204 / 266
*現在* 天空の城
180 先輩はどうしてる?
しおりを挟む
「いいのか、途中で離脱してしまって」
「構わない。どうせ貴石級を取得した俺達は、この先、課題をこなさなくても塔を卒業できる」
新入生のサーヴァントに手を出さないのかと聞けば、カノンは涼しい顔で「問題ない」と答えた。
五年生のマスターは、下級生を導くという課題を与えられる。
真面目なカノンには珍しく、課題をサボるつもりのようだ。
「短期間で優秀な学生を育てて世に送り出せば、塔はそれだけ利益を得る。理由を付けてでも、俺達を卒業させてくれるだろう」
政治が分かっているカノンらしい推論だった。
カノンが言うならそうなのだろうな、とリュンクスは密かに安堵する。
そして「そういえば」と気付いた。
「あれ? じゃあ先輩が俺に手を出したのって」
リュンクスが新入生だった頃、とうにノクトは貴石級を取っていた。
「ああ……」
カノンは苦い顔つきになる。
「先日、教師から山ほど注意事項を聞いた。くれぐれも優しく後輩に接するように。無理やりサーヴァントにして、新入生が傷付かないよう配慮しろと」
「先輩、すげえ無理やりだったけど」
「ルール違反だったんだ。あの時、教師に相談すれば、先輩は何らかの処分を受けていただろう。俺としたことが、貴族の裏の闘争を見聞きし過ぎて、一般的な発想が抜けていた。リュンクスに助言して教師に報告すれば、先輩とリュンクスを取り合わずに済んだかもしれないのに」
カノンはとても無念そうだ。
普通に先生に相談すれば良かったんだな、とリュンクスも遠い目をする。あの時は動揺していて、それどころではなかった。
「先輩のことは置いておいて……まあ、変なマスターに捕まるよりかは、カノンは安全だよ。その意味では、新入生の相手をしてあげたら? と思うけど」
「リュンクスは、俺を止めたいのか行かせたいのか、どっちだ?」
呆れた顔をされて、リュンクスは苦笑いを返した。
独占したい気持ちもあるが、王様のように振る舞うカノンを眺めていたい好奇心もある。
カノンは、苦笑いするリュンクスを眺めていたが「まあいい」と新入生歓迎会の話を打ち切った。
先輩と言えば、と何気ない調子で切り出す。
「五年生になったら答え合わせをする約束なのに、先輩は仕事で話をする余裕が無いとは……早々に決着を付けるつもりだったが」
「決着つけんなよ」
リュンクスは突っ込みながら冷や冷やした。
カノンとノクト、二人のマスターは、リュンクスという一人のサーヴァントを取り合っている。
リュンクスが二年生の頃、二人は一時休戦の約束を結んだ。ただし、卒業後の進路が確定する五年生までという期限を切って。
五年生になったら答え合わせしよう。
それが三人の約束だった。
「先輩、空飛ぶ未確認物体の調査に行ったんだっけ……」
「あの人は本当に飛び回るのが好きだな。俺は、地に足が付いていないと落ち着かない」
カノンは呆れたように肩をすくめて見せた。
ノクトは、帝国の北に現れた謎の雲の調査をしている。
彼によると、外観は雲に見えるが、それはカムフラージュで中身は別の何からしい。
雲に潜って中を確かめるため、虹蛇で出張中だ。
「前に連絡あってから、もう一ヶ月近く期間が空いてるんだぜ。何かあったんじゃ」
貴石級取得の報告をしたのが、最後だった。
ノクトは「めでたい報告と同時に答え合わせは止めておこう」と言って「ところで私は仕事でしばらく連絡取れないから」と約束を先延ばしにしたのだ。
「ノクト先輩レベルの魔術師はそうそういない。例えトラブルに巻き込まれていたとしても、足止めを食っているだけだろう。リュンクスを心配させるなら、貴石級を返上しろと言いたいな」
カノンは辛辣だったが、さりげなく高評価しており、しかも心配している様子だった。
リュンクスは思わず、くすりと笑う。
角を突き合わせあっているように見えて、ノクトとカノンは意外と仲が良いのだ。
「構わない。どうせ貴石級を取得した俺達は、この先、課題をこなさなくても塔を卒業できる」
新入生のサーヴァントに手を出さないのかと聞けば、カノンは涼しい顔で「問題ない」と答えた。
五年生のマスターは、下級生を導くという課題を与えられる。
真面目なカノンには珍しく、課題をサボるつもりのようだ。
「短期間で優秀な学生を育てて世に送り出せば、塔はそれだけ利益を得る。理由を付けてでも、俺達を卒業させてくれるだろう」
政治が分かっているカノンらしい推論だった。
カノンが言うならそうなのだろうな、とリュンクスは密かに安堵する。
そして「そういえば」と気付いた。
「あれ? じゃあ先輩が俺に手を出したのって」
リュンクスが新入生だった頃、とうにノクトは貴石級を取っていた。
「ああ……」
カノンは苦い顔つきになる。
「先日、教師から山ほど注意事項を聞いた。くれぐれも優しく後輩に接するように。無理やりサーヴァントにして、新入生が傷付かないよう配慮しろと」
「先輩、すげえ無理やりだったけど」
「ルール違反だったんだ。あの時、教師に相談すれば、先輩は何らかの処分を受けていただろう。俺としたことが、貴族の裏の闘争を見聞きし過ぎて、一般的な発想が抜けていた。リュンクスに助言して教師に報告すれば、先輩とリュンクスを取り合わずに済んだかもしれないのに」
カノンはとても無念そうだ。
普通に先生に相談すれば良かったんだな、とリュンクスも遠い目をする。あの時は動揺していて、それどころではなかった。
「先輩のことは置いておいて……まあ、変なマスターに捕まるよりかは、カノンは安全だよ。その意味では、新入生の相手をしてあげたら? と思うけど」
「リュンクスは、俺を止めたいのか行かせたいのか、どっちだ?」
呆れた顔をされて、リュンクスは苦笑いを返した。
独占したい気持ちもあるが、王様のように振る舞うカノンを眺めていたい好奇心もある。
カノンは、苦笑いするリュンクスを眺めていたが「まあいい」と新入生歓迎会の話を打ち切った。
先輩と言えば、と何気ない調子で切り出す。
「五年生になったら答え合わせをする約束なのに、先輩は仕事で話をする余裕が無いとは……早々に決着を付けるつもりだったが」
「決着つけんなよ」
リュンクスは突っ込みながら冷や冷やした。
カノンとノクト、二人のマスターは、リュンクスという一人のサーヴァントを取り合っている。
リュンクスが二年生の頃、二人は一時休戦の約束を結んだ。ただし、卒業後の進路が確定する五年生までという期限を切って。
五年生になったら答え合わせしよう。
それが三人の約束だった。
「先輩、空飛ぶ未確認物体の調査に行ったんだっけ……」
「あの人は本当に飛び回るのが好きだな。俺は、地に足が付いていないと落ち着かない」
カノンは呆れたように肩をすくめて見せた。
ノクトは、帝国の北に現れた謎の雲の調査をしている。
彼によると、外観は雲に見えるが、それはカムフラージュで中身は別の何からしい。
雲に潜って中を確かめるため、虹蛇で出張中だ。
「前に連絡あってから、もう一ヶ月近く期間が空いてるんだぜ。何かあったんじゃ」
貴石級取得の報告をしたのが、最後だった。
ノクトは「めでたい報告と同時に答え合わせは止めておこう」と言って「ところで私は仕事でしばらく連絡取れないから」と約束を先延ばしにしたのだ。
「ノクト先輩レベルの魔術師はそうそういない。例えトラブルに巻き込まれていたとしても、足止めを食っているだけだろう。リュンクスを心配させるなら、貴石級を返上しろと言いたいな」
カノンは辛辣だったが、さりげなく高評価しており、しかも心配している様子だった。
リュンクスは思わず、くすりと笑う。
角を突き合わせあっているように見えて、ノクトとカノンは意外と仲が良いのだ。
32
あなたにおすすめの小説
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜
ひなた翠
BL
一年ぶりの再会。
成長した年下αは、もう"子ども"じゃなかった――。
「海ちゃんから距離を置きたかったのに――」
23歳のΩ・遥は、幼馴染のα・海斗への片思いを諦めるため、一人暮らしを始めた。
モテる海斗が自分なんかを選ぶはずがない。
そう思って逃げ出したのに、ある日突然、18歳になった海斗が「大学のオープンキャンパスに行くから泊めて」と転がり込んできて――。
「俺はずっと好きだったし、離れる気ないけど」
「十八歳になるまで我慢してた」
「なんのためにここから通える大学を探してると思ってるの?」
年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。
夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。
年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。
これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。
辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで
月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆
辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。
けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。
孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。
年齢差、身分差、そして心の距離。
不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。
■執筆過程の一部にchatGPT、Claude、Grok BateなどのAIを使用しています。
使用後には、加筆・修正を加えています。
利用規約、出力した文章の著作権に関しては以下のURLをご参照ください。
■GPT
https://openai.com/policies/terms-of-use
■Claude
https://www.anthropic.com/legal/archive/18e81a24-b05e-4bb5-98cc-f96bb54e558b
■Grok Bate
https://grok-ai.app/jp/%E5%88%A9%E7%94%A8%E8%A6%8F%E7%B4%84/
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる