれ? 吸血鬼とマスター契約を結べるんですか?」
リュンクスの矢継ぎ早の質問に、セイエルは苦笑する。
「吸血鬼は巧みに魔術を使う。似たような魔術で代用できるだろうな」
「そっか」
「カーマインは逃げようとしたが果たせず、塔の教師に倒された。その戦いの現場が、お前の研究室だ。セドリックは己のマスターを守ろうと戦いに踏み込み、死んだ」
さらりと、とんでもない事実が語られる。
セドリックは、カーマインを守るため、塔の教師と戦ったらしい。ごく普通の少年に見える彼のどこに、そんな勇気があったのだろう。
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何しろ死した後も、その場に留まり続けているのだから。
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